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7 私たちの家
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私は、首を左右にふって苦笑する。
「気持ちはうれしいけど、あの森は領主の森だから、禁猟地なのよ」
「きんりょーち?」
「領主の狩場で、鹿一頭でも勝手に獲れば、罰せられてしまうということよ」
アカが「もっと食べ物がたくさんある場所に引っ越せばいいんじゃねえのか?」と言う。
「それもできないのよ」と、私。
この時代、農民が勝手に土地を離れることは禁じられている。
許可なく村の外を出歩けば『逃亡農民』とみなされ、連れ戻されたり、罰を受けることもある。
それにしても、この子たちはどこの生まれなのかしら。
村人とくらべると、顔立ちがちがう。
このあたりの村では、髪は栗色や暗い金髪に近い色が多く、瞳は灰色や淡い茶色がほとんどだ。
日照が少ない土地だから、虹彩の色素量も少なくなりやすいのだ。
子供たちは、髪の色もあざやかで、鼻筋がやけに高く、横顔の彫りも深い。
北海沿岸の人々――デンマークやノルウェー、ザクセン北部の血を思わせる容貌だった。
アカが、苦々しい表情で歩きながら森を見る。
「ダメじゃなければ、うまい鹿をアーデルさんに狩ってあげられるのに」
森を見れば、ダマジカ(※中世ヨーロッパで貴族が狩っていた高級な鹿)がこちらを見ていた。
領主の森では、本来貴族の猟獣として守られている動物だ。
農民がダマジカに手を出せば、首が飛ぶか、鞭打ち50回だ。
私は「その気持ちだけでうれしいよ」と子供たちの肩を軽く押し、家へ入るようにうながした。
私と子供たちの住む家は、丸太を組んだ上に、土と藁で壁を塗っただけの質素な造りだ。
12世紀のシレジアの開拓村は、木や土、藁が中心の建築文化。
石を使えるのは、教会や城、領主の館のような特別な建物に限られている。
本当は木組みの家に住みたいけれど、この時代では加工された木材は高価で、木組みの家は裕福さの象徴でもある。
「ただいまー」
外気の冷たさをまとったまま、木製の扉を押して家へ入る。
土間には薪窯の残り火の匂いがわずかに残り、冬のシレジアの家らしい、湿った木材と獣毛のぬくもりが混ざった空気がひろがっていた。
すると、藁敷きの上で遊んでいた二人の子どもが、ぱっと顔を上げる。
「おかえり、アーデルさん!」
「アーデルさん、頭に雪ついてるよ!」
銀髪の子どもと、琥珀色の髪の子ども。
どちらも頭にぴんと立った犬耳、おしりにはふさふさした尻尾が揺れている。
毛先には、外で遊んでいたらしい雪がまだ少し残っていた。
……誰?
見覚えのある色を前に、私はゆっくりと問いかけた。
「もしかして……ギンと、コハク?」
ギンは、銀色の毛並みを思わせる淡い光沢の髪。
コハクは、黄みがかった透明感のある茶色の髪――子犬のときの毛並みと同じ色だ。
姿はすっかり“人化”しているのに、面影だけは子犬の頃のまま。
そのとき、コハクが弾むように駆け寄ってきた。
小柄な体が勢いよく私の腰に抱きつく。
「アーデルさんっ、さむかったでしょ? あっためてあげるー! ぼく、いい子にしてたよ! ちゃんとギンとおるすばんしてた!」
尻尾が全力でブンブン回っていて、足元の藁がパサパサと舞い上がる。
この子は一番小さく、一番甘えん坊だ。
「気持ちはうれしいけど、あの森は領主の森だから、禁猟地なのよ」
「きんりょーち?」
「領主の狩場で、鹿一頭でも勝手に獲れば、罰せられてしまうということよ」
アカが「もっと食べ物がたくさんある場所に引っ越せばいいんじゃねえのか?」と言う。
「それもできないのよ」と、私。
この時代、農民が勝手に土地を離れることは禁じられている。
許可なく村の外を出歩けば『逃亡農民』とみなされ、連れ戻されたり、罰を受けることもある。
それにしても、この子たちはどこの生まれなのかしら。
村人とくらべると、顔立ちがちがう。
このあたりの村では、髪は栗色や暗い金髪に近い色が多く、瞳は灰色や淡い茶色がほとんどだ。
日照が少ない土地だから、虹彩の色素量も少なくなりやすいのだ。
子供たちは、髪の色もあざやかで、鼻筋がやけに高く、横顔の彫りも深い。
北海沿岸の人々――デンマークやノルウェー、ザクセン北部の血を思わせる容貌だった。
アカが、苦々しい表情で歩きながら森を見る。
「ダメじゃなければ、うまい鹿をアーデルさんに狩ってあげられるのに」
森を見れば、ダマジカ(※中世ヨーロッパで貴族が狩っていた高級な鹿)がこちらを見ていた。
領主の森では、本来貴族の猟獣として守られている動物だ。
農民がダマジカに手を出せば、首が飛ぶか、鞭打ち50回だ。
私は「その気持ちだけでうれしいよ」と子供たちの肩を軽く押し、家へ入るようにうながした。
私と子供たちの住む家は、丸太を組んだ上に、土と藁で壁を塗っただけの質素な造りだ。
12世紀のシレジアの開拓村は、木や土、藁が中心の建築文化。
石を使えるのは、教会や城、領主の館のような特別な建物に限られている。
本当は木組みの家に住みたいけれど、この時代では加工された木材は高価で、木組みの家は裕福さの象徴でもある。
「ただいまー」
外気の冷たさをまとったまま、木製の扉を押して家へ入る。
土間には薪窯の残り火の匂いがわずかに残り、冬のシレジアの家らしい、湿った木材と獣毛のぬくもりが混ざった空気がひろがっていた。
すると、藁敷きの上で遊んでいた二人の子どもが、ぱっと顔を上げる。
「おかえり、アーデルさん!」
「アーデルさん、頭に雪ついてるよ!」
銀髪の子どもと、琥珀色の髪の子ども。
どちらも頭にぴんと立った犬耳、おしりにはふさふさした尻尾が揺れている。
毛先には、外で遊んでいたらしい雪がまだ少し残っていた。
……誰?
見覚えのある色を前に、私はゆっくりと問いかけた。
「もしかして……ギンと、コハク?」
ギンは、銀色の毛並みを思わせる淡い光沢の髪。
コハクは、黄みがかった透明感のある茶色の髪――子犬のときの毛並みと同じ色だ。
姿はすっかり“人化”しているのに、面影だけは子犬の頃のまま。
そのとき、コハクが弾むように駆け寄ってきた。
小柄な体が勢いよく私の腰に抱きつく。
「アーデルさんっ、さむかったでしょ? あっためてあげるー! ぼく、いい子にしてたよ! ちゃんとギンとおるすばんしてた!」
尻尾が全力でブンブン回っていて、足元の藁がパサパサと舞い上がる。
この子は一番小さく、一番甘えん坊だ。
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