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第6話 不信と裏切り

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鞘香さやかさん、昔、担当してたアイドルが自殺したって本当なの?」
 結城ゆうき凛々りんりん――御剣みつるぎ刀子とうこは、鞘香のいる事務所に戻って早々、鞘香を問い詰めた。
 鞘香は驚いたように目を見開く。
「刀子……それ、どこで聞いたの?」
「答えてよ、鞘香さん」
 真剣な口調で問いただす刀子に、鞘香は目を伏せる。
「……ああ、まだ新人の、将来有望な若い子だった」
 ――本当、だったんだ。
 刀子は冷たい目で鞘香を見据える。
「…………まさか、私をそのアイドルと重ねて見てるんじゃないの?」
「それは違う。あの子はあの子、刀子は刀子だよ」
 即否定する鞘香だが、刀子の鞘香に対する不信感は既に拭えないものとなっていた。
「……鞘香さんは、その子の代わりに私をトップアイドルにしようとしてるの?」
「刀子」
「結局アンタのエゴで私は芸能界のトップにさせられるってことね」
「刀子」
「よっぽど私に似てたのね、その自殺した子。それとも私より可愛かった?」
「刀子! もうやめて!」
 責めさいなむような刀子の言葉の刃に耐えきれないと言うように、鞘香は耳を塞ぐ。
「……鞘香さん。私もう鞘香さんのこと信用出来ないの。……ごめんね」
 そう言い残して、刀子は事務所を出ていった。
 刀子は再び心を閉ざし、機械的に淡々と仕事をこなしていった。アイドル活動を停止したら、また鞘香が家まで追ってくるだろう。それよりは、鞘香の取ってくる仕事を黙ってこなすほうを選んだ。仕事を取ってきてくれることには感謝はしている。しかし、もはや二人の間には事務的な会話しかなかった。正確に言えば鞘香のほうは刀子と話がしたい様子だったが、鞘香が話を切り出す前に刀子が逃げるように仕事場に向かってしまう。レッスンも鞘香の雇ったトレーナーが担当することになった。刀子の要望である。最初は「レッスンなんて必要ない」とごねたが、鞘香が流石にそれは看過できないと鞘香以外の人物に任せることにしたのだ。
 そんな毎日を送っているうちに、刀子――いや、凛々はドラマの最終話まで収録を終えて、打ち上げに参加することになった。その頃にはスタッフとも打ち解けていたし、例の噂を教えてくれた若手女優ともすっかり仲良くなっていた。
「これで凛々さんとのお仕事も終わりかあ。なんか寂しくなっちゃうね」
「そうだ、連絡先交換しようよ。今度一緒に遊びに行こう」
 凛々は歳が近いとはいえ、少しだけ歳上の若手女優に懐いていた。
 その女優に連れられて、凛々はレストランに食事に行った。オトナな雰囲気のお店に、背伸びをしたいお年頃の凛々は内心興奮していた。流石に凛々はお酒は飲めなかったが、成人していた若手女優はスパークリングワインを片手に凛々と食事を楽しんだ。
「ね、私たち、付き合っちゃおっか?」
 それは女優にとっては酔った勢いの戯言ざれごとなのかもしれない。しかし凛々はその美しい女優の申し出にドキッとした。こんなキレイで優しい女性と付き合った自分を想像すると魅力的ではある。
 ……一瞬、脳裏に鞘香のことが浮かんだが、そもそも鞘香は凛々をトップアイドルにするために利用しているだけだ。そう思うとむかっ腹が立った。
「凛々さん、今フリー?」
「ええ、フリーですとも。ええ」
 目の前で顔を火照らせた女優は、とても色っぽい。
「私、ドラマの仕事で初めて会った時から、凛々さんのこといいなぁって思ってたんだ」
「本当? 私でいいなら……うん。付き合うよ」
「嬉しい。凛々さん大好き」
 ……やはりこの女優、酔っているようである。
 まあ、酔っ払いの戯言なら、酔いが覚めた頃には忘れてるだろうし、鞘香に一泡吹かせたいし、丁度いい。
 そんな理由で、結城凛々と若手女優は交際を始めることになったのである。

〈続く〉
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