八王子先輩と私の秘密

永久保セツナ

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第11話 八王子先輩と私の修羅場

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 私――村崎薫子が会社の先輩であり恋人である八王子秀一と同棲を始めて一ヶ月ほど経った。
 あれから、金子部長は私に声を掛けてこない。八王子先輩が消去したあの映像のバックアップを取っていなかったとしたら、あまりに詰めが甘いというか間抜けな話なのだが、あれ以上何も仕掛けてこないのはまあそういう事なんだろうなと思った。部長、スマートそうに見えて機械に疎いし。パソコンに恐る恐る触っている部長を横目に見ながらそんなことを考える。
 さて、今日は八王子先輩が営業周りで帰りが遅くなるとのことで、珍しく私が早めに帰って料理を作ることになった。
 ……別にコンビニとかスーパーで適当にお惣菜買っても良さそうな気がするのだが、先輩に「薫子さんの手料理食べたいなぁ。え、まさか料理できないとか言わないよね?(笑)」と煽られてしまい、売られた喧嘩は買わねばなるまい。別に一人暮らししてたんだから料理くらい出来ますし。本当にあの人は腹立たしい。
 スーパーで鶏肉とネギを手に取る。確か卵と醤油、味醂や調理酒は家にあったはずだ。今日は得意料理の親子丼で迎え撃つ。
 ふんすふんすと鼻を鳴らして家に帰ると――
「あ、おっかえりー……って、誰?」
 知らない女性が部屋にいた。
 いや、誰? と聞きたいのはこっちなんだが。
「あ、もしかしてシューくんの今カノ?」
「しゅ、シューくん……?」
「あれ? 八王子秀一ってまだこの部屋に住んでるよね?」
「あ、はい。その八王子秀一と同棲してます……」
「あー、やっぱ今カノじゃん? はじめまして、ゆうって言います」
「あ、どうも……薫子と申します……」
 優、と名乗ったその女性は明るくて社交的な性格のようだった。ニコニコ笑いながら手を差し出してきたので、思わず握手してしまった。
「えっと、優さんは八王子先輩の……?」
「元カノでーす☆」
 私が尋ねると、思った通りの返答。いや、今カノに会った元カノの反応じゃないだろう。ノリが軽すぎる。
「ほんで、シューくんは?」と聞かれたので、八王子先輩の帰りが遅くなる旨を伝えると、「あーアイツそういうとこあっからなぁ」とうんうんうなずく優さん。
「じゃあ、二人でお夕飯作りながら、ゆっくりシューくんについて語り合おっか」
 と、何故か元カノの優さんと一緒に親子丼を作ることになってしまった。
 優さんに八王子先輩との馴れ初めやら今の関係やらを根掘り葉掘り聞かれるまま答えていくと、「は? アイツ匂いフェチなん? 引くわー」と爆笑された。
「そういやアイツ、昔っから匂いに敏感なとこあったなー。タバコ吸ってたら『タバコやめろ、頭が痛くなる』なんて外に放り出されたこともあったっけ」
「え、優さんって八王子先輩とどのくらいのお付き合いなんですか?」
「んー? それこそ生まれた時からだよ。私たち幼なじみだから」
 そ、そうなんだぁ……。
 幼なじみがカップルになる確率は低いとはいうけど、ゼロではないんだなぁ。
 なんとなーく納得しながら、親子丼は完成した。
「親子丼できたーん☆写真撮っとこ」
 優さんはスマホで写真を撮っている。あとでSNSにアップするらしい。別に何の変哲もない親子丼なんだけど。
 そうこうしているうちに、「ただいまー」と先輩の声。
「あ、靴あると思ったらやっぱり来てたのか、優」
「お邪魔してまーす☆」
 八王子先輩が声を掛けると、優さんは敬礼しながら先輩に挨拶する。
「あ、先輩。優さんから色々聞かせていただきました」
「え、優、なんか余計なこと言ってないだろうな」
「さて、どうだろねー?」
「というか、ですね……この状況、おかしくないですか?」
 私がそう言うと、先輩は「え、何が?」と言いたげな顔をしている。
「なんで私が先輩の元カノと一緒にご飯作って待ってるかとか、ツッコミどころあるでしょう」
 私がため息混じりにこぼすと、先輩はキョトンとしてるし、優さんはイタズラが成功した子供のようにニヤニヤしている。
「……優、お前やっぱりなんか余計なこと言っただろ」
「えー? なんのことぉー?」
 今度は私がキョトンとする番だった。
「薫子さん、紹介するね。コイツは八王子優。俺の兄貴」
「はじめまして、薫子ちゃん☆シューくんがお世話になってまーす」
「え? 兄……え?」
「言わなかったっけ? 俺の家に来たの、家族以外じゃ薫子さんが初めてだって」
「そんなこと言ってた気もしますけど、それより気になることがあるんですが」
 私は内心動揺していた。
「あー、優は女装が趣味なんだよ。見た目は女に見えるからみんな放置してるけど」
「そゆこと☆騙しちゃってゴメンね? シューくんの彼女さんから色々聞きたくってー」
「は、はぁ……」
「それで? 俺の元カノと偽って何が聞きたかったわけ?」
「そりゃもちろん、彼女さんとの生活とかー、夜の営みとかー」
「聞かれてませんし喋ってませんからね先輩」
 そんな会話をしながら三人で夕飯を食べた。
「薫子ちゃんの親子丼おいしーねー」
「さすが薫子さん、料理も上手だね。煽った甲斐があった」
「うふふ、ホント先輩って喧嘩売るのお上手ですよね」

その夜。
「薫子さん、優と一緒にご飯作ってイチャイチャしてたわけだ? 羨ましいなぁ、俺がいながら他の男と……」
「だ、だから優さんが男だって知らなかったんですってば……! それにイチャイチャなんてしてませんし……っ!」
 今夜の先輩は機嫌が悪いらしい。私の身体中に噛み跡をつけている。痛くは無いのだが、甘噛みされるたびに私は「ひぅ……っ!」と声を殺している。
「我慢なんかしなくていいでしょ、防音なんだから他の部屋には聞こえないって」
「いや、隣の部屋で優さんが寝てるんでしょ!? 流石に聞こえますって……!」
「俺と寝てる時でも優、優って……ホントに薫子さんは俺を煽るのが上手いよね。何それ、天然?」
「はぁ……? 何を言って、っひ……!」
 先輩は私の耳を噛んで、耳の中をジュルジュルと音を立てて啜っている。私はこれに弱い。声フェチなのもあるのか音系の攻めには弱い……。
 結局一晩中攻め立てられたし、翌朝「お二人さんって結構夜激しいんだね?」と優さんに平常心な顔で言われて赤面する羽目になった。

〈続く〉
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