13 / 13
第13話(最終話)八王子先輩と私の結末
しおりを挟む
とある日のこと。
仕事を終えて、私――村崎薫子はマンションに帰宅していた。
八王子先輩は、「ちょっと寄るところがあるから」と私に先に帰るように言って、会社を出たあとどこかへ行ってしまった。
八王子先輩が朝のうちに作り置きしていた夕飯を一人で食べながら、彼の帰宅を待つ。
「お待たせ」と帰ってきた彼は、何故かケーキの箱を持っていた。
「今日って何かめでたい日でしたっけ」
私は首を傾げる。
「今からめでたい日にするんだよ」
ニコニコ笑う八王子先輩に、私は頭の上にさらにはてなマークを重ねる。
八王子先輩は、ポケットから小さな箱を取り出して、私の前で開いてみせる。
――箱の中には、指輪が入っていた。
「薫子さん、俺と結婚してくれないか」
八王子先輩のプロポーズに、私はキョトンとしていた。
「結婚、ですか」
「もう同棲してだいぶ経つし、そろそろいいかなって」
「お互いの親に挨拶もしてないのに?」
「挨拶かー……」
八王子先輩は少し難しそうな顔をしている。
「嫌なんですか?」
「いやぁ……薫子さんとの馴れ初めをどう説明したらいいものか……」
「正直に説明して私の親に殴られればいいと思いますよ」
思えば、八王子先輩との馴れ初め、最悪だったな。
匂いフェチの八王子先輩と声フェチの私が出会ってしまい、その日の夜にホテルに連れ込まれ……。
目が覚めたら全裸でベッドに寝てて、隣に裸の男がいるとか、悪夢だな。
それから色々あって、どういう心境の変化か、お互いに好きあっている私たちがいる。
「それで、結婚してくれる?」
八王子先輩は甘い声で私の返事を待っている。私はこの声が好きだ。
「そうですね……一発殴らせてくれたらいいですよ」
「親だけでなく、薫子さんにまで殴られるの……?」
「それだけのことをしてきたでしょう、あなたは」
私はそう言って、間髪入れずに八王子先輩の頬を引っぱたいた。
……ああ、何度も殴ろうとして先輩に受け流されていたビンタが、やっと成功した。
「――っ、効くなあ」
いつも余裕ぶっている先輩が痛がっている顔を見ると、爽快感がある。
「……ふふ」
「?」
先輩が不意に笑いだして、私は怪訝な顔をする。
気でも狂ったんですか、と言う前に、先輩に抱きしめられてしまった。
「……なんですか」
「薫子さん、今までになくいい匂いがする。もしかして今、幸せなんじゃない?」
「は?」
「そっかあ……薫子さんを幸せにしたら、ずっとこんな匂いが嗅げるんだ……」
先輩は相変わらず突拍子もない。
……ああ、だけど。
私も幸せそうな八王子先輩の声が、心地よく感じた。
〈了〉
仕事を終えて、私――村崎薫子はマンションに帰宅していた。
八王子先輩は、「ちょっと寄るところがあるから」と私に先に帰るように言って、会社を出たあとどこかへ行ってしまった。
八王子先輩が朝のうちに作り置きしていた夕飯を一人で食べながら、彼の帰宅を待つ。
「お待たせ」と帰ってきた彼は、何故かケーキの箱を持っていた。
「今日って何かめでたい日でしたっけ」
私は首を傾げる。
「今からめでたい日にするんだよ」
ニコニコ笑う八王子先輩に、私は頭の上にさらにはてなマークを重ねる。
八王子先輩は、ポケットから小さな箱を取り出して、私の前で開いてみせる。
――箱の中には、指輪が入っていた。
「薫子さん、俺と結婚してくれないか」
八王子先輩のプロポーズに、私はキョトンとしていた。
「結婚、ですか」
「もう同棲してだいぶ経つし、そろそろいいかなって」
「お互いの親に挨拶もしてないのに?」
「挨拶かー……」
八王子先輩は少し難しそうな顔をしている。
「嫌なんですか?」
「いやぁ……薫子さんとの馴れ初めをどう説明したらいいものか……」
「正直に説明して私の親に殴られればいいと思いますよ」
思えば、八王子先輩との馴れ初め、最悪だったな。
匂いフェチの八王子先輩と声フェチの私が出会ってしまい、その日の夜にホテルに連れ込まれ……。
目が覚めたら全裸でベッドに寝てて、隣に裸の男がいるとか、悪夢だな。
それから色々あって、どういう心境の変化か、お互いに好きあっている私たちがいる。
「それで、結婚してくれる?」
八王子先輩は甘い声で私の返事を待っている。私はこの声が好きだ。
「そうですね……一発殴らせてくれたらいいですよ」
「親だけでなく、薫子さんにまで殴られるの……?」
「それだけのことをしてきたでしょう、あなたは」
私はそう言って、間髪入れずに八王子先輩の頬を引っぱたいた。
……ああ、何度も殴ろうとして先輩に受け流されていたビンタが、やっと成功した。
「――っ、効くなあ」
いつも余裕ぶっている先輩が痛がっている顔を見ると、爽快感がある。
「……ふふ」
「?」
先輩が不意に笑いだして、私は怪訝な顔をする。
気でも狂ったんですか、と言う前に、先輩に抱きしめられてしまった。
「……なんですか」
「薫子さん、今までになくいい匂いがする。もしかして今、幸せなんじゃない?」
「は?」
「そっかあ……薫子さんを幸せにしたら、ずっとこんな匂いが嗅げるんだ……」
先輩は相変わらず突拍子もない。
……ああ、だけど。
私も幸せそうな八王子先輩の声が、心地よく感じた。
〈了〉
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
Promise Ring
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。
下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。
若くして独立し、業績も上々。
しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。
なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
先輩、お久しぶりです
吉生伊織
恋愛
若宮千春 大手不動産会社
秘書課
×
藤井昂良 大手不動産会社
経営企画本部
『陵介とデキてたんなら俺も邪魔してたよな。
もうこれからは誘わないし、誘ってこないでくれ』
大学生の時に起きたちょっとした誤解で、先輩への片想いはあっけなく終わってしまった。
誤解を解きたくて探し回っていたが見つけられず、そのまま音信不通に。
もう会うことは叶わないと思っていた数年後、社会人になってから偶然再会。
――それも同じ会社で働いていた!?
音信不通になるほど嫌われていたはずなのに、徐々に距離が縮む二人。
打ち解けあっていくうちに、先輩は徐々に甘くなっていき……
各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果
汐埼ゆたか
恋愛
実花子はカフェで恋人と待ち合わせしているが、彼はなかなか来ない。
あと十分でカフェを出ようとしたところで偶然上司の各務と会う。
各務から出し抜けに「君の時間を十分ください」と言われ、反射的に「はい」と返事をしたら、なぜか恋人役をすることになり――。
*☼*――――――――――*☼*
佐伯 実花子(さえき みかこ) 27歳
文具メーカー『株式会社MAO』企画部勤務
仕事人間で料理は苦手
×
各務 尊(かがみ たける) 30歳
実花子の上司で新人研修時代の指導担当
海外勤務から本社の最年少課長になったエリート
*☼*――――――――――*☼*
『十分』が実花子の運命を思わぬ方向へ変えていく。
――――――――――
※他サイトからの転載
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※無断転載禁止。
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる