Re:asu-リアス-

元森

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41 かけ間違えたままの糸

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◇◇◇◇◆◆◆
 
 ―――どうして?
 どうしてこうなってしまったのだろう。
 俺はただ、ただ…。
 恋人の背中で運ばれた身体を、樹はベットに投げ出されても流し続けている涙を抑えることは出来なかった。
 好きな人に『好きって言って』と言われて好きだと言ったら、嘘つきと言われてしまった。どうせそんな言葉は自分がラクしたいだけなんでしょうとも。そんなことない。違う。反論したら、この偽の恋人ゴッコも、明日との関係性も、自分が吐いた嘘も全部終わってしまう気がして――どうしようもできずただ樹は泣くことしかできなかった。
 自分の気持ちはどうしたって明日には伝わらないことが分かって、樹は悲しくて、苦しくて、心も体も引き裂かれそうになる。
 ―――俺、あーちゃんのこと好き。…ずっとこうなりたかった。だから、恋人になれて、…こうなれてうれしかった。…本当に、ありがとう…
 そう言った言葉は、ずっと言えないと…許されないと思っていた愛の告白だった。一生言えないものだと思っていたから、樹はたとえ言わされたものだとしても、うれしくてしょうがなかった。だから、樹は涙を流して、心からの気持ちを言ったのに。
 そんな樹の告白は、冷たい言葉で一蹴された。
『嘘』
 樹はまるで、この世がひっくり返ったような衝撃を感じた。
 明日を見ると、樹を軽蔑した瞳でこちらを見据えていた。
『嘘つき』
 明日の言葉に樹は息をのむ。そして、頭に水をかけられたような衝撃がやってきた。頭が真っ白になって、身体が引き裂かれたような痛みが走る。そして唐突に理解した。
 ―――俺の言葉、あーちゃんに、信じてもらえなかったんだ。
 分かったしまったとたん、樹は悲しくて悲しくて仕方がなかった。唇を今にも大声をあげて泣きそうなのを堪え、きゅっと結ぶ。だが、涙は抑えることもできずボロボロと堰が壊れたみたいに流し続ける。
 樹にとって、明日の言葉は、自分の存在をすべて否定されているようだった。自分のずっと想い続けていた思いを吐露して、それを信じてもらえないことにはこんなにも――――。全身で泣いている樹に、明日は無情にも言い放った。その樹を見る目線は、ひどく冷たいものだった。
『こんな嘘までついて、イズは楽になりたかったんだね? 2日間だけ本当の恋人になってくれるって言ったのに、嘘つき。僕に媚び売っていい気分にさせれば、1回ヤれば終わるって思ってたんでしょ』
 樹は、責められながら、新たな衝撃を感じていた。
 自分はまったく、明日に信じられていないのだ。媚びなんて売っていない、違うと叫んでしまいたかった。だが、そんな樹にはそんな権利はない。言ってしまってどうするのだろう。
 本当は彼女がいるのも嘘なんです、本当は明日のことが好きです――――そんなこと言ってどうする?
 本当のことだが、その真実こそ明日を傷つけるだろう。きっと信じてもらえない。当たり前だ。あんなに恋人になることを拒絶して、≪本当は好き≫なんて、浅はかすぎるだろう。それこそ、楽になりたいから嘘を言っているとしか思われない。
 俺は馬鹿だ。
 樹は自分がどれだけ明日を傷つけているか、考えずに自分のエゴだけで明日のことを好きだと言ってしまった。明日から強請られた言葉ではあるが、嫌がらず泣きながら告白するなんて、媚びを売っていると思われても文句は言えない。
 溢れ出す涙をこらえることもできず、樹は子供のように泣いた。
 明日はまるで樹を媚びを売る娼婦を見るような、侮蔑しきった顔で見ていた。それが悲しくて、苦しくて、しょうがなかった。
『イズ、傷ついちゃった? だけどね、僕は騙されないよ? 演技、本当にうまかったよ? でも駄目だよ。僕、そういうの、わかっちゃうんだ。だから…望み通り、ベットに行こうか』
 その言葉の通り、樹はベットの上に投げだされた。流石はこの国でも1級の高級ホテルのスイートルーム。家のリビングよりも大きいベットルームに連れこまれて、今樹が正気を保っていたのなら、感嘆をついたほど綺麗な部屋だった。
 大きなガラスの窓からは都会の夜の眩い光の海が広がっている。ベットもかなり大きく、寝心地も今まで体験したこともないほど、気持ちの良いベットだった。まさに天国へと誘うベットだろう。そんな女性でも男性でも憧れる場所に、男二人が裸で向き合っている。傍から見たら奇妙な光景だ。
 廊下には脱ぎ捨てられた樹のズボンと、スーツの上着があるだろう。
 樹はボロボロと涙を流し、身体を持て余していた。
 ローターはいまだに微弱に責めたて、樹を追い込み、下着とYシャツだけになった身体は先を求めて震えている。
 樹はショックを受けながらも媚薬に追い込められ感じてしまう自分が、どうしようもなく恥ずかしかった。
 明日は荒く息を吐きながら、自分自身のスーツの上着をベットの外に投げ捨てた。Yシャツの一番上、2番目と荒々しくボタンを取る明日に雄の圧倒的な色気を感じる。樹はこれから明日の本当に≪彼女≫になることを自覚する。
 静かに泣きながら樹はごくりと喉を飲みこむ。
 明日がジリジリとまるで逃がさないと言わんばかりに仰向けになっている樹に圧しかかった。ギシ…、二人分の体重がベットを軋ませる。そんな音も、明日の荒い息も、樹には二重に響いて聞こえていた。ドクドクと鳴り響く心臓は緊張と、そして期待だ。
 明日の甘い匂いが樹を麻痺させていく。
「イズ…、震えてるね…。怖い…?」
 荒い息が、耳元に囁かれる。樹はそれだけで感じてしまう。腰が、震えるのが分かる。下着とYシャツだけで恥ずかしいなんて、もうそんな羞恥は感じない。それよりももっと明日には、恥ずかしい姿を見せているのだから。
「苦しい…?」
 震えながら、樹は支配者にコクコクと大きく頷く。
「ここ、外してほしい…?」
 甘く囁かれながら、濡れきった下着に触れられて樹は身体を大きく逸らす。明日の甘く低い声は脳を犯す程の威力がある。そして、ずっと待ち望んでいた刺激に樹の身体と心は歓喜に震えた。顔が緩み、樹は浅ましく先を求めて、はしたないと理解しているのに大きく首を縦に振る。
 そんな樹の赤裸々な反応に、明日は先程の冷たさを少し持ちながらも興奮していることが分かる口調と表情で口を甘く動かす。
「ここ、グチャグチャだもんねぇ…外してほしいよねぇ…。でも、ダメ」
「ッ、あぅうっ」
 樹は悲鳴を上げて子供のように泣いた。嫌々と首を振る様子は庇護欲を誘う。明日はそんな可愛い反応をしてくれた樹に歓喜しつつ意地悪く笑う。そして粘着質な音がきこえる湿った下着をやわく揉みつつ、樹を地獄へ誘いこむ言葉を言い放った。
「イズさっき僕に嘘ついたからだーめ。嘘吐きの彼女にはお仕置きしなくちゃダメだよね?」
「いや…、いやだぁ…っ、もぉ、許して…、っぅ、イきたいぃ…」
 グスグスと鼻をすすり、樹は恋人に縋る。卑猥な言葉を言っている意識はもうない。ただ樹はぼんやりとした意識のなかで必死だった。助けてほしい、この苦しみから救ってほしいともじもじと腰を切なく揺らす樹は酷く淫猥で卑猥だった。
 明日は自分の熱を早く解放したいと願いながらも、こんな恋人をもっと気持ちよくさせてあげたいと思っていた。―――恋人を喜ばせたい。そんな、純粋な―――――歪んだ感情を明日はこの愛おしい恋人に抱く。
「さっきからイズイってばっかりだから、ずるい。僕にもなんかちょうだい」
「あっ、…っぅ、な、に、っぅ…?」
 樹はうつろな目で、明日に答えを求める。よだれと、涙と、汗と、愛液で濡れた樹の姿は劣情を誘う。明日は、ゆっくりと自分の欲望を解放するのを耐えていた。
「はーい」
「っ…あ…」
 明日は、樹にソレを見せた。樹は突然現れた明日のそり立った欲望――性器に、目をぱちくりとさせる。樹は何回かそれを見たことはあるが、明日にも≪ソレ≫がついていると思うと毎回不思議な気持ちになる。
 先走りでてらてらと光っている明日のそれは、思わず唾を飲み込んでしまうほど、雄の象徴だった。
「イズ、恋人だから分かるよねぇ?」
 甘えた声で、顔に当てられ、樹は困惑とともに、身体の奥底が震えていた。まるで、身体が嬉しいと言っているみたいで、樹は混乱する。自分の感情に混乱しつつも、樹は目の前に出され、頬に触れているそれを意識する。
 触ったこともある、だが、いざ言われても、期待した目線で見られるともうどうしていいか分からない。樹が狼狽えながらも上目使いで見つめるていると、明日は我慢出来なかったのか無理やり口を開けさせ樹の喉奥に無遠慮に突き刺した。
 その突然のことに樹は背中を大きく逸らし、その大きすぎる感覚に耐える。
「ンガッ…ぅんぅううっぅ~~~っ!」
 あまりの苦しみで涙がボロボロと出てくる。ミチミチと口腔の全部を奪われた、内蔵まで抉られたような苦しみ。
 樹は離してくれと、必死に恋人の腕を掴み、何とか引きはがそうとする。だが今の樹に抵抗する弱い力で明日が離れるわけがない。樹はどうしようもできずに喉奥に感じる、口いっぱいに広がる明日の欲望に苦しめられていた。
 明日は一思いに樹に欲望をぶつけると、荒い呼吸をしつつ熱に浮かれた言葉を言い続けた。それはやはり樹を責める言葉たちだった。
「…はぁっ、イズのなか…っ、あっつい…ぜーんぶ、イズが悪いんだよ。イズがエロすぎるのがわるいんだ……ね…、反省して?」
 熱い明日の声は、脳をおかしくさせる作用があった。正常な判断を著しく奪う魔剤だ。樹は喉奥までも犯され身体を痙攣しながらも、何とか明日の言葉に反応しようと努力をする。
「んぅ、うっ、う゛ぅうっぅ…っ」
 樹は何とかちゃんと反省したと、肯定の意を示すため首を小さく縦に振る。なんとか歯に明日のものを当てないように、口を開け続けるのは酷く精神的にも、体力的にも樹にはとても難しく厳しかった。だが口に含んでいるのもが好きな明日のものだと思うと、そうも言ってられない。
「…ッ、ホントかなぁ? こんな口まで熱くしちゃって、本当に反省してるのかなぁ?」
 グリグリと腰を押し付けられ、息もうまくできずに鼻からプスプスと息が漏れる音が淫蕩な部屋に響く。
「…うぅっ、う゛…っ、うぅッ」
 樹はさらにうめき声を大きくする。喋りたいが、このまま喋ってしまうとさらに喉奥が痛くなる。
「じゃあ、このまま反省の態度見せてほしいなぁ…たとえば…今からこのまま口でご奉仕してくれる…とか」
 含みのある明日の言葉に、樹は必死に頷く。お願いします、奉仕をするから許してください―――樹は必死に涙を流しながら、口に明日のモノをいれられながらも愛しい恋人に懇願の視線を送っていた。普通の恋人同士であったら有り得ない状況だったが、樹はもう必死でそんなことも疑問に思わない。もちろん、明日も、この状況がおかしいなんてことは思ってはいない。
 可愛らしく懇願する樹に、明日は笑みを浮かべさらに恋人を≪喜ばせる≫ための悪魔的提案を出した。
「交渉成立…だね。じゃあ、僕が気持ちよくなったら採点基準が分かるように、良かったらイズのローターの動きを強くしてくね? ほらこうすると、イズもわかりやすいでしょ?」
「ッ?! ~んぐっ、んんぅううううっぅ…ッ~~~~っ」
 ――――この人は、きっと悪魔だ。樹は何度も思った言葉を心の中で繰り返す。
 樹が大きく震えたのは、明日がまた微弱だったローターを強くさせたからだ。明日はポケットに手を突っ込み、樹に明日の採点基準を説明していた。樹はまたローターを操作されたことにより、もううまく思考が出来なくなっていった。
「あっ、嬉しい? すっごい口が痙攣してるよ? ちなみに今、ちょっとだけ強くしたから、こんな感じで大丈夫かな?」
「っぅ、うぐぅうっ、っぅ」
 都合の良い言葉を言われても、もう反論することも敵わない。もう樹の快楽の許容範囲はとっくに超えている。それが分かっているはずの明日は、あえてそのことに触れはしない。
「…じゃあ、初めていいよ」
 まるでリアスのリハーサルをするみたいに、明日は初めの合図を送ったのだった。
 
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