エンドルフィンと隠し事

元森

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6 饗宴

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 客の歓声が湧く。
 目を防ぎたくなる行為が繰り広げるたびに、薄暗い客席で下品な仮面をつけた客たちが楽しそうに笑う。好紀は震えていた。先ほど隣に並んでいた綺麗な青年が、全裸のまま大きく開脚した身体でその小さな孔に大きなモノを受け入れている姿を見て。
  あられもない姿になって、段々と蕩ける姿なんて見たくなかった。
 青年たちの悲鳴、スーツ姿の男たちになぶられる身体、凌辱をつくすほどわく客の下品な歓声、愉しそうな司会者の声。
 地獄とはこういう場所を云うのではないのか。
 好紀は、両腕を先程の男たちに連れられながらぼんやりとそんなことを思っていた。
 もう抵抗なんてする気力はない。先ほどそれを思い知らされた。身体検査と言う名のロクな抵抗も出来ず拷問を受けさせられ、身体の隅々まで両隣の男に見られ、嬲られ、凌辱させられた。自分がどれだけちっぽけで小さな存在か、それを自覚させられた。
 ステージに照らされたライトが、この場にいるすべての人たちが、ここに居る自分が―――全部狂っている。
「嬉しいだろう、コウ?今からここにいるお客様にお前の痴態を見られるんだ」
「…ッ」
 次が自分の番だ。右の男にそう言われて、好紀はガクガクと震える。怖い。行きたくない。先ほどの態度からは想像できない程怯える好紀に男たちは楽しそうに笑む。
 ――――目の前みたいな人に、なりたくない。こんな風に気持ちよくなって、もうもとの場所に戻れないような…そんな風にはなりたくない! 嫌だ、嫌だ、嫌だ…―――!
 好紀の中で、そんな想いが交錯する。
 泣き叫んだらやめてくれるというなら、今すぐに泣き叫んでいる。好紀は縛られた鎖の重さを感じながら、今にも泣きそうになるのを堪えていた。
「―――続きましての登場は、サツくん、コウくんのようです。この二人はどんなことをしでかしたのでしょうか?!」
 爽やかな声の司会者が、叫んだ。ドクンッと心臓が嫌に高鳴る。
「ァ…っ」
「ほら、行くぞ」
 グイッと腕につながれた鎖を引っ張られ、好紀はついに恐れていた…ステージの上の真ん中に立つ。好紀が出てきた瞬間、同様にサツと呼ばれた可愛らしい青年も登場しひょっとこの仮面をつけた客たちは一斉に歓声をあげた。
 ライトに照らされたステージに立ったとき感じたのは、目眩だった。
 スポットライトの直に浴びる熱さ、そして客たちの欲望に塗れた視線。
「…ッひっ」
 好紀はガクガクと身体中を震わせた。倒錯的な状況に、震えが止まらない。
 そんな好紀を置いて爽やかな司会者の声は会場に響き渡る。
「こちらの右側にいるコウくんは、客の見ていない場所で嘔吐する、奉仕中の身勝手な行動、行為中の嫌悪感のある表情…などなどさまざまなNGをやらかしたようですね。今までの子たちよりも、かなりの常習犯のようです。そのほかにも、ここでは言えないことを何度もやらかしているとか…」
 興奮した様子で好紀の『罪状』を言い渡す司会者は本当に楽しそうで。きっとこの人はディメント側の人間なのだろうと感じた。
 その説明を聞いた客たちはひょっとこの仮面をつけていてもわかる興奮の色を見せていた。
 好紀の身体はしなやかで、小奇麗でまとまっている顔と情事の痕が残っているギャップがあった。それは客の目を引き、サツと共にコウは客たちの視線を受けていた。
「今からお前は客たちのオカズになるんだぜ」
「…ッ、やめろよ!」
 スーツの男に耳打ちをされた内容は、今までの非現実感から正気に戻るには十分な言葉だった。だって今まさに、客席のところでズボンのチャックを下ろしている客がいたから。
 そんなの嫌だ、そんなの絶対に嫌だ――――。
 分かっていても、好紀はこれから自分がさせられることを恐ろしく思ってしまう。ここから逃げたいと男の手から逃れたいと、本能的に動いてしまう。
「やめてっ」
 叫んだのは、ステージで好紀の隣にいたサツだった。可愛らしい顔がゆがんで、用意されたベットに連れ込まれていた。観客の歓声があがり、好紀は怖くなって目を瞑る。好紀が抵抗を続けている間にサツはスーツ姿の男たちにのしかかられていた。
 彼は身体をまさぐられて、快感に弱いのか、すぐに泣き声は嬌声へ変わった。
 ―――気持ちが悪い。
 その声を聞くだけで吐き気がする。何の面識もないサツに対して、そんなことを思ってしまう。そんな自分が昔から大嫌いだった。男女に関わらず裸を見ることも、性の話をするのも大嫌いだった。そんな自分が普通ではないということは分かっていた。
 どうして自分はこれを受け入れられないのだろう。ずっと、ずっとそう思っていた。
「大人しくしろ…ッ」
 男たちが暴れる好紀を押さえつける。
「助けて、助けて……誰か」
 うめく声とともに、好紀は叫んでいた。
 ステージを見ると見知った顔が目に入る。クミヤだ。クミヤが無表情にこちらを見ている。そして隣には、ひょっとこ仮面をつけているが、雰囲気で分かる―――。ナンバー3のセイがいた。やさしい彼を見つけて好紀はほっとした。
 だが、その隙に男に羽交い締めにされ好紀は恐怖を感じた。
「あ…っ」
 好紀は悲鳴をあげる。クミヤの隣にいるセイが顔を俯かせる。
 こちらを見ないセイに、好紀は打ち震えた。客席の後ろの席でも分かる程クミヤは圧倒的なオーラを放ち、こちらを見つめていた。ただまっすぐ、好紀が絶望に堕ちるさまをみたいというように。
「いやだぁ…」
 どれだけ叫んでも、目を合わせてもみんな自分を助けてくれないと好紀は―――ただそれだけが分かった。
 時間が経つにつれ、会場は、ステージは異様な熱気に包まれていた。好紀は抵抗を続けていた。嫌悪感を露わにして反抗する好紀は客の目を楽しませるのは十分で。好紀は自分が見られていると分かっているからこそ、本気で抵抗していた。
 好紀はやがてスーツの男たちは尻をかかげられて恥ずかしい場所は客に晒されるように縄で固定される。
「変態っ」
 大股を広げられて好紀は見るな、と叫んだ。
『ああ、すごく綺麗な格好ですよ、コウくん! 皆様みてください、この美しさ! まるで芸術品のようではありませんかっ』
 司会者のわざとらしい言葉と声に好紀は泣きたくなる。客が一斉にこちらを見てくる。ステージ上で裸になるのも十分恥ずかしかったのに、こんな大勢の前で大股を開いて見せつけるような恰好はさらに好紀の羞恥を煽る。あまりの恥ずかしさで目を瞑る。
 その一連の行為はそれを見たスーツの男たちのサングラスの下でギラついたものに、火をつけた。男は興奮を煽るために、萎えた好紀の性器をまるでおもちゃのように、指で弾いた。うぅ、と呻いた好紀に容赦ない嬲る言葉が投げかけられる。
「感じたのか? お前のほうが変態じゃないのか」
「…ッ」
 そんなはずはない。嫌悪感を露わにして抵抗をする好紀にさらに追い詰めることが怒った。
「気持ちよくしてやる」
 と、乳首を引っ張られ、身体を複数の手でまさぐられる。それは好紀にとって触られたら弱い…際どい部分たちばかりで、好紀は今まで見たことのない反応を見せていた。
「ッ」
「ああ、勃起しちゃってるよ…、可愛いなぁ」
「ち、ちがっ」
 好紀は顔を青ざめ、男の言葉から目を逸らす。好紀の性器は勃起していた。人の手によって勃起したことがない好紀にとっては、まさに青天の霹靂の出来事だった。こんなことは初めてで、自分の身体がおかしくなったのではないかと恐怖に身体を震わせる。
 性行為を嫌悪している好紀が感じてしまうのも無理はない。ココに呼ばれた男たちはその道のスペシャリストたちだった。巧みなテクニックは、ディメントの客なんて足元にも及ばないほど卓越したものだった。
 明らかに震えだした好紀に男たちは容赦ない責め苦を与えた。それは気持ちの悪いはずなのに、好紀の性器は嬉しそうに痙攣を繰り返す。
「いやだ、こんなの―――ッ」
 そう悲愴めいた声をあげて、好紀は身体を震わして達した。それは、背筋が震える程、脳に刻まれるほどの味わったこともない快感で。ボタボタと落ちる精に、自分のしてしまったことの重さを思い知る。好紀の精を吐き出した瞬間、客たちが楽しそうに歓声をあげた。まるで好紀が芸を成功させたように。
 ―――零れたザーメンを舐めてあげたい。―――ああ、可哀想についにイってしまった。―――次はどうなってしまうんだろう。
 客席のあちこちから客たちの欲望に満ちた声が聞こえてくる。
「ひぃ…ッ」
 自分が『性の対象』として見られている。それを実感し、好紀は表情を引きつらせる。恐怖でもう抵抗も出来なくなった。ガクガクと震える好紀に男たちは、耳朶を舐めながら言葉でさらに彼を絶望へと堕とす。
「お客さまが楽しそうだぜ。もっと頑張ろうなぁ、コウちゃん?」
「よかったなぁ、やっと底辺から抜け出せたんじゃないか」
 客たちは―――ステージ上の男たちでさえもう≪コウ≫にしか目に入ってなかった。隣では可愛い嬌声をあげ揺さぶられている「サツ」という蝶がいるのに、まだ一回しか達していない好紀のほうが注目されていた。 
 本気で嫌がり嫌悪している心と、先のことに期待をして感じている身体。それは普段の好紀からはあり得ない姿で、客たちを興奮させる。 
 一切弄られていない小さな窄まりはひくひくとわないている姿に客たちは興奮し、嬲る男たちも楽しそうにどう好紀を落とすか考えていたのだった。
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