仮想戦士の理

星月

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【第零章】日常とその先へ

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【第零章 : 日常とその先へ】

瀬川町は、都会の喧騒から少し離れた、どこか懐かしさの残る地方都市だ。

駅前には小さな商店街が広がり、古びた看板と新しいコンビニが混在している。
春には桜並木が町を彩り、秋には山々が赤と黄色に染まる。

そんな穏やかな町の中心に、瀬川町立第一高等学校、通称「瀬高」が佇んでいた。

瀬高は普通科の公立校で、生徒数は約600人。
校舎は3階建てで、白い壁に赤い屋根が特徴的の建物だ。
築70年を超える建物はところどころ古びているが、最近改装された体育館や図書室はピカピカで、生徒達にちょっとした自慢の種になっている。

制服は男女ともに紺のブレザーで、夏は半袖シャツに切り替わるオーソドックスなデザイン。
校則はそこまで厳しいわけではなく、「派手な髪染めは禁止」「遅刻3回で居残り」といったルールがゆるく守られている程度だった。

校庭にはサッカー部や野球部が汗を流し、教室からは生徒達の笑い声が漏れ聞こえる。
瀬高に通う生徒達は、大学進学を目指す者もいれば、就職を考える者もいて、それぞれの未来を漠然と夢見ながら日々を過ごしているのだ。



■■■■■■■■■■■■■■■



5月某日、時刻は朝7時。
瀬川町の住宅街に響く目覚まし時計の電子音が、彼方の眠りを破る。

彼方はベッドの中で数秒間目を閉じたままじっとしていたが、やがてゆっくりと起き上がった。
窓の外からは薄い朝日が差し込み、カーテンの隙間から部屋に淡い光を投げかけている。

彼方は無言で制服に袖を通し、鏡の前で髪を軽く整えた。
黒が混ざったような濃い茶髪は少し長めで、前髪が目にかかるくらい。

整った顔立ちだが、どこか眠たげで感情の読めない表情を浮かべている。
だが、それを更に際立たせるのが、彼のトレードマークである丸みを帯びた片眼鏡だった。

ベッドの横に置いてあったそれを手に取り、スチャッと装着すると部屋を出る。
階段を下ると、1階のリビングの扉を開けた。

「おはよう彼方、朝ご飯できてるよ~。」

台所から母の声が聞こえると、彼方は「うん」と短く返事をし、食卓についた。
テーブルにはトーストと目玉焼き、スープが並んでいる。

彼方は黙々と食べ、時折母と交わす会話も「学校はどう?」 と「普通だよ」の二言で終わる。
派手さはないが、彼方にとってはこれが普段通りの日常だった。

通学路は徒歩15分。
瀬高までは住宅街を抜け、川沿いの道を歩く。
春の風がまだ少し冷たく、僕はブレザーの襟を軽く立てた。

イヤホンからはクラシック音楽が流れ、静かなピアノは足取りにリズムを刻む。
道すがら、同じ制服を着た生徒たちがちらほら見えるが、彼方は誰とも話さず、ただ自分のペースで歩き続けた。

校門に着いたのは8時過ぎ。
すでに多くの生徒が教室へ向かう中、彼方は1年B組の教室へと歩を進める。

教室に入ると、後ろの列にある自分の席に鞄を置き、教材を引き出しにしまった。
騒がしいクラスメイト達の声が響く中、彼方は時が流れるのを静かに待つ。
それはまるで、別の世界にいるかのように落ち着いていた。

「おはよう彼方! 調子どうよ?」

そんな時、教室のドアが勢いよく開き、聞き慣れた声が彼方の耳に飛び込んできた。
振り返ると、そこにはクラスメイトの彩斗が立っていた。

暗いピンク色の髪には、灰色のインナーカラーと、桜のような淡いピンク色のメッシュが入っている。
明らかに校則違反だと思われる髪色だが...何故か審査は通ってるらしい。
中性的な顔立ちに、いつも自信に満ちた笑みを浮かべているのも、彼の特徴の一つだった。

遅刻ギリギリでやってきたらしい彩斗は、息を切らしながら彼方の席に近付いてきた。

彼方「おはよう彩斗。今日も普通だよ」

顔を上げて淡々と答える僕に、彩斗は「そうかそうか!」と手を叩いて笑った。

彩斗「そいつはよかったな...あ、お~いシュリナ!」

ふと教室の前の方を見やると、ちょうど席を立つシュリナの姿を見つけた。
彩斗が大きな声で呼びかけると、気が付いた彼女はこちらへと振り返った。

シュリナは長く白い髪に青色のポイントカラーを染める、静かな雰囲気の少女だ。
この白髪は地毛であるようで、教師陣は強くいえないようだが、流石に青色の部分は染めているらしい。

シュリナは彩斗の声に一瞬だけ反応したが、特に気にせず教室を出ようとする。

彩斗「どこ行くんだ~?自販機コーナーなら俺達もついてくぞ!」
彼方「なんで僕も一緒に...」

楽しげに言う彩斗の隣で、僕は小さくため息をつく。

シュリナ「...廊下の窓を開けに行くだけ」

彼女は静かに答えると、彩斗は「相変わらず真面目だなぁ、シュリナのやつは!」 と言って笑う。
それから彼方の頭に拳を軽く当て、グリグリと擦り始めた。

彩斗「ま、彼方も同じくらい真面目君だけどな~!」
彼方「い、痛い痛い! 彩斗、それ痛いから!」

珍しく声を上げて抗議する僕に、彩斗はケラケラと笑いながら手を離した。
シュリナはそんな2人を遠くから見つめ、無言で廊下へ消えていく。

教室の中では、他の生徒たちが朝の雑談に興じていたが、彼方と彩斗のやりとりはいつもの光景として受け入れられているようだった。



ホームルームが終わり、1時間目の国語、2時間目の数学と授業が進む。
彼方は真面目にノートを取り、彩斗は半分サボり、シュリナは黙々と問題を解く。
そんな3人の日常は、特別な出来事もないまま昼休みに突入した。

彼方は鞄から弁当箱を取り出し、机の上に広げた。
母お手製の弁当は、白米に鮭の塩焼き、卵焼き、漬物というシンプルな内容だ。
蓋を開けるとほのかに漂う醤油の香りが彼方の気分を少し和らげる。

彩斗「お疲れ~!一緒に食おうぜ~!」

そこへ、彩斗がシュリナを連れてやってきた。
今日は珍しくコンビニの弁当を持っていて、その隣にはシュリナが自分の弁当箱を手にしている。
3人は自然と彼方の席に集まり、机を寄せて昼食を始めた。

彼方「今日は弁当なんだね」

僕が彩斗の弁当を見ながら言う。
いつもなら菓子パンかカップラーメンを頬張っている彩斗が、今日は唐揚げ弁当を持ってきていたのだ。

彩斗「コンビニだけどな!この唐揚げ、味付け濃くて美味いんだぜ?」

彩斗が得意げに言うと、シュリナが小さく呟いた。

シュリナ「...身体に悪そう」
彩斗「はははっ!まあ毎日食ったら流石にな?こういうのはたまに食うからいいんだよ!」 

そう言って彼は割り箸で唐揚げを一つ掴み、勢いよく口に放り込んだ。

彩斗「うん!...冷たっ」

どうやら冷めた唐揚げは、微妙な味だったらしい。
すると彩斗は唐揚げ弁当を手にし、すぐに立ち上がった。

彩斗「しょうがないな、職員室の電子レンジで温めてくるか!」
彼方「え、職員室って...あ、ちょっと...。」

僕が呼び止める間もなく、彩斗は教室を飛び出していった。

シュリナ「...自由でしょ、あの子。」

彼女は無表情のまま言うと、僕は小さくため息をつく。

彼方「ああ…全くだよ」

相変わらずの彩斗の自由奔放さに、改めて気付かされたのだった。

しばらくして、シュリナが箸を止めて彼方に尋ねた。

シュリナ「...今日も行くの?」

その問いかけに、僕は「うん、そのつもり。」と返事をすると、箸を置いて少し考えた。

彼方「...もう少しだけレベルアップしたいところだけど、シュリナも手伝いに来てくれる?」
シュリナ「...その気持ちは、私も彩斗も同じだと思う。」

彼女のその言葉に小さく微笑むと、僕は静かに頷いた。

彩斗「なあ彼方!シュリナ!ちょっと聞いてくんね!?」 

その時、教室の扉が勢いよく開き、彩斗が現れた。
戻ってきた彼の手には、冷たいままの弁当が残っている。

彩斗「さっき職員室まで行ってきたけどさ、使わせないつって追い返されたんだけど!?マジであり得ねぇだろ!」

電子レンジを借りることができず、彼にとっては予想外の事態なようで。
だが、そんなプンプンと怒る彩斗の姿を見て、僕はまた小さく笑った。

彩斗「なに笑ってんだよ!...ていうか、彼方が笑うの珍しいな?」

彩斗は声を上げてからそう呟く。
僕は彼を見つめ、少し間を置いて言った。

彼方「彩斗。放課後になったら...行く?」

その言葉を聞いた彩斗は、意味を一瞬で理解したらしい。
目がキラリと光り、ニヤリと笑う。

彩斗「...ああ、行こうぜ!」

仮想空間...ユニバースへ。



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    【仮想戦士の理】
   作者/兄娘 編集/星月

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