大好きな背中

詩織

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幸せから落胆へ

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悠人と付き合って半年近くになった。

相変わらず悠人がこっちに来てくれて、行くって言っても

「まぁまぁ」

みたいな感じで言われる。

前はいいって言ってくれたのに…

仙台に来てもうすぐ8ヶ月たったので、予定ではあと4ヶ月で本社に戻れる。

相変わらず男性ファション誌に載ってて、モデルさんになっちゃってるし。

ドラマ、映画はスタント、あとは空いたときに通行人1みたいな感じで出てて、一瞬でも顔が見れると嬉しかったりする。

悠人曰く、人が足りないときは、通行人1でもなんでも率先してやるって言ってて、それで撮影が進むならと凄い前向きな考えで、そういうのも悠人らしくって改めて好きになってしまう。


家に帰えった直後に悠人からチャットがきて、電話したいとメッセージがあったので、了解って返事したらすぐに電話が掛かってきた。

「今どこ?」

「ちょうど家についたとこだよ」

「そーなんだ。お仕事お疲れ様」

「悠人は?まだ仕事?」

「いや、もう今日は終わってる。あのさ、今度会うときはこっちに来ない?」

「え?」

今まで、東京に行くと言っても曖昧に断られてたのに

「何があるの?」

「なにがって?」

「だって、今まで行くと言っても曖昧だったのに、急におかしいよ」

と、言うと

「まぁ、そうだよな。サプライズ的にしようと思ったんだが…、会って勝手に決めて言うのもだし」

と、ブツブツ言い出した。

「東京に戻ってくるときに、また住むところ探すなら、一緒に住めればなっと」

「えっ?」

「まぁ、えっと…、同棲しない?東京に戻ったら」

まさか、そんな展開になるとは思ってなかったんで声がすぐ出なかった。

「色々探して、めぼしいところ最近みつけたんだ。次来るときその部屋みて気に入ったら、そこに引っ越そうかと思ってる。」

しばらく反応なかったので

「もしかして、勝手に決めて考えたから嫌だった?」

「え、そんなこと…、ビックリしちゃって」

「透子ともう離れたくないんだ」

あー、もう心臓に悪い。

そんなこと言われたら

「うれしいよ、ありがとう。私も悠人と一緒にいたい」

次会うときは、東京に行く約束をして、今後二人が住むマンションを仮予約してるので見ることになった。

「じゃ、おやすみ」

「うん。おやすみ」

そう言って、幸せいっぱいで電話切ったのが、まさか悠人ともう会えないなんて思いもしなかった。




東京に行くのは、翌週の週末にになって、久々の東京ということもあったウキウキしていた。

4日後に東京行こうとした日に、悠人からチャットがきた。

〈仕事中だと思うから空いてるときに電話が欲しい〉

こんなこと今までなかったので、不安になって離席して電話した。

「どうしたの?」

「実は週末駄目になった」

「えっ?仕事?」

「いや…」

と言って、少し時間があいた。

「どえしたの?」

「実は、真矢智子まやともこと熱愛報道の記事が明日出て」

「え!?」

「はめられた」

真矢智子と言ったら、少し前までドラマに出てた女優さんで、そういえば最近少し見ないなとは…

「多分最近仕事が減ったからスキャンダルで話題にして」

「そ、そんな…」

「俺の周りもマスコミが張り付いて」

「じゃあ、会えないの?」

「…そうだな。しばらくは…」

言葉が出ない。

「まさか、皆で食事して上手く二人っきりに映されるとは」

「ゆ、悠人?」

「勿論、何もないよ。仕事の打ち合わせのあと、皆で食事して」



そして、翌日週刊誌でそれが出た。

見たくはないが、やっぱり気になって買ってしまった。




真矢智子!!イケメンスタントマンと深夜のデート!

相手は伏見涼と仲がいいスタントマン松井悠人(26)。去年のドラマで知り合い、今年再会したことで交際がスタート。二人共伏見涼とは仲がいいので、伏見を通して会うことも多い。親しいスタッフの話だと毎日お互いのマンションに通ってる仲だという。
松井は以前俳優を目指してたこともあり、芸能関係の顔が広く現在不定期に男性ファション雑誌にも出ていることもあり、容姿も悪くない。
真矢から仕事を紹介してもらう事も以前はあったようで、公私共に親しい間柄。真矢の方も以前から気に入ってたようで、よく食事に誘ってたりしていたようだ。




これ…、全部嘘なんだよね?

寄り添ってる二人の写真が、週刊誌の表紙になっている。

信じてるけど、なんか…

いや、悠人も困ってるようだったし、騒ぎが落ち着くまで待つしかないのかな。

そして、夜電話がきた。

「ごめん、会えなくって」

「気にしないで。大丈夫なの?」

「いや、思ったよりマスコミの人数が凄くって今事務所のスタッフに助けて貰いながらホテルを転々としてる」

「そなんだ」

しばらく沈黙してるので

「悠人、少し休んで」

何か疲れてる感じがする。

「透子に逢えないのが辛いな」

「うん」


電話はその後も今まで以上に頻繁して、話すようになったけどマスコミがべったり張り付き、どうにもならないと言っている。

悠人の事務所からはマスコミ関係者に事実ではないことを公表したが、真矢智子の方は何もコメントをしない。


そして

「これで仕事しても周りに迷惑かかるので、少し離れることになった。」

「えっ?」

「来週から、事務所の幹部の別荘にしばらく居ることになって、そこで事務所の仕事をすることになった」

「別荘?」

「ああ。鹿児島に別荘があってそこでしばらく住むことになって、事務所の事務的なサポートをやる感じかな。パソコンあれば仕事をできるしな」

「そっか」

「外部と会うのは禁止になっていて、いつ何処で漏れるかわからないから」

「そ、そうだよね」

スキャンダルで、こんなに大変になるなんてほんとに怖い世の中だな。

悠人逢いたいけど、今は待つしかない

「悠人、私こうやって悠人と話せるから大丈夫だよ。身体に気を付けてね」


翌週に鹿児島に移動。誰にも見つからないように、夜中スタッフの車で都内を出たらしい。

「海が思ったより近いので景色もいいし、気分転換になるよ」

少し元気な声に聞こえた。

「そっかぁー、よかったね」

「こういうところ、透子と二人で来たかったな」

「うん。落ち着いてら行こう」

「そうだな」

そしてその電話で話したのが最後となった。

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