適職の仕事を

詩織

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適職の仕事を

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あー、とうとう来たか…

メールで解雇通知がきた。

私が少しビックリしてるのを課長がみてニヤッと笑ってる。

まぁ…、うん。仕方ないか

私、山崎愛実やまざきまなみ、30歳。この会社に入社したときは企画部にいた。そのときはやりがいもあったが、3年前から営業部に所属。

営業部のお互いが蹴落とすやり方に納得行かず、売り上げもそこそこにしてあとは、後輩や苦しんでるひとのサポートを主にしていた。

だって、新人も年数も関係ない!営業部に入った途端お互いを蹴落とすようなやり方。新人は長くは続かない。だから他の部署で何年も在籍してる人を営業部に異動させ、争わせる!

そのやり方が納得行かず課長に何度も言った

「甘いんだよ!営業はな競争だ!誰よりもトップをとる!それがこの部署でいることなんだ!お前もその気力でやれ!」

人を蹴落とすみたいなやり方が好きになれなかった。部署異動のお願いしてもかなわず、この会社にいる限り私はこの部署にいなければならない。そして見ると苦しんでる後輩、成績が悪く頭を抱えてる人もいる。私は最低限の売り上げだけをし、後はその人たちのサポートをすることを多くなった。

そのやり方に納得いかない課長がきっと上層部言って首にした?て感じなのかな。

証拠はないけど私のやり方に毛嫌いをしている。そしてそれは課長だけではない。売り上げのいい同僚たちがおもしろくないみたいで私に対して風当たりが悪かった。

「おい!山崎、お前人のことばかり気にして自分の売り上げどうなってるの?お人好しなのか?ただのおかしいヤツなのか?お前みたいにやる気のない営業はこっちが士気が下がる」

なんて言う人もいる。

だから、きっと課長を含めその辺の人たちが…

私はそう思いながら身の回りの整理をして退職をした。

最後の日

「俺、山崎さんに助けて貰ったこと忘れません!」

「私もです!本当にありがとうございました!」

サポートした後輩、同僚にはそう言ってもらって私は送別会も何もされず約10年働いてた会社を後にした。


転職活動もしてるが、上手く行ってない。

どうしよう…と、思ってるときスマホがなった。

「あっ、山崎先輩ですか?宮下みやしたです。」

「あ、うん。」

営業部で苦戦してた後輩の宮下君だった。

「先輩あのー、そんなこと聞いていいのか解りませんが、仕事ってまだ決まってませんか?」

「うん。そうねー、なかなか決まらなくって」

「でしたら、お話があるんですが」




「まさか、宮下君の従兄弟が…」

今来てるのはこれから面接を受ける会社、FFL株式会社。

あの後宮下君と話し、従兄弟で働いてる会社が募集してるので来ませんか?と言われ…

前の会社と規模が同じじゃん!

しかも同業だし。前社ではこの会社をライバル志してたなー

受付で話し、指定された場所に通される。

「失礼します」

と、中に入ると既に2人の男性がいた。

どっちかは、宮下君の従兄弟のはずだけど

「本日はよろしくお願いいたします」

と、頭を下げ着席することを言われたので、着席する。

「前職についての業務となぜ辞めたのかを教えてください」

宮下君から聞いてるだろうから、素直にクビになった経緯まで素直に話した。

クビなんてかなりのマイナスだけど仕方ない。

「そうですか。それは大変でしたね」

話したあと、最後にそのように一言言われ

「当社に入社した場合は、営業にならないと思いますが問題ありませんか?」

「はい!大丈夫です」

その後、簡単な自己アピールをし

「では、これで終了です。お疲れ様でした」

「ありがとうございました」

と挨拶をし、面接を終えた。

「山崎さん」

面接した会議室を出たら声をかけられた。

「従兄弟がお世話になりました」

「あっ、宮下君の…」

「はい!あいつとは少し年が離れてるので、第2の父親と思ってるようで…、仕事の話を聞いてると山崎さんの話をよく聞いてました」

「そうですか…、でも私は何もお役に立ててないので」

「いえー、あいつはとても感謝してましたよ」

そっかぁー、それなら嬉しいけど…、でも私なんかあの部署ではお荷物的存在になってたしなー

「では、失礼します」

深々と頭をさげて会社を後にした。



だいたいクビになった人間を同等企業のしかも同じ業種の会社が雇うのかしら?いくら宮下君の従兄弟の方がいたとしても…

私はあまり期待してなかった。

けど

「…採用」

まさかの…

やっぱり宮下君の従兄弟さんがよく言ってくれたからかしら?

でも、どちらにしても折角のチャンスなんだし実力で認めて貰おう!

そう思って気持ちを切り替えた。

そして、私の配属先は秘書課となった。

やったことないんだけど…、大丈夫かな?


それから1ヶ月後、FFL株式会社に入社した。

「山崎さんには、技術開発部の柳瀬やなせ部長の秘書をお願いします」

えっ!部長の秘書!?

「わが社では、部長クラスから秘書をつけてます。仕事量のボリュームを秘書がサポートするのも仕事になります」

「解りました。よろしくお願いいたします」

秘書の研修を2週間し、その後担当の柳瀬部長の元に行くことになった。

「失礼します。本日付で…」

「山崎さん、よろしくお願いしますね」

えっ!?宮下君の従兄弟さん!?

「よ、よろしくお願いいたします」

深々頭を下げ挨拶をした。

「早速だけど、これとこれを見てください」

「はい!」

資料を見る。本日の打ち合わせの内容か…

「今日すぐは理解出来ないと思うけど、現在この2つの仕事が私の大きな仕事になってます。今後はこの2つのことが中心で動くので時間あれば目を通しておいてください」

「解りました」

私は早速目を通しはじめる。

2時間後、一緒に打ち合わせに同行。

専門用語が多すぎる。

この2時間帯で、解らない言葉を調べたが多分打ち合わせはついていけないだろう。

「今日は、こんな感じかっていう程度でいいですよ」

「はい」

私が考えてることが解ってたようでそう言ってくれる。

ありがたい

よくよく見ると、柳瀬部長って顔整ってるな。イエメン…の分類になるのかは解らないけど、美男子になるのかもしれない。

背も高いし、年は40半ばかな?多分ご結婚もされてるだろう。

客先の打ち合わせ先でも、新しい秘書と紹介され挨拶をする。

そして、失礼のないレベルで顔をじーっと見る。覚えてないは失礼になるからね。

2時間打ち合わせをして、客先の会社を後にした。

そして帰って資料をまとめ、明日の予定準備をする。

慣れないから時間がかかりすぎて、柳瀬部長がぜんぶやらないでいいからって言ってくれるけど、少しでも覚えたい!そんな気持ちで初日は終わった。



それから1ヶ月たち、まだまだ解らないことだらけ。でも…人を蹴落とすような仕事のやり方じゃないので、かなりやる気を出している。

技術開発部は1課~4課まであり、1つの課は20人弱。各課の仕事も理解しときたい。名前はまだ全員は覚えられないけど、できるだけ早く覚えたいなー

まだまだ人の名前、仕事の内容、専門用語と覚えることだらけ。

「山崎さん」

「あっ、はい!」

柳瀬部長は私を見て

「まだ来て1ヶ月だから焦らず行きましょう」

私の心の中見えてるの?ってくらいいつも当てられる。てか、私かなり顔にだしてる?

でも、こうやって気にかけて貰える上司って久々だなーと、嬉しさもあった。

そしてこのタイミングで歓迎会をしてくれた。ずっと必死にやってるのをみて少し時間おいてやろうと思ってくれたらしい。それと同時に4課の松丸まつまるさんが結婚退職するとかで、同時にやることになった。

人数も30人ちょっといる。大きな飲み会となった。

歓迎会とかあそこではなかったなー、こうやってワイワイすることが出来るなんて…

二次会までちゃっかり参加し、そろそろ終電もヤバイ!急いで駅に向かおうとしたら

「ちょっと付き合ってくれませんかね?」

「えっ?でも終電が…」

「送るから大丈夫」

と言われた。

声をかけてくれたのは部長。

2人でバーに行き乾杯をする。

「この1ヶ月、山崎さんはすごい頑張ってくれて有難いけど、でも頑張りすぎかな」

「えっ!?」

「そんなに、肩の力入れないでいいですよ。もっと気楽に…という言い方も変ですけどゆっくりやってください」

「で、でも…」

「何か気になることでも?」

「…宮下君に紹介して貰って今があります。それから部長がいて…、期待に答えたいってのがあって、紹介とか関係なく実力があるんだって思って頂きたいんです。」

そう言うと笑顔になって

「それは、コネで入れたからそう思われたくないと?」

「あ、いや…」

言葉にされるとちょっと…、でも結局そういうことだよね。

「確かにきっかけは紹介ですけど、紹介だからって採用した訳ではありません。山崎さんなら問題ないと判断したから採用されたんです。私が面接に同席したのは自分の秘書になる方の判断をしたかったから。人事採用の方もおなじ判断ですよ」

「あ、ありがとうございます」

そう言って頂けて嬉しい。

「じゃ、これからは力を抜いて、そして何でも1人でやろうと頑張るんでなく、もっと私を頼ってください」

「はい!」

部長の優しさに心が暖かくなる。慣れない秘書だけどここに転職してよかったなー

その後、タクシーで近くまで送って頂いた。


翌日は休みだったので掃除、洗濯と溜まったものをしている。

そして母からの連絡。スマホの留守電を聞くとお見合いの話。

少し前からお見合いを進められてて断ってるんだけどなかなかしつこい。

30にもなったから心配なのは解るんだけどねー、お見合いまでして結婚したいとは思わない。

で、あまりにもしつこいので、後日恋人がいると言ってしまった。そのお陰でお見合いの話はなくなったけど、結婚は?と聞かれる。そこは曖昧に答えた。まぁしばらくは静かになる?と思われる。

 

4ヶ月後。

部長のアドバイスで、こんつめず、でも覚えることはしっかり覚え、少しずつ取り組んで行った。この間に知ったことは部長がバツイチで現在は独身ってこと。

プライベートのことは全く話さないので、他の人から聞いてビックリしてる。

そして

「あっ、山崎さん」

「はい」

和人かずとも、うちの会社に転職するんですよ」

和人?

誰って顔をしてると

「宮下ですよ」

「あー、失礼しました。」

確かにそんな名前だった気がする。全然思い浮かばなかった。でも

「やっぱり、何か…」

ハッキリとは聞きづらいけど

「やっぱり、山崎さんが居たのは大きかったんだろうね。和人も含め経験浅い社員は辞めたらしいですよ」

「…そうですか」

誰もフォローも何もせず、罵声を浴びせただけだった?ということだろうか?

悲しいな…

「和人は、支店に行くので会うことはないかもしれませんが、山崎さんに会いたがってました。今度機会作ってあってやって下さい」

「わかりました」


それから少しして宮下君と飲みに行く約束をした。そしてほかの人もいて

「山崎さーん!!」

と言って喜んでくれてる。

営業部でいろいろさぽーとしたり、アドバイスをしたりした人たちだ。

「俺たちみんな会社辞めた転職組です」

「あっ、私はまだ仕事についてませんよ」

「おまえ再来月結婚するんだろ!専業でもいいじゃんか!」

「あら、そうなの?おめでとう!」

「ありがとうございます」

うれしそうな顔をしてる。

結婚かぁー…

それにしても結婚する子以外はみんな転職している。改善とかしない…だろうな

「山崎さん辞めてからとんでもないことになって」

「そうなんですよ!営業成績のある方が1人で仕事回らないんで俺たちにサポートさせるんです。それとは別に俺たちの個人の営業成績も判断されて、サポートでせいいっぱいでとても自分達のことできなくなって…」

「…そうなの」

「山崎さんって、御客様に提出するプレゼン資料とか作ってくれたじゃないですか。万江はそれを原本にコピペして使ってた人も多く、けど今はそういう共通的な資料つくれる人いないから、個々にサポート依頼がきて」

「そそ、悔しかったら俺より成績あげなって言われたり」

「もう、ついていけませんでした」

「ぐちゃぐちゃです」

「多分自分達で整理出来ないんじゃないんですか?あの人たち」

「そそ、縁の下の力持ちって存在に気づかないんだもん」

どんどん悪化してるようだな。

愚痴も皆で吐き、新しい職場に意欲をだしあった。

「そういえば、龍兄とはうまくやってますか?」

「え?」

宮下君に言われ

部長の名前、龍也たつやってことを思い出して

「あっ、うん。すごい助けて貰ってて本当に毎日有難いよ」

「山崎さんって彼氏いるんですか?」

普段なら言わないけど、酒の席だから気が緩んでるんだろうな。

「いや、いないよ」

「じゃ、龍兄どうですか?」

「へ?」

「まぁ、バツイチだけどオススメですよ」

オススメって…

「いや、部長とはそんなんじゃないし、でも尊敬はしてるよ」

「…そうなんですか。」

突然勧められたことにドキマギしたが、こんな三十路の女なんて気に入る人いるのかしら?とすら思ってしまう。


飲み会も終わり、家に着くと留守電があった。聞くと母からだった、恋人とはどうなの?結婚は?みたいな…

「はぁー」


結婚したいと思う人は過去にいたけど、あっさり略奪された。相手は金持ちの娘くらいしか知らない。



そして更に数ヶ月がたったとき、ある打ち合わせを客先でしてたときだった。

会議室を部長と出たとき

「!?」

目の前に前辞めた会社の課長がいた。

「あっ!?なんで山崎がここにいるんだよ!」

「…」

会って早々、上から目線の嫌みな言い方。

「お前が来るところじゃないだろ!それとも俺に会社に戻りたくってお願いにきたか?」

えっ?なに言ってるの!?

「そ、そんなことは」

「解雇されたのにお前も寂しい人間だな!まぁ、どうしてもって頭下げるなら…」

「戻る気はありません」

「はぁ?」

「戻らないっと言ってるんです!」

「じゃ、なんでここにいるんだよ?説明できるのかよ!」

私が言いかえそうとしたとき

「お話し中失礼します。彼女はわが社で働いてまして、その打ち合わせの帰りです」

部長が口を挟んで言った。

ビックリした顔をする課長。

「お前が転職できたのか?辞めた方がいいですよ!こいつ、使い物になりませんよ!」

「…」

「失礼ながら彼女の仕事振りには、我々の想像を遥かに越えた働きをしてます。とても助かっておりますが」

「なんですか?それ、そんなわけないでそょう?全く使い物にならないのでクビにしたのに…、あっ、解った!下請けの下請けみたいなショボイ会社とか?ここは、そんな会社が来るところじゃないよ!帰った!帰った!」

と、手で私たちを追い払う。

私だけならともかく、部長までそんな…

「ちょっと、失礼じゃないですか!」

ブチッと切れた!もう久々にあったまきた!!

「ふん!図星で切れたってことか?」

部長は少し考えて何かを言おうとしたが

「すいません、お話は聞こえてしまいまして」

ドアが開き、今商談してた方が出てきた。

「あっ、お世話になってます」

課長はすぐに手の平を返し丁寧な口調と、笑顔でその人に向かって挨拶をする。

「今のお話を聞きまして。申し訳ありませんが、この件の仕事はFFLさんにお願いしたいと思います。お引き取りください」

「え?」

課長はびっくりして言葉が続かない。

打ち合わせしたとき、うちの会社かもう
1社かどちらかで検討するとさ聞いてたけどまさか前の会社だったとは…

「え?あっ?FFL?」

キョトンとする。

「では、柳瀬さんまた詳しい話はご連絡いたしますので」

「はい!ありがとうございます」

私も一緒に頭をさげた。

「あっ、ちょ、ちょっとまってください!」

課長は必死に言うも

「御社みたいに、人のことを見下す会社は今後お付き合いに応じません」

「見下すって…、元部下ですから…」

「元部下なら見下すんですか?山崎さんは、いつも事前に準備をされてたり、我々が話しやすい資料を作られたりと、とても出来る方ですよ!」

「はぁ、でも」

「では、失礼します」

そう言って私たちの前から離れ歩きだした。

「待ってくださいよ!」

追いかける課長。それを見て部長は

「ああやって見てくれてる人はいるんだ!山崎さんは胸張ってればいいですよ」

「…はい」

「…て、何も言えなかったけど」

ここの出来事が自社でも噂になり、私は注目されてしまった。それは、部署内ではいい意味で、他部署では悪い意味でとらえてる人もいるよう。

そんなことを知ってか仕事が終わったら部長が飲みに行こうと誘ってくれた。

2人で飲むのは、あの歓迎会以来。


「今日はちょっと仕事以外のこと話そうかなと」

えっ?そんなこと言うの初めて

「山崎さんって学生時代は部活とか燃えてるものあったんですか?」

「バトミントン部に中学~高校まで入ってました。大学はちょっと考え方が違うのですぐ辞めて一般クラブに入ってそちらでやってました」

「へーそうなんですか。長いですね」

「はい。県大けらいまではいちよう…」

「へぇーそうなんだ」

「部長はどうなんですか?」

「テニスを長くやってましたね!大学までずっとやって、社会人になってもたまにやってます。今でもたまに学生時代のメンツを集めてやってますよ」

テニスかぁー、美男子にあいそうだ。

お酒も何杯かおかわりをし、だいぶお互い気が楽になったときに

「そういえば、恋人はいらっしゃるんですか?」

「…あ、いえ…」

これを聞かれるとほんと頭が痛いわ!

「あ、そうなんですか…、てっきり山崎さんならいてもおかしくないと思ったんですが」

「そ、そんなこと…、最近はもう母が煩くって…、見合い話とかもう…ですので恋人いるって嘘言ってます」

「そうなんだ…」

「…はい」





「聞きたいって顔をしてる」

「え?」

「俺が離婚したこと…かな?」

顔に書いてあったの!?

「いえ、あの、…」

「いや、別に話しても…」

と言って話してくれた…けど、話を聞いとても心が痛くなった。

職場の後輩の人と結婚し、同期で仲がいい人に取られてしまい、奥さんは仕事ばかりしてる部長に嫌気がさし、その同期の人と会うようになったらしい。

「2人を怒ったとき、あいつが彼女を庇ってるの見てそれ以上何も言えなかった」

「…」

「俺は結婚に向いてなかったのかなーと」

「そ、そんなこと…、私は部長の優しさ、守ってくれる力、仕事をこなす凄さ、全てを尊敬してます」

「…ありがとうございます」

「い、いえ」

なんか、恥ずかしくなってきた。

部長が旦那さんだったら贅沢すぎるよ!

そのあとも恋ばなをしたりと楽しい時間がすぎ

「あっ…」

もう、こんな時間

「タクシーで送りますから」

「えっ!?でも…」

「いいから!部下との交流を深めるのは大事なことなんで」

そう言ってタクシーを捕まえ、その中でも楽しく談笑した。

「本当にすいません、ありがとうございます」

マンションの前に降り深々と挨拶をする。

「いやー、こっちが誘ったので」

「それじゃ…」

「愛実!」

えっ!?

振り向くと


「お、おかあさん!?」

「もう、なかなか帰ってこないからあっちの店で暇潰してたわよ」

あっちとはファミレスのようだ。

って、そういうことじゃない!

「なんで!?」

「あんた、恋人いるって言って結婚も何も連絡ないじゃない?嘘だと思ってさー、見合いを」

と、母の言葉が止まり

「愛実のお付き合いしてる方?」

「タクシーに乗ってる部長をみて言う」

「い、いや、違」

「はじめまして。柳瀬と言います」

えっ!?ちょっと…

と、部長の顔をみると何かを言いたそうに私を見た。

さっき話したばかりだからもしかしてあわせてくれてる?

「はじめまして。母です。いつも娘がお世話になってます」

「いえ、こちらこそ。遅くまで付き合って貰いましたので、私はこれで失礼します。また後日改めて」

そう言うとタクシーのドアが締まり走って行った。

その後母は質問責め。本当にお見合いさせたかったようでかなりの写真を持ってきてた。

「結婚まではわからないよ!」

「なに言ってるのよ!逃げないようにしなさい!」

はぁー、もうなんで…

母は1週間はうちに居ると言う。その間に紹介しろとうるさい。


「おはようございます。昨日はありがとうございました」

「いえ、こちらから誘いましたし…それでお母さんは?」

「はい。1週間はいるようです」

「そうでしたか」

「…はい」

少し間があって

「もしかして、紹介しろって言われてるとか?」

「あ、いえ、はい。でも、なんか上手く言うんで」

と返すと

「まぁ、乗り掛かった船ですからね。生きますよ」

「え?」

ということで、週末母と会うと言ってくれた。勿論いいです!と答えたけど、そうでないとお見合いさせられるじゃない?と言われ、ごもっともな意見に結局お願いすることにした。

「敬語とか抜きにもっと恋人らしくね」

と、言われるけどなかなか…

個室のお店を予約してくれて

「先日は失礼しました」

と、部長が挨拶をする。

「いえ、こんな素敵なお店に…、すいません」

と、母はご満悦、

「愛実さんとお付き合いさせて頂いてます、柳瀬敏之としゆきと言います」

「そうですか」

笑顔が怖いよ!お母さん!!

食事が運ばれ、少しずつ話をする。

「そうですか…、1度ご結婚を」

「はい。もう10年近く前の話しになりますが…、バツイチな私などとお付き合いするのは申し訳ないのですが、私としては愛実さんと一緒にいたくお付き合いをお願いしました」

「あら、今じゃバツイチなんて気にしないでいいかと…」

「そう言って頂けるとありがたいです」

2人のやりとりに、ドキマギする。

「えっと、お母さん、あのね」

と言ってるのに

「じゃ、将来のこととか考えていらっしゃってますの?」

聞け!!お母さん!!!

「そうですね…」

と、少し間をおいて私に向かって笑顔になる。

ドキッと心臓が…

部長、今の笑顔は…

「その先のことは、先に愛実さんに言ってからですので。今はお答えすることは出来ません…、そこはすいませんがまた折を見てというお答えでいいでしょうか?」

「あら、そうですね!柳瀬さんがそうお考えであれば」

…大丈夫なんだろうか!?

母は今後プロポーズを私にしてから報告がある?とでも思ってるのかな?

でもきっとそういう解釈なんだろうな。

私はほぼ何も話さないまま、この食事会は終わった。

「ほんと、いい人ねー」

めっちゃ気に入ってるし

その後も母が帰る前日にも部長に会いたいと駄々捏ねられたので、もう一度会い、実家に帰った。

「部長本当にすいません」

「いや、それでお母さんに満足したのであればよかったです」

部長、優しすぎるよ

どんどんと惹かれていってしまう。


この間の打ち合わせの時の資料をみて思い出したけど、宮下君からメールあって元会社の課長はその後も人材が減り、営業部に問題があるとなり、監査をいれたという。私からしたら、遅いわ!!って言いたいがてん、多分課長は今まで通りにはいかないだろう。もう2度と会いたくない人だ。


この会社に入社して初めての体験が…

「部長とですか?」

「はい」

まさかの部長と2人での出張。1泊だけど飛行機に乗っての遠出となる。

凄い緊迫するんだけど。

下着とか普通でいいよね?…って、私何考えてるのよ!!

限りない妄想に気持ちが高ぶり始めてた。

朝早くの飛行機に乗り、午前中1件打ち合わせ。そして午後は2件打ち合わせ。かなりタイトのスケジュール。

そして翌日は朝早くに新幹線で移動。2件の打ち合わせを終え新幹線にのり、直帰する。

資料をまとめるだけでも結構な量で、すぐにフォローが出来るように手順を考える。

飛行機もそうだし、新幹線でもそうだけど、となり同士でかなりの密着にドキドキする。

出張初日は移動と、打ち合わせのことでいっぱいいっぱいで夕飯後はホテルに着いたらお互い部屋に入ってシャワーを浴びて爆睡した。

翌日は2件なんで少し気持ちに余裕があった。

ホテルで朝食を食べに行こうとすると

「あっ、おはようございます」

エレベーターに乗るときに後ろから部長きた。

「あっ、朝食ですか?」

「はい」

「じゃ、ご一緒に」

昨日は夕飯も一緒だったのに、朝も一緒だとテンションあがる。

「今日は2件ですしね、少し気持ちが」  

「確かに、昨日はタイトすぎました」

昨日の仕事の話をして朝食を済ませ、部屋に戻って支度をする。

ホテルのロビーで待ち合わせをして、客先に向かった。

1件目はかなり苦戦。仕事内容よりも担当者さんが癖があった。

俺は凄いんだみたいな自慢話が止まらない。出来れば早く次に行きたい。

「山崎さん、独身ですか…、じゃ今度そちらに行ったら飲みに行きませんか?」

これって…

堂々と飲みの誘い…


「仕事のことでしたら、私もぜひ」

「柳瀬さんは、気が利きませんなー」

ニヤッと笑い、こっちをみる。

ゾクッとする寒気。

なんで、こんなおっさんと飲みに…

どうしよう、ハッキリ断ってしまっていいんだろうか?でもそうすると、なんか言われそう。

「申し訳ありません。じつは山崎は近々私の妻になるのです。社内のことなのでギリギリまで報告はしないことにしてまして」

「…ああ、そうなんですか」

部長がそう言ってくれて助かったけど、返事はかなりトーンが下がった。かなり機嫌が悪くなった感じがする。

仕事の話はするも相槌を適当にするだけ。全く聞いてないじゃん!!

さすがにもう無理と判断し

「では、また機会がありましたら」

と、最後に部長が一言言って会社を出た。

「まだ、ああいう人いるんだなー」

ボソッという部長に

「すいません」

と、謝る。

「山崎はさんが謝ることじゃないでしよ!」

そうだけど…

「切り替えて次がばりましょう」

そうだね、次がんばろう!

あと1件!そしたら明日は祝日でそのあと週末の三連休!

前向きに考え、次に進んだ。



「わかりました。こちらでも検討致します」

客先から最後にそのように言ってくれて、かなり前向きな発言だっ。

やったーと思いつつも、深々と頭をさげ、最後の打ち合わせの会社を後にした。

感じがよかったので、お互い終始にこやかになり

「向こう着いたら、お疲れ様会やりませんか?」

と言われ

「はい」

と答えた。


「「乾杯」」

ビールで乾杯し

「「んー!!うまい!」」

と、同じタイミングで言うので笑ってしまった。


そのあとは、今回の出張所の話をして部長の意見を聞いた。

そして

「実は、山崎さんにお話したいことがあるんです」

「あっ、はい」

「実は、山崎さんには辞令が出てるんです」

「じ、辞令ですか?」

「はい、今までの実績をみて事業本部長の秘書になることに…」

本来なら今よりも上司の秘書になるから嬉しいことなのかもしれない。

「そうなんですか」

辞令なら仕方ない。解ってはいるけど、でも…

「じゃ、部長とこうやって一緒に仕事することは…」

「そうですね」

そっかぁー、もう終わりかぁー

ズシッとして凄く気持ちが遠くに感じた。


「部長、早いですけど色々ありがとうございました」

「…」

「私。部長に本当に感謝してます」

だめだ、悲しくなりすぎてる。



「…それで山崎さん、あのこと有効?」

「え?あのこと?」

「お母さんに言った恋人の話」

「あ、あれは…」

「私は…、俺は有効たと信じたい」

「部長?」

「…さっき言った近々妻の話も俺の願望」

「!?」

「仕事では一緒ではなくなるけど、プライベートとしてパートナーになってくれればと。1度結婚失敗してるんでもしかしたら踏み込むのに少し勇気がいるからちょっと時間も必要かもしれないけど、でもずっと一緒に居てくれれば」

手が震える。ドキドキが止まらない。顔が熱すぎて、そして目眩すらもしそうになる。

「もし、考えたいのであれば」

「い、いえ! 私でよければ…、こんな私でよければ」

甲高い声に一瞬なって、自分でもビックリした。

「それって…」

「よ、よろしくお願いいたします」

部長に向かって頭をさげた。

「ありがとう」

最高の笑顔で私を見て言った。




「…うちにこない?」

店を出て言われた。

「離れたく…ないんだ」

「わ、私も…離れたく…ありません」

そう言うと手を繋いでくれて、彼の家に向かった。



それから私は事業部長の秘書に配属。柳瀬部長には男性の秘書がついた。

私たちは同棲をはじめ今ではうちの親だけでなく、彼の親にも紹介され公認となっている。早く結婚を急かされてるけど、しっかり踏み切れてからでもワタシはいいと思ってるのでこの同棲生活をたのしみつつゆっくりと待つつもりでいる。


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