巻き込まれた薬師の日常

白髭

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1F-氾濫と供給

1F-01 城郭都市の狼煙

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 城郭都市とホーミィー村の間は馬車で一日の距離。荷台は空で、荷物はすべて自分のアイテムボックスに収めてある。闇魔法を習得してから容量は格段に広がり、家一軒分ほどの感覚だ。魔銀の魔力操作は良い修練になった。

 今回の移動はパラケル爺さんと二人。父は「長旅の遠征で疲れただろう、後は任せろ」と言われて村に残った。

 出発して三時間ほど進んだ頃、進行方向に黒煙が立ち上るのが見えた。一本、二本、三本と増えていく。さらに黄色と赤の狼煙が三箇所から上がっていた。城郭都市は魔の森からの襲来を防ぐ防波堤。その役割を思い起こす。

「もう始まったのか。今回は早いな! 出遅れてはいかん、急ぐぞ」
 爺さんが馬に鞭を入れる。道は悪く車輪は軋むが、荷台は揺れが少ない。こっそり仕込んだ玉軸受けとバネシリンダーが効いている。
「何が始まったのですか?」
「数年に一度、魔の森の主に魔物が挑む。代替わりを狙ってな。その余波で周辺の魔物が活発化し、群れが連鎖して暴れる。俗に“魔物の暴走《スタンビート》”と呼ばれる現象だ」

 狼煙の意味も教えてくれた。赤は撤退、黄色は交戦。観測所の兵は戦いながら情報を集め、都市へ退避する算段だという。

「自分たちは向かっても大丈夫でしょうか?」
「何を言う。小僧、お前は何を持っている? ポーション二千本だろう。冒険者と領軍を治せる量だ。行かぬ理由はない」

 確かに。平和ボケしていた。
「ホーミィー村は大丈夫でしょうか?」
「あそこは心配いらん。ワシが鎮守の森の主と交渉した。ハイポーションが役立ったよ。あの主は領域侵犯を嫌う。今回の襲来はむしろ喜んで撃退するだろう」

 鎮守の森の主と交渉できるとは驚きだ。
「最も、これが終わったらお前も会ってもらうぞ。主は作成者に興味を持っていた」
「……気を引き締めておきます」

 笑う爺さんの横で、前方の狼煙を見つめる。赤は消え、黄色は弱まっていく。拠点の放棄が始まったのだろう。やがて太い緑と黄色の狼煙が上がった。
「あれは城郭都市からだ。準備完了の合図。これから本格的に交戦に入るぞ」
 馬車はさらに速度を上げる。

「それにしても揺れないな。レッド、お前、馬車を改造したな? 後で聞かせろ」
 今は笑ってごまかすしかない。

「住民は避難しないんですね」
「城壁の内側が最も安全だと皆わかっている。戦えぬのは子供だけだ。エリスとクリスティーヌがいれば城壁は抜かれまい。主力は冒険者ギルド五百人と領主軍騎士三十人だろう。副ギルド長バスタが指揮を執り、ダミアンが参謀を務めるはずだ。さらに兵士三百名が招集される」

 そう話すうちに城門が見えてきた。商人たちが慌ただしく入っていく。出ていく者はほとんどいない。門の審査は通常通りで、やがて自分たちの番となった。

「パラケル様、毎回並ばなくても優先で通れますのに」
「ワシはもう隠居の身だ。だが今回は元役職を使わせてもらう」

 兵士と気さくにやり取りし、身分石の確認もなく通される。爺さんの信用は絶大だ。
「領主と冒険者ギルド長は館で作戦会議中です」
「ああ、ありがとな」

襲来のため段取りは省かれ、いきなり両者に面会となりそうだ。

胸の奥が緊張でざわめいた。
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