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第二章・聖女レベル、ぜろ
25.ここからが本番
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「ぅえっ」
理解が追い付かない。けれど、一気に胃酸が込み上げ気付いたら私はその場で嘔吐していた。
“どういうこと?なに、なにが起こってるの”
ゆらりと視界が滲み揺れたのは、吐いたせいだ。
だって私はまだちゃんと状況が理解できていないから。
混乱した頭を振り、そしてこのままここにいてはまずいと判断する。
けれどどこに行けばいいのかわからず、私はただフランの背中を見上げながら竹刀を握り締めた。
「リッカ、アベルを抱えて後ろに下がれ」
「わ、わかった」
フランからの指示に素直に頷いた私はアベルを抱き上げようとしたのだが。
“う、重い……!”
意識のない人間はただでさえ重いというのに、小柄とはいえ騎士団メンバーとしてしっかり鍛えた男性でかつ防具も着込んでいるアベル。
想像よりもずっとずっしり重かったせいで抱き上げれず、仕方なく私は竹刀を置きアベルの両脇に腕を入れて引きずるようにフランから離れた。
フランの指示のお陰で思考を振り切り移動した私だったが、その任務を完了した途端にふっとさっき見た光景が脳を過る。
再び胃液が上がってきた私は、思い切りえずき――……
「聖女様っ!」
ガキン、とすぐ近くで音がしビクリと体を震わせた。
慌てて見上げると、そこには盾で私を守るライザと……
「オルトロス……!!?」
先ほど倒したはずの魔物がそこにいて唖然とする。
“なんで……っ”
驚き、トーマやフランのいる方へ視線を動かす。
そこにはちゃんと先ほど討伐したオルトロスの死体があって。
「二体いた、ってこと……?」
ゲームで中ボスの連チャン。
それは確かになくはないが、こんなチュートリアルのような序盤で……?愕然とし、一瞬フリーズするが現実はそんな猶予なんて与えてくれない。
オルトロスが引っ掻くように腕を軽く振り下ろす。
軽くに見えるのに、その攻撃を受けるライザの表情はかなり険しい。
“どうしよう”
何ができるのかわからず、何もできない絶望を感じる。
せめて形だけでもと竹刀を探すが、アベルを移動させるために地面に置いてきてしまったことを後悔した。
“でも、さっきはオルトロスを弾けたじゃん”
ならばまた同じように魔法を発動して飛び付けばいい。
オルトロスが攻撃を仕掛けてきても、私に触れた瞬間に弾かれるのだから私は怪我すらしないだろう。
そうわかっているのに、私の体は震え硬直し動かなかった。
「魔力、残ってんのかな……」
重傷だったとはいえ、10分もかかった。
それは単純に私の魔力がかすんかすんだからだろう。
戦闘で使い、回復でも使った今、もし十分な魔法を発動できなかったとしたら?
過るのはジープの転がった首だ。
次にああなるのは自分かもしれない。
ごくりと唾を呑み、また守られるだけの自分に辟易する。
どうして私はこうなのか。
どうして私は何も出来ないのか。
「こんな、平和な世界でちょっと剣道とゲームで知識を入れただけの女に出来ることなんて……」
ない。そう、何もないんだ。
こんな役立たずな自分が悔しく、そして悔しさ以上に逃げ出したいと思う気持ちが勝る。
そんな自分に呆れ、涙ではなく乾いた笑いが零れた時だった。
「リッカ、さま」
「アベル!?」
ピクリと動いたのは意識を失っていたはずのアベルだった。
まだちゃんと視界がはっきりしないのか、宙をぼんやりと眺めているが、確かに意識を取り戻した彼がそこにいて。
“私にもやれたこと、あった……”
こんな出がらしの私でも、ちゃんとできることがあった。成せたことがあったということにほっとした。
「これを……」
まだ朦朧とした様子のアベルが私に手渡してくれたのは、私が探したいとわがままを言って無理やり戻って探したネックレスだった。
手渡されたネックレスを受け取りぎゅっと握る。
できたことがあった。
そして、きっと他にも今できることがあるはずだから。
もう落とさないように慎重にネックレスを着けた私が立ち上がる。
盾の役割をしてくれるライザは、守りの魔法を発動したとしても鉄壁というわけではない。
女性である彼女は、攻撃を受け止めるのではなく攻撃を“受け流す”タイプだ。
“私が後ろにいたんじゃ受け止めるしかできない”
それはトロール戦でも学んだこと。
無理やり踏ん張った結果吹っ飛ばされたが、本来の彼女の戦い方ならばそんな結果にはならなかったはずだ。
だったら私に出来るのは。
バシッと震える両足を叩き、気合いを入れて立ち上がる。
「こっちよ!」
まだアベルは動けない。
そして私たちを守るライザが攻撃を無理やり受け止めなくてはならない状況も回避しなくてはならないから。
私は大声でオルトロスを呼びながら、地面に転がったままの竹刀に飛び付いた。
「リッカ!」
転がるようにして竹刀を掴む。
攻撃の機会を狙っていたらしいフランが私を庇うように前に立つ。
「さっきみたいなんはダメだからな!」
「わかってる」
“というか、魔力が残ってるかわかんないから元々出来ないんだけどね”
ここにいない他のみんなはどうなったんだろうか。
まさか、という嫌な予感がし……その予感を振り払うように頭を左右に振って思考を止める。
今ここにいるのはトーマとアベル、ライザとフランに私の五人。
アベルの戦線復帰は無理だろう。
実質四人でオルトロスを倒さなくてはならない。
さっきのような私の魔法を基準にした戦闘もできないが、ただ足手まといになるのだけはごめんだ。
けれど、自分に何ができるかがわからず奥歯を噛みしめ――ふと、あることに気付く。
“さっき、なんで後ろ足にしがみついた時無事だったんだろ”
前足は強力な攻撃を繰り出し、それはアベルの腹部を抉るほど。
それに首を切り落とされたあとも尻尾が独立して噛み付いてきた。
そもそも双頭の犬なのだ、噛み付いてくればいいのに、後ろ足にしがみついた私は前足で払われることも尻尾に噛み付かれることも、二つの頭に威嚇されることすらなくて。
“単純に私の魔力のせいかなって思ってたけど……”
けれど、賭けるならここだと思った。
「どうせダメなら全滅だもんね」
「リッカ?」
「フラン、多分後ろ足が弱点だと思う」
頭を切り落とされ本体が死んだあとも貪欲に攻撃をしかけてくるほどの尻尾すら攻撃を仕掛けてこなかったのは、万一にでも後ろ足を傷つけたくなかったからだと予測できる。
私の言葉を聞いたフランは、予想外にもすぐに頷いてくれて。
「ライザ!オルトロスをこっちに弾いてくれ!」
「はい!」
「トーマ!左側を頼む」
「了解」
フランの声に素早く反応したライザとトーマ。
ライザはオルトロスの注意を自身に向けるために小さなナイフを眼球目掛けて投げつけた。
「アオォーーン」
片方の頭があっさりとライザのナイフを牙で落とし、もう片方の頭が遠吠えをする。
それはまるでこちらの作戦になんて乗るはずがないとバカにしたような声だったが。
「こっちにもいるんですよ!」
茂みから飛び出し、左前足に剣を突き立てたのは、なんとロクサーナだった。
「ロクサーナ!?」
「ご無事で良かったです!お戻りが遅いと見に行ったジープも戻って来なくて心配していたのですが」
視線をオルトロスから一切外さずそこまで一気に言い切るロクサーナ。
彼女のその様子から、ジープの体をどこかで見つけた後なのかもしれないと思った。
「他の騎士もすぐに合流いたします!ご指示を!」
剣を突き立てたロクサーナだったが、残念ながらその剣は硬い皮膚に阻まれたのか傷一つついた様子はなかった。
“攻撃の要である前足はやっぱり硬いんだ……!”
攻撃が通らなかったのは残念だが、その事実は後ろ足が弱点だという仮説を後押しした。
理解が追い付かない。けれど、一気に胃酸が込み上げ気付いたら私はその場で嘔吐していた。
“どういうこと?なに、なにが起こってるの”
ゆらりと視界が滲み揺れたのは、吐いたせいだ。
だって私はまだちゃんと状況が理解できていないから。
混乱した頭を振り、そしてこのままここにいてはまずいと判断する。
けれどどこに行けばいいのかわからず、私はただフランの背中を見上げながら竹刀を握り締めた。
「リッカ、アベルを抱えて後ろに下がれ」
「わ、わかった」
フランからの指示に素直に頷いた私はアベルを抱き上げようとしたのだが。
“う、重い……!”
意識のない人間はただでさえ重いというのに、小柄とはいえ騎士団メンバーとしてしっかり鍛えた男性でかつ防具も着込んでいるアベル。
想像よりもずっとずっしり重かったせいで抱き上げれず、仕方なく私は竹刀を置きアベルの両脇に腕を入れて引きずるようにフランから離れた。
フランの指示のお陰で思考を振り切り移動した私だったが、その任務を完了した途端にふっとさっき見た光景が脳を過る。
再び胃液が上がってきた私は、思い切りえずき――……
「聖女様っ!」
ガキン、とすぐ近くで音がしビクリと体を震わせた。
慌てて見上げると、そこには盾で私を守るライザと……
「オルトロス……!!?」
先ほど倒したはずの魔物がそこにいて唖然とする。
“なんで……っ”
驚き、トーマやフランのいる方へ視線を動かす。
そこにはちゃんと先ほど討伐したオルトロスの死体があって。
「二体いた、ってこと……?」
ゲームで中ボスの連チャン。
それは確かになくはないが、こんなチュートリアルのような序盤で……?愕然とし、一瞬フリーズするが現実はそんな猶予なんて与えてくれない。
オルトロスが引っ掻くように腕を軽く振り下ろす。
軽くに見えるのに、その攻撃を受けるライザの表情はかなり険しい。
“どうしよう”
何ができるのかわからず、何もできない絶望を感じる。
せめて形だけでもと竹刀を探すが、アベルを移動させるために地面に置いてきてしまったことを後悔した。
“でも、さっきはオルトロスを弾けたじゃん”
ならばまた同じように魔法を発動して飛び付けばいい。
オルトロスが攻撃を仕掛けてきても、私に触れた瞬間に弾かれるのだから私は怪我すらしないだろう。
そうわかっているのに、私の体は震え硬直し動かなかった。
「魔力、残ってんのかな……」
重傷だったとはいえ、10分もかかった。
それは単純に私の魔力がかすんかすんだからだろう。
戦闘で使い、回復でも使った今、もし十分な魔法を発動できなかったとしたら?
過るのはジープの転がった首だ。
次にああなるのは自分かもしれない。
ごくりと唾を呑み、また守られるだけの自分に辟易する。
どうして私はこうなのか。
どうして私は何も出来ないのか。
「こんな、平和な世界でちょっと剣道とゲームで知識を入れただけの女に出来ることなんて……」
ない。そう、何もないんだ。
こんな役立たずな自分が悔しく、そして悔しさ以上に逃げ出したいと思う気持ちが勝る。
そんな自分に呆れ、涙ではなく乾いた笑いが零れた時だった。
「リッカ、さま」
「アベル!?」
ピクリと動いたのは意識を失っていたはずのアベルだった。
まだちゃんと視界がはっきりしないのか、宙をぼんやりと眺めているが、確かに意識を取り戻した彼がそこにいて。
“私にもやれたこと、あった……”
こんな出がらしの私でも、ちゃんとできることがあった。成せたことがあったということにほっとした。
「これを……」
まだ朦朧とした様子のアベルが私に手渡してくれたのは、私が探したいとわがままを言って無理やり戻って探したネックレスだった。
手渡されたネックレスを受け取りぎゅっと握る。
できたことがあった。
そして、きっと他にも今できることがあるはずだから。
もう落とさないように慎重にネックレスを着けた私が立ち上がる。
盾の役割をしてくれるライザは、守りの魔法を発動したとしても鉄壁というわけではない。
女性である彼女は、攻撃を受け止めるのではなく攻撃を“受け流す”タイプだ。
“私が後ろにいたんじゃ受け止めるしかできない”
それはトロール戦でも学んだこと。
無理やり踏ん張った結果吹っ飛ばされたが、本来の彼女の戦い方ならばそんな結果にはならなかったはずだ。
だったら私に出来るのは。
バシッと震える両足を叩き、気合いを入れて立ち上がる。
「こっちよ!」
まだアベルは動けない。
そして私たちを守るライザが攻撃を無理やり受け止めなくてはならない状況も回避しなくてはならないから。
私は大声でオルトロスを呼びながら、地面に転がったままの竹刀に飛び付いた。
「リッカ!」
転がるようにして竹刀を掴む。
攻撃の機会を狙っていたらしいフランが私を庇うように前に立つ。
「さっきみたいなんはダメだからな!」
「わかってる」
“というか、魔力が残ってるかわかんないから元々出来ないんだけどね”
ここにいない他のみんなはどうなったんだろうか。
まさか、という嫌な予感がし……その予感を振り払うように頭を左右に振って思考を止める。
今ここにいるのはトーマとアベル、ライザとフランに私の五人。
アベルの戦線復帰は無理だろう。
実質四人でオルトロスを倒さなくてはならない。
さっきのような私の魔法を基準にした戦闘もできないが、ただ足手まといになるのだけはごめんだ。
けれど、自分に何ができるかがわからず奥歯を噛みしめ――ふと、あることに気付く。
“さっき、なんで後ろ足にしがみついた時無事だったんだろ”
前足は強力な攻撃を繰り出し、それはアベルの腹部を抉るほど。
それに首を切り落とされたあとも尻尾が独立して噛み付いてきた。
そもそも双頭の犬なのだ、噛み付いてくればいいのに、後ろ足にしがみついた私は前足で払われることも尻尾に噛み付かれることも、二つの頭に威嚇されることすらなくて。
“単純に私の魔力のせいかなって思ってたけど……”
けれど、賭けるならここだと思った。
「どうせダメなら全滅だもんね」
「リッカ?」
「フラン、多分後ろ足が弱点だと思う」
頭を切り落とされ本体が死んだあとも貪欲に攻撃をしかけてくるほどの尻尾すら攻撃を仕掛けてこなかったのは、万一にでも後ろ足を傷つけたくなかったからだと予測できる。
私の言葉を聞いたフランは、予想外にもすぐに頷いてくれて。
「ライザ!オルトロスをこっちに弾いてくれ!」
「はい!」
「トーマ!左側を頼む」
「了解」
フランの声に素早く反応したライザとトーマ。
ライザはオルトロスの注意を自身に向けるために小さなナイフを眼球目掛けて投げつけた。
「アオォーーン」
片方の頭があっさりとライザのナイフを牙で落とし、もう片方の頭が遠吠えをする。
それはまるでこちらの作戦になんて乗るはずがないとバカにしたような声だったが。
「こっちにもいるんですよ!」
茂みから飛び出し、左前足に剣を突き立てたのは、なんとロクサーナだった。
「ロクサーナ!?」
「ご無事で良かったです!お戻りが遅いと見に行ったジープも戻って来なくて心配していたのですが」
視線をオルトロスから一切外さずそこまで一気に言い切るロクサーナ。
彼女のその様子から、ジープの体をどこかで見つけた後なのかもしれないと思った。
「他の騎士もすぐに合流いたします!ご指示を!」
剣を突き立てたロクサーナだったが、残念ながらその剣は硬い皮膚に阻まれたのか傷一つついた様子はなかった。
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