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最終章・勇者レベル、???
36.倫理観は共有しても、貞操観念のレベルは共有すべきではない
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“無謀だって怒られるかな”
討伐に成功したものの、ベルザックを完全に無視した私とフラン。
一応私を守るために来てくれたらしいことを考えると、剣道で鍛えていたとはいえ実戦経験の少ない実力不足の護衛対象が自ら最前線に飛び込んでいくだけでもはた迷惑。
しかもそれを、騎士団長が許しているどころか団長自ら指示を出しているとあれば、ベルザックの立場からすれば堪ったもんじゃないだろう。
“流石に二人まとめてお説教コースか……!”
なんて項垂れつつ、顔についた返り血を袖で拭っていると、近付いてきたベルザックが私の前で足を止めた。
しかしベルザックは何も言わず、そっと布を手渡す。
怪訝に思いながらその布を受け取った私は、戸惑いながらその布で魔物の血を拭った。
私に布を手渡したベルザックは、そのままくるりと向きを変えてどうやらフランの方へ向かったらしく……
「どういうおつもりですかな、フランチェス殿」
痺れるような低い声がじっとりと響き、ビクリと肩を震わせる。
荒げた訳ではないのに威圧感を孕んだその声は、私だけではなく近くにいた他の騎士をも震わせた。
「どういう、とは?」
流石団長、ということなのだろうか。
しれっと聞き返したフランの前に立ちはだかったベルザックは話を続ける。
「聖女様を守るべき立場で、何故彼女と共に走り出すことを選んだと聞いている」
「リッカは聖女だが、それと同時に第六騎士団の仲間だ。共に戦うことを彼女も選んだ」
キッパリと言い切るフランに、私からも加勢を……と思うが、つい先日乱入して怒られたことを思い出す。
“訓練と会話じゃ全然意味が違うけど”
フランは私を信頼してくれたからこそ、守る対象としてではなく共に戦う道をくれた。
なら私も彼を信じるべきだとそう思い、黙って二人を見守る。
「いざというときはどうするつもりだ、みすみす見殺すのか?」
「それこそまさかだろ?リッカは必ず守る。だが、俺がリッカを守ることと、リッカが仲間のために戦うことは別ってことだ」
二人の意見は交わらないまま、その場は終わった。
辺りの安全を確認し、テントを張る。
几帳面なロクサーナの指示通りにテントを組み立てているつもりだったが、案外大雑把なところのあるライザと二人して雑だと散々怒られた。
魔王討伐だなんて途方もないことを目標に、この少人数で進む旅。
“旅って言っても、魔王のいる森が王宮のすぐ近くだから、10日もあれば奥まで行けそうなんだけどね”
とはいえ、それはあくまでも『何も出なかったら』だ。
だが、その近さは『何か出て不測の事態に陥った』時にすぐ戻れるということでもあって。
それでもやはりこの距離に魔王がいることに違和感を覚えつつ、これ以上は考えても答えなんてでないだろうと諦めテントの中に転がった。
「……あの、毎回言うのもなんなんですけど、どうして私がこっちのテントなんですかぁっ」
ふぇ、と効果音がつきそうなくらいうっすらと目に涙を溜めて訴えるのはもちろんアベルだ。
「それはだって……」
「ねぇ?」
思わずロクサーナと顔を見合せて。
「私は、男なんですよ……っ!!」
「でもアベル可愛いじゃない」
「かわ……っ!?」
さらっと告げたのは紛れもない事実なのだが、何故かショックを受けたアベルの背中をライザが擦り慰める。
「こう野外での集団行動が続くと、その……、もしかしたらアベルに危険が迫るかもしれないと……」
“あ、ライザそれ致命傷かも”
頑張ってオブラートに包もうとしているところがより真実味を増し、アベルの顔が驚愕に染まる。
森に娼館なんてものはない以上、溜まるものは溜まるもんで。
“そういや、友達がよく男同士が恋愛する漫画読んでたなぁ”
なんて思い出す。
男子校に男ばかりなのはいいとして、何故共学でも男ばかりしか出てこないやつが多いんだ?と考えつつ、そういう漫画は男同士でかなりドエロいことをしていたな、と連想し――……
「そうよ、アベル。溜まりすぎてトチ狂った誰かにキスされるかもしれないんだから!」
「ごふっ」
ロクサーナの口から出た例え話に思わず吹き出した。
「き、キス!?」
アベルの為に軽いところから話しているのかと思ったが、動揺した理由を勘違いしたらしいアベルやロクサーナ、そしてライザまでもが私を真っ直ぐ見つめる。
「大丈夫ですよ!婚約者だろうと団長は未婚の状態でキスなんてしませんっ」
「えぇ、どんな令嬢からの誘いも冷めた目線で薙ぎ払ってきたんです。そんな団長がリッカ様の許可なく触れるなんてありえません!」
「そうですっ!団長は素手で手を握ることもしないでしょうからっ」
“え、えぇ……?普通に最後までヤっちゃってるんだけど”
素手で手を握らないって、手袋とかってことなのだろうか。
というか婚約者同士で最後までどころか手を握ることすらここまで言われるこっちの世界の貞操観念に冷や汗が滲む。
“え、私を慰めるためだったとはいえ触れてきたのはフランだし、正に既成事実ってやつなの……?”
それがこの国の基準なのか、もしくは全ての言い寄る令嬢を薙ぎ払ってきた堅物フランだからこその評価なのかもしれない。
素手で手を握るどころか、キスもしたし舌も絡めた。
それどころか脱がされて何度も乳首を舐められ吸われたし、フランの固く反ったソコと擦り付け合い、ナカを何度も抉られ奥まで貫かれもしていて。
「えーっと、素手はダメだけど他の部位ならアリとかそんなことはない……よね?」
動揺した私がそう聞くと、何のことかわからなかったらしい三人がきょとんとこっちを見た。
「あーっ、やっぱりなんでもな……っ」
「それ、足で踏まれたとかそういうことですか?」
「なんか逆にハードなプレイになってない!?」
女王様フランを想像した私は、ギョッとしながら三人を見る。
そんな私の様子を見ていたロクサーナが、スンッと半眼になって。
「まさか口付けされたんですか」
「あ、そのっ、それは……っ」
「されたんですね!?というかその反応っ!ま、まさかその先まで……っ!!!」
ガチャリと剣を握ったロクサーナがテントを飛び出そうとし、そんな彼女にしがみついて必死に止める。
「婚約者だからってしていいことと悪いことがありますッ!」
「同意ッ!同意だったからフラン悪くないからぁ~っ!!」
必死に叫んでいると、ライザもゆらりと立ち上がって。
「団長は……第六騎士団の恥です……」
「そんなことない!そんなことないからね!?」
「団長は……第六騎士団の恥です……」
「ひぃぃっ」
まるで呪詛を呟くように同じ言葉を繰り返すライザに恐怖する。
こうなってはもう味方はアベルしかいない。
最年少の美少女アベルだが、彼も一応性別は男なのだ。
そういう欲求だってあるだろう。
この場を納める奇跡の一言なんてくれないだろうかと縋るような気持ちでアベルの方に顔を向けた私は、彼の姿を見て味方はいないのだと悟った。
何故なら彼が、正座したまま気絶していたからである。
“ごめん、フラン……。明日はフランがつけた『浅はか聖女』ってあだ名、甘んじて受けるから……”
私はこの完全にカオスになってしまった女子テントで、明日総スカンを食らうことになるだろうフランに全力で謝罪するのだった。
討伐に成功したものの、ベルザックを完全に無視した私とフラン。
一応私を守るために来てくれたらしいことを考えると、剣道で鍛えていたとはいえ実戦経験の少ない実力不足の護衛対象が自ら最前線に飛び込んでいくだけでもはた迷惑。
しかもそれを、騎士団長が許しているどころか団長自ら指示を出しているとあれば、ベルザックの立場からすれば堪ったもんじゃないだろう。
“流石に二人まとめてお説教コースか……!”
なんて項垂れつつ、顔についた返り血を袖で拭っていると、近付いてきたベルザックが私の前で足を止めた。
しかしベルザックは何も言わず、そっと布を手渡す。
怪訝に思いながらその布を受け取った私は、戸惑いながらその布で魔物の血を拭った。
私に布を手渡したベルザックは、そのままくるりと向きを変えてどうやらフランの方へ向かったらしく……
「どういうおつもりですかな、フランチェス殿」
痺れるような低い声がじっとりと響き、ビクリと肩を震わせる。
荒げた訳ではないのに威圧感を孕んだその声は、私だけではなく近くにいた他の騎士をも震わせた。
「どういう、とは?」
流石団長、ということなのだろうか。
しれっと聞き返したフランの前に立ちはだかったベルザックは話を続ける。
「聖女様を守るべき立場で、何故彼女と共に走り出すことを選んだと聞いている」
「リッカは聖女だが、それと同時に第六騎士団の仲間だ。共に戦うことを彼女も選んだ」
キッパリと言い切るフランに、私からも加勢を……と思うが、つい先日乱入して怒られたことを思い出す。
“訓練と会話じゃ全然意味が違うけど”
フランは私を信頼してくれたからこそ、守る対象としてではなく共に戦う道をくれた。
なら私も彼を信じるべきだとそう思い、黙って二人を見守る。
「いざというときはどうするつもりだ、みすみす見殺すのか?」
「それこそまさかだろ?リッカは必ず守る。だが、俺がリッカを守ることと、リッカが仲間のために戦うことは別ってことだ」
二人の意見は交わらないまま、その場は終わった。
辺りの安全を確認し、テントを張る。
几帳面なロクサーナの指示通りにテントを組み立てているつもりだったが、案外大雑把なところのあるライザと二人して雑だと散々怒られた。
魔王討伐だなんて途方もないことを目標に、この少人数で進む旅。
“旅って言っても、魔王のいる森が王宮のすぐ近くだから、10日もあれば奥まで行けそうなんだけどね”
とはいえ、それはあくまでも『何も出なかったら』だ。
だが、その近さは『何か出て不測の事態に陥った』時にすぐ戻れるということでもあって。
それでもやはりこの距離に魔王がいることに違和感を覚えつつ、これ以上は考えても答えなんてでないだろうと諦めテントの中に転がった。
「……あの、毎回言うのもなんなんですけど、どうして私がこっちのテントなんですかぁっ」
ふぇ、と効果音がつきそうなくらいうっすらと目に涙を溜めて訴えるのはもちろんアベルだ。
「それはだって……」
「ねぇ?」
思わずロクサーナと顔を見合せて。
「私は、男なんですよ……っ!!」
「でもアベル可愛いじゃない」
「かわ……っ!?」
さらっと告げたのは紛れもない事実なのだが、何故かショックを受けたアベルの背中をライザが擦り慰める。
「こう野外での集団行動が続くと、その……、もしかしたらアベルに危険が迫るかもしれないと……」
“あ、ライザそれ致命傷かも”
頑張ってオブラートに包もうとしているところがより真実味を増し、アベルの顔が驚愕に染まる。
森に娼館なんてものはない以上、溜まるものは溜まるもんで。
“そういや、友達がよく男同士が恋愛する漫画読んでたなぁ”
なんて思い出す。
男子校に男ばかりなのはいいとして、何故共学でも男ばかりしか出てこないやつが多いんだ?と考えつつ、そういう漫画は男同士でかなりドエロいことをしていたな、と連想し――……
「そうよ、アベル。溜まりすぎてトチ狂った誰かにキスされるかもしれないんだから!」
「ごふっ」
ロクサーナの口から出た例え話に思わず吹き出した。
「き、キス!?」
アベルの為に軽いところから話しているのかと思ったが、動揺した理由を勘違いしたらしいアベルやロクサーナ、そしてライザまでもが私を真っ直ぐ見つめる。
「大丈夫ですよ!婚約者だろうと団長は未婚の状態でキスなんてしませんっ」
「えぇ、どんな令嬢からの誘いも冷めた目線で薙ぎ払ってきたんです。そんな団長がリッカ様の許可なく触れるなんてありえません!」
「そうですっ!団長は素手で手を握ることもしないでしょうからっ」
“え、えぇ……?普通に最後までヤっちゃってるんだけど”
素手で手を握らないって、手袋とかってことなのだろうか。
というか婚約者同士で最後までどころか手を握ることすらここまで言われるこっちの世界の貞操観念に冷や汗が滲む。
“え、私を慰めるためだったとはいえ触れてきたのはフランだし、正に既成事実ってやつなの……?”
それがこの国の基準なのか、もしくは全ての言い寄る令嬢を薙ぎ払ってきた堅物フランだからこその評価なのかもしれない。
素手で手を握るどころか、キスもしたし舌も絡めた。
それどころか脱がされて何度も乳首を舐められ吸われたし、フランの固く反ったソコと擦り付け合い、ナカを何度も抉られ奥まで貫かれもしていて。
「えーっと、素手はダメだけど他の部位ならアリとかそんなことはない……よね?」
動揺した私がそう聞くと、何のことかわからなかったらしい三人がきょとんとこっちを見た。
「あーっ、やっぱりなんでもな……っ」
「それ、足で踏まれたとかそういうことですか?」
「なんか逆にハードなプレイになってない!?」
女王様フランを想像した私は、ギョッとしながら三人を見る。
そんな私の様子を見ていたロクサーナが、スンッと半眼になって。
「まさか口付けされたんですか」
「あ、そのっ、それは……っ」
「されたんですね!?というかその反応っ!ま、まさかその先まで……っ!!!」
ガチャリと剣を握ったロクサーナがテントを飛び出そうとし、そんな彼女にしがみついて必死に止める。
「婚約者だからってしていいことと悪いことがありますッ!」
「同意ッ!同意だったからフラン悪くないからぁ~っ!!」
必死に叫んでいると、ライザもゆらりと立ち上がって。
「団長は……第六騎士団の恥です……」
「そんなことない!そんなことないからね!?」
「団長は……第六騎士団の恥です……」
「ひぃぃっ」
まるで呪詛を呟くように同じ言葉を繰り返すライザに恐怖する。
こうなってはもう味方はアベルしかいない。
最年少の美少女アベルだが、彼も一応性別は男なのだ。
そういう欲求だってあるだろう。
この場を納める奇跡の一言なんてくれないだろうかと縋るような気持ちでアベルの方に顔を向けた私は、彼の姿を見て味方はいないのだと悟った。
何故なら彼が、正座したまま気絶していたからである。
“ごめん、フラン……。明日はフランがつけた『浅はか聖女』ってあだ名、甘んじて受けるから……”
私はこの完全にカオスになってしまった女子テントで、明日総スカンを食らうことになるだろうフランに全力で謝罪するのだった。
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