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第二章
5.複垢は禁止です!
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「なぁ、今日抜き打ちテストらしいぞ」
「嘘でしょ!?」
「嘘」
「嘘なんかいッ」
スタンプ事件が起きた翌日。
私がいつものように学校へ向かうと隣の席の萩野正孝がくだらないネタを振ってきた。
“こいつはいつもいつも……!”
萩野とはなんだかんだで小学校の頃からの付き合いで、完全に腐れ縁となっている。
「相変わらず仲良いよね、亜由と萩野くん」
「どこが? めんどくさいだけだけど」
「いやぁ、こいつ何でも全力で騙されてくれるから面白くって」
「騙されてあげてるんです~!」
いつものノリでそんな会話をしていたのだが、私はふと昨日のことを思い出した。
“注意喚起しとくように言われたんだった”
完全に罠扱いの迷惑スタンプ。
誰でも出来る対処法がすぐに発見されたとはいえ、周知されていなければ意味がない。
今日中にはCC運営から公式の注意喚起が入るとのことだが、それでも聞いておいて損はないだろう。
「実は今さ、CC内のオブジェクトに押されたスタンプに触れると自動展開でスタックさせられるって罠があるんだよね」
私がそう話し出すと友人は目を見開き、反対に萩野は目を細めた。
「対処法は簡単で、上からスタンプを重ねてから少し離れると自動で消えるんだけど、一人だとどうしようもないから見つけたらすぐに電脳セキュリティへ連絡して欲しいってのと、万一の為に暫くは一人でダイブしない方がいいかも。誰かと一緒なら自分たちで対処も出来るから」
「うわ、そんなんなってるの?」
「そー」
私の話を聞いた友人はうげぇ、とわざとらしく舌を出した後、少し心配そうに眉尻を下げた。
「でも、亜由それ私たちに言って良かった?」
「うん、実は……」
「シンプルだが厄介だもんな。今日中には運営からも注意喚起入るだろうし、それにこういう周知は少しでも早い方が被害が減るから問題ないんじゃね」
「あ、そっか。確かに機密事項ってよりむしろ広めて欲しい系のやつだもんね!」
私が説明しようとしたことを萩野があっさりと口にして思わずぽかんとしてしまう。
“なんで知ってるんだろ”
スタンプ事件は昨日発生したばかりでまだあまり知られてはいないはずだ。
もちろん昨日だけで何件か起きているのでどこかで遭遇した可能性だってあるが――
「今日中って、なんでわかったの?」
気付けば私はポロリとそんなことを呟いてしまっていた。
そしてその呟きが聞こえたのだろう、萩野が思い切りプッと吹き出して。
「いや、わかるだろ。昨日それなりに騒ぎがあったし、こういうのって解決方法が見つかったかどうかは関係なく翌日には運営から何かお知らせが送られてくるじゃん」
「え? あー、そっか。確かにそうかも」
“気にしすぎ、か”
一瞬引っかかった気がしたものの、確かに萩野の言うことは正しい。
“それに私も、どこかで萩野が遭遇した可能性を考えていたんだし”
その推測が当たっただけ。
それだけだ、と内心自分へ言い聞かせた。
「それに、浅賀が機密事項を漏らすとも思えないしな。こうやって俺たちに話したってことは今日中に運営から発表があるってことと、それに少しでも早く周知したいってことだろ」
あっさりとそう重ねられて思わずドキリとしてしまう。
“そんな風に思ってくれてるんだ”
私は機密事項を漏らさない、という断言はやはり嬉しく、そして胸の奥をくすぐられたように感じた。
「ヒュウッ、何その信頼。萩野くんと亜由、もう付き合っちゃえば?」
「は、はぁっ!? 何言って……!」
“萩野と付き合う……!?”
萩野とは腐れ縁で、ずっと一緒にいたから今さらそんな感じには見れないというか、私の好みはどちらかといえばもっと落ち着いている大人な人。
例えば隣の家に住んでいる巧くんみたいな――って、巧くんだって幼馴染みとしてずっと一緒にいるんだけど……!
思わずそんな思考が脳内を駆け巡り、じわりと顔が熱くなる。
そんな私の反応をどう捉えたのか、友人がニンマリ微笑んで。
「とりあえずデートとかしてみたら? CC内ってロマンチックなデート場所いっぱいじゃん」
なんてとんでもないことを言い出した、のだが。
「いや、俺たちCC内で友達じゃねぇんだよな」
「え!? こんなに仲良いのに!?」
“実はそうなんだよね……”
私と萩野はリアルでは友達だが、CC内ではフレンドではないどころかユーザー名すら知らなかった。
現実と電脳世界を同系列に考える人も少なくはないが、全くの別物として、別の『自分』を楽しむ人もいる。
見た目も音声も自在にカスタマイズ出来るCCでは、なりたい自分へとなれるから。
“だからあえて今までは聞かなかったけど”
「萩野のアカウントってさ」
「超巨乳のお姉様やってるからお子ちゃまには教えられませーん」
「なッ!」
フッと鼻で笑われながらそんなことを言われ、唖然とした。
「CCって複垢禁止なのにそんなことやってんの……!?」
「どうせなら夢のバァァディを手に入れてちやほやうはうはやんねぇとな!」
「うわぁ、普通に引くわー。巻き舌もダサいわー。そして萩野くんならあり得そう」
「ちょ、それ暴言じゃね!?」
確かになりたい自分へなれるのだから萩野がどんな見た目でどんな人間としてCC内で過ごしていても問題はない。
ない……が、複垢禁止ということは萩野のアカウントはその巨乳お姉様だけということになる。
“家族とかリアルの知り合いとかと顔合わせる時気まずくなんないのかしら”
私はついそんなお節介なことを考え、あ、だから誰ともフレンド登録してないのか。なんて勝手に納得した。
ついでに、やっぱり私の理想は巧くんみたいな大人だということも再確認し――
“あれ、そういえば私、巧くんのアカウントも知らないかも”
当たり前のように現実で過ごしていたせいで、今さらながらにその事を思い出す。
「もし巧くんまで萩野みたいなプレイ方針だったら……」
そんな想像をし、私はひたすらゾッとしたのだった。
「嘘でしょ!?」
「嘘」
「嘘なんかいッ」
スタンプ事件が起きた翌日。
私がいつものように学校へ向かうと隣の席の萩野正孝がくだらないネタを振ってきた。
“こいつはいつもいつも……!”
萩野とはなんだかんだで小学校の頃からの付き合いで、完全に腐れ縁となっている。
「相変わらず仲良いよね、亜由と萩野くん」
「どこが? めんどくさいだけだけど」
「いやぁ、こいつ何でも全力で騙されてくれるから面白くって」
「騙されてあげてるんです~!」
いつものノリでそんな会話をしていたのだが、私はふと昨日のことを思い出した。
“注意喚起しとくように言われたんだった”
完全に罠扱いの迷惑スタンプ。
誰でも出来る対処法がすぐに発見されたとはいえ、周知されていなければ意味がない。
今日中にはCC運営から公式の注意喚起が入るとのことだが、それでも聞いておいて損はないだろう。
「実は今さ、CC内のオブジェクトに押されたスタンプに触れると自動展開でスタックさせられるって罠があるんだよね」
私がそう話し出すと友人は目を見開き、反対に萩野は目を細めた。
「対処法は簡単で、上からスタンプを重ねてから少し離れると自動で消えるんだけど、一人だとどうしようもないから見つけたらすぐに電脳セキュリティへ連絡して欲しいってのと、万一の為に暫くは一人でダイブしない方がいいかも。誰かと一緒なら自分たちで対処も出来るから」
「うわ、そんなんなってるの?」
「そー」
私の話を聞いた友人はうげぇ、とわざとらしく舌を出した後、少し心配そうに眉尻を下げた。
「でも、亜由それ私たちに言って良かった?」
「うん、実は……」
「シンプルだが厄介だもんな。今日中には運営からも注意喚起入るだろうし、それにこういう周知は少しでも早い方が被害が減るから問題ないんじゃね」
「あ、そっか。確かに機密事項ってよりむしろ広めて欲しい系のやつだもんね!」
私が説明しようとしたことを萩野があっさりと口にして思わずぽかんとしてしまう。
“なんで知ってるんだろ”
スタンプ事件は昨日発生したばかりでまだあまり知られてはいないはずだ。
もちろん昨日だけで何件か起きているのでどこかで遭遇した可能性だってあるが――
「今日中って、なんでわかったの?」
気付けば私はポロリとそんなことを呟いてしまっていた。
そしてその呟きが聞こえたのだろう、萩野が思い切りプッと吹き出して。
「いや、わかるだろ。昨日それなりに騒ぎがあったし、こういうのって解決方法が見つかったかどうかは関係なく翌日には運営から何かお知らせが送られてくるじゃん」
「え? あー、そっか。確かにそうかも」
“気にしすぎ、か”
一瞬引っかかった気がしたものの、確かに萩野の言うことは正しい。
“それに私も、どこかで萩野が遭遇した可能性を考えていたんだし”
その推測が当たっただけ。
それだけだ、と内心自分へ言い聞かせた。
「それに、浅賀が機密事項を漏らすとも思えないしな。こうやって俺たちに話したってことは今日中に運営から発表があるってことと、それに少しでも早く周知したいってことだろ」
あっさりとそう重ねられて思わずドキリとしてしまう。
“そんな風に思ってくれてるんだ”
私は機密事項を漏らさない、という断言はやはり嬉しく、そして胸の奥をくすぐられたように感じた。
「ヒュウッ、何その信頼。萩野くんと亜由、もう付き合っちゃえば?」
「は、はぁっ!? 何言って……!」
“萩野と付き合う……!?”
萩野とは腐れ縁で、ずっと一緒にいたから今さらそんな感じには見れないというか、私の好みはどちらかといえばもっと落ち着いている大人な人。
例えば隣の家に住んでいる巧くんみたいな――って、巧くんだって幼馴染みとしてずっと一緒にいるんだけど……!
思わずそんな思考が脳内を駆け巡り、じわりと顔が熱くなる。
そんな私の反応をどう捉えたのか、友人がニンマリ微笑んで。
「とりあえずデートとかしてみたら? CC内ってロマンチックなデート場所いっぱいじゃん」
なんてとんでもないことを言い出した、のだが。
「いや、俺たちCC内で友達じゃねぇんだよな」
「え!? こんなに仲良いのに!?」
“実はそうなんだよね……”
私と萩野はリアルでは友達だが、CC内ではフレンドではないどころかユーザー名すら知らなかった。
現実と電脳世界を同系列に考える人も少なくはないが、全くの別物として、別の『自分』を楽しむ人もいる。
見た目も音声も自在にカスタマイズ出来るCCでは、なりたい自分へとなれるから。
“だからあえて今までは聞かなかったけど”
「萩野のアカウントってさ」
「超巨乳のお姉様やってるからお子ちゃまには教えられませーん」
「なッ!」
フッと鼻で笑われながらそんなことを言われ、唖然とした。
「CCって複垢禁止なのにそんなことやってんの……!?」
「どうせなら夢のバァァディを手に入れてちやほやうはうはやんねぇとな!」
「うわぁ、普通に引くわー。巻き舌もダサいわー。そして萩野くんならあり得そう」
「ちょ、それ暴言じゃね!?」
確かになりたい自分へなれるのだから萩野がどんな見た目でどんな人間としてCC内で過ごしていても問題はない。
ない……が、複垢禁止ということは萩野のアカウントはその巨乳お姉様だけということになる。
“家族とかリアルの知り合いとかと顔合わせる時気まずくなんないのかしら”
私はついそんなお節介なことを考え、あ、だから誰ともフレンド登録してないのか。なんて勝手に納得した。
ついでに、やっぱり私の理想は巧くんみたいな大人だということも再確認し――
“あれ、そういえば私、巧くんのアカウントも知らないかも”
当たり前のように現実で過ごしていたせいで、今さらながらにその事を思い出す。
「もし巧くんまで萩野みたいなプレイ方針だったら……」
そんな想像をし、私はひたすらゾッとしたのだった。
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