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春瀬湖子

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最終章

19.ノーフェイスが残したものは

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「なっ」
「あはは、いや、ごめん」

 エスの出したシリアスな雰囲気をぶち壊したからか、ぎょっとした顔をする。
 その顔がなんだか可笑しくてしばらく笑ってしまった私は、ひぃひぃと笑いつつ改めてエスへと向き直った。


「全然違うよ。確かに持ってる情報全てをくれなかったことは事実かもしれないけど、そもそも情報提供は義務じゃない」
「だ、だけど」
「自分の欲望のために一般ユーザーを利用した違法ユーザーと、一般ユーザーであるエスが私たち電脳セキュリティへ助けを求めることは意味が全然違うよ」

 ハッキリとそう断言すると、エスはぽかんと口を開けて放心する。

「あぁ、アユの言う通りだ。お前は守るべき対象で、俺たちが動いたのは利用されたんじゃなく当然の義務だよ」
「タロ先輩!」

 xxアートxxを運営に引き渡したタロ先輩が≪ワープ≫で戻り私たちの会話へ入る。

“というか、少し前から聞いてたでしょ。絶対!”

 しれっとしているタロ先輩を少しだけジト目で見た私は、またすぐにエスへと視線を戻した。

「エスから貰った情報は正しかった。あの情報がなかったら今頃西地区はパニックになっていただろうし、ありがとうな」
「そうそう。情報提供ありがとうございました!」

 タロ先輩に倣ってお礼を言うと、ぽかんと開いていた口をきゅっと結んだエスがまた俯く。

「……俺も、助けてくれてありがとうございました」

 だが今度の“俯き”は悪い意味じゃない。
 そう思うと嬉しくなった。


「でも、結局ノーフェイス……いや、じいちゃんの残したものってのが何かはわかんなかったな」

“そっか、エスはエスでその場所の情報を得るためにあの男と接触したんだっけ”

「その倉庫ってここじゃないのか?」

 エスと一緒に場所を聞き出せなかったことを残念に思っていた私は、タロ先輩のその言葉にハッとした。

「そうだよ、きっとここだよ! そうでないとわざわざここでエスのアバター乗っ取りとか企まないって!」

 エスのアバターを乗っ取りノーフェイスの残したお宝をそのまま得たとしても、それはエスの持ち物として登録されるだろう。
 ノーフェイスのお宝を自分のものにするには、エスのアバターで鍵を開けてから自分のアバターに戻り自分のアバターでお宝を入手する必要がある。

“どこかへ≪ワープ≫して鍵を開けてからまた自分のアバターに戻って≪ワープ≫するなんて面倒な事しないはず”

 偶然他のユーザーが入り込む可能性もあるし、≪ワープ≫で往復している間にエスが自分のものにしてしまう可能性もあるだろう。
 ならそのお宝のある場所でエスを乗っ取り鍵を開けて、エスが先に入手してしまわないように見張りながら自分が得るのが最短だ。

「だとしても、俺にはこの倉庫のどこにお宝の隠された空間があるのかは……」
「それこそアユの出番だろ」
「ですね! 私に任せてよ、私の得意分野なんだから」

 ふふん、と鼻を鳴らし倉庫の真ん中に立つ。
 そして改めてぐるっと倉庫の中をゆっくり見回した。

“倉庫の違和感……目印はノーフェイスのスタンプ……”

 目印があってもいままで見つからなかったのはなんでだろう。
 目立たない場所だったから?
 それともスタンプが小さすぎて気付かなかった?

 ううん、きっと違う。
 ノーフェイスのスタンプはただの丸があるだけだから――……


「見ーつけたっ」

 くすっと笑って二人の方へと振り返る。
 驚いているエスと、当然だと笑っているタロ先輩の表情が正反対で面白かった。


「ど、どこに……!」
「ほら、あそこ」

 私が指さしたのが倉庫内の壁掛けモジュールとして設置されているカレンダーだった。

「これが……?」

 三人でカレンダーに近付き、じっと覗き込む。
 そのカレンダーはただのモジュールだからか実際の日付ではなく二月のままで止まっており、四日の日に丸印がしてあった。

「この日付の丸がノーフェイスのスタンプになってたのか」

 よく気付いたなぁ、とタロ先輩が感心したように呟く。
 そして同じくカレンダーに見入っていたエスもまるで溢れるように呟いた。

「ばぁちゃんの、誕生日だ……」

 CC側からは違法ユーザー。だがCCにいるみんなからは正義のユーザー。
 そして家族を顧みないエスの祖父、そうエスは言っていたけれど。

“なんだ、違ったんじゃん”

 そのことにホッとしながら見守っていると、エスがそのカレンダーの丸印に恐る恐る手を伸ばして――


<認証:承認>

 機械音が流れたと思うと、今までにないくらいのノイズに襲われ思わず目を瞑る。
 しばらくしゆっくり目を開けるが、そこはさっきまでいた倉庫と何一つ変わっていない場所のままだった。

「あれ? 何も変わってない?」

 てっきり違う場所へワープしているとか、目の前にお宝の山が築かれているのだと思っていた私は拍子抜けしてしまう。
 しかし上を向いたエスが泣き笑いのような声を漏らしたので、私も続いて上を見上げる。

 何も変わっていないと思っていたが、さっきまでただの無機質なコンクリート打ちっぱなしの天井には大きく『愛する家族がルールで守られた安全なこの世界で楽しく過ごせますように』という文字が浮かんでいた。

 
「……んだよ、こんな、こんなの……ッ」

 小さく嗚咽が混じるエスに私も釣られて目頭が熱くなる。

“ノーフェイスが初期のCCでしていた行為は、ルールを作るためだったんだ”

 穴という穴を突き違法行為を繰り返す迷惑ユーザー。
 そんなノーフェイスがいなければ、きっとこんなに早くCC内の問題点が明確化することも、規律やルールが作られることもなかっただろう。
 電脳セキュリティという存在が作られることもなかったかもしれない。
 

 これから未来、どんどん電脳世界は発展する。

 そんな時、自分の大切な家族が理不尽に潰れてしまわないように。
 
“いつもノーフェイスがターゲットにしていたのは周りに迷惑をかけるユーザーばかりだったのも、そういう理由だったんだ”

 これが、このルールに守られいざという時は頼ることが出来る電脳セキュリティという存在があるというこの今のCCこそが、不器用な祖父から孫への贈り物だったのだろう。


「よかったね」
「あぁ……」

 ぽつりとそう答えたエスは、それから暫くの時間ただただ天井を見上げていたのだった。
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