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2.運命の根拠
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“ドアから覗くくらいはいいわよね?”
流石に何もしないのに中にまで入るのは変かもしれないが、カートを押す彼女についていき、そっと淹れている姿を扉の影から眺めるくらいは許されるだろう。
“ついでに友人と過ごすジルも見れるし!”
あら、いいことずくめじゃない! とウキウキしながらリースと一緒に足を進めた私は、荷物のあるリースの代わりに応接室のドアをノックしようとして――
中から漏れる声にピタリと動きを止めた。
「そういやバージルはまだ婚約してなかったよな」
“ジルの、結婚の話?”
そういえばさっき友人の一人が結婚すると言っていた。
ならば話題としてそういう話が出てもおかしくはない。
けれど。
「やっぱりお前がまだ婚約も結婚もしてないのって、あの義姉がいるからか?」
話題の中に突然自分が現れてドキッとする。
彼らの話がリースにも聞こえているのだろう。
少し心配そうな視線を向けられた。
「は? なんの根拠でそんな話になるんだよ」
「だって確か26歳だろ? 行き遅れの義姉って、それだけで厄介じゃん」
「別に厄介だとは思ってないけど」
「いーや、厄介だね! だって問題があるから結婚出来ないんだろ」
“も、問題があるから……!?”
いや、確かに問題はある。
ジルがまだ19歳だという点だ。
「だ、だって結婚するには少し早いから……」
だから、プロポーズしてくれていないだけ。
でも、私たちは運命の相手同士なのだから今まで心配なんてしたことなんてなくて。
“でも、ジルの友人は婚約したって言ってたわ”
確かに結婚は20歳でも、婚約は事前に結ぶのだから今してもいいはず。
「けど私たちは家族でもあるから」
わざわざ婚約なんて結ばなくても、家族の形が変わるだけで他は何も変わらない。
何も変わらないから、わざわざ婚約しないのかと思っていた。
“――本当に?”
「俺ならあんな義姉絶対嫌だな。バージルもさっさと結婚して出てって欲しいよな」
「つか、あんだけベタベタ引っ付いてくるとか気持ち悪くないか?」
「あー、俺もあれは無理だわ。さっさと引き取り手が見つかればいいけど、本当にバージルは義姉が足引っ張って災難だよな」
「あんなんがいる家に嫁ごうなんて令嬢、滅多にいないよなぁ。御愁傷様」
口々に聞こえる自分の話にショックを受ける。
ジルの友人にそんな風に見られていたなんて思っておらず、ましてや私のせいでジルの評価まで下げてしまっていただなんて。
“行き遅れの義姉って、そんな評価になるのね”
もしかしてジルもそう思っていたのかしら?
ふとそんな不安が私に過る。
「な。バージルはどう思ってんの?」
「俺は――」
“き、聞きたくないわ!”
ジルの想いを聞くのが途端に怖くなった私は、慌てて扉から離れる。
そんな私に、何故かリースの方が泣きそうな顔をしてしまっていて。
“これ以上心配はかけられない”
これでも私はこのヘレニウス伯爵家の令嬢なのだ。
精一杯のプライドを顔に張り付け、軽く咳払いをして。
「……ごめんなさい、やっぱりお茶はリースだけで持っていってくれるかしら」
「お嬢様」
「紅茶の淹れ方は、その……、また! また今度お願いするわ」
“ちゃんと私は笑えていたかしら”
さっと応接室に背を向け早歩きで自室に向かいながらそんなことを考える。
「もしジルにもそう思われていたのだとしたら……」
私たちは運命なのに。
私は運命を感じているのに。
「根拠って、何なのかしら」
口癖のようにジルから出る『根拠』という言葉に、私はどうしても明確な答えを出すことは出来なくて。
“根拠があれば、ジルもこの運命を運命だと認めてくれるかしら”
そうしたら、プロポーズしてくれるのかしら。
だって私たちは運命なのだから。
「運命を……立証する根拠……」
私はジルとの運命を証明し未来を掴むための根拠を提示するために今晩『作戦』を決行する決意をした。
そして伯爵家のみんなが寝静まった、そんな時間。
ベッドの下に隠していた小さなフォークと最後の仕上げにこっそり厩舎から持ってきていたショベルを手に持って。
「毎日深夜まで作業してきたんだからね!」
毎日フォークで明け方近くまで少しずつ削った私とジルの部屋を阻む壁。
やっとジルの部屋の明かりが漏れ見えるようになったこの穴目掛けて思い切りショベルを振り下ろし――
「う、わぁぁあ!!?」
「きゃぁあ!」
バキャッと聞いたことのない音が響き冷や汗がドバッと出る。
一瞬壁が崩れ落ちるのでは、と思ったが伯爵家の壁は思ったよりも頑丈だったのか崩壊はせず、丁度私が通れるくらいの穴が開いていた。
「安心して、ジル! 私よ」
「安心できる根拠を出せ、今のところ何一つ安心できる要素がない」
どうやらベッドの上で読書をしていたらしいジルは、壁を壊して入ってきた私の姿を見て過去一大きなため息を吐いて。
「なんでこんなことになるんだ……」
「だってドアを開けてくれるかわからなかったんだもの」
「そもそも! 鍵なんて! かけてねぇんだって!!」
「え」
呆れを通り越して絶望の表情を浮かべ項垂れ頭を抱えてしまった。
“というか、鍵をかけてないの?”
「防犯的によろしくないのではなくて?」
「義姉さんが壁から入ってくるって知っていたら鍵をかけていたよ」
“それって、逆に言えば私のためにドアの鍵を開けてくれていたってこと?”
想像もしていなかったジルの言葉にぽかんとしていると、チッと舌打ちをしたジルが頭をガリガリと掻きながら廊下に顔を出して。
「バージル坊っちゃま、何かありましたか!?」
「いや、問題ない。トラブルではあるがなんとかする」
恐らく壁をぶち壊した音で駆けつけた執事をそのまま返し、ガチャリと鍵をかけて戻ってきた。
「……怪我は?」
「え? あ、私は全然」
「そう」
呆れながらも手を差しのべてくれたジルの手に自身の手を重ねると、そのままグイッと抱き起こしてくれる。
「……で、これ、何」
「!」
“そ、そうだわ! 目的を忘れるところだった!”
流石に引いた顔をしたジルは、それでもせっせと私の夜着についた壁を払ってくれつつそう素っ気なく聞いてきて。
――今晩、私は運命という根拠を提示するために。
「貴方の運命が夜這いに来てあげたわよ!」
「は?」
ニッと笑顔を向けると、半眼になったジルと目が合うが、そんなことお構い無しに私は彼の腕を掴んでジルのベッドに無理やり引っ張って行った。
「本気?」
「えぇ。ジルが言う根拠を提示する方法はこれしかないって、そう思ったの」
私たちが運命ならば。
「きっと今晩子供が出来るわ!」
「…………は?」
「私たちが運命なら、きっと一晩で子供が出来るの!」
「はぁ」
「それが、私が導きだした運命の『根拠』よ!」
「意味がわかんね……、ッ!」
ベッドにジルごと突進するように押し倒した私は、今まで何度も狙いに狙ってきた唇めがけて顔を突き出して。
“や、やったわ……!”
ベッドに押し倒され意表を突いたからか、バランスを崩していたからはじめてジルの唇と自身の唇を重ねることに成功した私は歓喜で震える。
「とうとう口付け出来たわっ」
「な、ちょ、義姉さ――、んっ」
流石に焦ったのか、慌てて起き上がろうとするジルの上に座り体重をかけて動きを封じた私は再び唇を重ねて。
“子供、子供を作らなきゃ……! 私たちが本当に運命だったなら、絶対この一回で出来るから”
作り方は知っている。
勃たせて挿入ればいいだけだと本に載っていたから。
私は必死に唇同士を重ねながらジルの夜着を寛げる。
無理やり何度も顔を押し付けるせいで、たまに歯同士が当たり少し痛いがそんなことに構っている暇はない。
“ジルが私を退かすまでに挿入してしまわなきゃ!”
だってジルの友人たちが言っていた言葉どれも真実だったから。
“若くもなく、行き遅れていて結婚のデメリットにしかならない私”
そんな私が運命だという根拠を出せなかったなら。
「ジル、ジル……!」
拙い、口付けと呼べるかすらわからない唇同士の接触。
もしジルの友人たちと同じようにジルも私をそんな風に見ていたのなら、勃ってはいないだろう。
けれどもし、もし私が根拠を出せて、運命だとジルも認めてくれたなら。
“昼間は怖くて聞けなかったけれど”
あの時の答えが今目の前に昂りとして現れるかもしれないと思うと怖い。
だが運命だと認められなければここで終わってしまうかもしれないのだ。
流石に何もしないのに中にまで入るのは変かもしれないが、カートを押す彼女についていき、そっと淹れている姿を扉の影から眺めるくらいは許されるだろう。
“ついでに友人と過ごすジルも見れるし!”
あら、いいことずくめじゃない! とウキウキしながらリースと一緒に足を進めた私は、荷物のあるリースの代わりに応接室のドアをノックしようとして――
中から漏れる声にピタリと動きを止めた。
「そういやバージルはまだ婚約してなかったよな」
“ジルの、結婚の話?”
そういえばさっき友人の一人が結婚すると言っていた。
ならば話題としてそういう話が出てもおかしくはない。
けれど。
「やっぱりお前がまだ婚約も結婚もしてないのって、あの義姉がいるからか?」
話題の中に突然自分が現れてドキッとする。
彼らの話がリースにも聞こえているのだろう。
少し心配そうな視線を向けられた。
「は? なんの根拠でそんな話になるんだよ」
「だって確か26歳だろ? 行き遅れの義姉って、それだけで厄介じゃん」
「別に厄介だとは思ってないけど」
「いーや、厄介だね! だって問題があるから結婚出来ないんだろ」
“も、問題があるから……!?”
いや、確かに問題はある。
ジルがまだ19歳だという点だ。
「だ、だって結婚するには少し早いから……」
だから、プロポーズしてくれていないだけ。
でも、私たちは運命の相手同士なのだから今まで心配なんてしたことなんてなくて。
“でも、ジルの友人は婚約したって言ってたわ”
確かに結婚は20歳でも、婚約は事前に結ぶのだから今してもいいはず。
「けど私たちは家族でもあるから」
わざわざ婚約なんて結ばなくても、家族の形が変わるだけで他は何も変わらない。
何も変わらないから、わざわざ婚約しないのかと思っていた。
“――本当に?”
「俺ならあんな義姉絶対嫌だな。バージルもさっさと結婚して出てって欲しいよな」
「つか、あんだけベタベタ引っ付いてくるとか気持ち悪くないか?」
「あー、俺もあれは無理だわ。さっさと引き取り手が見つかればいいけど、本当にバージルは義姉が足引っ張って災難だよな」
「あんなんがいる家に嫁ごうなんて令嬢、滅多にいないよなぁ。御愁傷様」
口々に聞こえる自分の話にショックを受ける。
ジルの友人にそんな風に見られていたなんて思っておらず、ましてや私のせいでジルの評価まで下げてしまっていただなんて。
“行き遅れの義姉って、そんな評価になるのね”
もしかしてジルもそう思っていたのかしら?
ふとそんな不安が私に過る。
「な。バージルはどう思ってんの?」
「俺は――」
“き、聞きたくないわ!”
ジルの想いを聞くのが途端に怖くなった私は、慌てて扉から離れる。
そんな私に、何故かリースの方が泣きそうな顔をしてしまっていて。
“これ以上心配はかけられない”
これでも私はこのヘレニウス伯爵家の令嬢なのだ。
精一杯のプライドを顔に張り付け、軽く咳払いをして。
「……ごめんなさい、やっぱりお茶はリースだけで持っていってくれるかしら」
「お嬢様」
「紅茶の淹れ方は、その……、また! また今度お願いするわ」
“ちゃんと私は笑えていたかしら”
さっと応接室に背を向け早歩きで自室に向かいながらそんなことを考える。
「もしジルにもそう思われていたのだとしたら……」
私たちは運命なのに。
私は運命を感じているのに。
「根拠って、何なのかしら」
口癖のようにジルから出る『根拠』という言葉に、私はどうしても明確な答えを出すことは出来なくて。
“根拠があれば、ジルもこの運命を運命だと認めてくれるかしら”
そうしたら、プロポーズしてくれるのかしら。
だって私たちは運命なのだから。
「運命を……立証する根拠……」
私はジルとの運命を証明し未来を掴むための根拠を提示するために今晩『作戦』を決行する決意をした。
そして伯爵家のみんなが寝静まった、そんな時間。
ベッドの下に隠していた小さなフォークと最後の仕上げにこっそり厩舎から持ってきていたショベルを手に持って。
「毎日深夜まで作業してきたんだからね!」
毎日フォークで明け方近くまで少しずつ削った私とジルの部屋を阻む壁。
やっとジルの部屋の明かりが漏れ見えるようになったこの穴目掛けて思い切りショベルを振り下ろし――
「う、わぁぁあ!!?」
「きゃぁあ!」
バキャッと聞いたことのない音が響き冷や汗がドバッと出る。
一瞬壁が崩れ落ちるのでは、と思ったが伯爵家の壁は思ったよりも頑丈だったのか崩壊はせず、丁度私が通れるくらいの穴が開いていた。
「安心して、ジル! 私よ」
「安心できる根拠を出せ、今のところ何一つ安心できる要素がない」
どうやらベッドの上で読書をしていたらしいジルは、壁を壊して入ってきた私の姿を見て過去一大きなため息を吐いて。
「なんでこんなことになるんだ……」
「だってドアを開けてくれるかわからなかったんだもの」
「そもそも! 鍵なんて! かけてねぇんだって!!」
「え」
呆れを通り越して絶望の表情を浮かべ項垂れ頭を抱えてしまった。
“というか、鍵をかけてないの?”
「防犯的によろしくないのではなくて?」
「義姉さんが壁から入ってくるって知っていたら鍵をかけていたよ」
“それって、逆に言えば私のためにドアの鍵を開けてくれていたってこと?”
想像もしていなかったジルの言葉にぽかんとしていると、チッと舌打ちをしたジルが頭をガリガリと掻きながら廊下に顔を出して。
「バージル坊っちゃま、何かありましたか!?」
「いや、問題ない。トラブルではあるがなんとかする」
恐らく壁をぶち壊した音で駆けつけた執事をそのまま返し、ガチャリと鍵をかけて戻ってきた。
「……怪我は?」
「え? あ、私は全然」
「そう」
呆れながらも手を差しのべてくれたジルの手に自身の手を重ねると、そのままグイッと抱き起こしてくれる。
「……で、これ、何」
「!」
“そ、そうだわ! 目的を忘れるところだった!”
流石に引いた顔をしたジルは、それでもせっせと私の夜着についた壁を払ってくれつつそう素っ気なく聞いてきて。
――今晩、私は運命という根拠を提示するために。
「貴方の運命が夜這いに来てあげたわよ!」
「は?」
ニッと笑顔を向けると、半眼になったジルと目が合うが、そんなことお構い無しに私は彼の腕を掴んでジルのベッドに無理やり引っ張って行った。
「本気?」
「えぇ。ジルが言う根拠を提示する方法はこれしかないって、そう思ったの」
私たちが運命ならば。
「きっと今晩子供が出来るわ!」
「…………は?」
「私たちが運命なら、きっと一晩で子供が出来るの!」
「はぁ」
「それが、私が導きだした運命の『根拠』よ!」
「意味がわかんね……、ッ!」
ベッドにジルごと突進するように押し倒した私は、今まで何度も狙いに狙ってきた唇めがけて顔を突き出して。
“や、やったわ……!”
ベッドに押し倒され意表を突いたからか、バランスを崩していたからはじめてジルの唇と自身の唇を重ねることに成功した私は歓喜で震える。
「とうとう口付け出来たわっ」
「な、ちょ、義姉さ――、んっ」
流石に焦ったのか、慌てて起き上がろうとするジルの上に座り体重をかけて動きを封じた私は再び唇を重ねて。
“子供、子供を作らなきゃ……! 私たちが本当に運命だったなら、絶対この一回で出来るから”
作り方は知っている。
勃たせて挿入ればいいだけだと本に載っていたから。
私は必死に唇同士を重ねながらジルの夜着を寛げる。
無理やり何度も顔を押し付けるせいで、たまに歯同士が当たり少し痛いがそんなことに構っている暇はない。
“ジルが私を退かすまでに挿入してしまわなきゃ!”
だってジルの友人たちが言っていた言葉どれも真実だったから。
“若くもなく、行き遅れていて結婚のデメリットにしかならない私”
そんな私が運命だという根拠を出せなかったなら。
「ジル、ジル……!」
拙い、口付けと呼べるかすらわからない唇同士の接触。
もしジルの友人たちと同じようにジルも私をそんな風に見ていたのなら、勃ってはいないだろう。
けれどもし、もし私が根拠を出せて、運命だとジルも認めてくれたなら。
“昼間は怖くて聞けなかったけれど”
あの時の答えが今目の前に昂りとして現れるかもしれないと思うと怖い。
だが運命だと認められなければここで終わってしまうかもしれないのだ。
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