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番外編『甘い時間』
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「……ん、……?」
微睡みの中、ふと意識が覚醒してくる。
自分がいつ寝て、ここがどこなのかが寝惚けた思考ではすぐに答えへと辿り着かず、ぼんやりとしながら起き上がると、下半身に違和感。
――と、いうか。
「なんで俺は裸で寝て……?」
いまだ覚醒しない思考で必死に考えつつ、違和感のある部分へと手を伸ばすとぬるりとした何かが指に絡む。
ぼんやりと手についた粘液を眺め、そこでやっと気が付いた。
「そうだ、俺はビクトリアを……」
なかなか頷かないのはきっと意地を張っているのだろう。
幼い頃に婚約してしまえば簡単だったのに、何故か先延ばしにする選択をしたビクトリア。
研究ばかりの引きこもった兄よりも絶対俺の方がいい王様になれるのだと確信しているし、その通りだと宰相も背中を押してくれている。
だが次男の俺が立太子されるにはビクトリアとの婚約が必須だった。
だからこのような強行手段に出たのだ。
素直になれないだけで、想い合っているのなら問題はないだろう。
「こんなに精液が透明になるほど激しく何度も抱いたってことか」
なるほど、と自分の手についた粘液にそんな答えを見つけた俺は、シーツで手を拭きながら隣で寝ているはずのビクトリアへと視線を向けて――……
「きっ、きゃぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「――――ってことがあったんだ」
「ま、まぁ……それはその、御愁傷様としか……」
その妖艶な赤い瞳を細め、くすくすと私の隣で笑っているのは、今ではこの国の王太子となられたアンドレアス殿下である。
「我が弟ながら、王城中へとなかなか可愛らしい叫び声が響き渡ってな」
その叫び声で駆けつけた王城メイドもこの国の第二王子と宰相が裸で寝ているという惨事に叫び声を上げ、その叫び声に釣られてまた叫び声を上げたニコラウス殿下と、その騒ぎで流石に目が覚めた宰相までもが叫び声を上げるという、なんとも奇っ怪でおぞましい事件のひとつとして闇に葬られることになった――らしい、が。
“噂を止めることって出来ないものね”
どこから漏れたのか、そしてどう伝わったのかはわからないが自分の子供くらいの年齢のニコラウス殿下を、なんでも『精液が透明になるくらい何度も抱いた』宰相は変態だと今ではこの国の貴族全員が認識しているという。
もはや辞任待ったなし。
“ニコラウス殿下の太ももに塗られたのは媚薬だったはずなのだけれども”
もしかしてその媚薬の効果で本当に二人は……なんて邪推しかけた私は、今では王太子妃というより責任のある立場なのだから、とそれ以上未確認の出来事を考えるのはやめた。
「でもそんなに可愛らしい叫び声だったのなら、少し聞いてみたい気もいたしますわね」
なんて、意地悪いことを思った私がくすりと笑いながらそう言うと、その言葉で何かに気付いたアレス様がそっと私の耳元へと顔を近付けて。
「その事件があったのはビビが俺の上で可愛らしい声を上げていた時間だな」
「ッ!?」
吐息混じりにそんなことを告げられ、一気に顔が熱くなる。
“そ、そうだったわ、その日って私がはじめてアレス様に抱かれた――……!”
いくら私を嵌めようとした相手だとしても、この国の手本として清く気高くなくてはならない私が意地悪なことを考えた罰なのか。
囁かれたその言葉に冷や汗が滲む。
小声とはいえ、今まさにお忍びデートで新作スイーツを食べるために行列へ並んでいるのだ。
隣との距離は想定よりずっとずっと近くて。
「いや、もしかしたら俺の下で胸元まで赤く染めながらよがっていた時間だったか……?」
「ふ、不適切ですわッ!」
流石にこのままではいつか聞かれてしまう! と焦った私は、その勢いのままアレス様の口を手のひらでむぎゅっと強制的に塞ぐ。
私のその行動に驚いたのか、一瞬その赤い瞳を見開いたアレス様は、けれどすぐにニヤッと細めて。
「ひ、ひゃぁ……っ!?」
ぺろ、と手のひらを舐められビクリと肩が跳ねた。
「なっ、なっ」
「愛おしい君だからね、甘いかと思ったんだけど」
慌ててアレス様の唇から両手を離し、隠すように両手を自身の後ろへと回す。
焦っている私が面白いのか、柔らかい表情で私を見つめたアレス様は、再びそっと私の耳元へと顔を寄せて。
「……甘いのは、もう少し後でだね?」
「なッ!」
『噂に聞くように体液が甘く感じる訳ではないんだな』
彼の言葉で、あのはじめての時に言われた言葉を連想した私は、周りに人がいるということすら頭から転がり落ちてしまって。
「でっ、ですからそういうのはフィクションなんですッ!!」
あっと思った時にはもう遅く、気付けばそんなことを叫んでしまっていた。
周りからの視線が痛い。
“や、やってしまったわ……”
確実に真っ赤になっているだろう顔を少しでも隠したくてその場で思わず俯いてしまう。
けれどそんな私にはお構い無しで、ずっとくすくす笑っているアレス様はごく当たり前のように、むしろどこか胸を張る勢いで口を開いた。
「フィクション? おかしいな、今日の新作スイーツはとても甘いと聞いたんだけどね」
「!!!」
“か、からかわれた……!?”
彼のその様子から、やっと今の状況に気付いた私はもう耐えられないほどの羞恥心で視界がじわりと滲んでしまって。
「い、いたっ、ちょ、地味に痛い、地味に痛い!」
「知りませんッ! 知りませんんんッ!!」
つい先ほど王太子妃が、なんて考えていたくせに、自分の立場も何もかもをころっと忘れてポカポカとアレス様の胸と腕を叩く。
そんな私の全力の抗議も、あはは、と笑い飛ばしたアレス様は暫くされるがままで私からの攻撃を受止めて。
「今日はビビの侍女の分だけじゃなく、ビビも一緒に食べられるだけのケーキをお土産で買ってあげよう」
「そんなことじゃ、なかったことにしませんからね」
「ははっ、手厳しいなぁ」
また大きく笑ったアレス様が、勢いを失った私の手をぎゅっと握ったのだった。
微睡みの中、ふと意識が覚醒してくる。
自分がいつ寝て、ここがどこなのかが寝惚けた思考ではすぐに答えへと辿り着かず、ぼんやりとしながら起き上がると、下半身に違和感。
――と、いうか。
「なんで俺は裸で寝て……?」
いまだ覚醒しない思考で必死に考えつつ、違和感のある部分へと手を伸ばすとぬるりとした何かが指に絡む。
ぼんやりと手についた粘液を眺め、そこでやっと気が付いた。
「そうだ、俺はビクトリアを……」
なかなか頷かないのはきっと意地を張っているのだろう。
幼い頃に婚約してしまえば簡単だったのに、何故か先延ばしにする選択をしたビクトリア。
研究ばかりの引きこもった兄よりも絶対俺の方がいい王様になれるのだと確信しているし、その通りだと宰相も背中を押してくれている。
だが次男の俺が立太子されるにはビクトリアとの婚約が必須だった。
だからこのような強行手段に出たのだ。
素直になれないだけで、想い合っているのなら問題はないだろう。
「こんなに精液が透明になるほど激しく何度も抱いたってことか」
なるほど、と自分の手についた粘液にそんな答えを見つけた俺は、シーツで手を拭きながら隣で寝ているはずのビクトリアへと視線を向けて――……
「きっ、きゃぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「――――ってことがあったんだ」
「ま、まぁ……それはその、御愁傷様としか……」
その妖艶な赤い瞳を細め、くすくすと私の隣で笑っているのは、今ではこの国の王太子となられたアンドレアス殿下である。
「我が弟ながら、王城中へとなかなか可愛らしい叫び声が響き渡ってな」
その叫び声で駆けつけた王城メイドもこの国の第二王子と宰相が裸で寝ているという惨事に叫び声を上げ、その叫び声に釣られてまた叫び声を上げたニコラウス殿下と、その騒ぎで流石に目が覚めた宰相までもが叫び声を上げるという、なんとも奇っ怪でおぞましい事件のひとつとして闇に葬られることになった――らしい、が。
“噂を止めることって出来ないものね”
どこから漏れたのか、そしてどう伝わったのかはわからないが自分の子供くらいの年齢のニコラウス殿下を、なんでも『精液が透明になるくらい何度も抱いた』宰相は変態だと今ではこの国の貴族全員が認識しているという。
もはや辞任待ったなし。
“ニコラウス殿下の太ももに塗られたのは媚薬だったはずなのだけれども”
もしかしてその媚薬の効果で本当に二人は……なんて邪推しかけた私は、今では王太子妃というより責任のある立場なのだから、とそれ以上未確認の出来事を考えるのはやめた。
「でもそんなに可愛らしい叫び声だったのなら、少し聞いてみたい気もいたしますわね」
なんて、意地悪いことを思った私がくすりと笑いながらそう言うと、その言葉で何かに気付いたアレス様がそっと私の耳元へと顔を近付けて。
「その事件があったのはビビが俺の上で可愛らしい声を上げていた時間だな」
「ッ!?」
吐息混じりにそんなことを告げられ、一気に顔が熱くなる。
“そ、そうだったわ、その日って私がはじめてアレス様に抱かれた――……!”
いくら私を嵌めようとした相手だとしても、この国の手本として清く気高くなくてはならない私が意地悪なことを考えた罰なのか。
囁かれたその言葉に冷や汗が滲む。
小声とはいえ、今まさにお忍びデートで新作スイーツを食べるために行列へ並んでいるのだ。
隣との距離は想定よりずっとずっと近くて。
「いや、もしかしたら俺の下で胸元まで赤く染めながらよがっていた時間だったか……?」
「ふ、不適切ですわッ!」
流石にこのままではいつか聞かれてしまう! と焦った私は、その勢いのままアレス様の口を手のひらでむぎゅっと強制的に塞ぐ。
私のその行動に驚いたのか、一瞬その赤い瞳を見開いたアレス様は、けれどすぐにニヤッと細めて。
「ひ、ひゃぁ……っ!?」
ぺろ、と手のひらを舐められビクリと肩が跳ねた。
「なっ、なっ」
「愛おしい君だからね、甘いかと思ったんだけど」
慌ててアレス様の唇から両手を離し、隠すように両手を自身の後ろへと回す。
焦っている私が面白いのか、柔らかい表情で私を見つめたアレス様は、再びそっと私の耳元へと顔を寄せて。
「……甘いのは、もう少し後でだね?」
「なッ!」
『噂に聞くように体液が甘く感じる訳ではないんだな』
彼の言葉で、あのはじめての時に言われた言葉を連想した私は、周りに人がいるということすら頭から転がり落ちてしまって。
「でっ、ですからそういうのはフィクションなんですッ!!」
あっと思った時にはもう遅く、気付けばそんなことを叫んでしまっていた。
周りからの視線が痛い。
“や、やってしまったわ……”
確実に真っ赤になっているだろう顔を少しでも隠したくてその場で思わず俯いてしまう。
けれどそんな私にはお構い無しで、ずっとくすくす笑っているアレス様はごく当たり前のように、むしろどこか胸を張る勢いで口を開いた。
「フィクション? おかしいな、今日の新作スイーツはとても甘いと聞いたんだけどね」
「!!!」
“か、からかわれた……!?”
彼のその様子から、やっと今の状況に気付いた私はもう耐えられないほどの羞恥心で視界がじわりと滲んでしまって。
「い、いたっ、ちょ、地味に痛い、地味に痛い!」
「知りませんッ! 知りませんんんッ!!」
つい先ほど王太子妃が、なんて考えていたくせに、自分の立場も何もかもをころっと忘れてポカポカとアレス様の胸と腕を叩く。
そんな私の全力の抗議も、あはは、と笑い飛ばしたアレス様は暫くされるがままで私からの攻撃を受止めて。
「今日はビビの侍女の分だけじゃなく、ビビも一緒に食べられるだけのケーキをお土産で買ってあげよう」
「そんなことじゃ、なかったことにしませんからね」
「ははっ、手厳しいなぁ」
また大きく笑ったアレス様が、勢いを失った私の手をぎゅっと握ったのだった。
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