その寵愛、仮初めにつき!

春瀬湖子

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第一章:仮初めの恋人

2.まだ結婚は早いです!

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「……暇ね」

 恋人の姉の花嫁姿を一目見るために人間界から境を超えてあやかし界にやってきた……という、設定になった私こと桐生優子はかなり暇をもて余していた。

 と、言うのも。


「流石に花嫁行列には混ざれないものね」

 そもそも混ざりたくはないが、一人残されるのも少し不安だった私は、こんちゃんが案内してくれた部屋の隅に縮こまるようにして座っていた。

 いつもならスマホを見て、友達と連絡を取り、配信動画を観たり漫画を読んだりとやることは尽きない。
 もちろん大学のレポートだって書かなきゃいけないし、遊んでばかりという訳ではないもののなんだかんだと時間を潰す方法は無限にあったのだが。

“電波がないのよねぇ”

 当たり前と言えば当たり前のその事実。
 大学からの帰り道だったこともあり、スマホはもちろんノートや筆記用具なんてものも持っていたのだが、電波がなければ友達と繋がることも、配信動画を観ることだって出来ない訳で。

「ついでに調べものも出来ないから課題も出来ない……」

 部屋の中にあるものは好きに使って、とは言われたものの、ついさっき生贄認定されかけたばかりなのだ。
 流石に一人ではこの部屋を探検しようなんて気にも当然ならなかった、の、だが。


「お嫁様?」
「おっ、お嫁様っ!?」

 突然聞こえたその声にギョッとし慌てて辺りを見渡した。

「いない?」

 しかしこの部屋には私以外誰もいなくて。

「お嫁様、お嫁様お嫁様、お嫁っ、さまっ!」
「えっ、あ、あ!?」

 声がする方を求め視線を下げると、そこにはなんと手のひらサイズの小さな人がいた。

“一寸法師?”

 ぽかんとして眺めると、私がじっと見ているから照れてしまったのか、その小人さんが俯きもじもじとしていて。

「可愛い……」

 そのあまりの愛らしさに思わず胸がきゅんとする。

「えっと、君は……」
「あっ、僕はね、鬼っ子の緑って言うの!」
「りょくくんかぁ……って、鬼!?」

 私の質問に、両手をバタバタと振り回しながら説明してくれた小人さん……訂正、小鬼くんは、確かに彼が言うようによくよく見ると額に小さな角が二本あるようだった。

“に、二ミリくらいの角……”

 鬼と言えば悪者や怖いもの、というイメージがあった私だが、その小さな体のせいか不思議と怖いとは思えなくて。

「えっと、緑くんはどうしてここにいるの?」
「あのね、お嫁様が暇なんじゃないかなって思ったの!」
「あ、えっとね、暇ではあるんだけど……その前に、私はお嫁様じゃないのよ?」

“私をこんちゃんのお姉さんと勘違いしているのかしら”

 大きな耳も尻尾もない私を狐と見間違えるとは思えないが、こんなに小さな子だったらそんな勘違いもするのかもしれないと思いそう説明する。

 しかし私の言葉を聞いた緑くんは、あざといほど可愛くこてんと首を傾げた。

「白のお嫁様じゃないの?」
「ぅえっ!?」

“白って、こんちゃんよね!?”

 確かに恋人というポジションにはいるものの、それは私を助けるための嘘だし、そもそも仮初めの彼女であっても嫁では絶対ないのだが……

「だって白がとても大事にしてるって! そういうの、溺愛って言うんでしょ?」
「う、うーん……? そう、かなぁ?」

“してない、絶対面白がってる顔だった!”

 生贄か恋人かの選択を迫った彼の顔を思い出すが、どう思い返しても溺愛要素は見つからない。

「そうだよ! それでね、大好きな人とはケッコンするんでしょ? だから、お嫁様!」
「う、うぅーん、そっかぁ……」

 確かに好きあっている恋人がゆくゆく結婚するという流れは自然で、そしてこの恋人関係が仮初めだなんて知らない緑くんに説明するのは難しい。

 私は内心違うと思いつつ曖昧にこの話を濁すしかない私は、だがその戸惑いが顔に出てしまっていたのだろう。


「お嫁様、違う?」
「えっ!」

 緑くんにそう問われ、びくりと肩を跳ねさせる。

“どう答えるのが正解なの!?”

 返事に詰まった私を見て、どんどん緑くんの目に涙が溜まっていった。

「ご、ごめんね、泣かないで!? えっとその、ほら、付き合いだしたばかりだから結婚とかはまだ先っていうか、ね!?」
「じゃあ、白のことは好き?」
「も、もちろん、もちろん好きよ!」
「そっか、好きか、好きなのかぁ」

 さっきまで目に涙を溜めていた緑くんが、途端に嬉しそうにぴょんぴょんと跳び跳ねたと思ったら私の指にぎゅっとしがみつく。

 そして。

「好きな相手にはプレゼントがいるの!」
「プレゼント?」
「可愛いお花を知ってるの!」

 やはり小さくても鬼なのだろう。
 想像以上の力で指を引かれた私は、その姿勢故に何度も転びそうになりながら部屋を出た。

 
“この部屋、出ても良かったのかな”
 なんて考えが一瞬頭を過るが、そもそも進む体勢があまりにも悪いせいで転ばないようにするのが精一杯。
正直それどころではなくて――

「でも、緑くんが一緒だし」

 一人じゃないから大丈夫よね?
 なんて自分に言い訳をしつつ、今はただ、もうこの小さな鬼さんが泣いてしまわないように付いていくしかなかったのだった。
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