その寵愛、仮初めにつき!

春瀬湖子

文字の大きさ
26 / 31
最終章:その寵愛、真実につき

25.闇夜の招待

しおりを挟む
「まぁ、でも実際問題出来ることなんてないのよねぇ」

 こんちゃんと別れてお借りしている客室へ向かう。……とは言っても、万一の時のために隣の部屋を借りているので別れたのは数秒前だったりするのだが。

“そもそもこんな出し抜いたり派閥争いみたいなことはただの女子大生である私にはどうしてもピンと来ないし”

 怪我までさせるのはやりすぎじゃないかと思うが、その考え自体も『人間だから』の感覚であってあやかしたちには当たり前の日常なのかもしれない。

 それらがわからないにも関わらず首を突っ込み余計な事を言うのは出来れば避けたいのだが……

「でもやっぱり、こんちゃんたちが怪我するなんて嫌だよ」

 もしあの時私がいなかったらこんちゃんは私を庇って怪我をすることもなかったのかもしれないと思うと、やはりどうしても気分が沈む。

 そんな落ち込んだ気分を少しでも晴らしたくて、私は電気を消したまま部屋の窓へと近付いた。
 月明かりが思ったより明るく、こんちゃんが見せてくれた遊火のことを思い出し――

「ん?」

 ふと目についたのは、窓に挟むように置かれている小さな封筒だった。


“こんなのあった?”

 疑問に思いながら封筒を手にする。

「さっき別れたばかりだし、まだ起きてるよね?」
 
 宛名はなく、自分宛かわからない以上勝手に開封することが躊躇われた私はこんちゃんに確認してから開けるべきだと判断し、部屋から出ようとした時だった。


「ッ!?」

 突然封筒が影のような黒いモヤに変わり、私の手には中の手紙と黒い羽が一枚現れる。
 それはまるで私にだけ読めと言っているようだった。

「この羽って」

 その黒く艶やかな羽がつい最近何度も目にした楓ちゃんの翼と酷似していることに気付きドクンと跳ねる。

“そんなはずはない”

 楓ちゃんは楓ちゃんのお父さんたちが迎えに来ていた。
 それに空を飛べるようになった彼女なら簡単に誰かに攫われることはないだろう。

 だからこれは楓ちゃんの羽じゃない。

「なら羽団扇の……?」


 嫌な予感がし、背中に冷や汗が伝う。
 
 こんちゃんに先に相談してからにすべきだと頭ではわかっていたが、わざわざ私の泊っている部屋に置かれていたこの羽と開封しなかったことをとがめるようにモヤになって消えた封筒。
 そして怪我をしているこんちゃんの姿が頭を過った私は、意を決して手紙の内容を確認した。


『深夜、君のはじまりの場所で』

 たったそれだけの文面。

“深夜って何時のことなのよ”

 はぁ、と大きなため息を吐いた私は、最初に着ていた自分の服に袖を通した。


「ここまで持ってこれたってことはどうせ見てるんでしょ」

 内容を読んで確信したのは、この手紙が私宛のものだということ。

“どうせ逃げられないのなら望み通りに行ってやるわ”

 フン、とわざとらしく鼻を鳴らした私はわずかに震える手には気付かないふりをして自分の鞄を肩にかけた
のだった。



 
「はじまりの場所ってことはここ、よね?」

 こっそり部屋を抜け出し私が向かった場所はこんちゃんと初めて会ったあの神社。
 階段を上った先の石畳で躓き転んだ私は、気付けばこの世界へと迷い込んでいた。


「神社の見た目は同じなのよね」

 人間界とは全然違う場所なのに、迷い込むだけあって『入口』なのかこの神社だけは人間界で見た神社と同じ見た目だった。
 とは言っても、あくまでも“見た目は”であってその場の雰囲気は全然違い、どこかへ誘われるような怖さを感じる。

 ここで神隠しが起きると言われれば信じてしまいそうなその場所は、夜というだけで恐怖を増長させ私を心細くさせた。


「ねぇ! 来たわよ!?」

 キョロキョロと見回しながらそう声を張り上げると、さっきまで静まり返っていたその場にカツンと乾いた靴音が響く。
 その音にハッとした私が慌てて音の方へと振り返ると、石畳の先に続く千本鳥居の奥からひとつの人影が現れた。

「やっぱり貴方だったのね」
「狐から聞いてるかな? 僕の名前は乾瑞季。どう呼んでも構わないよ、呼べるうちならね」
 
 くすりと笑うその目が何の光も映していないせいかくすみ、感情が全く読めない。
 整った顔が青白く、その血色さえも失った色味とあわさってより不気味さを出していた。


「なんで呼んだの?」
「なんで来たの?」
「何か用があるのよね」
「何か用があるのかな」

 質問に質問を返される無意味な問答。
 じりじりと詰められた距離だけ私は後ずさった。

“埒が明かない”

「……楓ちゃんから奪った羽団扇、返して」
「返したら何をくれるの?」
「奪ったもので対価を要求するのはおかしいんじゃない」

 理不尽を指摘するが、相変わらず表情のわからない口角だけを上げた笑顔の彼が私の言葉を聞いてハハッと乾いた声を響かせる。

 
「――それ、人間基準でしょ」
「ッ!」

 至極当然とばかりに告げられたその言葉は、私の発言を否定するだけでなく私が『部外者』であることを表しており、痛いところを突かれた私はただただ黙るしかできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...