だったら私が貰います! 婚約破棄からはじまる溺愛婚(希望)

春瀬湖子

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だったら私が貰います!婚約破棄からはじめた溺愛婚(その後)

番外編:薄くしましょう、そうしましょう!①

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「来ちゃった!」

 バルフとの朝食を終え、執務に向かう姿を見送ろうとしたタイミングで襲来し、にこにこ笑っているのは。

「お、お母様!?」
「エルベルティーヌ様!」

 先代公爵夫人であり、私と兄の産みの親だった。


「ちょ、ちょっとちょっと!体調は大丈夫なの?」

 先代公爵夫人であり私の母であるエルベルティーヌ・ビスターは、本人の気質は別として……という前提がつく時点で性格お察しではあるが、幼少期から気管支が弱くずっと王都の邸宅から離れた領地で暮らしていて。

「バルフくんが体にいい蜂蜜とか送ってくれてね~!ほんっといい子よねぇ」
「いえ、婿として当然のことですから。……それに、シエラの大事な家族は僕にとっても大事な家族、です、ので……」

 言いながら少し気恥ずかしそうにこちらを見るバルフ。
 じんわりと赤くなった頬が可愛く見えて……

「好きぃ!!!」
「ちょっとお母様!!バルフは私の夫なんですけど!!」

 すかさずひしっと抱きつこうとした私の目の前で、母に先を越されて思わず叫んだのだった。



 ―先ず客間に母を通し、腰掛ける。
 すかさずクラリスが私たちに紅茶を出してくれて。

「それで、何しにきたの?」
「本当に酷い娘ね!でもいいわ。私の目的はバルフくんだから」
「俺⋯じゃなくて、僕ですか!?」

 さらっと告げられたその言葉に私とバルフがぎょっとしていると。

「夫も、エリウスもバルフくんのこと溺愛してるじゃない?だから私も絡んでみたかったのよね。けど、王都って空気が悪いから行く気になれなくて」

 シエラたちから来てくれたら良かったのに、なんて小言を言いながらも楽しそうに笑っている母。
 
 ちなみにだが母の言う『空気が悪い』は、本当の空気も含んでではあるが社交界のドロドロも指していたりする。

 その気持ちはわからなくはないが、私だってあんなに弾かれながら頑張ったのに……と思わなくもない、というのは内緒だ。

“ま、私も社交界なんて好きじゃなかったけどね。けど、私はそのお陰でバルフと出会えたから……”

 地味だと本人も周りも思っているが、それでも私にとってはかけがえのない大事な人なのだ。
 それに、彼のいいところは私だけが知っていれば問題な――――……

「という訳で今から社交界デビューするわよ、バルフくん!」
「私だけが知っていればいいのにぃ!!!」

 ピシッと指を突き付けられて宣言されたバルフは唖然とし、そんなバルフの横で聞いていた私は机に突っ伏すように項垂れる。

 
「も、申し訳ありません、僕はその、一応数年前にデビューをしておりまして」
「でも誰にも注目されてないじゃない」
「うぐっ」

 なだめるように説明したバルフをしれっと言葉のナイフで切りつけた母は、そのままキッと私を見て。


「シエラだって、大好きなバルフくんを自慢したくない?」
「え……」
「私の夫最高なのよ~っ、オ~ッホッホって高笑いしたいわよね?」
「た、高笑い……?」
「ま、まさかそんな、シエラはそんなこと」

“みんなにバルフを自慢して、でも私の最愛でラブラブなのよっていうアピールをしたいかってこと……?”

 そんなの。

「したいに決まってるわ!!」
「したいの!?」
「そうよね!!!」

 カッと目を見開き、バチッと目が合うのはもちろん母。
 キーファノは緑豊かで王都よりも断然空気がいいとはいえ、こんなにガツガツと動いていいのかしら?なんて思いつつ、そんな母とガシッと握手をした。


「でも、今更社交界デビューとか言われても……」

 15、6歳の子たちに混じりぺこりとお辞儀する24歳のバルフを想像したら、まぁ正直なしではないが……それでもそれは、惚れた者の欲目というやつで。

 流石にそれは、と思ったのだが。

「まさか本当に社交界デビューのパーティーをするわけじゃないわよ?今度エリウスの公爵位お披露目パーティーをするじゃない?それに夫婦で出てらっしゃいな」
「お兄様の……?」


 次期公爵として経験を積みながら実務をこなされていたお兄様。
 そしてつい先日、とうとう父から兄へと爵位を受け継ぎ兄が公爵となったため、そのお披露目パーティーが予定されてはいて。

「そこで、着飾って垢抜けたバルフくんのお披露目をするの!どう?最高じゃないかしら」

“確かに、それなら……”

 母が今ここにいるというなら夫婦で出席することも可能だろう。
 それに確かにバルフを着飾り自慢するというのは魅力的な提案でもあって――


「む、無理です!前提がおかしいです!こんなに地味な僕が少々着飾ったところで、なんか豪華な服が歩いている程度の認識にしかなりません!」

 賛成しようとしたところで、バルフが慌てて割り込んできた。


「そんなことはないわよ、バルフくん、元はいいじゃない」
「そうよ、バルフ、元はいいの」
「えぇ……?」
 
“よく見れば顔の造形も悪くないし、スタイルも悪くないのよね”
 けれど何故か目立たないのは、本人の控えめな 気質なのか持って生まれた華やかさがないからなのか。

 そしてそんな疑問の回答は、母からの指摘で気付かされる。


「バルフくんが地味なのはね、周りの女が派手すぎるからよ」
「……えっ」

 親指をビシッとたてて断言した母に唖然とする。
 それってつまり……

「わ、私のせいってことなの!?」
「あら、元々の婚約者ちゃん含めてよ」
「キャサリンね……」


 確かにあの強かすぎる彼女なら、自分の引き立て役としてがっつりバルフを利用しそうではあるが。


「で、でも私はバルフの事をそんな風には思ってないわよ!?」
「ばかね、シエラ。貴女は顔がうるさいの」
「顔がうるさい!!?」

 娘に向かってその指摘。
 あまりにも、な返答に愕然としたのだが――……


「……そこまで言いきるってことは、何か策があるのね?」

 じとっとした目を向けながらそう聞くと、母は口角をわざとらしいくらいにニッ持ち上げて。


「えぇ。濃いならば薄くしてしまえばいいのよッ!」
「は???」




 ――――そんなやり取りから約2ヶ月後。
「お兄様、この度は本当におめでとうございます」

 母にキーファノを任せてやってきたのはもちろん王都にあるビスター公爵家である。
 私とバルフはパーティーに出席するための準備を全て終わらせ、改めて兄に挨拶すべく部屋に入り――……


「……え、し、シエラとバルくんなの⋯!?」
「えぇ、えぇっ!!そうですわよお兄様!!本日のお披露目は私たちがいただきましたわっ!」
「し、シエラ……、主役はお義兄さまだから……っ!」

 私たちの姿を見て目を見開いている兄夫婦に、大満足した。

「お義姉さま!無事のご出産おめでとうございます。もうお体は大丈夫なのでしょうか?」
「え?え、えぇ。長男の時と同じ乳母に任せてるし、私も出産して3ヶ月以上たってるから少しくらいなら平気……なのだけど……」

 ぽかんとこちらを見る義姉の姿を見ながら、思わず笑いが込み上げる。

“流石お母様だわ。これなら私がバルフの隣にいても、うるさいなんて誰も思わないはずよ……!”

 そんな私の姿はというと。

「地味、ではないし変ではないけど…」
「えぇ。このドレスも髪型も今の最新の流行です」

 ふふ、と得意気に笑いながら軽くドレスを摘まんで見せる。
 愛されない元王太子の婚約者候補筆頭としてつま弾きにされてはいたものの、腐っても私は公爵令嬢。

 着るドレスは一流で、私のために起こされたデザイン。
 私に似合う色の高級生地に、私の魅力を引き出す装飾品たち。
 
“笑い者にされていたからこそ、1人で立つためにドレスで武装していたってのもあるけど……”

 それらの全ては、『それからの流行』になった。
 私は婚約者候補としては底辺だったが、公爵令嬢としては完璧だったと自負してい……る、つもり、ではあるのだ。多分。


 そんな私からオリジナリティを全て消し、今の流行に乗る。
 変に地味なドレスを着たところで私は私。
 紛れるなら『周りに合わせる』のが一番だというのが母からのアドバイスだった。

「目立つこの髪も、コンパクトにまとめましたわ。合言葉は『いるいる!こういう令嬢』です」
「それをするメリットが全くわからない……けど。もしかして……」

 もしかして、と言いながらチラッと兄が視線を動かした先にいるのはもちろん――


「バルフを目立たせるためよ」
「ほんと……いいって言ったんですが……」
「お母様と頑張ったんだから!」
「あぁ、今母上はキーファノにいるのか。それはその、バルくん大変だったね……」

 兄の遠い目に少し憤慨する私だったのだが。

「すっっごく素敵だわ!わぁ、だいぶ垢抜けたわね……!?」
「垢抜けたというか、お金をかけたといいますか……」
「でしょう!?」

 義姉の言葉に私の機嫌は一瞬で直る。
 そうなのだ。この2ヶ月、まさにお金をかけて全力プロデュースし、母と二人でバルフを磨きに磨いた。
 
 どこか申し訳なさそうに項垂れるバルフ。
 彼が俯くとふわりとその黒髪が揺れて陶器のような肌に影を落とす。

 そんな姿は儚さと、それでいてどこか妖艶な雰囲気も纏っていて――……

「さいっこうの出来よ!いつももちろん素敵だけど、今日はどこから見ても隙なく最高なんだから!隣にいる私も、この埋もれるドレスでバルフの美しさを邪魔しないしね!」

 なんてうきうきしつつ、バルフの腕にひしっと引っ付く。
 今日の話題は間違いなく我が夫のものであると確信した私は、ニマッと口角を上げたのだった。
 
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