妖精と彼女と

宮野 楓

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妖精と彼女と

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 妖精にはある決まりがある。まず、人間に関わってはいけない。これは絶対だ。
 未来を見通す力が妖精にあるから人間に関わって未来を変えてしまってはいけない。
 次に妖精は一定の自然がないと生きられない。自然の力で妖精は生まれて、生きているからだ。
 だから妖精はグングン減っている。最近の人間たちは自然をどんどん刈り取っていくからだ。
 妖精が見えないから、妖精という存在がいると知らないから、人間はその行動を止めない。
 動物も生きるために、食物連鎖から離れた関係で食べられている。草花も食用は然りだ。

「でも……君は食べないんだね」

 妖精は草も動物も食べずに、水を少量口にして、それだけで生きているやせ細っている彼女を見る。
 彼女は妖精が見えていない。
 だけど妖精は彼女がそうなった理由を知っている。彼女はある妖精と関わってしまったのだ。そして未来を変えてしまった。
 当然、神の天罰が下った。
 彼女と関わった妖精は、仲良しだったんだけど、彼女が未来を変えた瞬間に消えてしまった。
 彼女はある人の未来を変えた代償に、彼女の未来を神によって変更されてしまった。
 だが神の為に言えば、彼女は食事を与えられていない訳ではない。ちゃんと野菜と肉と穀物を与えられているけど、水しか口に含まないだけだ。
 だって彼女は仲良しの妖精が消えたことだけ、未来を変えて、後悔しているみたいだった。
 ほら、彼女が実は隣に立っているはずだった王子様の結婚式が始まるよ。
 彼女が未来を変えて助けた妹が隣に立って、本当は姉の助命嘆願だって出来るはずなのにそれもしない、愚かな人間が笑っているよ。
 彼女は飢餓状態で、もうすぐ天に昇る。
 妖精は悩んだ。仲良しの妖精の命を持って変えた未来は、こんな現実でいいのか。
 だって彼女は妹を助けたかったかもしれない。でも仲良しの妖精は彼女が幸せにそれでなると思って、その命を投げ出した。
 彼女は草花を育てるのが上手だった。今は出来ないけれど、それで妖精と仲良しの妖精は生まれた。
 彼女の友人が彼女を思って、草花を育て続けているから妖精は消えないで済んでいるけれど、彼女がいなかったら少なくとも二人の妖精は生まれなかった。
 意を決して彼女に妖精は触れた。
 妖精から意志を持って人間に触れると妖精が人間にも見えるのだ。もちろん、触れた妖精だけ。
 彼女は一度、妖精を見ているから驚きはしなかった。

「あなたは、もしかして……あの子の友人ね」

 彼女は仲良しの妖精から妖精の事を聞いていたのか、そう聞いてきたので頷いた。

「そう。ごめんね。私のせいで」

 彼女は謝って、ゴホっと咳をしたかと思えば、血を吐いた。
 妖精は驚いたが、彼女は驚いていなかった。

「ふふ。あのね、食事に毒が入れられていて、食べないから水にも入れられたみたい」

 他人事のように話す彼女は、あまり苦しそうではない。

「不思議と苦しくないの。多分、神様が憐れんでくれたか、もしかしたら……あの子が」

 彼女はそう言うと倒れた。
 あまりの突然の出来事に妖精は驚いたが何とかしたくて、彼女に願った。

「生きたい、そう願って」

 彼女は首を横に振った。

「私は願いを叶えたの。もう、大丈夫、ね?」

 そして彼女は天に昇った。
 妖精は何が、大丈夫だったのか分からない。
 こんな未来のために仲良しの妖精が消えたのかと思うと苛立ちが勝った。
 妖精はだから、ある事をした。
 王子様に触れて、嘘の未来を教えて、国を崩壊させた。
 神様は当然、妖精に罰として消されたが、消される前に聞かれた。

「満足したか?」

「ううん。残ったのは虚無だけだ」

「それが未来を変えるという事だ。未来を変えても、未来は思い通りに変わるとは限らない。未来を変えていいのは、その人自身の行動でだけだよ」

 そう言われて、妖精は消された。
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