1 / 1
大好きって何度も言って
しおりを挟む「ねぇ、大好きって言っていい?」
「言っていい、じゃねぇよ。言ってるわ」
「だって何度も伝えたいんだもん」
ユキナは目の前にいるレイが好きだ。それこそ死んでもいいくらい大好きだ。
幼馴染で、私の両親は海外に飛び交う仕事をしている為、ユキナはレイの家に預けられて、日本の高校に通っている。
だからか両親といる時間より、レイとレイの両親と一緒にいる時間の方が長い。
その内にレイが大好きになった。レイは一緒に居すぎた思い込みだというが、ユキナはそうじゃないと思っている。
だが、今、レイの部屋にいて一緒にゲームしているのだが、レイは全然意識してくれない。兄妹のように扱われ続けている。
それでもいつか伝わるか、と思っていたユキナだったが、ある日、学校の帰り道。レイとは違うクラスなのだが、知らない女の子と楽しそうに談笑しながら帰るレイを見て、ユキナは頭が可笑しくなりそうだった。
実際、そのまま家に帰ってレイの顔を見れる訳もなく、公園で滑り台の下に潜って号泣した。
でもレイの両親を心配させるわけにはいかない。ファンデーションで真っ赤になった目の周りだけでも隠して、充血した目自体は諦めて、レイの家に帰った。そう、レイの家に。
「あらぁ、ひっさしぶりー」
レイの家に帰ってリビングに入ると、当然レイの両親とレイはいるのだが、何故かユキナの両親共いた。しかも夕食をご一緒していた。帰るなんて一報もなかった。
ユキナはレイの事と自由過ぎる自分の両親に嫌気がさして、苛立ちが収まらない。
「別に。どうせすぐどっか行くんでしょ。好きにしなよ。レイのお母さん。今日、お腹減ってないの。ちょっとしんどいし、今日は寝るね」
「ユキナちゃん……」
レイのお母さんは心配そうにしてくれていたが、そのまま、レイの家にあるユキナの部屋に入る。そう、レイの家にある。全部可笑しいのだ。
辛くて、また涙が溢れて止まらない。
部屋がノックされるが、ユキナは無視した。だが鍵なんて付いていない部屋は開けれるので、勝手に開けて入ってきたのは、私の両親だ。
「しけた顔ね。アンタそっくりよ」
「ユキナに向かって失礼だ」
「ふん。ま、あのさ、離婚するんだよね。簡単に言えば」
「まぁそういう事だ。で、ユキナ、お前の事なんだが」
両親が何か言う前に、ユキナは笑って、そして言った。
「お金くれて、住む家用意して。アンタ達が私を作ったんだもん。高校卒業まででいいわ。それ以外は縁を切ろう」
ユキナの言葉に実の母親も父親も肯定し、お金だけは稼いでいる二人は、勝手に住む場所と生活費を決めて、通帳と鍵だけ渡してきた。
鍵は日本に一応持っていた、嘗て日本で三人で暮らしていた家の鍵。通帳はそこに生活費を振り込まれるらしい。
「良い覚悟じゃない。そろそろよそ様に頼るのも問題だったのよー。もう、高校生だし、いいわね」
「親権は一応、俺が持つ。連絡先も渡しておこう。何か困りごとが出来たら言いなさい。通帳には既にお金はいくらかある。すぐ引越しなさい」
どんどん環境は変わる。レイの事もあったし、ちょうどいいか、と思い、ユキナが頷くと両親はあっという間に去っていった。
愛情とか、全部教えてくれたのは、レイとレイの両親だ。だからこそ、もう迷惑かけられない歳になったな、と思い、ユキナは自分でネットで全部手配した。
引っ越す前日にレイとレイの両親に伝えると、すごく反対してくれたが、その気持ちで嬉しくて、でも後には引かずに誰もいない家に引っ越した。
ユキナは自分しかいない家に、寂しく感じながら、今までが可笑しくて、これが正しいと言い聞かせた。
そして学校ではあからさまにレイを避けた。
「よぉ」
オートロックのユキナの家であるマンションの入り口にレイはいた。
逃げられない。そしてユキナ自身、ずっとレイを好きでいる事が出来ないと思い、自分の気持ちにケリを着けるために逃げない事にした。
「久しぶりだね」
「逃げるからだろ?」
「色々あんの。ねぇ、最後にする為にも、ごめん。レイの両親が心配して、レイを寄こしたのも分かるけど、聞いて。そしてはっきり、言って」
ユキナがいつものようにいつもの台詞を吐こうとすると、レイに急に腕を持たれてレイの方向に引かれて、気が付けば唇を奪われていた。
あまりの出来事に反応が出来なくて、夢ならなんて最高で、残酷だろう、と涙が溢れた。最近泣いてばかりだが、もう泣き慣れた。
そっと唇が離され、耳元で囁かれる。
「言わせねぇ」
「なんで!」
「俺の台詞が先だろ」
レイの低い声に、ユキナは自分の心臓が壊れるのではないだろうか、と思うくらい鼓動を打っている。本当にもう死んでもいい。
ユキナはレイの背中に腕を回した。そして小声で言った。
「言って……」
そう言えばレイもユキナの背中に腕を回して、ユキナの目を見て口を開いた。
「大好きだ。いなくなったら、寂しかった。いなくなって、気が付いた」
夢だ。都合の良い夢だ。ユキナはそう思い、一番聞きたかった言葉を聞いて、涙がさらに溢れた。
気持ちがそこになければ、どれだけ望んでいた言葉を聞いても、それに意味はない。気が付かされて、もうユキナは終わりだ、と感じた。
「レイが大好き、大好き、大好き、大好き……だったよ。今も諦められないくらい。でもね、だから、レイは彼女の所に行って。もう、私は大丈夫」
夢相手に、と思いながら、ユキナがそう言うと、レイが背中に回してくれていた腕が離れて、軽くユキナの両頬をパンと叩いた。痛くないくらいに。
「彼女なんていない。何を勘違いしてるか知らないけど、現実だぞ。これ」
「え、だって。下校中に女の子と歩いて……で、これは夢じゃ……ないの」
「別に友達と歩いたりするわ。そして夢なんかじゃねぇ」
レイは今度はユキナの頬に口づけてきた。
「ほら、帰ろう。どうせ結婚したら一緒だろ。帰ろうぜ、家に」
「そこはレイの……家」
「お前の家でもあるっつーの。馬鹿だな。血の繋がりなんて関係ねぇ。ずっと一緒に育ったじゃねぇか。もう、お前の家でもあるよ。ほら……な」
レイがそう言うと、一台の車が走ってきた。見覚えのある、レイのお父さんの車。
学校に遅れそうな時とか、買い物に行きたい時とか、小さい時はテーマパークに行くのにも載せてくれた車だ。
車はユキナとレイの近くで停まる。そして車の窓のガラスがウィーンと機械音を小さく立てて開いた。
「親子揃って同じ考えなの? ねぇ、ユキナちゃん。私の子どもになりなさい。ね?」
「もうユキナは俺の娘だ。血の繋がりなんてどうだっていい。居なくなって、家が寂しい。帰ってこい」
実の両親よりも、親らしい事を他人のユキナにいっぱいしてくれたレイの両親は、さらに嬉しい言葉をかけてくれる。
「レイのお父さん、レイのお母さん。お父さん、お母さんって呼んでいいの?」
ユキナがそう言えば、レイの両親は二人で目を合わせた後、ユキナの方を向いて笑顔で、もちろん、と言ってくれた。
今日ほど、嬉しい日はない。
もう、本当に死んでもいい。
「ねぇ、大好きって言ってもいい?」
「あぁ、大好きだ」
「レイじゃなくて、私が!」
「もう、言ってるだろ」
「大好き」
ユキナとレイが離れると、お母さんがあらあらと言う。
「ねぇ、お父さん。本当に近いうちに娘って堂々言えるわよ」
その言葉にくっ付いている様子を見られていたと気が付いたが、もう気が付いても遅いので、ユキナとレイは笑って、車に乗って家に帰った。
それから本当に家族のように扱ってくれて、あくる日、ユキナは本当に家族になった。
「ねぇ……」
「大好きだろ? ずっと言われてたら分かるよ。でも何度でも言えよ。何度でも返してやるから」
「うん。大好き、大好きだよ。レイ」
血の繋がりなんて関係ない。ちゃんとユキナは愛され、大好きな人と共に居れる。
これほど幸せな事はない。
もう、死んでも良くない。
出来るだけ長生きして、この幸せを噛みしめていくんだ。
「俺も大好きだ」
「うん」
なんて幸せなんだろう。
この形のない幸せは、すごく空っぽだったユキナの心を埋め尽くした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
お幸せに❤️