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郷愁――ノスタルジー
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私はどこからやってきたのだろう。空? 宇宙? いつかわかる日が来るだろう。ただ私は、息も詰まるくらい長い時空のトンネルを通って、今ここに居る――。
ここには何もない。あるのは草原と子供たちの声だけ。そしてほのかに薫る風。懐かしいにおい。
空は吸い込まれそうなほど真っ青だった。吸い込んで欲しかった。そして再び時空のトンネルを通って本来あるべき場所へ帰る。――それとも、もう一度入ったら、今度こそ出られないだろうか。ダストシュートのような勢いで偶然落ちたこの星から、再び同じ道で帰れるのだろうか。ここは異星人の星だ。彼らはみな異星人だ、子供たちも。私も。私たちも。彼らは、帰りたくはないのだろうか。のしかかるような青い屋根の下敷きになりながら、押しつぶされる前に逃げ出したくならないのだろうか。――否、みな心のどこかで理解しているのだ、蟻のように逃げ回ったところで、大きな彼女の手からは逃れられないと。
風が、私を包んだ。そして囁いた。
「おじさん、どうしたの」
目をあけると、子供が覗き込んでいた。
「なに、泣いてるの? 悲しいの?」
そうだ、悲しいのだ。途方も無く悲しい。この異邦人の邦で、私は居る場所もない。……帰りたい。
「早く、帰りなさい」
そういうと、子供は首を傾げて去っていった。異星人同士の会話。あの子供は、どこから来たのだろう?
次の日も、風が吹いていた。風が、優しく私を抱擁する。空の重みが増したような気がした。でも、まだ、逃げられる。私は横になった。こうすれば逃げられるだろうか。
風が吹いている。このまま私を運び去ってくれ。私の居るべき場所は、ずっと上。空よりも、ずっと上。きっと真っ暗な宇宙のどこかだ。そこでみな誕生するのだ。新しい生命の誕生。
私が生まれたときも、風は私を抱いていてくれたのだろうか。人間たちは、宇宙に風はないという。しかし、賛美すべき新しい生命の息吹とともに、風は私を包んでいてくれた。優しい母のぬくもりで、怖がる私をあやしてくれたのだ。それとも、あれは偽りの優しさだったのか?
空は日に日に私を追いつめていった。私は逃げまどった。帰りたい。帰らせてくれ。私を放してくれ。
子供たちは遊んでいる。まだ彼女の虜にはなっていない。彼女の手は、故郷を渇望する者にのみ伸びるのだ。そして行く手を阻もうとする。彼女の長い腕は、今にも私を捕らえそうだった。逃げたかった。私の居るべき場所に。広すぎる母の胸のどこかに。彼女に、捕まるわけにはいかない。
私は走った。始終、風が私を守ってくれていた。風とともに、彼女の手に届かないところへ。届かない、海の底へ。底知れない愛をもって、青い海は私を受け止めてくれるだろう。私はできるだけ深く逃げた。これでは反対だ。私の切符は反対方向だ。乗り換えねばここから出られない。私は上を見上げた。海の青に混ざって、空が腕を伸ばしていた。結局、私はこのまま彼女に捕まるのか。私は底の知れない海の底を目指した。彼女から逃れることができれば、私は帰れるかもしれない。
トンネルの入り口を見つけたと思ったとき、私は渇望していた母の腕に包まれたような気がした。それは私がかつて生きとし生ける者すべてに祝福されながらこの世に生を受けたときの風のぬくもりだった。偽りの優しさでは、なかったのだ。
周囲が暗くなった。あれだけ欲していた居るべきところへと通じるトンネルに、私は入ったのだ。そして出たとき、私は誕生したときと同じ祝福を受けるのだ。
さあ、私の家へ帰るとしよう。それまで少しの仮眠をとろう。誰か、起こしてくれ。私の愛する母のもとへたどり着いた、そのときに。
ここには何もない。あるのは草原と子供たちの声だけ。そしてほのかに薫る風。懐かしいにおい。
空は吸い込まれそうなほど真っ青だった。吸い込んで欲しかった。そして再び時空のトンネルを通って本来あるべき場所へ帰る。――それとも、もう一度入ったら、今度こそ出られないだろうか。ダストシュートのような勢いで偶然落ちたこの星から、再び同じ道で帰れるのだろうか。ここは異星人の星だ。彼らはみな異星人だ、子供たちも。私も。私たちも。彼らは、帰りたくはないのだろうか。のしかかるような青い屋根の下敷きになりながら、押しつぶされる前に逃げ出したくならないのだろうか。――否、みな心のどこかで理解しているのだ、蟻のように逃げ回ったところで、大きな彼女の手からは逃れられないと。
風が、私を包んだ。そして囁いた。
「おじさん、どうしたの」
目をあけると、子供が覗き込んでいた。
「なに、泣いてるの? 悲しいの?」
そうだ、悲しいのだ。途方も無く悲しい。この異邦人の邦で、私は居る場所もない。……帰りたい。
「早く、帰りなさい」
そういうと、子供は首を傾げて去っていった。異星人同士の会話。あの子供は、どこから来たのだろう?
次の日も、風が吹いていた。風が、優しく私を抱擁する。空の重みが増したような気がした。でも、まだ、逃げられる。私は横になった。こうすれば逃げられるだろうか。
風が吹いている。このまま私を運び去ってくれ。私の居るべき場所は、ずっと上。空よりも、ずっと上。きっと真っ暗な宇宙のどこかだ。そこでみな誕生するのだ。新しい生命の誕生。
私が生まれたときも、風は私を抱いていてくれたのだろうか。人間たちは、宇宙に風はないという。しかし、賛美すべき新しい生命の息吹とともに、風は私を包んでいてくれた。優しい母のぬくもりで、怖がる私をあやしてくれたのだ。それとも、あれは偽りの優しさだったのか?
空は日に日に私を追いつめていった。私は逃げまどった。帰りたい。帰らせてくれ。私を放してくれ。
子供たちは遊んでいる。まだ彼女の虜にはなっていない。彼女の手は、故郷を渇望する者にのみ伸びるのだ。そして行く手を阻もうとする。彼女の長い腕は、今にも私を捕らえそうだった。逃げたかった。私の居るべき場所に。広すぎる母の胸のどこかに。彼女に、捕まるわけにはいかない。
私は走った。始終、風が私を守ってくれていた。風とともに、彼女の手に届かないところへ。届かない、海の底へ。底知れない愛をもって、青い海は私を受け止めてくれるだろう。私はできるだけ深く逃げた。これでは反対だ。私の切符は反対方向だ。乗り換えねばここから出られない。私は上を見上げた。海の青に混ざって、空が腕を伸ばしていた。結局、私はこのまま彼女に捕まるのか。私は底の知れない海の底を目指した。彼女から逃れることができれば、私は帰れるかもしれない。
トンネルの入り口を見つけたと思ったとき、私は渇望していた母の腕に包まれたような気がした。それは私がかつて生きとし生ける者すべてに祝福されながらこの世に生を受けたときの風のぬくもりだった。偽りの優しさでは、なかったのだ。
周囲が暗くなった。あれだけ欲していた居るべきところへと通じるトンネルに、私は入ったのだ。そして出たとき、私は誕生したときと同じ祝福を受けるのだ。
さあ、私の家へ帰るとしよう。それまで少しの仮眠をとろう。誰か、起こしてくれ。私の愛する母のもとへたどり着いた、そのときに。
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