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第7章
人間のオーラ
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目を開けると隣に人がいて驚いた。体を起こすと、そこは温かい布団の中だった。狭いベッドで、朱里が穏やかな寝息を立てながら片腕を桔梗の体に巻きつけている。そのぬくもりが思いのほか心地よくて、胸がざわつく。
安心しきった様子で眠る朱里をしばらく見下ろしていると、不意に朱里が目を開けた。
「おはよう、お嬢さん」
朱里は目を擦りながら頭をもたげた。
「おはよう、桔梗。よく休めた?」
「布団の中で寝たのは初めてよ。誰かと寝たのも初めて。……気持ちのいいものね」
研究所では、日中の実験や訓練が終わったら液化させられてボトルに収納されていた。休むというのなら、ボトルの中で休んでいたことになるのだろうか。
結局あれから、桔梗は朱里の部屋に匿われている。華の家で一通り話をした後、朱里は自分がどうするべきかなかなか決心がつかないようだった。
『あたしを二度も助けてくれた恩人を拒むのはさすがに良心がとがめるし、あたしがエネルギーを与えないせいで桔梗が死ぬとしたら、それも寝覚めが悪い。いざとなればVCという生き物は人間より強いようだから、何とかなるでしょう。それに、どうせ匿うなら、下手に離れるより、桔梗にそばにいてもらったほうがあたしも安全な気がする』
そんな言い方をしてはいたが、本当の理由は別にあるだろうことに、桔梗は気づいていた。
結局は朱里も相当な意地っ張りで、あの一件以来、黒服の男たちのことを目の敵にしていた。桔梗や紅を隷属する家畜か何かのように扱い、邪魔する者は人間ですら排除する。その姿勢を黙認してしまえば、自分も彼らと同類の人間になってしまう。それだけはどうしても耐えられないようだった。
「さて。そうはいっても、このままじゃ逃げるしかないわけで」
朱里がパソコンの電源を入れる。
何か策を弄さなければ、いずれは彼らに見つかってしまうだろう。そこで桔梗が、主任の話をしたのだ。話し合いの余地がある人間がいるとすれば、彼しかいない。朱里がインターネットでフューチャークリーチャー社のホームページを開いた。
「主任、主任……いた。木崎隆一郎主任。爆発事故で怪我をして入院してた人。テレビの記者会見にも何度か出てたわよ。どう? この人?」
切れ長の目に生真面目そうな眼鏡。いかにも研究者風だが、桔梗にはよくわからなかった。
「主任なら、この人なんでしょう。研究所では顔も見えないし、全身覆われていてオーラも見えなかったから、正確には、同じ人かはわからないわ」
VCなら、顔ではなくまとうオーラの色で人間を判別することができる。しかし、研究所の人間は誰ひとりとしてオーラは見えなかったし、パソコン越しの写真に写った人間にも、オーラは見えない。
「この人に直談判して、悪さはしないから捕まえようとするな、って交渉するわけ? ……なんだかなあ、話のわかる相手なのかどうか……あの黒服連中を見てると、すごく不安になってくるよ」
自分たち大学生の甘い考えなど、社会の大人にかかれば一捻りなのではないだろうか。
華がためらいなくスタンガンで攻撃されたことを思い出し、身震いする。
とにかく、集められるだけ情報を集めて、入念な準備をしなくては。
朱里はパソコンを操作して過去のニュース動画を出した。
「ねえ桔梗、こういう、テレビとか動画の動いている人間なら、オーラは見えるの?」
いつかの、高原社長と木崎主任の記者会見の様子を流す。桔梗は食い入るように見つめた。
「……見える」
そしてふっと笑った。
「このふたり、似てるわね。どちらも青よ。濃い青」
「え? でも、まったく同じ色の人間なんていないんでしょ?」
「そうね。社長のほうが、暗い青。木崎主任のほうは、もう少し明るい青。……ふふ、色は性格を表すわね……」
「そうなの?」
桔梗はにっこりと笑った。
「朱里。あなたは元気な黄色。哲平は穏やかな緑。華は明るい橙。……ね? 私たちにどうして人間のオーラが見えるのかはわからないけど、きっとオーラの色は、その人の性格で決まるのね」
「じゃあ……青といえば、紺碧が濃い青だったけど……」
言外の意味を察して、桔梗は意味ありげに微笑んだ。
「……案外、似てるのかもしれないわね……このふたりと」
それを聞いて、思い出してしまった。紅や桔梗、華まで攻撃されて怒った紺碧が、ためらいなく人間に反撃したことを。黒服の男たちは、社長や主任の命令で動いているに違いない。目的を達するためなら手段を選ばず冷徹になれる。似ているというのは、そういうことなのだろうか?
「……あら。このニュースは何?」
いつの間にか動画が切り替わり、次のニュースが流れていた。穏やかなどこか郊外の風景に見える。ワイドショーか何かだろうか、女のリポーターが歩きながらあたりの説明をしている。音量を上げると、それもFC社絡みのニュースだとわかった。
安心しきった様子で眠る朱里をしばらく見下ろしていると、不意に朱里が目を開けた。
「おはよう、お嬢さん」
朱里は目を擦りながら頭をもたげた。
「おはよう、桔梗。よく休めた?」
「布団の中で寝たのは初めてよ。誰かと寝たのも初めて。……気持ちのいいものね」
研究所では、日中の実験や訓練が終わったら液化させられてボトルに収納されていた。休むというのなら、ボトルの中で休んでいたことになるのだろうか。
結局あれから、桔梗は朱里の部屋に匿われている。華の家で一通り話をした後、朱里は自分がどうするべきかなかなか決心がつかないようだった。
『あたしを二度も助けてくれた恩人を拒むのはさすがに良心がとがめるし、あたしがエネルギーを与えないせいで桔梗が死ぬとしたら、それも寝覚めが悪い。いざとなればVCという生き物は人間より強いようだから、何とかなるでしょう。それに、どうせ匿うなら、下手に離れるより、桔梗にそばにいてもらったほうがあたしも安全な気がする』
そんな言い方をしてはいたが、本当の理由は別にあるだろうことに、桔梗は気づいていた。
結局は朱里も相当な意地っ張りで、あの一件以来、黒服の男たちのことを目の敵にしていた。桔梗や紅を隷属する家畜か何かのように扱い、邪魔する者は人間ですら排除する。その姿勢を黙認してしまえば、自分も彼らと同類の人間になってしまう。それだけはどうしても耐えられないようだった。
「さて。そうはいっても、このままじゃ逃げるしかないわけで」
朱里がパソコンの電源を入れる。
何か策を弄さなければ、いずれは彼らに見つかってしまうだろう。そこで桔梗が、主任の話をしたのだ。話し合いの余地がある人間がいるとすれば、彼しかいない。朱里がインターネットでフューチャークリーチャー社のホームページを開いた。
「主任、主任……いた。木崎隆一郎主任。爆発事故で怪我をして入院してた人。テレビの記者会見にも何度か出てたわよ。どう? この人?」
切れ長の目に生真面目そうな眼鏡。いかにも研究者風だが、桔梗にはよくわからなかった。
「主任なら、この人なんでしょう。研究所では顔も見えないし、全身覆われていてオーラも見えなかったから、正確には、同じ人かはわからないわ」
VCなら、顔ではなくまとうオーラの色で人間を判別することができる。しかし、研究所の人間は誰ひとりとしてオーラは見えなかったし、パソコン越しの写真に写った人間にも、オーラは見えない。
「この人に直談判して、悪さはしないから捕まえようとするな、って交渉するわけ? ……なんだかなあ、話のわかる相手なのかどうか……あの黒服連中を見てると、すごく不安になってくるよ」
自分たち大学生の甘い考えなど、社会の大人にかかれば一捻りなのではないだろうか。
華がためらいなくスタンガンで攻撃されたことを思い出し、身震いする。
とにかく、集められるだけ情報を集めて、入念な準備をしなくては。
朱里はパソコンを操作して過去のニュース動画を出した。
「ねえ桔梗、こういう、テレビとか動画の動いている人間なら、オーラは見えるの?」
いつかの、高原社長と木崎主任の記者会見の様子を流す。桔梗は食い入るように見つめた。
「……見える」
そしてふっと笑った。
「このふたり、似てるわね。どちらも青よ。濃い青」
「え? でも、まったく同じ色の人間なんていないんでしょ?」
「そうね。社長のほうが、暗い青。木崎主任のほうは、もう少し明るい青。……ふふ、色は性格を表すわね……」
「そうなの?」
桔梗はにっこりと笑った。
「朱里。あなたは元気な黄色。哲平は穏やかな緑。華は明るい橙。……ね? 私たちにどうして人間のオーラが見えるのかはわからないけど、きっとオーラの色は、その人の性格で決まるのね」
「じゃあ……青といえば、紺碧が濃い青だったけど……」
言外の意味を察して、桔梗は意味ありげに微笑んだ。
「……案外、似てるのかもしれないわね……このふたりと」
それを聞いて、思い出してしまった。紅や桔梗、華まで攻撃されて怒った紺碧が、ためらいなく人間に反撃したことを。黒服の男たちは、社長や主任の命令で動いているに違いない。目的を達するためなら手段を選ばず冷徹になれる。似ているというのは、そういうことなのだろうか?
「……あら。このニュースは何?」
いつの間にか動画が切り替わり、次のニュースが流れていた。穏やかなどこか郊外の風景に見える。ワイドショーか何かだろうか、女のリポーターが歩きながらあたりの説明をしている。音量を上げると、それもFC社絡みのニュースだとわかった。
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