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第7章
萌葱と祐輔②
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「はい、お世話になります」
この花屋がふたりのデートスポットなのはもうばれていて、祐輔も照れながらそう答える。ごゆっくり、といって店の奥へ消えていく山吹を、じっと萌葱が見つめていた。
「……山吹さんが、どうかした? こないだも、何か気になるみたいだったよね?」
祐輔の問いに、萌葱が小さく首を傾げる。
「うーん……あの人のオーラがね、すごく珍しいから」
「何色?」
「金色」
「珍しいの?」
「見たことない。色を見ればだいたいその人の性格もわかるけど、あの人は……なんだかすごく、不思議」
「どんなふうに?」
「優しいんだけど、距離があるというか。穏やかだけど、心を開いていないというか」
「ふうん?」
そもそも山吹のオーラ自体見えていない祐輔には、何が不思議なのかもわからなかった。確かに、あの凛とした雰囲気は簡単には声をかけてはいけないようなオーラにも見えるが。
「でもさ、その人の色が見えるのって、便利だよね。色で、いい人か悪い人かも何となくわかるんでしょ?」
「うーん、まあ、何となく、ね――」
そこまでいって、萌葱が言葉を止めた。視線が、遠くへ注がれている。見ると、道路の反対側のだいぶ先に、黒い服の男が立っていた。もう初夏の陽気で汗がにじむほど暑いのに、その人は長袖の黒いコートを羽織っている。それが異様だった。
萌葱が祐輔の手を取った。
「行きましょ、祐輔」
「……あの人が、どうかしたの?」
萌葱は視線を落として足早に歩き出した。
「あの人も、なんか変……」
「色のこと?」
萌葱は黙ってうなずいた。
「あんな色も、初めて見る。……真っ黒。ものすごく暗い、黒」
そういう萌葱の目には、不安とも恐怖ともとれる色が揺れている。
色がその人間の性格までをも表すというのなら、真っ黒というのは――。
祐輔はちらりと男を盗み見た。歩道に立ったまま、動く気配はない。
確かに、不気味だ。
祐輔は思った。
黒のオーラが萌葱を不安にさせるというなら、あの全身黒ずくめの格好自体が、充分に恐ろしい。黒は、祐輔にも黒として映る。
「……早く行こう、萌葱」
祐輔は萌葱の手を一層強く引き寄せた。
この花屋がふたりのデートスポットなのはもうばれていて、祐輔も照れながらそう答える。ごゆっくり、といって店の奥へ消えていく山吹を、じっと萌葱が見つめていた。
「……山吹さんが、どうかした? こないだも、何か気になるみたいだったよね?」
祐輔の問いに、萌葱が小さく首を傾げる。
「うーん……あの人のオーラがね、すごく珍しいから」
「何色?」
「金色」
「珍しいの?」
「見たことない。色を見ればだいたいその人の性格もわかるけど、あの人は……なんだかすごく、不思議」
「どんなふうに?」
「優しいんだけど、距離があるというか。穏やかだけど、心を開いていないというか」
「ふうん?」
そもそも山吹のオーラ自体見えていない祐輔には、何が不思議なのかもわからなかった。確かに、あの凛とした雰囲気は簡単には声をかけてはいけないようなオーラにも見えるが。
「でもさ、その人の色が見えるのって、便利だよね。色で、いい人か悪い人かも何となくわかるんでしょ?」
「うーん、まあ、何となく、ね――」
そこまでいって、萌葱が言葉を止めた。視線が、遠くへ注がれている。見ると、道路の反対側のだいぶ先に、黒い服の男が立っていた。もう初夏の陽気で汗がにじむほど暑いのに、その人は長袖の黒いコートを羽織っている。それが異様だった。
萌葱が祐輔の手を取った。
「行きましょ、祐輔」
「……あの人が、どうかしたの?」
萌葱は視線を落として足早に歩き出した。
「あの人も、なんか変……」
「色のこと?」
萌葱は黙ってうなずいた。
「あんな色も、初めて見る。……真っ黒。ものすごく暗い、黒」
そういう萌葱の目には、不安とも恐怖ともとれる色が揺れている。
色がその人間の性格までをも表すというのなら、真っ黒というのは――。
祐輔はちらりと男を盗み見た。歩道に立ったまま、動く気配はない。
確かに、不気味だ。
祐輔は思った。
黒のオーラが萌葱を不安にさせるというなら、あの全身黒ずくめの格好自体が、充分に恐ろしい。黒は、祐輔にも黒として映る。
「……早く行こう、萌葱」
祐輔は萌葱の手を一層強く引き寄せた。
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