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第7章
青年と洸太郎②
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「この地図にある花屋に行きたいらしいんだが、バスがどれくらいで来るか、おまえ知ってるか?」
洸太郎が小走りに近寄ってきた。大男の連れと並ぶと、いっそう細く小さく見える。気の弱そうな、おとなしそうな少年だ。兄弟というにはやや歳が離れていて似てもいない。従兄弟か何かだろうか。
洸太郎は目をパチパチさせながら哲平の紙を見た。
「フローリスト西原……? 僕、聞いたことあるよ。うちから一番近い花屋だから、よく母さんが買ってきてる。たぶん、僕が降りるバス停の、三つくらい先だよ」
それから腕時計を見る。
「今日は休日だから、本数が少ないんだよね……。来るまで、あと四十分くらいあるよ」
「四十分かよ⁉ そんなに待つのかよ」
声を荒げたのは洸太郎の連れの大男だった。
「ごめん、僕も平日と勘違いしててさ、うちに帰るにはちょっと早すぎたみたい」
どうやらこのふたりも、家に帰る途中らしい。
「時間潰そうにも、この辺喫茶店とかもないんだよね。……あ、すぐそこに本屋があるから、そこで――」
「洸太郎」
親切に案内しようとする洸太郎を、男が制した。
「洸太郎、ちょっとまずいことになった」
「え?」
振り返る洸太郎に、男は身を屈めて何か耳打ちすると、そのまま本屋のほうへと足早に去っていく。
「えっ、あっ、ちょっと待ってよ」
洸太郎は男と哲平たちのほうへキョロキョロと視線をさまよわせてから、また小走りに走り出した。
「あっ、じゃあ、そういうわけで!」
洸太郎が男を追いかけて姿を消したあと、哲平は朱里や華と顔を見合わせた。
「……四十分待ちらしいね。俺たちも時間潰すか――」
本屋以外にどこかあるかとあたりを見回そうとして、哲平は駅のすぐ近くの駐車場に目を留めた。黒塗りのバンが停車してドアが開き、数人の男たちが降り立つ。彼らは皆、見覚えのある黒い作業服を着ていた。
心臓を鷲掴みにされたような感覚だった。自分たちを追ってきたのだろうか。だがその割には哲平たちのほうへは見向きもせず、ゆったりと装備の確認をしている。
「朱里、華。やばい、あいつらだ。目立たないように隠れるぞ」
こんな閑散とした田舎の駅で顔まで知られているとあっては、見つかるわけにはいかない。VCたち三人を隠して連れてきたのは正解だった。
結局一番近い建物が本屋しか見当たらず、三人は扉の向こうに滑り込んだ。物陰から外を窺う。幸い、男たちはまだ哲平たちには気づいていないようだ。
「……あ、もしかして、これじゃない?」
朱里がスマホを操作しながら声をあげた。
「SNSで急上昇中。このあたりで、UMA目撃続出」
「UMA?」
「未確認動物。UFOの生き物版みたいなやつ。なんでも、緑やら黒やらのモヤモヤした影が、生き物のように空を舞っているのを見たとかなんとか。あっ、画像もアップされてるよ、ほら」
中には動画もあった。煙や湯気とは違う、明らかに意志を持った動きで空を揺らめく影。ハッシュタグには、駅名やUMA、緑、黒、煙、などとつけられている。田舎での出来事なのに、瞬く間に拡散されているようだ。
『ここって、フューチャークリーチャー社の事故現場と近くない?』
『何この毒々しい色! 絶対汚染物質だよ』
『FC社、事故による大気汚染を隠滅⁉』
すでにFC社との関わりをおもしろおかしく書き立てる者もいる。この書き込みが、あの黒服たちの目に触れたに違いない。
「桔梗、これ見て。……あなたたちの仲間だと思う?」
朱里が背中に向かって囁きかけると、リュックがひとりでに動いて隙間から紫の煙がもくもくと湧き出し、朱里の肩に乗った。
「……桔梗も、間違いないだろうっていってるよ」
ややあってから、朱里が通訳する。
「工場が近いだけに、あの事故で桔梗たちみたいに逃げ出してきたVCか、あるいはもとから生息しているVCか……ってとこかしら?」
そこで華が興味深げにぽつりと呟いた。
「……黒のVCも、いるのね」
洸太郎が小走りに近寄ってきた。大男の連れと並ぶと、いっそう細く小さく見える。気の弱そうな、おとなしそうな少年だ。兄弟というにはやや歳が離れていて似てもいない。従兄弟か何かだろうか。
洸太郎は目をパチパチさせながら哲平の紙を見た。
「フローリスト西原……? 僕、聞いたことあるよ。うちから一番近い花屋だから、よく母さんが買ってきてる。たぶん、僕が降りるバス停の、三つくらい先だよ」
それから腕時計を見る。
「今日は休日だから、本数が少ないんだよね……。来るまで、あと四十分くらいあるよ」
「四十分かよ⁉ そんなに待つのかよ」
声を荒げたのは洸太郎の連れの大男だった。
「ごめん、僕も平日と勘違いしててさ、うちに帰るにはちょっと早すぎたみたい」
どうやらこのふたりも、家に帰る途中らしい。
「時間潰そうにも、この辺喫茶店とかもないんだよね。……あ、すぐそこに本屋があるから、そこで――」
「洸太郎」
親切に案内しようとする洸太郎を、男が制した。
「洸太郎、ちょっとまずいことになった」
「え?」
振り返る洸太郎に、男は身を屈めて何か耳打ちすると、そのまま本屋のほうへと足早に去っていく。
「えっ、あっ、ちょっと待ってよ」
洸太郎は男と哲平たちのほうへキョロキョロと視線をさまよわせてから、また小走りに走り出した。
「あっ、じゃあ、そういうわけで!」
洸太郎が男を追いかけて姿を消したあと、哲平は朱里や華と顔を見合わせた。
「……四十分待ちらしいね。俺たちも時間潰すか――」
本屋以外にどこかあるかとあたりを見回そうとして、哲平は駅のすぐ近くの駐車場に目を留めた。黒塗りのバンが停車してドアが開き、数人の男たちが降り立つ。彼らは皆、見覚えのある黒い作業服を着ていた。
心臓を鷲掴みにされたような感覚だった。自分たちを追ってきたのだろうか。だがその割には哲平たちのほうへは見向きもせず、ゆったりと装備の確認をしている。
「朱里、華。やばい、あいつらだ。目立たないように隠れるぞ」
こんな閑散とした田舎の駅で顔まで知られているとあっては、見つかるわけにはいかない。VCたち三人を隠して連れてきたのは正解だった。
結局一番近い建物が本屋しか見当たらず、三人は扉の向こうに滑り込んだ。物陰から外を窺う。幸い、男たちはまだ哲平たちには気づいていないようだ。
「……あ、もしかして、これじゃない?」
朱里がスマホを操作しながら声をあげた。
「SNSで急上昇中。このあたりで、UMA目撃続出」
「UMA?」
「未確認動物。UFOの生き物版みたいなやつ。なんでも、緑やら黒やらのモヤモヤした影が、生き物のように空を舞っているのを見たとかなんとか。あっ、画像もアップされてるよ、ほら」
中には動画もあった。煙や湯気とは違う、明らかに意志を持った動きで空を揺らめく影。ハッシュタグには、駅名やUMA、緑、黒、煙、などとつけられている。田舎での出来事なのに、瞬く間に拡散されているようだ。
『ここって、フューチャークリーチャー社の事故現場と近くない?』
『何この毒々しい色! 絶対汚染物質だよ』
『FC社、事故による大気汚染を隠滅⁉』
すでにFC社との関わりをおもしろおかしく書き立てる者もいる。この書き込みが、あの黒服たちの目に触れたに違いない。
「桔梗、これ見て。……あなたたちの仲間だと思う?」
朱里が背中に向かって囁きかけると、リュックがひとりでに動いて隙間から紫の煙がもくもくと湧き出し、朱里の肩に乗った。
「……桔梗も、間違いないだろうっていってるよ」
ややあってから、朱里が通訳する。
「工場が近いだけに、あの事故で桔梗たちみたいに逃げ出してきたVCか、あるいはもとから生息しているVCか……ってとこかしら?」
そこで華が興味深げにぽつりと呟いた。
「……黒のVCも、いるのね」
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