ヴィフ・クルール~拾った女の子が人間ではなかった件~(仮)

若山ゆう

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第9章

拡散①

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「ほら、もう大ニュース」

 部屋のパソコンを操作しながら華がいう。

「こっちもだ、すごい勢いで拡散されてる。もうお祭り状態だよ」

 スマホをいじりながら哲平が応じた。
 墨を交えての大立ち回りは、夕暮れ時に帰路を急ぐ多くの人間たちに目撃され、たくさんの画像とともにSNSで話題になっていた。

『人間が光ってる! マジか!』
『なんかのマジック?』
『ドッキリじゃね?』
『テレビクルーいなかったよ』
『何もないところに突然男が出現! 瞬間移動か!』
『やっぱりマジック』
『瞬間移動、写真じゃわかんねーwww』
『人間消えた! 一瞬にして赤い煙になった! と思ったらまた現れた! 忍者⁉』
『ふざけんなよ、ヤラセだろ』
『本気にしてたら草』

 スクロールしている間にも、どんどん新しいコメントが入ってくる。

「すごいよ。紅、ばっちり映ってる」
「うそ! もう外は出歩けない⁉」
「でも光ってるから、逆光っていうの? 顔はよく見えない」
「ラッキー」
「ちょっと、動画投稿サイトにももうアップされてるわよ。こっちのほうがまずいわ」

 華が画面を開いた。そこには、墨が突然現れた部分も、紅が墨をかわして一瞬気化した部分も、しっかり映っている。逃げ惑う悲鳴と、興奮した撮影者の声が入り乱れ、画面も手振れがひどい。しかし、それ以上にまずいのは、その後だった。光る紅と墨の間で、突如ドンと大きな音がして爆発が起き、紅と哲平が遥か彼方へ吹き飛ばされる映像が映っている。同じ画面に、吹き飛ぶ墨も映っていた。

『ヤバい、爆弾⁉ 爆弾じゃね⁉ おいっ、逃げろ! テロだよテロ! 逃げるぞ!』
『死んだ! 人死んだ! あれ絶対死んでる!』

 怒号のような悲鳴が錯綜する中、映像はしばらく手振れのひどい状態が続き、はあはあと息を切らした声と風切り音の後、画面が固定される。大通りを挟んで、公園は遠方に小さくなっていた。

『はあ、やべえ、なんだ今の。おい、誰か警察呼んだか⁉ あっ、来た……なんだあれ』

 大通りに黒いバンが急停止し、中から黒っぽい作業服の男たちが数人出てくる。公園の向こう側の林のほうへ男たちが消え、しばらくした後、パトカーのサイレンが聞こえてきた。直後、男たちがバンへ戻ってくる。

「……あ! これ、見て!」

 華が映像の隅を指さした。日の暮れかかった空に、わかりにくいが黒い靄のようなものが映っている。

「墨だわ! ……逃げたのね」

 バンが発進してしばらくしてから、パトカーが公園につけたところで、動画は終わっていた。
 華が眉間にしわを寄せる。

「エナジーサッカーで攻撃したのに、まだ気化できる体力が残ってるなんて」
「俺や紅からもエネルギーを吸収したからな。……とはいえ、あんな短時間に」

 紺碧が呟く。

「やっぱり命がけでもサッカーを拾ってくればよかった! あとはもう、山吹が持っている一台しかないわ」
「拾いでもしたら、その間に気化した墨に殺されてたぞ。あいつに触れられたときの吸収能力を考えると、あの場では逃げるのが一番賢い選択だった」
「それが問題なんだよ。あいつ、VCを殺す気満々だ。なのに俺たちには、それを止める手がない。紅の力を直接ぶつけたって、まだ気化するだけの力が残ってるんだろ? 直接触れ合ったらこっちが不利だし、あいつ、弱点はないのかよ」
「VCといったって、もとはといえば体は人間と同じ構造だ。心臓を貫けば死ぬし、爆発に巻き込まれれば無事では済まない。だが……そうだな、不意を突かないと、液化や気化で大抵の攻撃はかわされる。あとは、FCの連中が持っている武器を使うしかない。あいつだって研究所ではエナジーフィールドで俺たちと同じように管理されていたんだ。サッカーは効果があるし、奴らなら強制液化してボトルに閉じ込めるくらいはできるんだろう」

 紺碧の説明に、哲平はため息をついた。

「つまり、やっぱり俺たちには打つ手なし、ってことか」
「だが、そのFC社が墨の確保にも乗り出しているんだ。奴らに任せておけばいいだろう」
「……でも、そうもいっていられないかもしれないわよ?」

 画面をスクロールしながら、華がいった。

「ほら、動画投稿サイトのコメント欄。……もうみんな、気づいてるわ」
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