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【第一部:王位継承者】終章
決意の夜
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黄昏宮の一室の前に、二人の衛兵が直立している。夜間の勤務は、人が訪れることもなく静かなものだ。職務に忠実に前を向いていた衛兵のひとりが、人影に気づいて振り向いた。暗がりの中その姿を認識すると、すかさず敬礼をする。
「エルシャ様、特に変わった様子はございません。ジュノレ様は中でお休みです」
「そうか」
エルシャはわずかに躊躇したあと、意を決したように足を進めた。衛兵が道を開ける。
控えめな音でノックしたあと、エルシャはそっと扉を開けた。
室内は、暗かった。広い部屋の真ん中に寝台が置かれ、その横の床頭台に置かれたランプが、ぼんやりとジュノレの姿を照らし出している。ジュノレは横たわったまま動かない。
そっと近づいて、一瞬足を止める。
ジュノレの目は、開いていた。生気のない目が、うつろに宙を見つめている。視界に入っているはずのエルシャのほうへ、視線が向けられることはなかった。
「……ジュノレ……」
そっと、声をかける。反応はない。エルシャは寝台の横に座った。
「ジュノレ、聞こえているか……?」
しばらくためらってから、エルシャは毛布の外にのぞいているジュノレの白い手をそっと握った。
温かく、柔らかい手。
握る指に力が入る。
「ジュノレ……!」
エルシャは震える両手で彼女の細い右手を握りしめ、祈るように自分の額にあてた。
伝えたい言葉はたくさんあった。しかし、曇った目で人形のように動かないジュノレを前にすると、それらの言葉は喉につかえて出てこなくなった。
彼女の目にもう自分が映っていないとしても、するべきことは変わらない。
エルシャはすべての思いを飲み込んで、顔をあげた。まっすぐな瞳で、無反応なジュノレの目を見つめる。
「おまえを治す薬を、取ってくる。すぐ戻るから……必ず持って帰るから、それまで――待っていてくれ」
決意を固めて立ち上がる。ジュノレは微動だにせず宙に目を向けたままだ。
エルシャは、彼女の温かい頬に触れ、そして流れるような漆黒の髪に手をあてた。ゆっくりと身をかがめ、その髪に口づける。
――行ってくる。
彼が背を向けたとき、ジュノレのガラス玉のような瞳から、温かい涙が一筋、流れ落ちた――。
「エルシャ様、特に変わった様子はございません。ジュノレ様は中でお休みです」
「そうか」
エルシャはわずかに躊躇したあと、意を決したように足を進めた。衛兵が道を開ける。
控えめな音でノックしたあと、エルシャはそっと扉を開けた。
室内は、暗かった。広い部屋の真ん中に寝台が置かれ、その横の床頭台に置かれたランプが、ぼんやりとジュノレの姿を照らし出している。ジュノレは横たわったまま動かない。
そっと近づいて、一瞬足を止める。
ジュノレの目は、開いていた。生気のない目が、うつろに宙を見つめている。視界に入っているはずのエルシャのほうへ、視線が向けられることはなかった。
「……ジュノレ……」
そっと、声をかける。反応はない。エルシャは寝台の横に座った。
「ジュノレ、聞こえているか……?」
しばらくためらってから、エルシャは毛布の外にのぞいているジュノレの白い手をそっと握った。
温かく、柔らかい手。
握る指に力が入る。
「ジュノレ……!」
エルシャは震える両手で彼女の細い右手を握りしめ、祈るように自分の額にあてた。
伝えたい言葉はたくさんあった。しかし、曇った目で人形のように動かないジュノレを前にすると、それらの言葉は喉につかえて出てこなくなった。
彼女の目にもう自分が映っていないとしても、するべきことは変わらない。
エルシャはすべての思いを飲み込んで、顔をあげた。まっすぐな瞳で、無反応なジュノレの目を見つめる。
「おまえを治す薬を、取ってくる。すぐ戻るから……必ず持って帰るから、それまで――待っていてくれ」
決意を固めて立ち上がる。ジュノレは微動だにせず宙に目を向けたままだ。
エルシャは、彼女の温かい頬に触れ、そして流れるような漆黒の髪に手をあてた。ゆっくりと身をかがめ、その髪に口づける。
――行ってくる。
彼が背を向けたとき、ジュノレのガラス玉のような瞳から、温かい涙が一筋、流れ落ちた――。
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