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丘の上の公園
しおりを挟む暗い夜道。丘の上に続く石段。
子供の笑い声が夜空に響き渡る。
バイト帰りの飯島哲は驚いて顔を上げた。雲に覆われた真っ黒な空。甲高い絶叫が人けの無い夜の街を震わす。既に深夜0時を回っていた。
こんな時間に子供が……?
哲は怖くなってポケットに手を突っ込むと、足を急がせる。その腹の底を震わすような高音は哲の耳の奥を木霊して離れず、帰宅した後も、壁の向こうの空からうっすらと笑い声が聞こえてくる気がした。
明くる日、いつもの様に徒歩で大学に向かった哲は、その丘を覗いて見る事にした。小高い丘。石段の上は公園になっている。この道を通うようになって数年が経つ哲だったが、その石段を上がった事は一度も無い。歩道から見上げると、広場を囲む背の高い木々が緑の葉を揺らしていた。ゆっくりと、急な石段を登りきった哲は驚く。公園は想像よりも遥かに広く、明るかったのだ。青々とした芝が一斉に風に靡く。広場を囲むように木々が植えられており、低い山なりの丘の上にはポツンと丸っこい建物が聳えていた。
あれはなんだろう? 公園に足を踏み入れた哲は、引き込まれるように丘の上を目指した。円形の滑らかな屋根も、筒状の壁も、白い。突然、建物の中から小学生くらいの男の子が飛び出してきた。その無邪気そうな笑顔に、哲は昨晩の事を思い出してドキリとする。だが、子供は哲の事など気にしておらず、元気よく丘の下に駆け降りていった。その様子を横目に建物の入り口に辿り着いた哲は中を覗いてみた。
「望遠鏡だ」
哲は思わず声を出した。建物の中はドーム状になっており、真ん中にはずんぐりとした白い望遠鏡が立っていた。野太い支柱から斜めに伸びる真っ白な鏡筒は個人用の望遠鏡とは違い、医療用の機械のようにも見える。ドームの天井は北に向かって開いており、レンズは広い青空を眺めていた。
こんな所に天体望遠鏡があったのか。哲はワクワクとドームに足を踏み入れると、さっそく接眼レンズの黒い枠を覗き込む。先ほどの子供が合わせたのか、青い空の向こうにうっすらと白い一等星が見えた。
昨日の笑い声は、天体観測に来ていた子供の声だったのかもしれない。
哲は納得したように一人で頷くと、レンズから目を離して空を見上げた。今夜、もう一度来てみようかと、美しい星空を想像しながら腕を組む。その時、ふと疑問が頭に浮かんだ。昨晩は星が見えなかったのだ。
哲は丸い天井の先の青空を見上げながら、もう一度よく昨日の事を思い返した。確かに、甲高い笑い声とともに見上げた夜空は黒かった。
ドームの外に人の気配がない。青い芝ふの丘はシンと静まり返っている。平日とはいえ、この広い公園で哲が出会ったのは、先ほどすれ違った子供だけだった。
そもそも、何で平日の昼間に子供が……?
哲は何やら首筋の毛が逆立つような寒気がした。慌ててドームの外に出ると、そのまま振り返る事なく丘を駆け降りた。
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