1 / 1
山椒の国の青虫
しおりを挟む深い深い森の中。陽の沈んだ山で揺れ動く木々の緑。
気ままに草と草を移動するてんとう虫。細い葉の裏にしがみ付く青虫を見かけると、赤い羽を大きく広げた。そして彼は世界の話を始める。
山の向こうの山を越えた、さらに向こうの山と山。松の国の天辺から見える何処までも続く世界。小川の海のずっと先にあると言われている水の星。
山椒の木の国に暮らす青虫は、てんとう虫の壮大な夢物語にため息をついた。
そんな馬鹿な話があるか。
夜の月を見上げる青虫。彼はまだ山椒の国を出たことがない。
翌日から続く雨。青虫は山椒の幹に蹲って太陽を待った。雨が上がるとそよ風に揺られる。彼は山椒の国の下に枝の道が出来ているのを目にした。いつか聞いた夢の話。山の向こうの世界。水の星。
青虫は好奇心が抑えきれなくなる。長い時間を掛けて国の外に下りた彼は、枝の道に足を踏み入れた。
道は険しい。時折、獰猛なアリが攻撃を仕掛けてくる。青虫は大きな体をくねらせてアリを地面に落とした。空に響く鳥の声。青虫は枝の裏の小さな隙間に身を隠して、声が通り過ぎるのを待った。
月のない夜を迎え、陽を遮る幾つもの雲を見送る。枝の道が途切れても前に進む青虫。彼はやっと松の国の入り口に辿り着いた。
野太い根の丘。隆起する皮の一枚一枚が山椒の葉の家よりも大きい。荘厳な松を見上げる青虫。意を決した彼は松の国に飛び込んだ。
何処までも続く荒涼とした景色。皮と皮の間の谷。青虫は必死に短い手足を動かした。住むには適さない固い皮。触覚の長いカミキリが彼を見つめる。
太陽が登ると松皮の谷に頭を伏せ、月の夜にまた頭をあげる。枝の街で大地を見下ろした青虫。目に映るのは広い広い空の世界。自分が別の国に来たという事実を思い知らされ、青虫は絶句した。
何時迄も何時迄も、松の国の天辺は見えない。世界の広さを、未知の過酷さを思い知らされた青虫は、山椒の故郷を想った。
細長い松葉の家に辿り着いた青虫。先住の芋虫たちが顔を上げて彼を睨む。慌てて引き返した青虫は葉と枝の境界で蹲った。
てんとう虫のような、羽ばたける翼が欲しい。
そう願いながら青虫は、深い深い眠りの中に落ちていった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
予言姫は最後に微笑む
あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。
二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。
四季
恋愛
お前は要らない、ですか。
そうですか、分かりました。
では私は去りますね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる