雨の王

忍野木しか

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雨の王

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 世界を濡らす雨の王。
 彼は雲の玉座で下を向いた。地上軍との戦争中である。
 王は無数の水の兵を前線に送り続けた。青い兵士たちは鋭い槍となって大地の壁に降り注ぐ。水と大地の交戦は激しさを増していった。
 だが決して揺らぐことのない大地の壁。
 雨の王は唸った。黄色い閃光が雲の玉座を震わす。落雷の砲弾が鳴り響く。天に侵攻しようと前線を伸ばす山の頂は雷撃砲に貫かれた。一番背の高い木の兵は燃え盛る炎と共に崩れ去る。さらに雨の王は風の援軍を呼んだ。勇猛なる風の兵は雄叫びを上げる。雨と風。軍勢による横槍が、静かにこちらを見据える岩壁と切り結ぶ。僅かに風化させることに成功した雨の王はほくそ笑んだ。
 夜通し続く侵攻。多くの兵が大地の闇に飲まれた。雨の王の怒りと焦燥。太陽の軍勢が背後に迫っているとの情報が入る。
 もはやこれまでか。
 雨の王は撤退を考える。その矢先だった。戦況が大きく動く。雨を押し流す地上の川が、突如こちらに寝返ったのだ。
 川の大軍勢は進路を変え、大地の兵を薙ぎ倒していく。それに続くように風の兵が最後の力を振り絞った。雨の王は叫んだ。背後から迫る太陽軍を物ともせず地上攻略戦に一転攻勢をかける。
 雨と風と川は、一つの濁流となって地上の壁を削った。
 砂と花の兵を持ち上げ、森の城塞を粉砕する。多数の虫を巻き込んだ流れは止まらない。
 雨の王は立ち上がった。雲の玉座は水の近衛兵に変わる。地上に飛び立つ雨の王。自らが戦場を駆け、最後の攻勢をかけた。
「勝鬨だ!」
 遠雷がゴロゴロと歓声を上げる。轟く海の国の波が勝利を祝福した。
 雨の軍に侵食された大地の傷跡。風の援軍は次の戦場に向かい、川の軍勢は自国に去った。
 大地に開いた大きな穴。雨の王国の新たな領土。
 雨の王は湖の帝王となり、空に戻るまでのひと時の栄華を楽しんだ。
 
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