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雪の羽衣
しおりを挟む吹雪は山の様相を一変させる。
暗い白一色となった視界は、木崎優大の方向感覚を失わせた。
優大は突風に身をかがめながら、先ほどから同じ場所をぐるぐると回っていた。雪は腰ほどに深い。アイゼンに溜まった雪を取り除く事も出来ず、滑る重い足を一歩一歩前に出した。
岩陰か? 優大は何度も、立ち止まっては手を伸ばして落胆した。深く柔らかい雪。吹きさらしのこの場所では、雪洞を掘る事は困難だった。
先程までは晴天だった。下着に汗が滲むような透き通る青空。油断した優大は山の頂上にうっすらとかかる雲を見逃していた。
寒い……寒い……。
優大は骨の芯まで凍えるような疲労を感じた。ピッケルが異様に重い。煩わしくなり投げ捨てる。ずいぶん歩いただろうと立ち止まった。すると、捨てたはずのピッケルが真横にあり絶望する。
限界だった。だが、優大は足を止めなかった。重たいリュックを脱ぎ捨て、必死に歩いた。
人の声が聞こえた。ワイワイ、ガヤガヤ。楽しそうな音頭が前方から聞こえてきた。
ふと顔を上げると、美しい桜の木が立っていた。
ああ、何だ春か…。
優大は立ち止まった。満開の桜の木は、暖かい日の光を浴びて優しく揺れていた。
何だか、暑くなってきたぞ……。
優大は淡いピンクの花びらに夢中になりながら、手を振って手袋を脱ごうとした。だが、脱げない。仕方なくジャンパーのチャックに手を伸ばすも掴めない。
暑い……暑い……。
ふわりと何かが降ってきた。優大はそれを掴む。薄い布のようだった。それは空へと逃げようと、優大の手の中で暴れた。
羽衣だ。優大は逃すまいとそれに抱きついて身体に巻いた。
雪の羽衣だ。これは涼しいぞ。
優大は羽衣をしっかりと身体に巻きつけると、安心して桜の木に寄りかかった。そのまま目を瞑る。意識がゆっくりと遠ざかっていった。
はっと、目を覚ました。
吹雪はいつの間にか止んでいた。青い空が、枝に積もる雪の切れ間からのぞく。
見上げると、自分が大きな杉の木の下にいる事に気がついた。
捨てたはずのリュックは隣にあり、身体に巻かれた防寒シートは陽光で銀色に光っていた。
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