11 / 28
10. 私とおっさん
しおりを挟む「ベラとか言ったか。駐屯地に戻るんだろ?嬢ちゃん一人じゃ危ないから近くまで送ってやる。」
男は私の頭に手を乗せたまま言う。
「いらない」
私に戻る場所なんか無い。
歩兵第22連隊の皆がいなくなったフラガーデニアに私が留まる理由もないし、弓兵隊長を初めとして隊長を四人も殺したのだ。
隊長の補充は騎士修道会の方から適当な人物が就任するだろうが、フラガーデニアの人間を殺害し国に牙を向いたと受け取られても言い訳は出来ない。
「何だか訳ありそうだな。まだ乾ききっていないその血と関係があるのか?」
おっさんがローブを指差す。
私が纏っているローブは黒。確かに返り血で未だ乾ききっていないものの夜の闇も相まって目視することは困難のはず。なのに、男は迷いなく発言し、しかも今日の白兵戦でついたものではなく血がついてまだそんなに時間が経っていないことも確信しているようだ。
「なァに、答えたくないなら無理に答えなくてもいい。だが、これからどうする気だ」
黙っていると私が答えたくないと判断したのかおっさんはポンポンと頭を撫でているつもりなのだろうが、叩く力が強くて痛い。首への振動の負荷が半端ない。
「痛い、頭が埋まるから。何でオジサンはそんなに私のこと気にかけてくれるの?会ったばかりの見ず知らずの女なのに」
このままでは本当に身体に頭が埋まるのでは無いかと思い男の手を掴んで止める。
先程から気になっていた男の態度に顔を見上げながら尋ねると男は反対の手を顎に添えて思案する姿勢をとった。
「何でだろうな?オレにも分からん」
「はあ?」
「だけど何故かほっとけねェんだよ。あんた死にそうな顔してるし」
「っ!?」
男の曖昧な答えに悪態つくも続けられた言葉に思わず心臓が跳ねた。
『生きろよ』
ベーアンさんが私宛に最期に遺したというメッセージ。
私は前線に来て恐怖はあれど驚く程に生に対する執着がなかった。それは戦禍の傷痕を見ても変わらない。
ベーアンさんは私に戦場を離れて欲しかったのだろうが、私は戦場に留まることを選んだ。それを目の前の男にも見破られた気がして言葉が詰まる。
「行く宛が無いならオレと一緒に来るか?」
「オレとって、オジサン旅人でしょ?私は前線から離れる気はないし行く宛なら隣国か国越えして他の国で戦士として雇ってもらうからいい」
「確かに旅人でもあるがオレはディアフォーネの軍人でもあるんだがな」
「……軍人!?嘘でしょ?どう見てもただの旅人でしか無いのに!?あ、分かった。傭兵として招集されたのか。それなら納得。……というか、おじさんディアフォーネ国民だったの?」
明かされる男の身元に驚かずにはいられない。私がフラガーデニアの魔術師と分かった上で近付いて来ているから勝手にフラガーデニア国籍なのかと思っていたから予想外だ。
それにしても、とても軍人には見えない。
確かに身長はあるが、この容姿だ。髪も髭も伸び放題のチューバッカにしか見えない汚っさんが軍人とは信じ難い。
「ディアフォーネはこんなおっさんまで起用するほど人手が足りないの?」
私の思い描いていた軍人と程遠い目の前の汚っさんの姿に思考回路が追いつかずブツブツと独り言を呟く。
おっさんを見遣ると片手で耳をほじっているような汚っさんだ。どう見ても戦場で戦えるようには見えない。
出会ったばかりの時に人の近くまで近付ける程に気配を消すのが上手いのは分かったけど、軍人というとベーアンさんのような体躯がよく好戦的なイメージがあって目の前のおっさんを軍人だと受け入れる事を頭が拒否している。
「軍人かどうかはさて置くとして、おじさんディアフォーネ国民なんだよね?私も連れて行って!!」
「連れて行くのはいいが、一つ聞く。ディアフォーネに行って嬢ちゃんは何をする気だ?」
私の懇願に二つ返事で了承してくれるも、覗く瞳が私の真髄を見抜こうと真っ直ぐに見つめる。
「私、フラガーデニアの隊長を四人も殺したんだ。この血はその時についたもの。フラガーデニアには帰れない。それに、隊長を殺してようが殺してなかろうが元々フラガーデニアを出るつもりだったの。私は私を受け入れてくれる所に行きたい。居場所が欲しい。」
「なるほど。だから、先ずはディアフォーネってことか。ウチでも受け入れられなかった場合はどうする」
「出て行く。また他の国に行ってそこでも駄目ならその隣に行く。だけど、戦場で生きると決めた私を手放すような国は無いと自惚れでも何でもなく本当にそう思っているから心配しなくても大丈夫」
男から目を離さずに逡巡すること無くハッキリとそう告げると男は盛大に溜息をつく。
その態度に眉宇を寄せた時、男は口を開いた。
「嬢ちゃんの魔力が武器になると高を括ってるなら考えを改めた方がいいぞ。嬢ちゃんの魔力も万能じゃない。確かに、敵対すれば厄介な敵になるだろうが、国を滅ぼそうものなら嬢ちゃんも無事では済まないことは自分がよく分かってるだろ」
高を括ってる?無事では済まない?
言っている意味が分からず首を傾げる。
私の魔力が万能じゃないってどういうこと?
「もしかして…知らないのか?黒髪を持つ者は確かに一国を滅ぼせる程の大きな力を持っている。だけど、その反面大きな代償を自分も負うことは最近じゃ子供でも知っていることのはずだが…」
知らない。
そんな話初めて聞いた。
「フラガーデニアの連中…女子供でも関係無く国の為ならば酷使するつもりだったのか!」
男は僅かに怒気が含まれた声を発したが、私は大きな力を使う代償というもの初めて知って困惑していて気付かなかった。
「ベラ、オレと来い」
男は私に向けて手を差し出す。
「知らない事はオレが教えてやる。このまま放っておくと騙されて利用される可能性があるからな。ディアフォーネでも悪いようにはしない。上に掛けやってやるから安心しろ」
どう見てもただのしがない旅人か浮浪者にしか見えないがそう言い切って私に手を差し伸べる目の前の男は何故だか信じてもいいような気がした。
一般兵が上層部に掛け合う等出来ようはずも無いが男の言葉は嘘には聞こえなかった。
男の言葉が嘘では無いという確証は無いのに気が付いたら男の手を握っていた。
1
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる