悪役令嬢はおっさんフェチ

茗裡

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10. 私とおっさん

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「ベラとか言ったか。駐屯地に戻るんだろ?嬢ちゃん一人じゃ危ないから近くまで送ってやる。」


男は私の頭に手を乗せたまま言う。

「いらない」

私に戻る場所なんか無い。
歩兵第22連隊の皆がいなくなったフラガーデニアに私が留まる理由もないし、弓兵隊長を初めとして隊長を四人も殺したのだ。
隊長の補充は騎士修道会の方から適当な人物が就任するだろうが、フラガーデニアの人間を殺害し国に牙を向いたと受け取られても言い訳は出来ない。

「何だか訳ありそうだな。まだ乾ききっていないその血と関係があるのか?」

おっさんがローブを指差す。
私が纏っているローブは黒。確かに返り血で未だ乾ききっていないものの夜の闇も相まって目視することは困難のはず。なのに、男は迷いなく発言し、しかも今日の白兵戦でついたものではなく血がついてまだそんなに時間が経っていないことも確信しているようだ。


「なァに、答えたくないなら無理に答えなくてもいい。だが、これからどうする気だ」


黙っていると私が答えたくないと判断したのかおっさんはポンポンと頭を撫でているつもりなのだろうが、叩く力が強くて痛い。首への振動の負荷が半端ない。


「痛い、頭が埋まるから。何でオジサンはそんなに私のこと気にかけてくれるの?会ったばかりの見ず知らずの女なのに」


このままでは本当に身体に頭が埋まるのでは無いかと思い男の手を掴んで止める。
先程から気になっていた男の態度に顔を見上げながら尋ねると男は反対の手を顎に添えて思案する姿勢をとった。

「何でだろうな?オレにも分からん」
「はあ?」
「だけど何故かほっとけねェんだよ。あんた死にそうな顔してるし」
「っ!?」


男の曖昧な答えに悪態つくも続けられた言葉に思わず心臓が跳ねた。

『生きろよ』

ベーアンさんが私宛に最期に遺したというメッセージ。
私は前線に来て恐怖はあれど驚く程に生に対する執着がなかった。それは戦禍の傷痕を見ても変わらない。
ベーアンさんは私に戦場を離れて欲しかったのだろうが、私は戦場に留まることを選んだ。それを目の前の男にも見破られた気がして言葉が詰まる。


「行く宛が無いならオレと一緒に来るか?」

「オレとって、オジサン旅人でしょ?私は前線から離れる気はないし行く宛なら隣国か国越えして他の国で戦士として雇ってもらうからいい」

「確かに旅人でもあるがオレはディアフォーネの軍人でもあるんだがな」

「……軍人!?嘘でしょ?どう見てもただの旅人でしか無いのに!?あ、分かった。傭兵として招集されたのか。それなら納得。……というか、おじさんディアフォーネ国民だったの?」

明かされる男の身元に驚かずにはいられない。私がフラガーデニアの魔術師と分かった上で近付いて来ているから勝手にフラガーデニア国籍なのかと思っていたから予想外だ。
それにしても、とても軍人には見えない。
確かに身長はあるが、この容姿だ。髪も髭も伸び放題のチューバッカにしか見えない汚っさんが軍人とは信じ難い。

「ディアフォーネはこんなおっさんまで起用するほど人手が足りないの?」

私の思い描いていた軍人と程遠い目の前の汚っさんの姿に思考回路が追いつかずブツブツと独り言を呟く。
おっさんを見遣ると片手で耳をほじっているような汚っさんだ。どう見ても戦場で戦えるようには見えない。
出会ったばかりの時に人の近くまで近付ける程に気配を消すのが上手いのは分かったけど、軍人というとベーアンさんのような体躯がよく好戦的なイメージがあって目の前のおっさんを軍人だと受け入れる事を頭が拒否している。

「軍人かどうかはさて置くとして、おじさんディアフォーネ国民なんだよね?私も連れて行って!!」
「連れて行くのはいいが、一つ聞く。ディアフォーネに行って嬢ちゃんは何をする気だ?」

私の懇願に二つ返事で了承してくれるも、覗く瞳が私の真髄を見抜こうと真っ直ぐに見つめる。

「私、フラガーデニアの隊長を四人も殺したんだ。この血はその時についたもの。フラガーデニアには帰れない。それに、隊長を殺してようが殺してなかろうが元々フラガーデニアを出るつもりだったの。私は私を受け入れてくれる所に行きたい。居場所が欲しい。」

「なるほど。だから、先ずはディアフォーネってことか。ウチでも受け入れられなかった場合はどうする」

「出て行く。また他の国に行ってそこでも駄目ならその隣に行く。だけど、戦場で生きると決めた私を手放すような国は無いと自惚れでも何でもなく本当にそう思っているから心配しなくても大丈夫」

男から目を離さずに逡巡すること無くハッキリとそう告げると男は盛大に溜息をつく。
その態度に眉宇を寄せた時、男は口を開いた。


「嬢ちゃんの魔力が武器になると高を括ってるなら考えを改めた方がいいぞ。嬢ちゃんの魔力も万能じゃない。確かに、敵対すれば厄介な敵になるだろうが、国を滅ぼそうものなら嬢ちゃんも無事では済まないことは自分がよく分かってるだろ」


高を括ってる?無事では済まない?
言っている意味が分からず首を傾げる。
私の魔力が万能じゃないってどういうこと?

「もしかして…知らないのか?黒髪を持つ者は確かに一国を滅ぼせる程の大きな力を持っている。だけど、その反面大きな代償を自分も負うことは最近じゃ子供でも知っていることのはずだが…」

知らない。
そんな話初めて聞いた。

「フラガーデニアの連中…女子供でも関係無く国の為ならば酷使するつもりだったのか!」


男は僅かに怒気が含まれた声を発したが、私は大きな力を使う代償というもの初めて知って困惑していて気付かなかった。

「ベラ、オレと来い」

男は私に向けて手を差し出す。

「知らない事はオレが教えてやる。このまま放っておくと騙されて利用される可能性があるからな。ディアフォーネでも悪いようにはしない。上に掛けやってやるから安心しろ」

どう見てもただのしがない旅人か浮浪者にしか見えないがそう言い切って私に手を差し伸べる目の前の男は何故だか信じてもいいような気がした。
一般兵が上層部に掛け合う等出来ようはずも無いが男の言葉は嘘には聞こえなかった。
男の言葉が嘘では無いという確証は無いのに気が付いたら男の手を握っていた。
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