悪役令嬢はおっさんフェチ

茗裡

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13. ビフォーアフター

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未だ浮遊感が漂う。


「うえっ…酔った……」


ディアフォーネ軍の駐屯地に着くなり一際大きな天幕の中へと運ばれ今は置かれた椅子の上で蹲っていた。


「総大将達は戦場に戻っちゃったし、汚っさんは何処か行っちゃうし…こんな所に一人置き去りにされても困るんだけど……」
「なんだ?寂しがってんのか?可愛いところもあるじゃねぇか」


声を立てて笑う笑い声に背後を振り返る。
そこに居たのは、


「………誰?」


見ず知らずの男が立っていた。


「昨晩からずっと一緒にいただろ。シルヴァンだ」
「えぇ!?」


男の返答に目が飛び出らんばかりに驚愕する。
今、目の前に立っているのはどう見てもウーキー族だと思っていた男ではない。
長かった髪は首辺りまでに切られ、髪と髭の境目が分からない程に放置されていた髭も綺麗に整えられている。


「え、本当におじさんなの!?」


髪は後ろに撫で付け額を出して、髭は適度に残して整えられている。
そして、何より…何ですか!その傷は!!
鼻根と鼻梁の辺りに横一線に引かれた傷痕とケープを脱いだ下には服を着ていてもはみ出した首と肩の間から胸部に向かって出来た刀傷。

誰だこのイケおじは。
あのウーキー族がこんなビフォアフターを遂げるとは誰が思っただろうか。

呆然とおっさんを見つめていると顔が近付いてくる。
意外と凛々しい眉してるなぁとか、総大将みたいな猛々しい眼力だなぁとか思ったがそうではない。

「お、何だ?見惚れたか?」

おっさんは僅かに口角を上げ顎を摩る。
揶揄するその態度に正気に戻りおっさんの言う通り見惚れていた自分に腹立たしく思い寄せられた顔を彼方に押し遣る。


「臭い…離れて」


髪と髭は整えられていても浮浪臭は取れておらず臭いが鼻につく。


「いてっ…お前な~~。人の事言えないだろ。髪にも血がついたままじゃねぇか」


突っ張る腕を片手で取られ再びおっさんの顔が寄る。空いた手で返り血で固まった髪に触れる。指先でこびりついた血を解すがこれだからオヤジは!!
ベーアンさん程は幅はないと思っていたが意外とがっしりとした筋肉がついた腕とか服の上からでも分かる鍛えられた身体が目の前にあって先程から心臓が高鳴って鳴り止まない。


「分かったから取り敢えず離れてよ。」


総大将は年齢差が離れ過ぎていなければどストライクだったが、孫と祖父程の差が有り過ぎてストライク(内角低め)といったところで、レオナールさんもなかなかの剛将っぷりがストライクではあるものの外角高めで直球真ん中では無かった。

それが、まさか最初に出会った汚っさんが直球真ん中どストライクだとは思わなかったから今更どんな顔して取り繕えばいいのか分からなくて可愛げのない態度を取ってしまう。
今も掴まれた腕を思い切り振り払ってしまった。


「水汲んで来てるから総大将達が戻る前に汚れ落としとけ。オレは天幕の外にいるから何かあればすぐ呼べよ」


おっさんは私の態度を気にした様子も無くそう言うとテントの外に出て行った。
入口付近に目をやると木製のバケツに汲まれた水とタオルが置いてあった。
本当は風呂に入りたいが前線にお風呂があるはずもなく、また、水場に行くとなるとまた森に入らなければならないから私の置かれた立場で自由に行動することは出来ない。その為、シルヴァンさんが態々井戸から水を汲んで来てくれたのだろう。


「後でちゃんと御礼言わなくちゃ」

私はバケツを部屋の真ん中まで持って行き、タオルを濡らして軽く絞り湿り気が残った状態で血が着いた髪をタオルに挟んで血を落としていく。
一通り髪を綺麗にした所で埃っぽい体を綺麗にしようとサーコートと鎖帷子を脱いで上半身裸になる。
水に浸したタオルをキツく絞り冷水摩擦をしようとした時だった。


「大将軍が戻られたという話は本当ですかっっ」


背後から唐突に聞こえた大声にビクリと肩を上げる。


「ん?誰だ貴様」


フロントパネルの部分に立つ甲冑に身を包んだ見知らぬ若い男性。
見つめ合うことコンマ数秒。男の視線が私の顔から下に移動した瞬間、私は手に持っていたタオルを思い切り男目掛けて投げ付けた。


「いってぇな、何しやがる!!」
「何時までも見てないでさっさと出てけーーっ!!」

投げ付けたタオルは男の目元にクリーンヒットしてタオルを掴むと私に食い掛かってくる。
胸を片腕で隠しながら次の攻撃に転じる為水が入ったバケツの取手を掴むとまたもや男目掛けて振り抜いた。


ガンッ


水が弾く音と男の頭にこれまた直撃した音が響く。


「おい、どうした。何だ今の音は」


天幕の外からシルヴァンさんの声が聞こえる。


上半身裸で息を荒らげる私と額を抑えて痛みに悶絶する甲冑男と私の叫び声に駆け付けたおっさん。カオスな空間が出来上がっていた。
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