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16. 策戦変更
しおりを挟む「君の覚悟は分かった。では、早速今日から働いて貰ってその覚悟とやらを見せて頂こうか」
「今日から…だと?サロモン、お前何を企んでいる」
「そう睨まないで下さいよ。既に総大将には話を通しているのでいくらシルヴァンさんでも覆す事は出来ませんよ」
サロモンさんの話にシルヴァンさんが問い質すも既に彼の計画は総大将にまで話が通っているようでシルヴァンさんは眉宇を寄せる。
「今夜、フラガーデニアに夜襲を掛けます。」
「夜襲!?夜襲なんて荒野を移動している間に敵にバレますよ」
「ええ。ですから彼女一人に行ってもらうのです」
ユーグの驚きの声に然もありなんといった態度で発言する。
「どういう事だ。お前は慎重な奴だからまだベラを疑っているのは分かる。だけど、一人で敵地に送ろうってのか?」
「元は…いえ、その辺は問題無いでしょう?それに、彼女だからこそこの作戦は成功すると私は信じているんですよ」
サロモンさんはある事を口にしようとしてユーグに一度目を向けると首を緩く振って言い直す。恐らく、私が元はフラガーデニアの魔術師であった事を言っているのだろう。
事実、私が駐屯地に戻ったところで私が姿を消した事は問題になっているだろうが昨日今日で敵であるディアフォーネに寝返ったとは誰も思うまい。
「それに、今夜でないといけない理由もあるのです。どうやら、フラガーデニアに潜んでいる間諜の話によるとフラガーデニア国の第一王子が数日前からこの戦場に来ているようです。しかも、その側近に聖女がいるという話を聞きましてね」
「聖女だと?」
「はい。何でも、傷付いた騎士達を癒し王子の側近にも手練が複数いるらしく、未だ士気が下がる所が盛り上げて来ていると言うのです。此方としてはどうしようかと考えあぐねている時に有難いことに聖女に対抗出来る力を持つ彼女が我が軍に入ってくれた。出る杭は早めに打っておいた方が良いでしょうからね」
聖女…。光属性で闇を打ち払い傷を癒す癒し手の持ち主でもあるという聖女か。私もある程度の傷を治せるが万能ではないしどちらかというと闇属性なので破壊の方が威力が強い。
聖女は魔王に打ち勝つ力を持つともされており、人々の崇拝の対象でもある。
確かに厄介な存在だろう。私はその聖女が誰なのか、そして手練だという王子の側近達にも心当たりがある。
彼等ではまだ私を殺すには取るに足らない存在だ。だけど、そんな事はサロモンさん達が知るはずもないし未知の力は恐怖の対象ともなる。聖女の力が如何程のものなのか分からない敵対するディアフォーネ軍にとっては直ぐにでも退けたい存在だろう。
「それだけじゃないだろ。お前が聖女程度で策戦を安易に変更するタマじゃねェだろ。他に理由はなんだ」
「くくっ…流石シルヴァンさんだ。ええ、勿論ぽっと出の聖女に戦局を覆される程のヤワな戦略は立てていませんよ。ですが、この戦を長引かせるのは得策ではないと判断しました。一つは聖女と王子達の存在もあります。しかし、他にフラガーデニア国の同盟国であるアリスティーヌ国の援軍の存在が出てきたのと、今西でマルク大将軍が睨みをきかせているアッシーリ国の王が変わり勢力が急激に成長しているようなのです。他にも近隣諸国の動きが活発化しているようで此処に何時までも留まるのは得策ではないと判断しました。」
軟禁状態で育てられた私だけど、アッシーリ国は私でも知っている。
アッシーリ国は入植地で沿岸地域に建てられた国だ。
建国してまだ新しく国土面積もフラガーデニア国やディアフォーネ国よりも小さいが、即位する王が好戦的で国民もとても好戦的な民族だと学園の図書館にあった本で読んだ。
「だから、ベラとやら、君に頼みたい。私も近くの森まで共に行こう。やってくれるな?」
サロモンさんは私に向き直ると疑問符で尋ねておきながら向けられる目は有無を言わせない圧力を感じる。
「承知致しました。ただ、一つだけ良いですか」
「…何だ」
サロモンさんの目が冷たいものに変わる。
本来、まだ信頼されていない私が意見出来る事などないのだが駄目元で口を開いた。
「夜襲を仕掛けるのは騎士団と魔術師団だけでもよろしいでしょうか。主に王家直属の騎士団と宮廷魔術師団がフラガーデニア国の主力です。主力を攻撃すれば直ぐに彼等は首都への撤退を始めるでしょう」
沈黙が場を制す。
その間私はサロモンさんから目を逸らす事無く真っ直ぐに見つめると彼は私の意図を読み取り嘆息を吐いて口を開いた。
「良いだろう。残った傭兵と駐屯軍への襲撃で戦力を削ぎシーリアから後退させるのが目的だったが、確かに主戦力を削ることが出来れば王都まで撤退するだろう。主戦力には我が国にも名が届く程の猛者がいるが君は撤退させることが出来るのだな?」
猛者とは騎士団団長と魔術師団団長を初めとする幹部連中の事だろう。
彼等は強敵だ。だが、殺すのではなく、撤退を目的とするならば彼等と直接戦う必要はない。それに、傭兵の人に手を下すよりは上で胡座をかいて高みの見物をしている主戦力とやらの連中にも少しは下っ端の痛みを分からせてやりたいと言うのが私の本音だ。
その私の気持ちを見抜いていながらもサロモンさんは許可を下した。
それで十分だ。傭兵は消耗するものだと思っているフラガーデニア騎士団達の鼻を明かしてやろうではないか。
「はい。必ずやディアフォーネ軍に勝利の栄光を齎しましょう」
「ならばオレも行こう。ベラを拾ったのはオレだ。面倒を見る権利はあるだろう」
そう声を上げたのはシルヴァンさんだ。
「そう言うと思いましたよ。どうせ駄目だと言っても聞く耳は持たんのでしょう?」
「ああ。よく分かってるじゃねぇか」
盛大に息を吐き出しながら苦笑を混じえて言うサロモンさんにシルヴァンさんはニヤリと口角を上げて首肯する。
「あのっ、ならば俺も!」
「お前は駄目だ。ケヴィン達と駐屯地に残れ」
ユーグがすかさず声を上げるもシルヴァンさんに却下される。
「ユーグ、君はレオナールさん達と共に策戦が失敗した時の為の待機と王都に戻る準備、何方でも直ぐに出来るようにしておくんだ」
「……はい」
サロモンさんにまでそう言われてしまえば彼は気落ちした様子で返事をした。
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