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22. 城郭都市
しおりを挟む術式の組み換えはディアフォーネの首都バルディアに戻り私の体調が落ち着いてからということになり、シーリアと滞在していたフィンディゴに駐屯軍を配置して凱旋する事となった。
帰還する際、フィンディゴで調達したシルヴァンさんの馬に乗り、彼に凭れつつこまめに休憩をとることで私の体調も快復へと向かっていた。
首都バルディアに近付くに連れ期待が膨らむ。ずっと軟禁状態で限定された場所に行く時しか邸の外に出る事が出来なかったから初めての土地や街並みに胸が高鳴る。
「バルディアってどんなところなの?」
「一言で言えば城郭都市だな」
馬に揺られシルヴァンさんの顔を見上げて問えばそう返答があった。
城郭都市とは城壁で周囲を囲み堅固に防御した都市の事だ。中世ならではの造りである。
遠く離れた西の大陸の方では城郭都市が幾つかあると本で読んだことがあるが、私達のいる大陸ソレイユでは城郭都市は珍しい。
「城郭都市って珍しいね」
「そうだな。今は何処も戦ばかりで人手が足りないから城壁で都市を囲むのも大変だろう」
「まあ、その原因はウチにあるんだけどねん。ディアフォーネは元々小さな国だったんだけどねぇ、国を追放された者を受け入れたり異民族との併合を繰り返すうちに領土が足りなくなってしまったのよ…元々は城郭都市の内側があたし達ディアフォーネ国民の領土だったのよん」
私の体調管理の為、アリスさんも私達の速度に合わせて一緒に帰還していた為話に加わりそう教えてくれた。
「先々代の王は追放された訳あり者だろうが移民だろうが分け隔てなく受け入れた。ウチは小国だったからな。よく大国アリスティーヌと隣国ネルテとの戦渦に巻き込まれることも少なくなかったと聞く。そこで先々代の王は受け入れた者達に住む場所を提供する代わりに城壁を造らせ戦渦から国民を守ろうとしたそうだ」
シルヴァンさんがディアフォーネ国の成り立ちについてアリスさんの言葉を引き継ぎ説明してくれる。
「優しい王様だったんだね」
「だが、増え過ぎた人口は首都だけでは足りなくなり領地を広げ無くてはならなくなった。」
「先々代はあまり戦を好まない性格だったらしいんだけど、息子である先代の王は先々代とは性格が真逆で好戦的でねえ。軍事組織の革命を行ったのも先代よん。そのせいなのかお陰なのか今ではディアフォーネは軍事国家として貴族平民関係無く武勲を上げる事が出来るんだけどねぇん」
アリスさんはどうにも今の形状を良くは思っていないような表情だ。
大将軍という地位でありながら今の国情を快くは思っていないのだろうか?
確かに、戦は無いに越したことはないが、今は何処も戦で領土の奪い合いなど日常茶飯事だ。やらなければやられる。民を守る為に国を強くすることはそんなにも良くないことなのだろうか?
「アリス将…ちゃんは今のディアフォーネが好きではないの?」
ここに来る迄の間にアリスちゃんと呼んでくれと本人から何度も頼まれ話し方もシルヴァンさんと同じでいいと言われたから頼まれた通りに言い直して問い掛ける。
「そういうわけじゃないのよん。庶民でも戦果を上げれば貴族にも負けず劣らずの地位と名誉が手に入るのはとてもいいと思うわ。あたしだって庶民からの成り上がりでこの地位を手に入れたのだもの。ただ、ディアフォーネの領土が広くなる度に思うのよ。同じ人族同士で殺し合って領土を奪うことに意味があるのかって」
アリスさんはそう言うと僅かに寂しそうな表情をした。
「ディアフォーネはもう十分に大きくなったわ。移住して来た人々にも土地を与えられるほどに。だけど、大国アリスティーヌからは目を付けられ睨み合いが続き此度の戦で更に険悪ムード。西の隣国アッシーリでも屈強な戦士達が頭角を現して来ていて目が離せない。戦火が激しくなる度に巻き込まれるのはその地に暮らす庶民、その戦う術を持たない民を守る為にあたし達がいるはずなのに傷付ける側にもなっているって変な話しよね」
戦争がある限り必ずと言っていいほどに平和を望む者が行き当たる問題ではないだろうか。だが、この問題に対する解決策はあれど完璧な答え等存在しない。
近隣諸国で不可侵条約を結んだり、将来の平和の為かなりの犠牲者を出すこと覚悟で戦い続けソレイユ大陸の統一を目指すかである。
しかし、不可侵条約は相手との信頼関係が肝になってくる上に飢饉が多いこの世界では豊かな地があれば奪ってでも手に入れんとする為反故される可能性が高い。大陸の統一は非現実的であり、また、ソレイユ大陸の統一が叶ったとしても西と東にも大陸が続いている。そうなれば、次は西と東の大陸との戦争に発展するのが目に見えている。
ディアフォーネ国の現国王はそこの所どう考えているのだろうか。
「嫌だわぁん、あたしったらつい愚痴っぽい事を言っちゃったわ。ごめんなさいね、今言ったことは忘れて頂戴~~」
「ディアフォーネの現国王も好戦的な性格なの?」
アリスさんの言葉に頭を振って気にしてないと意思表示をしてふと思ったことを聞いてみる。すると、アリスさんとシルヴァンさん二人の表情が曇った事に気付いた。
「国王陛下は抜いた剣を鞘に収めることはしないが話が分からない方ではない。だが、今は病気で床に伏せてしまわれてな。陛下には正妃との間に生まれた皇子が一人だけいるのだが、この皇子が問題だな」
「…そうね。皇子は好戦的な性格だけでなく、残虐性まで兼ね備えてしまって現王が床に伏せってからは苛烈の一途を辿っているのよねん」
二人がこれほどまでに渋い顔をするとは相当イカれた皇子なのだろうか。
フラガーデニア国でもそうだが、何故上に立つ者達はこうも下劣な人間が多いのだろうか。まあ、ディアフォーネでは身分の高い皇子と出会う事など無いだろうからあまり関係無いだろうと思っていたのだが、
「皇子はよく城下町に降りて来るのよ。それもお忍びではなく堂々と街に降りて来て、人々は必ず道を開けて頭を低くしないといきなり部下に斬る様に命じるものだから城下町の人々もすっかり怯えているわ」
アリスさんの話に寄ると今までは国王陛下が皇子の行動を諌めていたが床に伏せってからは皇子の行動を諌める者がいなくなってしまったようだ。皇子の母君である正妃は皇子を産んで産後の肥立ちが悪く亡くなってしまっており、甘やかして育てた結果野放図で権勢を振りかざすようなどうしようもない性格に育ってしまったとのこと。
「それに、珍しい物が好きだとも聞いたわね。あと、感情の赴くままに行動するみたいで声が不快だったからとその者を街の真ん中で鞭打ちしたとも聞いたわ。ベラ、貴方は特徴的過ぎるから心配だわ。首都に着いたら頭部を隠した方がいいわね」
「なら次の町に着いたらそこでブルカを調達するか」
「シルヴァンさん、それ本気で言ってる?だとしたら怒るよ」
ブルカとはお姫様ベッドとかで見掛けるような天蓋を頭から被って顔全体を覆う布の事だ。そんなもの被っていたら逆に目立つし怪しい奴じゃないか。
せめて、顔の周りと頭部を覆うヒジャブでいいと思う。
「兄者!!兄者!!しっかりしてくれっ!」
じっとりとした目でシルヴァンさんを見ていると後ろの方から叫び声が聞こえて来た。
何事かと凱旋する兵達の後方に目を向けるとある一角が騒がしい。
「気にするな。恐らく帰還するまで身体が持たなかったんだろう」
シルヴァンさんは前を見つめたまま無表情で言う。しかし、その言葉で私は気付いてしまった。此度の戦は勝ったとはいえ、ディアフォーネも無傷では無いのだ。最前線で戦った者達の中には命を落とした者や負傷者が少なからずいるのだ。
「シルヴァンさん、後ろの人達のところに行きたい」
「ダメだ」
「どうして!?私の治癒魔法なら助ける事が出来るかもしれない!!」
「ベラ、貴方の力は万能じゃないと言ったはずよ。治癒魔法はかなり高度な分貴方への負担も大きくなるわ」
強過ぎる力を使い続けると何れ魔力が衰え枯渇してしまうと命を落とす危険性がある事は移動を始める前にシルヴァンさんとアリスさんから聞いた。だけど、私の魔力がどれほどのタンクがあるのか分からないけど、分からないからこそ怖がって使わないなどと言うのは嫌だ。
「折角人を助ける力があるかもしれないっていうのに黙って見殺しにするなんて出来ない!!こんな時に私の魔力を使わなくていつ使うの!?」
私はこの強く大き過ぎる魔力の所為で今まで人々から忌み嫌われて来た。確かに、私の治癒魔法自体も万能ではなく致命傷を治す事は出来ないけど、完治とまではいかないが深い傷の血を止めたりする事くらいなら出来る。
自分でも嫌っていたこの魔力を人の役に立てる事が出来るかもしれない。
人の命を奪うのではなく、助け救う事が出来る可能性があるのだとすればやっぱり人を救う事にこの力を使いたい。
「向かってくれないならいい。自分であの人達の元に向かうから降ろして」
そう言って馬を止めるように懇願するもシルヴァンさんから返事は無く、代わりに冷たい眼差しを向けられる。私の態度が気に食わなかったのか知らないけど私だって引く気は無い、対抗するように彼を睨み付けるとシルヴァンさんは深い溜息をついた。
「分かった。良いだろう」
「ちょっと!スライ本気!?だって───」
「此奴が望むんだ。行くだけでもしねぇと後が煩そうだしな」
何だか凄く失礼な事を言われた気がする。
シルヴァンさんはアリスさんの制止にそう言葉を返して馬を操り後ろの人集りが出来た場所へと向かってくれた。
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