ゼロ・オブ・レディ~前世を思い出したら砂漠に追放され死ぬ寸前でした~

茗裡

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第三章 ドワーフ国編

再会

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 商隊は、ドワーフ王ボルグラムの直々の許可を得て、好きなだけ滞在してよいと伝えられた。
 それもただの厚意ではない。王の取り計らいで、人通りの多い場所に露店を構えることができたため、商売は連日、大繁盛だった。

 ミゲル率いる大道芸一座も、広場の一角に仮設小屋を建て、日に数度の公演を行っていた。人々の歓声と拍手が、石造りの街並みにこだましている。

 団長や大人たちは貴族たちとの商談で忙しく、朝から姿を見かけない。他の者たちは交代制で露天に立ち、品物の整理や接客に追われていた。

 そんな仕事を終えたティア、ルゥナ、エリー、ノアの四人は、ようやくひと息ついたところだった。今日はこれから王都の散策がてら、ミゲルたちの公演に顔を出すつもりだ。

 ふと、ティアの視線が広場の端を捉えた。カイとレイが、エルフの双子や獣人たちと何やら言葉を交わしている。カイもレイも、今日はもう予定がなかったはず……ティアはそう思い出して、軽く手を振りながら声をかけた。

「カイ、レイー!これから王都をちょっと巡って、それからミゲルさんたちのところに顔を出そうと思ってるんだけど……一緒にどう?」

 カイはすぐにこちらを向き、少し申し訳なさそうに微笑んだ。

「悪い。俺、鍛冶屋に寄る用事があるんだ。バルザとの戦いで槍を粉砕しちまったからな。修理を頼んでたんだけど、今日受け取れるって連絡が来たんだ」
「そっか、あのときの……」

 ティアは少し驚いたように頷く。あの戦いで槍を失ったカイは、武器職人として名高いドワーフたちに修理を依頼していたのだ。

「でも、槍を受け取ったら俺も大道芸のほうに顔出すつもりだ。あとで合流する」
「うん、わかった。じゃあ、またあとでね!」

 ティアは笑顔で応え、ルゥナたちと共に王都の街並みへと歩き出した。
 ドワーフの国だけあって、通りには武器屋、防具屋、そして酒場が立ち並び、鍛冶場からは槌音が絶え間なく響いている。道行く人々の腕や背には、鍛え抜かれた筋肉が誇らしげに浮かび上がっていた。

 だが、荒々しいだけではない。
 この国のものづくりの技は実に多彩で、通りのあちこちには精巧なからくり仕掛けや、見たことのない装置が所狭しと並んでいる。

「わあ……見て、これ動いてるよ!」

 ノアが目を輝かせて、小さなからくり人形を指差す。歯車の連動で小さな人形が踊ったり、太鼓を叩いたりする様は、どこか愛嬌があり、つい足を止めたくなる。

「すごいなぁ。どうやって動いてるんだろ、これ。バネ?いや、違う……」

 エリーがからくりの構造に目を凝らしながら、首をかしげる。

「ルゥナこれ欲しい!……けど、すぐ壊しちゃいそうだから我慢っ」

 ルゥナの百面相に、ティアもくすくすと笑った。

「でもほんと、どれも職人技だね。さすがって感じ」

 そんな彼女たちに、通りのドワーフたちは気さくに声をかけてくる。

「そこの嬢ちゃんたち!これ持っていきな。今朝採れたばっかのリンゴだよ!」
「えっ、いいんですか?じゃあ、お金を──」

 ティアが懐を漁りかけると、隣の八百屋のおかみさんが慌てて手を振った。

「なに言ってんだい。あんたたちは英雄様たちの仲間だろ?うちの旦那が“礼を取るな”って言ってたよ」
「……ありがとうございます!いただきます!」

 彼女たちは林檎を受け取りながら、何度も頭を下げた。優しさが胸に沁みる。
 そうこうしているうちに、大道芸の次の公演時間が近づいていた。

「やば、そろそろ広場行かないと!」
「うん、挨拶しに行こう!」

 ティアたちは慌てて足を速める。ミゲルたちの仮設舞台がある広場では、すでに人だかりができており、二人の美人踊り子──リシェルとカナリアが会場案内と呼び込みをしていた。

「リシェルさん、カナリアさん!」
「ティアちゃんたち!来てくれたのね!」

 二人は満面の笑みで手を振った。

「二人とも、今日も相変わらず綺麗だね~」
「ほんと、舞台映えする」

 ノアが感嘆し、エリーもうなずいた。

「ふふっ、旅の途中で少しは踊れるようになったでしょ?今日は一緒に舞台に立ってみる?」

 カナリアがからかうように言うと、ティアたちは一斉に両手を振った。

「「「む、無理無理無理無理!」」」

 慌てて否定する三人に、リシェルがいたずらっぽく笑う。

「でもさ、踊り子の衣装は可愛かったよね~」
「それは……うん、また着てみたいかも」

 そんな楽しげな笑いの中、突然──

「レティシア様?」

 女性の声が、見物客の列から響いた。
 ティアの動きがぴたりと止まる。耳に届いたその声に、血の気が引いていくのを感じた。

 ぎこちなく振り返ると、そこには、マリエルとジークハルト、そして彼の側近たちがいた。

「マリエル嬢……」

 ティアは震えた声で名を呼んだ。

「やっぱり、レティシア様ですよ!だから言ったじゃないですかぁ!」

 マリエルは目を輝かせ、ぱっと顔を華やがせると、ジークハルトたちに嬉しそうに振り向いた。

 ティアの異変に気づき、ルゥナ、エリー、ノアの三人は顔を見合わせ、不安げな表情を浮かべる。明らかに、ただならぬ空気が流れていた。
 リシェルとカナリアもすぐに空気の変化を察し、さっと前に出る。

「もうすぐ公演が始まりまーす!見物のお客様は、どうぞ中へお進みくださーい!」

 その場の空気を和らげようと、呼び込みを装って視線を遮る。

「これは美しい!いや、美しすぎる!」

 側近の一人、着飾った軽薄そうな男が前に出ると、リシェルとカナリアの手を順に取り、その甲へキスを落とす。

「公演が終わったら、ぜひ一緒にお食事でもどうですか?お二人の踊りに乾杯を」

 彼の名は、ヴィクト・ロゼル。ティアたちより一学年上で、学生時代から女好きで知られた軽薄な貴族青年だった。

「……背筋がぞわぞわするんですけど……」
「なんか……今、鳥肌立ったわ」

 カナリアとリシェルは明らかに引いた表情を浮かべていた。

「ティア、敵襲だ!」

 ルゥナが尻尾を逆立て、臨戦態勢に入る。緊張が高まりかけたそのとき。
 冷たくなっていた指先を、そっと包むぬくもりがあった。
 横にいたエリーとノアが、黙ってティアの手を握っていたのだ。
 その静かな心遣いが、胸に沁みる。

──レティシアの時とは違う。今はみんながいてくれる。

 ティアは目を閉じ、深く息を吐いた。
 エリーとノアの手を一度しっかりと握り返し、覚悟を定めて目を開く。

「……ありがとう、みんな。もう大丈夫」

 震えを帯びながらも、力のこもった声だった。
 ティアはルゥナの肩にそっと手を置き、制するように合図する。
 そして、静かに一歩、前へ出た。

「ヴィクト様。お二人の手を、放してくださいませんか?」

 穏やかながら、凛とした声だった。

「おお……本当に、レティシア嬢じゃないか!」

 ヴィクトは驚きに目を見開き、まじまじとティアを見つめる。
 そしてティアは、貴族令嬢としての面持ちを整え──

「ジークハルト殿下、マリエル嬢、皆様……お久しゅうございます」

 深く一礼し、優雅にカーテシーを添えた。
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