47 / 66
第三章 ドワーフ国編
一斧、断滅
しおりを挟む
──《眠れ、無価値な者どもよ。》
アモンの巨脚が、雷鳴のごとき音とともにカイたちの頭上へと振り下ろされた。その瞬間。
ズシャッ!!
空気を裂く鈍い斬撃音。直後、重々しい肉の塊が地面に落ちる轟音。
アモンの脚が、膝から下ごと斬り飛ばされたのだ。
──《が……ああアァァァッ!!?》
アモンが絶叫する。巨体を揺らし、痛みと怒りにまみれた声で叫ぶ。
──《誰だ……何奴だァア!!?》
視線を彷徨わせた先。現れたのは一人の巨漢。
分厚い胸板、鉄をも砕く戦斧。堂々たる体躯に、風を裂く気迫。
その男──ボルグラムは、黙って斧を肩に担ぎ上げると、意識を失いかけた若者たちの前に立ち塞がった。
「前途ある若木を今、狩られては困るんでな」
低く、地の底から響くような声が戦場にこだまする。
ボルグラムはちらりと、血と泥に塗れた三人を見やる。
「よくやった。お前たちのおかげで、住民への被害は最小で済んだ」
その声は無骨だが、どこか労う色があった。
だがすぐに、鋭い視線がアモンへと戻る。
「貴様の断末魔は……さぞや騒々しかろう。これ以上、無駄に地を荒らされては敵わん。場所を移すぞ」
その言葉と同時に、ボルグラムの両足が地を踏みしめた。
膝を沈ませ、全身の力を斧へと集中させる。
次の瞬間──
戦斧が、空気ごと切り裂く。
風が後を追うように音を置き去りにし、天地を揺らすような斬撃がアモンを襲った。
──《フン……舐めるなァ!!》
アモンが幾本もの尾を集束させ、迎撃の構えを取る。
ぶつかり合う金属音。尾と斧の衝突から、火花が四散した。
だが──抗いは長くは続かなかった。
咆哮のような衝撃音と共に、アモンの巨体が地面を離れる。
ボルグラムよりも遥かに大きいその躯が、弾かれたように宙を舞い、まっすぐ東門の外へと吹き飛んでいく。
その衝撃波で、周囲の土煙が激しく舞い上がった。
その光景を遠巻きに見ていたスピナは、目を見開いたまま数秒固まると、徐々に頬を緩ませ、口元をにやつかせた。
「キタキタキタキターーー!この人、絶対ボルグラム王でしょ!?なにあれ、威力えぐっ!あんなの人間の動きじゃないって!」
彼は興奮気味に地面を蹴って立ち上がる。まるで心待ちにしていた英雄の登場を歓迎するように、両手を胸元で握りしめ、わくわくとした様子で戦場の先を見据える。
だが、すぐに思い直したように、指を立てて小さく呟いた。
「……っと、いけないいけない。“お仕事”もちゃんとしなきゃね」
ピュイ、と軽やかに口笛を吹くと、月明かりに照らされた彼の影の中から、音もなく一羽の黒い鳥が現れる。鳥はスピナの肩に一度とまると、すぐに夜空へ舞い上がり、西の空へと滑るように飛び去った。
「はい、お仕事完了っと♪」
スピナは軽く伸びをし、肩を回す。数度、屈伸をして脚に力を込めると、風を切って一気に空へと舞い上がった。飛行魔術による高速移動。
一直線に、アモンとボルグラムの戦いの行方を追っていく。
その背後──黒い鳥が消えた西の空には、静かに、しかし確実に、複数の影が王都グラントハルドに向かって接近していた。
アモンの巨体は、数十キロ先まで吹き飛ばされた。
地面を抉りながら滑っていくその途中、アモンは一本の尾を突き立てて強引に減速した。地面が裂け、岩が砕ける。
──《チッ……小癪な……》
地響きと共に立ち上がるアモン。その目には獣の本能的な警戒と怒りが宿っている。すぐに身を翻し、跳躍して戻ろうとした。
ドンッ!!
その目前。爆風のような衝撃と共に、巨大な影が空を切って現れた。
「逃げ場を探す余裕があるとはな。余も、なめられたものだ」
ボルグラムだった。人間のはずの彼が、どうやって追いついたのか。空を裂くような勢いで地を踏み締め、既にアモンの間合いに入り込んでいた。
──こやつ……本当に人間の動きか!?
アモンの脳裏に、かすかな動揺が走る。だがそれを言葉にするより早く、巨斧が容赦なく振るわれた。
地鳴りのような衝撃音が響く。アモンは瞬時に尾を盾のように展開して受け止めたが、その衝撃に全身が軋む。
──《がッ……!!》
重い。一撃の質量が、これまでの人間とは桁違いだ。力で押し返そうとしても、まるで山そのものが動いているかのような手応え。
「遅いぞ、魔獣」
ボルグラムの低い声が至近距離で響く。その声と共に、斧が大きく弾かれ、連撃へと繋がる。
回転するように斧が連続で振るわれる。一撃ごとに空気が引き裂かれ、空間が振動する。
アモンは全尾を盾として広げ、跳躍と回避で凌ぐ。しかしその動作すら、既にギリギリだった。
──この男……ただの怪力ではない。斧の軌道が……重力を逆手に取ってやがる!!
地形を崩し、岩盤すら叩き割る一撃が、戦場を刻む。
だがアモンもまた、魔族屈指の怪物。
──《吠えろ、我が尾よッ!!》
六本の尾が一斉にうねり、蛇のような挙動でボルグラムを襲う。鋭く、速く、殺意を込めて。
「遅いな」
ボルグラムはその尾を、一本、また一本と、叩き斬るように振り払う。まるで絡みつく蔦を払い落とすかのような単純で、強引で、しかし決定的な斧の使い方。
ズバッ!!
一瞬、尾の一本が宙を舞った。切断面から血飛沫が噴き上がる。
──《ぐ……あああアアッ!!》
アモンが咆哮を上げた。傷口をかばうように身を引きつつ、瞳の奥に燃え盛る怒りが灯る。
──《人間ごときが舐めるなよ!黒炎爆砕》
叫ぶと同時に、奔流のような黒炎がボルグラムを飲み込んだ。大地が焼け爛れ、炎の圧力だけで地表が爆ぜる。骨さえも残さないとされる、アモンの切り札。その火力は、広範囲を文字通り地獄へと変えた。
だが──。
火煙の中から、重々しい足音が響く。
焦げた地面に、確かな足取りで姿を現したのは、ボルグラムだった。
片腕に軽い火傷の痕を残しながらも、悠然と立っている。鎧の表面が黒く煤けているものの、戦斧はしっかりと手に握られたままだ。
「……派手な火遊びだな。だが、悪いな。焼き加減が甘い」
静かにそう呟いた声が、黒炎の熱気を切り裂いた。
アモンの顔から怒りが失せ、代わりに、初めて明確な「恐れ」が浮かぶ。
ボルグラムの生還に、アモンの表情が一瞬凍りつく。だが、獣の本能がすぐに警鐘を鳴らす。
──殺らねば、殺られる。
怒りを爆発させるように、アモンは尾を広げて突撃した。その巨体に似合わぬ速度で接近し、尾で地を抉り、口からは猛毒を含んだ咆哮を放つ。
対するボルグラムは、一歩も退かず、むしろ自ら踏み込む。
巨腕がぶつかり、拳が衝突し、尾が風を裂き、斧が受け止める。轟音と振動が周囲に拡がるたび、地面が裂け、木々が倒れ、岩が粉砕された。
アモンの鋭い尾がボルグラムの肩をかすめる。だが、ボルグラムはそれを気にする様子もなく、逆にアモンの胴体へ拳を叩き込んだ。鈍い衝撃とともに、アモンの体がよろめく。
──《くっ……!!》
アモンが踏み込み、尾を薙ぎ払う。無数の棘が鋭く伸び、避ければ別の尾が迫る──連撃。しかし、それすら読んでいたかのように、ボルグラムは斧を低く構え、次の瞬間に飛び込んだ。
刃が閃き、尾を数本まとめて叩き斬る。血が舞い、アモンの怒声が響く。
──《虫けらの分際で我にこの力を使わせたこと、後悔するがいい!》
アモンの魔力が一気に高まる。全身の尾が蠢き、禍々しい黒炎とともに周囲の大気が震え始めた。
──《断界咎音》
瞬間、空間がねじ曲がった。
耳を裂くような、「鐘」の音が鳴り響く。金属を擦り合わせたような不協和音ではない。荘厳で、それでいて破滅を告げるような、終末の鐘だった。
次の瞬間、周囲の空間が“止まった”。
ボルグラムの体が鉛のように重くなる。時間が鈍化し、魔力の流れが断たれ、重力の感覚すら狂う。
まるで、全てが死を迎えた世界のように。
──《この空間に入った以上、もはや逃れられぬ。魔法も、力も、重さすらも失え──そして絶望のまま、朽ちろ!!》
アモンが襲いかかる。尾がいくつも広がり、遅くなった時間の中で一斉にボルグラムを貫かんと迫る。
だが──
ボルグラムの口元が、わずかに動いた。
「ふん……重くなった分、叩き甲斐がある」
その声と同時に、地鳴りのような音が鳴った。明らかに、この停止した空間に逆らうような一歩。
ボルグラムが、動いたのだ。
常人であれば身動きすら叶わぬ空間を、彼は「力」で捻じ伏せる。
その一歩が、音の壁を砕き、
二歩目が、時の淀みを裂き、
三歩目で──斧を振りかぶった。
アモンの目が見開かれる。
──《馬鹿な……この空間で動ける……!? 人間ごときが……!》
「人間“だから”限界を超えられるんだよ。知らなかったか?」
そして、刃が落ちた。
断界の空間をも裂き、空気を縫い、魂を断ち割る一閃。
アモンの巨体が、今度こそ完全に、縦一文字に断たれる。
血が噴き上がり、沈黙が訪れた。
二つに割れた躯が、地に落ちる。大地が揺れた。
ボルグラムは、斧を担ぎ直し、静かに背を向けた。言葉も、振り返りもせず。ただ、前だけを見て歩き出す。
その背中が、地上に生きる者とは思えぬほどに大きく見えた。
アモンの巨脚が、雷鳴のごとき音とともにカイたちの頭上へと振り下ろされた。その瞬間。
ズシャッ!!
空気を裂く鈍い斬撃音。直後、重々しい肉の塊が地面に落ちる轟音。
アモンの脚が、膝から下ごと斬り飛ばされたのだ。
──《が……ああアァァァッ!!?》
アモンが絶叫する。巨体を揺らし、痛みと怒りにまみれた声で叫ぶ。
──《誰だ……何奴だァア!!?》
視線を彷徨わせた先。現れたのは一人の巨漢。
分厚い胸板、鉄をも砕く戦斧。堂々たる体躯に、風を裂く気迫。
その男──ボルグラムは、黙って斧を肩に担ぎ上げると、意識を失いかけた若者たちの前に立ち塞がった。
「前途ある若木を今、狩られては困るんでな」
低く、地の底から響くような声が戦場にこだまする。
ボルグラムはちらりと、血と泥に塗れた三人を見やる。
「よくやった。お前たちのおかげで、住民への被害は最小で済んだ」
その声は無骨だが、どこか労う色があった。
だがすぐに、鋭い視線がアモンへと戻る。
「貴様の断末魔は……さぞや騒々しかろう。これ以上、無駄に地を荒らされては敵わん。場所を移すぞ」
その言葉と同時に、ボルグラムの両足が地を踏みしめた。
膝を沈ませ、全身の力を斧へと集中させる。
次の瞬間──
戦斧が、空気ごと切り裂く。
風が後を追うように音を置き去りにし、天地を揺らすような斬撃がアモンを襲った。
──《フン……舐めるなァ!!》
アモンが幾本もの尾を集束させ、迎撃の構えを取る。
ぶつかり合う金属音。尾と斧の衝突から、火花が四散した。
だが──抗いは長くは続かなかった。
咆哮のような衝撃音と共に、アモンの巨体が地面を離れる。
ボルグラムよりも遥かに大きいその躯が、弾かれたように宙を舞い、まっすぐ東門の外へと吹き飛んでいく。
その衝撃波で、周囲の土煙が激しく舞い上がった。
その光景を遠巻きに見ていたスピナは、目を見開いたまま数秒固まると、徐々に頬を緩ませ、口元をにやつかせた。
「キタキタキタキターーー!この人、絶対ボルグラム王でしょ!?なにあれ、威力えぐっ!あんなの人間の動きじゃないって!」
彼は興奮気味に地面を蹴って立ち上がる。まるで心待ちにしていた英雄の登場を歓迎するように、両手を胸元で握りしめ、わくわくとした様子で戦場の先を見据える。
だが、すぐに思い直したように、指を立てて小さく呟いた。
「……っと、いけないいけない。“お仕事”もちゃんとしなきゃね」
ピュイ、と軽やかに口笛を吹くと、月明かりに照らされた彼の影の中から、音もなく一羽の黒い鳥が現れる。鳥はスピナの肩に一度とまると、すぐに夜空へ舞い上がり、西の空へと滑るように飛び去った。
「はい、お仕事完了っと♪」
スピナは軽く伸びをし、肩を回す。数度、屈伸をして脚に力を込めると、風を切って一気に空へと舞い上がった。飛行魔術による高速移動。
一直線に、アモンとボルグラムの戦いの行方を追っていく。
その背後──黒い鳥が消えた西の空には、静かに、しかし確実に、複数の影が王都グラントハルドに向かって接近していた。
アモンの巨体は、数十キロ先まで吹き飛ばされた。
地面を抉りながら滑っていくその途中、アモンは一本の尾を突き立てて強引に減速した。地面が裂け、岩が砕ける。
──《チッ……小癪な……》
地響きと共に立ち上がるアモン。その目には獣の本能的な警戒と怒りが宿っている。すぐに身を翻し、跳躍して戻ろうとした。
ドンッ!!
その目前。爆風のような衝撃と共に、巨大な影が空を切って現れた。
「逃げ場を探す余裕があるとはな。余も、なめられたものだ」
ボルグラムだった。人間のはずの彼が、どうやって追いついたのか。空を裂くような勢いで地を踏み締め、既にアモンの間合いに入り込んでいた。
──こやつ……本当に人間の動きか!?
アモンの脳裏に、かすかな動揺が走る。だがそれを言葉にするより早く、巨斧が容赦なく振るわれた。
地鳴りのような衝撃音が響く。アモンは瞬時に尾を盾のように展開して受け止めたが、その衝撃に全身が軋む。
──《がッ……!!》
重い。一撃の質量が、これまでの人間とは桁違いだ。力で押し返そうとしても、まるで山そのものが動いているかのような手応え。
「遅いぞ、魔獣」
ボルグラムの低い声が至近距離で響く。その声と共に、斧が大きく弾かれ、連撃へと繋がる。
回転するように斧が連続で振るわれる。一撃ごとに空気が引き裂かれ、空間が振動する。
アモンは全尾を盾として広げ、跳躍と回避で凌ぐ。しかしその動作すら、既にギリギリだった。
──この男……ただの怪力ではない。斧の軌道が……重力を逆手に取ってやがる!!
地形を崩し、岩盤すら叩き割る一撃が、戦場を刻む。
だがアモンもまた、魔族屈指の怪物。
──《吠えろ、我が尾よッ!!》
六本の尾が一斉にうねり、蛇のような挙動でボルグラムを襲う。鋭く、速く、殺意を込めて。
「遅いな」
ボルグラムはその尾を、一本、また一本と、叩き斬るように振り払う。まるで絡みつく蔦を払い落とすかのような単純で、強引で、しかし決定的な斧の使い方。
ズバッ!!
一瞬、尾の一本が宙を舞った。切断面から血飛沫が噴き上がる。
──《ぐ……あああアアッ!!》
アモンが咆哮を上げた。傷口をかばうように身を引きつつ、瞳の奥に燃え盛る怒りが灯る。
──《人間ごときが舐めるなよ!黒炎爆砕》
叫ぶと同時に、奔流のような黒炎がボルグラムを飲み込んだ。大地が焼け爛れ、炎の圧力だけで地表が爆ぜる。骨さえも残さないとされる、アモンの切り札。その火力は、広範囲を文字通り地獄へと変えた。
だが──。
火煙の中から、重々しい足音が響く。
焦げた地面に、確かな足取りで姿を現したのは、ボルグラムだった。
片腕に軽い火傷の痕を残しながらも、悠然と立っている。鎧の表面が黒く煤けているものの、戦斧はしっかりと手に握られたままだ。
「……派手な火遊びだな。だが、悪いな。焼き加減が甘い」
静かにそう呟いた声が、黒炎の熱気を切り裂いた。
アモンの顔から怒りが失せ、代わりに、初めて明確な「恐れ」が浮かぶ。
ボルグラムの生還に、アモンの表情が一瞬凍りつく。だが、獣の本能がすぐに警鐘を鳴らす。
──殺らねば、殺られる。
怒りを爆発させるように、アモンは尾を広げて突撃した。その巨体に似合わぬ速度で接近し、尾で地を抉り、口からは猛毒を含んだ咆哮を放つ。
対するボルグラムは、一歩も退かず、むしろ自ら踏み込む。
巨腕がぶつかり、拳が衝突し、尾が風を裂き、斧が受け止める。轟音と振動が周囲に拡がるたび、地面が裂け、木々が倒れ、岩が粉砕された。
アモンの鋭い尾がボルグラムの肩をかすめる。だが、ボルグラムはそれを気にする様子もなく、逆にアモンの胴体へ拳を叩き込んだ。鈍い衝撃とともに、アモンの体がよろめく。
──《くっ……!!》
アモンが踏み込み、尾を薙ぎ払う。無数の棘が鋭く伸び、避ければ別の尾が迫る──連撃。しかし、それすら読んでいたかのように、ボルグラムは斧を低く構え、次の瞬間に飛び込んだ。
刃が閃き、尾を数本まとめて叩き斬る。血が舞い、アモンの怒声が響く。
──《虫けらの分際で我にこの力を使わせたこと、後悔するがいい!》
アモンの魔力が一気に高まる。全身の尾が蠢き、禍々しい黒炎とともに周囲の大気が震え始めた。
──《断界咎音》
瞬間、空間がねじ曲がった。
耳を裂くような、「鐘」の音が鳴り響く。金属を擦り合わせたような不協和音ではない。荘厳で、それでいて破滅を告げるような、終末の鐘だった。
次の瞬間、周囲の空間が“止まった”。
ボルグラムの体が鉛のように重くなる。時間が鈍化し、魔力の流れが断たれ、重力の感覚すら狂う。
まるで、全てが死を迎えた世界のように。
──《この空間に入った以上、もはや逃れられぬ。魔法も、力も、重さすらも失え──そして絶望のまま、朽ちろ!!》
アモンが襲いかかる。尾がいくつも広がり、遅くなった時間の中で一斉にボルグラムを貫かんと迫る。
だが──
ボルグラムの口元が、わずかに動いた。
「ふん……重くなった分、叩き甲斐がある」
その声と同時に、地鳴りのような音が鳴った。明らかに、この停止した空間に逆らうような一歩。
ボルグラムが、動いたのだ。
常人であれば身動きすら叶わぬ空間を、彼は「力」で捻じ伏せる。
その一歩が、音の壁を砕き、
二歩目が、時の淀みを裂き、
三歩目で──斧を振りかぶった。
アモンの目が見開かれる。
──《馬鹿な……この空間で動ける……!? 人間ごときが……!》
「人間“だから”限界を超えられるんだよ。知らなかったか?」
そして、刃が落ちた。
断界の空間をも裂き、空気を縫い、魂を断ち割る一閃。
アモンの巨体が、今度こそ完全に、縦一文字に断たれる。
血が噴き上がり、沈黙が訪れた。
二つに割れた躯が、地に落ちる。大地が揺れた。
ボルグラムは、斧を担ぎ直し、静かに背を向けた。言葉も、振り返りもせず。ただ、前だけを見て歩き出す。
その背中が、地上に生きる者とは思えぬほどに大きく見えた。
3
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
追放された聖女は旅をする
織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。
その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。
国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
夫より強い妻は邪魔だそうです【第一部完】
小平ニコ
ファンタジー
「ソフィア、お前とは離縁する。書類はこちらで作っておいたから、サインだけしてくれ」
夫のアランはそう言って私に離婚届を突き付けた。名門剣術道場の師範代であるアランは女性蔑視的な傾向があり、女の私が自分より強いのが相当に気に入らなかったようだ。
この日を待ち望んでいた私は喜んで離婚届にサインし、美しき従者シエルと旅に出る。道中で遭遇する悪党どもを成敗しながら、シエルの故郷である魔法王国トアイトンに到達し、そこでのんびりとした日々を送る私。
そんな時、アランの父から手紙が届いた。手紙の内容は、アランからの一方的な離縁に対する謝罪と、もうひとつ。私がいなくなった後にアランと再婚した女性によって、道場が大変なことになっているから戻って来てくれないかという予想だにしないものだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる