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11. 門出
しおりを挟む「お姉さん、本当に行っちゃうんですか?」
「折角仲良くなれたのに」
「ずっと事務員のお姉さんでいてよ」
「何処にも行かないで~」
「僕達、シホさんのこと好きになっちゃたんだもん」
「やだよ~出て行かないで」
「もっと遊ぼうよ」
「……此処、いて。みんな……悲しむ」
「シホさん天女じゃないんでしょ?だったら居てよぉ」
「みんな、こう言ってますのでシホさん、考えを改めて貰えませんか?」
二ヶ月とちょっと経ったある日。御覧の通り私は月組の子達に引き留められる程仲良くなった。というか、懐かれた。
そして、感動の別れがあったりして、なんて懐かれている事が分かった時には淡い期待もした。
そして、今日、その期待通りに子供達に引き留められている。感動の別れとなるはずだった。────本来は1ヶ月後に。
「ちょ、何で月組の子達が此処に!?」
私は大きな鞄を持って学園長室から出るとそこには月組のよい子が目を潤ませて立っていた。
そして、学園長室から出た瞬間子供達に抱き着かれて現在に至る。
「こらこら、お前達。無理を言っちゃ駄目だろう」
付き添いで来ていたリュオマ先生が子達を宥める。
出来れば此処に来る前に止めて欲しかった!!
「ちょ。離れ……ぜはーっ。1週間新しい就職先に下見行くだけだからっ。また、1週間後には会えるから!!離して~~」
私は足やら腕やら身体に子供達をまとわりつかせたまま前進する。子供とはいえど、十人もの体重を身一つで支えるのは無理がある。ぜはぜは、と肩で呼吸しながら廊下を進む。5mくらいは進んだかと振り返ると学園長室からは1mしか進んでなくて絶望した。
「うっわぁ、辛そ~」
「意外と力あるんですねぇ」
全然心の篭っていない声が二つ。
「リュオマ先生は分かるとして、何で貴方達まで居るんですか」
なかなか進まない絶望感と此方を面白そうにニヤニヤと見つめる姿にギロりと二人の男子生徒を睨み付ける。そこには、ローペ・カンナスとライノ・ロッポラの姿があった。
「「え?面白そうだから」」
くっそ。マジくっそ。
言葉が汚いとかそんな事言ってられない。
早く行かないと時間が遅れてしまうんだ。折角紹介して貰った新しい就職先になるかもしれない場所に下見とはいえ遅れるのは良くない。新しい就職先には15分前には到着するべし、これ、日本人の心得。ルーズな奴と思われたらたまったものじゃない。
ローペくんとライノくんには期待出来そうも無いし、というか寧ろ面白がってるしリュオマ先生は宥めてはいるけど宥めているだけで強制的に引き剥がしたりはしない。
授業では厳しいのにこういう時は子供達に甘いんだから!!
私は溜息を一つ吐いて動きを止める。
「ねぇ、みんな。私はまた、1週間後に必ず皆の元に戻って来るよ。1週間なんてあっという間なんだから。それまでよい子に待ってられるかな?みんな、に笑顔で「おかえり」って言って貰いたいなぁ」
私は一人一人優しく子供達の頭を撫でていく。すると、一人二人と顔を上げて私を見上げる。
『本当に?戻って来る?』
「うん、もちろん。だから、戻って来たら皆からの「おかえり」を待っているからね」
そこの職場がいい所だったら戻っても直ぐにまた、出て行くけど。とは言わなかった。
漸く子供達は納得したのか私の身体から降りてくれて開放感に数度腕を回す。
そして、しゃがんでお約束となりつつあるポケットに忍ばせていた月組のよいこ達用の飴袋を取り出し一人ずつ口の中に飴玉を放り込んでやる。
『お姉さん、僕達ちゃんとおかえりって言うからね』
「よしっ、いい子だ。楽しみにしてるよ。帰って来たら私の大好きな皆の笑顔で出迎えてね」
また、わしゃわしゃと子供達の頭を撫でてやるとワーキャーと喜んで騒ぎ出した。一通り構ってから立ち上がると次は「行ってらっしゃい」と見送ってくれた。
下見先の職場はアータミくんの実家に行くこととなった。実はアータミくんいい所のお坊っちゃんだったらしく、実家は老舗の旅館を経営しているらしい。中世ヨーロッパ風な世界に旅館なんかあるの!?と思ったが細かい事は気にしないことにした。
元々時代錯誤の多い作品だったし、ありなんだろう。
だが、日本人である私としてはとても嬉しい情報だった。即刻アータミくんに頼んで実家に連絡して貰ったところいい返事が貰えて今日から1週間下見で研修させて貰えることとなった。仕事内容を聞くと日本の旅館とそう変わらず仕事着も着物らしいので今からとても楽しみだ。
私は浮かれた気持ちで旅館へと向かう。
まさか、これから先あんな事やこんな事が起こるとは夢にも思いもしなかった…………
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