異世界[ショートショート]

アケビ(仮)

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異世界

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私はベランダへ出ると口にくわえた煙草の先端にライターの火をあてがった。
付近の家々が月光に照らされ、内部の光を窓から漏らしている。
そのうちいくつかの消灯を見届けると部屋に上がりベッドに倒れこむ。
布団を肩まで引っ張り、目を閉じるといっそう強くぬくもりを感じた。

目が覚めるとそこは私の家ではなかった。
視界にちらつく草が月明かりに照らされている。
私は足元の雑草を踏みしめて大きな一軒家の前に立っており、
不快感を感じさせる絶妙な温度の温風が全身をなでた。
後ろを振り向くとあたり一面に草原が広がっており
花も草も雨後のように湿っている。
「どうなっているんだ」
私は思わず独り言ちた。
煙草を取り出そうとポケットに手を入れたがライターしか入っていない。
「なんなんだここは」
私はひとまず足元の湿った草から離れようと一軒家の玄関ドアに手をかけた。
「空いている……お邪魔します」
一応声をかけるがそこに誰もいないことは一目でわかった。
なかには全面を木の板で覆った出鱈目に広い空間が広がっている。
それだけだった。
ほかには扉の一つも見当たらない。
私はやけになってライターの火を家に移した。

元の家へと帰りたいとだけ願って駆け出した。
しばらく走っていると足元に草ではなくコンクリートが見えた。
「やった」
私は安堵した。
見覚えのある街並みが見えたのだ。
私は間違いなく自宅の近所を走っていた。
なんとか家の前にたどり着く。
肩で息をする私の眼には焼け落ちた自宅が映っていた。
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