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「グレイ……様」
「ああ。君はアリエス嬢で間違いないね?」
「はい」
グレイ様は目を細め、私の顔をジッと見つめる。
私は彼の視線から目を離せなくなり、ボッと顔を赤くした。
「あ、あの……そんなに見つめられると恥ずかしいです」
「ははは。すまない。あまりにも君が美しくて……それに」
「それに?」
「……いや、なんでもない」
馬車の前まで移動し、お別れの時間がやってきた。
私は少し名残惜しい気分で馬車に乗ろうとする。
だがグレイ様が突然、それを遮るかのように私の前に立つ。
「グレイ様?」
「……すまない。もう少し君の時間を俺にくれないか?」
「……はい」
自然と私はそう返事していた。
私はグレイ様と共に町の散歩を始める。
ユージン様のお父様が納めるエミュロットの町……
ここは大きく華やかな町で、立ち並ぶお店には無いものなどないように思えるほどに充実した品揃えをしている。
見たこともないような食べ物や、ブリキ。
グレイ様の隣を歩きながら、私は感嘆の声を上げる。
「アリエス。あの店に入ろうか」
グレイ様が指差したのはアクセサリーを販売しているお店だった。
周りと比べても高そうなお店で、少し入るのに躊躇してしまうほどだ。
貧乏貴族である私には、少々敷居が高いように思える。
「さあ、入ろう」
グレイ様が私に手を差し伸べる。
私は高鳴る心臓でその手を取った。
ドキドキしながら私はグレイ様について店へと足を運ぶ。
手汗をかき、喉が渇く。
顔は赤くなっているだろうし、少し足が震える。
グレイ様に気づかれないだろうか。
こんなに緊張していることを。
私はグレイ様の様子を窺いながら、自分の感情がバレないようにと祈るばかり。
店の商品など見るような余裕はない。
グレイ様が商品を見ながら何か言っている。
私は呆けたままで彼の言葉に頷いていた。
何を言っているのだろう?
分からない。
私はただ祈るばかり。
この胸の高鳴りが彼に伝わりませんようにと。
「お待たせいたしました」
「……え?」
お店の方から包装された包みを手渡される。
私は唖然としながら、それを受け取った。
「あの……これ?」
「? それでいいと言っただろ?」
「……えええっ!?」
どうやらグレイ様が購入してくれたようだ。
私は申し訳ない気持ちになり、グレイ様に返そうと突き出した。
「あ、会ったばかりのお方にこんな物をいただくわけにはまいりません!」
「じゃあ、俺にそれを使えというのかい?」
「え、ええ?」
「女性物だよ」
「…………」
「あまり深い意味で捉えてもらわなくていい。初めて会話をした記念。それぐらいで考えてもらえればいいから」
初めて会話をしただけでこんな物を頂けるなんて……
私は困惑したまま、しかし喜びを胸に包みをギュッと胸に押し付けるのであった。
「ああ。君はアリエス嬢で間違いないね?」
「はい」
グレイ様は目を細め、私の顔をジッと見つめる。
私は彼の視線から目を離せなくなり、ボッと顔を赤くした。
「あ、あの……そんなに見つめられると恥ずかしいです」
「ははは。すまない。あまりにも君が美しくて……それに」
「それに?」
「……いや、なんでもない」
馬車の前まで移動し、お別れの時間がやってきた。
私は少し名残惜しい気分で馬車に乗ろうとする。
だがグレイ様が突然、それを遮るかのように私の前に立つ。
「グレイ様?」
「……すまない。もう少し君の時間を俺にくれないか?」
「……はい」
自然と私はそう返事していた。
私はグレイ様と共に町の散歩を始める。
ユージン様のお父様が納めるエミュロットの町……
ここは大きく華やかな町で、立ち並ぶお店には無いものなどないように思えるほどに充実した品揃えをしている。
見たこともないような食べ物や、ブリキ。
グレイ様の隣を歩きながら、私は感嘆の声を上げる。
「アリエス。あの店に入ろうか」
グレイ様が指差したのはアクセサリーを販売しているお店だった。
周りと比べても高そうなお店で、少し入るのに躊躇してしまうほどだ。
貧乏貴族である私には、少々敷居が高いように思える。
「さあ、入ろう」
グレイ様が私に手を差し伸べる。
私は高鳴る心臓でその手を取った。
ドキドキしながら私はグレイ様について店へと足を運ぶ。
手汗をかき、喉が渇く。
顔は赤くなっているだろうし、少し足が震える。
グレイ様に気づかれないだろうか。
こんなに緊張していることを。
私はグレイ様の様子を窺いながら、自分の感情がバレないようにと祈るばかり。
店の商品など見るような余裕はない。
グレイ様が商品を見ながら何か言っている。
私は呆けたままで彼の言葉に頷いていた。
何を言っているのだろう?
分からない。
私はただ祈るばかり。
この胸の高鳴りが彼に伝わりませんようにと。
「お待たせいたしました」
「……え?」
お店の方から包装された包みを手渡される。
私は唖然としながら、それを受け取った。
「あの……これ?」
「? それでいいと言っただろ?」
「……えええっ!?」
どうやらグレイ様が購入してくれたようだ。
私は申し訳ない気持ちになり、グレイ様に返そうと突き出した。
「あ、会ったばかりのお方にこんな物をいただくわけにはまいりません!」
「じゃあ、俺にそれを使えというのかい?」
「え、ええ?」
「女性物だよ」
「…………」
「あまり深い意味で捉えてもらわなくていい。初めて会話をした記念。それぐらいで考えてもらえればいいから」
初めて会話をしただけでこんな物を頂けるなんて……
私は困惑したまま、しかし喜びを胸に包みをギュッと胸に押し付けるのであった。
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