「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも

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第二章

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 赤い刀身からゆらりと炎が上がる。
 いつも扱っているショートソードと比べると長いが、とても軽い。
 学校のカバンよりも軽いぐらいだ。

 それは先ほど購入した『炎の剣』。

 いつもはクマが運んでくれるのだが、今クマはいない。
 なので玄関に包装されていた炎の剣を取り出し、家の外で振り回しているところだ。

「これ、すごく強そうだね」
「そうか?」
「ああ……イド基準で考えないでね。今までの私の武器と比べて、ね?」
「ああ。だったらそこそこじゃねえか」

 イドはリビングの戸を開けた場所で腰かけ、私が剣を振り回している様子を眠たそうに眺めている。
 私は新しい玩具を扱うように、ワクワクした気分で炎の剣の使い心地を楽しんでいた。

「ねえ、どこかモンスター退治でも行かない?」
「まぁいいけどよ」

 イドは家から出てドラゴンの姿に変化し、私を背中に乗せ大地を飛び立つ。

「イドと二人きりってあまりないから楽しいかも!」
「お、俺だって楽しみなんだからな! どこでも好きなところに連れてってやるよ!」

 イドはツンデレデレを発揮しながら宙を舞う。
 少し散歩気分で空を飛んでいたのだが……しかし、いくつかの『黒い霧』が視界に入る。

「あれ、なんとかしないとだね」
「ああ。別にいいだろ。モンスターが金を運んでくれるんだからよ」
「でも、誰かが危険な目に遭うんだよ? 私にはそれができるみたいだし、なんとかしてあげたいよ」
「そ、そうか……ま、お前がやりたいなら反対しねえけど」
「とりあえずは、あの辺りのモンスターを倒そう。霧はクマになんとかする方法を聞いてから対処しよう」

 まだ霧の件に関しては聞きそびれていた。
 帰ってからクマに詳しい話を聞くとしよう。

 イドと共に霧の近くに着地すると、その周囲はすでに霧の影響で大地がやせ細っているようだった。
 私たちが住んでいるところもこんな感じだったな……

 霧の中から生じるモンスター。
 その中にオークの姿が見られる。
 後は見たことない蜂型のモンスターがおり、その姿を見て私は背筋を凍らせていた。

「は、蜂のモンスターがいるよ……私、虫が苦手なんだ」
「ああ。キラービーな。大したモンスターじゃねえから安心しろ」

 大きさは人の頭ほどあるだろうか。
 それがさらに寒気を加速させ、私はイドの背中に隠れた。

 イドは私の頭を撫でながら言う。

「キラービーは俺が片付けてやる。お前はオークを倒せ。強くなるんだろ?」
「う、うん」

 イドはポケットに手をつっこみながら、蹴りでキラービーを倒して回る。
 その速度は尋常ではなく、モンスターが次々に破裂していく。

「すごい……」
「き、君たちは誰だ!?」
「え?」

 岩がの裏から戦士のような人たちが顔を出し、警戒するようにこちらを見ていた。
 人数は4人。
 どうやらイドの強さに驚いているようだ。

「あ、えっと……冒険者、かな?」
「ぼ、冒険者……? どこかのギルドに登録してるのか?」
「いや、してません……」

 何? ギルドって?

「しかし……君の仲間はとても強いね……とても同じ人間とは思えないよ」

 ギクリ。
 イドはドラゴン。
 やっぱりバレるのは良くないよね……
 って、着地した時のことは見られてなかったようだ。
 見られてたらイドのこと、人間とは思わないもんね。

「お嬢ちゃんは見学かい?」
「ううん。私も戦うつもりで来たんだよ」
「だけど、あのモンスターは結構強いぞ」
「大丈夫」
「な、何が大丈夫なんだ?」

 私は皆に笑顔だけ向けて、オークに向かって走り出す。

「あのモンスターなら何度も倒してきたから!」

 腰にはショートソードと炎の剣を帯刀しており、私は炎の剣を抜き取る。
 ゆらめく炎の刀身で、オークの体を真っ二つに切り裂く。

 ドロリと溶けるように崩れ落ちるオークの肉体。 
 火傷の所為か出血はないようだ。

「なっ!? き、君もなんて強さをしてるんだ?」

 オークを一撃で倒してしまったことに驚く戦士の人たち。
 もうこれぐらいの相手なら慣れっこなので、私としては驚く方が驚きだ。

 イドがキラービーを倒してくれているおかげて、オークばかりが私の前に残っている。
 そこで私は、炎の剣を購入した時の取扱説明書を思い出す。
 
 取扱説明書って異世界らしくないけど、とにかく炎の剣にはそれが同封されていたのだ。

「お、おい! あれを見ろ!」
「え?」

 炎の剣を使い、オークを蹴散らそうとしたその時。
 遠くの方から獣のような集団が姿を現す。

「ワ、ワーウルフだ……ワーウルフの集団だ!」
「逃げろ! とてもじゃないが君たちにも対処できる相手じゃない!」

 戦士の人たちは真っ青な顔で逃げ出してしまう。
 そんなに強いモンスターなのかな?
 イドに確認を取ろうと彼の方を見ると……少し面倒くさそうな顔をしていた。

「おいおい。また雑魚が増えたぞ。あれ全部やらなきゃいけねえのか」
「イド、私に任せて」
「あ?」

 私がイドに笑顔を見せると、イドは何をするのか気づいたらしく、私の背後まで後退する。

「じゃ、試してみろ」
「うん。『炎の剣よ! 燃え盛り我が敵を滅せよ!』」

 炎の剣から炎が巻き起こり、巨大な渦を巻く。
 その渦ごと剣を振り回すと――凄まじい業火が全面に展開される。

 モンスターたちは炎に巻き込まれていき、蒸発していく。
 先ほどこちらにやって来ていたワーウルフたちの集団も飲み込まれ――数匹を残して消え去っていた。

「っ!?」

 残りのワーウルフたちは踵を返し、全力で逃げ去って行く。

「結構強いね、この武器」
「まあまあだな」
「…………」
「ん?」

 背後から感じる視線に振り返ると……戦士の人たちが唖然とした表情で私を見ていた。

「つ、強すぎだろお嬢ちゃん……」
「君みたいな戦士は初めてみたよ……」

 炎の剣の火力に愕然としていたようで、男の人たちは口を開けたまま固まってしまっていたようだ。
 イドの方が強いんだけどな、なんて思いながら、私には苦笑いをして剣を鞘に戻した。
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