奴隷契約書の先

史乃あき

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③-1調教1日目

 悪夢のような、地獄の一日の翌日。春香のマンション。
 朝の日差しがカーテンを透けて部屋に差し込んでいたが、春香はまだベッドから出られずにいた。昨日の出来事が頭の中でぐるぐると回り、身体は重く、心は鉛のように沈んでいた。昨日は、彼女にとってまさに「地獄」の一日だった。

 昨日の出来事が頭から離れない。
 リピートされる映像、肌に残る感触、耳にこびりつく声、鼻につくにおい。すべてが彼女を縛りつけ、現実に引き戻す。
 なぜ自分がこんな目にあわなければならないのか。
 頭を振っても、記憶は消えない。現実逃避を試みても、現実は冷たく、無慈悲にそこにある。
 吐き、泣き、体力の限界を超えたはずなのに、身体はまだ何かを要求し続けていた。まるで、傷ついた魂が最後の抵抗のように、無意識のうちに生への執着を訴えているかのようだった。空腹が腹の底から蠢き、喉の渇きが意識を支配する。
 冷蔵庫に向かい機械的にドアを開け、冷たい水をコップに注ぐ。一気に飲み干すと、少しだけ気が楽になる。そして冷蔵庫の隅に置かれたマフィンを乾いた手で包みを開け、機械的に口に運ぶ。甘さが舌に広がるが、心には届かない。ただ、生きているという事実を再確認させるだけだ。

 胃に食べ物が収まると、初めて自分を客観的に見つめる余裕ができた。
「私はまだ、大丈夫」
 自分に言い聞かせるように静かにつぶやく。
 
 つぶやきながら、部屋の隅にある姿見に近づいた。
 映し出されたのは、昨日のままの自分だった。服はしわくちゃで、胸元や襟には吐いた跡が薄く残っている。
 その姿を見た瞬間、彼女は我に返ったかのように動き出した。服を一枚一枚剥ぎ取り、すべてをごみ袋に放り込む。そして、熱いシャワーを浴びた。
水流が肌を打つたびに、昨夜の汚れが洗い流されていく気がした。
 幸いにもお尻に痣などはできていなかった。
 次に、彼女は念入りに歯を磨き始めた。ブラシが当たるたび、昨日強く食いしばったせいでできた傷がしみて痛んだ。その痛みが、あの時の無力さを思い出させ、涙がこぼれた。悔しさが胸を締めつける。

 私は静かに、しかし確固たる決意を胸に刻んだ。
「この地獄は受け入れよう。でも、心だけは絶対に折れない。」
 彼女の目は、これまでとは違う強さを宿していた。昨日の無力さ、今日の苦しみ、そして明日の希望、すべてを飲み込み、彼女は立ち上がることを選んだ。
「すべてを終わらせて、しかるべき結末をつけてやる。」
 そう強く心に誓った。

 奴は、今日か明日私をまた呼ぶといっていた。
 おそらく今日であろう。
 拒否はできない。だけどたとえ嘲られ、辱められようとも、心だけは許さない。そう強く思い、スマートフォンをにらみつけた。

 しかし、その日はスマートフォンに連絡は一度も来なかった。
 体調を心配する友人からの連絡や、ニュースサイトの通知に都度、強く反応していたが、恐れていた連絡は一度もなかった。
 もしかしたら、うちの中に隠しカメラや、盗聴器があるのではと訝しみ、部屋中をくまなく探したが、そういった類なものは見つかることはなかった。

 日が沈み、静寂が部屋を包み始めた頃、春香はシャワーを浴び、清潔なパジャマに着替えていた。ベッドに体を沈め、天井を見上げると、彼女の心に小さな安堵が広がった。

「今日は大丈夫。心はまだ折れていない。」
 私はそうつぶやき、英気を養うために目を閉じた。しかし、その瞬間、ふと思い出したものがあった。
 育毛剤を塗れという命令だ。
 その小さな記憶が、彼女の意識の片隅に浮かび上がり、一瞬、現実に引き戻される。しかし、どうせ塗ったかどうかはわからない。嘘かどうかなんてわかるはずもないと思いそのまま就寝した。



 朝の陽ざしに、春香は目を覚ました。
 今日も秋晴れで、素敵な一日が始まりそうな天気だった。
 しかし、一通の連絡に気づき、心は一気に重く、陰鬱な気持になった。 

「今日、10時にうちにこい。」
 たった一行の文章だった。
 しかし、その言葉は春香の心を一瞬で暗雲に包み、陰鬱な影を落とした。
 食欲がわかず、彼女は水とサプリだけを口に含み、家を出た。
 ドアを閉める直前、春香は深く息を吸い、自分に言い聞かせるように誓った。
「絶対に負けない。」
 その言葉を胸に、彼女は重い足取りで外へと踏み出した。
 

 春香は薄汚いドアの前に立ち尽くしていた。
 この向こう側に、絶望が待ち構えているのを知っているからだ。
 少しの間、ノックするのをためらっていたが、こんな場所で立ち尽くす私はきっと目立つだろうとか、遅れてあの男に付け入る隙を見せるわけにはいかないと思い、覚悟を決めてノックする。

「おう、入れ」
 ドアの向こうから、男の声がする。
 私はドアを開けて中に入る。

 部屋の中は変わらず汚く、男の体臭と生ごみと生乾きの嫌なにおいが充満していた。
 その部屋の真ん中で、シャツとパンツだけの男がニヤニヤと座っていた。

「おう、いつまでそこで立ってるんだ。こっちこい」
「…はい」

 私は部屋の主の男、まさよしの指示に従った。

「はい、おはよう。今日もいい日だな。今日から春香を一人前の奴隷として調教していくからな。楽しみにしていろよ」
「…はい」
「はい。じゃないだろ。きちんと返事しろ。挨拶は大切だと親に教わらなかったのか」

 まさよしはにやにやと嘲るように私を叱る。

「…はい。おはようございます。ご主人様」
 私は、でいるだけ感情をこめず、機械的に返事した。
 そんな私の返答にまさよしは満足したようにさらにニヤッと笑った。

「うん、うん。そうじゃないとな」
 満足そうに何度もうなずきながら、私の前に立って命令しだした。

「まずは、服を脱いで。そして服従のポーズだ」

 私は、少しまさよしをにらみつけて、言われた通り、服を脱いだ。
 『覚悟はできている。大丈夫。』春香は心の中で繰り返し、自分に言い聞かせた。
 できる限りの抵抗と思い、服をゆっくり脱ぎ、丁寧に畳んで、持ってきた鞄にしっかりとしまった。
 まさよしは、私が無駄な抵抗を続ける様子を、あざ笑うかのように眺めていた。

 私は先日教わったように、服従のポーズをとる。
 手を頭の後ろに組み、蟹股で腰を軽く落とす。
 覚悟のおかげか、泣くことも屈することもなく姿勢をとることができたが、恥辱のポーズに顔が赤くなることは止められなかった。

「おう、よくできてる。やっぱ頭いい子はこういうのも上手だな」
「…」
「ほめられたときはお礼をいえ、基本だぞ。まあいい、今日は挨拶の基本を教える。奴隷の挨拶といえばなんだと思う」
「…わかりません」

 まさよしは私の答えに、『はぁ…』とわざとらしく落胆した顔を作ってため息を吐いた。

「土下座だ、土下座。基本だ勉強しておけ」
「…ごめんなさい」
「土下座のやり方はわかるな」
「…はい」
「よし、これからは家に入ったら、まず玄関で服を脱ぎ、土下座。俺が命令するまではずっとそのままだ。わかったな」
「…はい」
「じゃあ、今ここで土下座をしろ」
「…はい」

 いわれるまま、春香は生まれて初めての土下座をした。
 映画やドラマのワンシーンで見たことをまさか自分がすることになるとは今まで思っていなかった。それも全裸で行うなんて。
 春香はできるだけ胸や性器が見られないように小さく、小さくなるような土下座をした。
 まさよしはそんな春香をひとしきり眺めて、おもむろに頭に足を置いた。

「それがあいさつの基本の姿勢だ。うちに来たらまず服を脱いで土下座であいさつ。覚えとけ。そしてそのまま、これを読め」

 まさよしはそういって、目の前に一枚紙を落とした。

「…はい。…春香はご主人様の…奴隷です。…契約に基づき……すべてを受け入れます。どうぞ、…思いのままに扱ってください」
 屈辱的で、悔しかった。悔しくて、下唇を噛みながら、必死に耐えた。
 『大丈夫、覚悟はしてきた』と自分に必死に言い聞かせた。

 まさよしは私の言葉に反抗的な気持が入っていることを知りながらも、楽しそうに、頭にのせた足に力を入れた。

「覚えれるように、そのまま何度も繰り返すんだ。春香が立派な奴隷になるための挨拶だ。しっかり覚えろ」
「…はい。ご主人様。…春香はーーー」

 私は何度も繰り返した。
 この男が満足して、足を話してくれるまで何度も、何度も繰り返した。
 時折足の重さに耐えかねて、汚い畳に口をつけることがあったが、それでも繰り返した。

 何十回繰り返したか、数えるのをやめたころやっと顔を上げる許しが出た。

「よっしゃ、もう覚えたやろ。じゃあ次や。身体測定と行こうか。まずは、まっすぐ立て」
 まさよしは、手に持ったメジャーを広げながら、下品に笑った。
 
「えっと、身長が155センチやな。手の長さは77センチ、ウエストが58。ええ細さだけど、もうちょっと食べたほうがいいな。胸は80か、控えめでいい、俺好みだ。乳首もピンクでしゃぶりがいがありそうだ。1センチもないから、俺が吸って大きくしてやるよ。乳輪は3センチか、まあこんなものか。股下は…。おい、足を閉じるな。…77センチ。身長の割に長いな。お尻は…おっ、80センチ超えてるぜ、82センチか。胸よりでかいじゃねーか。このデカケツ、叩いたらいい音しそうだな」

 まさよしはゆっくりと、無遠慮にべたべた触りながら図っていった。
 一つ図るたびに私の顔の近くで、ねちっこくサイズを言い、手にしていた紙に丁寧に記録していく。
 太く熱い指と、メジャーの冷たさが肌に当たるたびに、不快感を感じた。
 まさよしは『よし、とりあえずこんなもんでいいだろ。』といって、私のお尻をぴしゃりと手でたたいた。

「よし、ポーズをとれ」
「…はい」

 私は言われるままに、服従のポーズをとった。
 まさよしは私のクリトリスを触りながらにやにやしていている

「ここもまだまだ小さいな。奴隷らしくみっともないぐらい大きくしてやるからな」
「…はい」

 感じているわけじゃないけど、不快感と恥ずかしさで顔が熱くなるのが自分でもわかった。

 「やっぱ一日ではここはあんまり伸びないな。昨日はきちんとぬったんだろ」

 まさよしは私の陰毛を引っ張り、もてあそびながら、鋭い目つきで問いかけてきた。私は「塗るように」という命令を、あえて無視していた。嘘はきっとばれない——そう自分に言い聞かせていたのに、喉元で言葉が詰まる。先日の鞭の痛みが、体中を駆け巡る。あの鋭い痛み、そして彼の下品な笑みが、鮮明に蘇る。

「おい、返事はどうした」
「…ごめんなさい。塗るのを忘れていました」

 私の返答に、まさよしは陰毛を数本力任せに抜き取った。

「いたっ!」
「俺は塗るように命令したよな。それをしてないってことは、どういうことかわかってるんだろうな?当然、覚悟はできてるんだよな?」

 声は低く、しかし鋭い刃のように突き刺さる。

「ごめんなさい……本当にごめんなさい。忘れてしまっていました……」
「理由は聞いてねえ。どうでもいい。命令を実行していない、その事実に罰が必要だ。土下座の姿勢でケツを高く上げろ」

 まさよしの声は低く、しかし一言一言が重く響いた。私は反射的にその命令に従い、素早く土下座の姿勢を取った。ケツが高く突き出されるのを感じながら、次の罰が来るのを覚悟した。

 まさよしは再び私の頭を踏みつけながら、嘲るような口調で言った。
「まあ、嘘をつかなかったことは褒めてやるよ。もし嘘をついてたら、もっとひどいことになってただろうな。残念だったな。実はな、お前に渡したあの薬、あれは空っぽだったんだ」

「ごめんなさい」
 私は謝ることしかできなかった。こんな男なんて、コントロールできる。そう甘く考えていた自分が、今はただ愚かで悔しくて仕方がなかった。

「とにかく、命令無視のお仕置きは必要だな。前回よりも回数は減らしてやるが、今回は騎乗鞭を使うからな。前より痛いぞ。楽しみにしてろ」

 そう言いながら、まさよしは私の尻に冷たい鞭の先をぴたりと押し付けた。その瞬間、反射的に尻に力が入り、身構える自分を感じた。

 まさよしは『数えろ』といって、私のお尻を叩きだした。
 
「いち……」(バチンッ!)
 空気を切り裂く音と同時に、尻に火が走った。痛みが神経を駆け抜け、思わず息が詰まる。

「に……」
 鞭が再び振り上げられる。その動きが視界の端に映り、心臓が早鐘を打つ。

(バチンッ!)「さん……」
 痛みが重なり、涙がにじむ。声を出さずに耐えるのが精一杯だ。

「し……」
 鞭が風を切る音が近づく。時間が伸びるように感じられる。

(バチンッ!)「よん……」
 尻が熱く、痺れるように痛む。もう限界だと思うのに、まだ終わらない。

(バチンッ!)「ご……」
 最後の鞭が肌を打つ。痛みが頂点に達し、視界が白く滲む。

 とうとう、私は耐えきれなくなった。痛みが全身を支配し、理性では抑えきれない声が口をついて出る。

「ごめんなさい……、本当にごめんなさい……やめてください……」
 謝罪と懇願の言葉が、涙と一緒に溢れ出た。

 まさよしはぴたりと鞭を止め、鞭先で私の尻をゆっくりと撫でた。そして、無言で目の前に足を差し出した。
 汚らしい足の臭いが鼻を刺し、思わず顔をしかめたが、目をそらす勇気はなかった。

「キスして、なめろ。全部の指をきれいにしゃぶるんだ。そうすれば許してやる」
「…はい」

 私は従うしかなかった。無情な命令に従い、私のファーストキスを捨てることとなった。
 足はとてつもなく臭く、わずかなしょっぱさとえぐみが口の中に広がり、嫌悪感で体が震えた。それでも、言われた通りに舌を這わせた。

「よし、うまいぞ」
 まさよしは冷たく笑った。

「そういえば、春香、キスはしたことあるか?」
「…ふぁいです」
「そうか、じゃあこれがファーストキスだな。よかったな。キスできて」
「…ふぁりがとうございます」

 私は、彼の指を口に含みながら答えた。痛みと恥辱で、涙がこぼれ落ちた。

 一通り舐め終えると、まさよしは満足そうに頷いた。そして、再び服従のポーズを取るように命令した。

 春香への調教は、まだ始まったばかりだった。
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