掌編練習帳

鹿熊織座

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カルピス

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 うちではジュースなんかは滅多に買いませんでしたので、お中元のカルピスは娘にとって、この世の宝のようなものでこざいました。
 お素麺やタオル、石鹸洗剤缶詰佃煮の詰め合わせなども定番でしたので、お中元が届く度に一喜一憂しておりました。
 お中元の瓶入りのカルピスは、紙包みになっている事が多く、それだけで特別な気持ちにもなりました。
 
 ガラスのコップに氷を三つ四つ、そこにカルピスを入れ水で割ります。
 混ぜた時の音などそれだけで涼しく小気味良く、夏の風物詩のひとつでございます。
 
 私も主人と同じく、変にズボラな所もあればきっちりやらねば気持ち悪さを覚える事もあります。
 水やりや草むしりなんかはいい加減ですが、調味料や水加減はきっちり決まった通りにしないと、どうにもモヤモヤしてしまいます。
 
 カルピスも、きっちり決まった割合で作らないと、どうにもすっきりいたしません。
 しかし娘や主人は、贅沢にも少し濃い目に作るのです。
 「どうせ氷が溶けたら丁度良くなるんだ」と、主人は言い訳めいた事を申しておりましたが、氷が溶け出すまでカルピスが残っていた事など一度もありません。
 
 そんな事を何度か繰り返し残り少なくなってきますと、名残惜しいのか今度は水を多めにし作ったりもします。
 決まってそんな時は、二人揃って美味しくないと顔をしかめるのです。
 親切にも「この割合で薄めて何杯分」と書かれているのです。
 割合を守らず、何杯分のところだけ守っては、それはそんな顔にもなりますとも。
 
 自分で作ると濃度が調整できるのが良いところなのでしょうが、濃い目にすると濃すぎたり、薄めにしたいと薄すぎたりと、どうにも良い塩梅にはいかないとの事でした。
 毎年毎年、良い塩梅を模索し二人で失敗する様は、今年もこの季節が来たかと思わせてくれます。
 「はじめから決まった割合で作れば良いのです」
 あの顔が見たいが為にこの一言が言えず、好きにさせているのですけどね。 
 
 お中元にポンジュースが入るようになった頃は、うれしそうであり、少し残念そうでもありました。
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