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5.国王の買収

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 そこからはご想像のとおりです。
 夜は(謎の薬のせいで)王妃に夢中の国王陛下、お妾殿が国王陛下に会うためには昼間しかない。だからお妾殿は昼間に国王の公務の邪魔になる程度まで国王を追い回した。

 国王陛下の方は少々困り顔で「今は仕事だから、夜に。今夜行くから」とやんわりお妾殿をなだめすかそうとしたが、お妾殿の方は「仕事と私、どっちが大事ーっ!?」と聞く耳を持たなかった。それどころかお妾殿は逆に「一蹴された」と頭にきて、余計に時間と場所も考えず国王の執務に割って入ろうとするので、周囲は完全に困ってしまった。

 一度くらい邪魔された分には大目に見た国王だったが(それでも公務が邪魔されたので関係者は大迷惑だったが)、あまりのお妾殿の聞き分けのなさにすっかり国王は怒ってしまった。
「昼は分刻みでスケジュールが入っているんだ!」

 それで案の定エリオットが呼ばれた。ぎゃーぎゃー「中に入れろ」と部屋の外で喚いているお妾殿の声が聞こえる中、
「おい、あの妾をなんとかしろ」
と国王はうんざり顔でエリオットに命令した。

 エリオットの方も面倒くさそうな顔をする。
「何で私が」

「おまえ、女紹介してもらうとかでリーガンお妾殿と接点があっただろ?」

「あっ! そんな話もありましたね。でももう私は王妃に寝返ったんで」
 エリオットは澄まし返っている。

 国王はあんぐり口を開けた。
「王妃派に!? 何があったのか知らんがそつないな!」

「ええ。なのでもうお妾殿の関係者じゃありません。ってゆかご自分の妾でしょ、ご自分で何とかしてくださいよ」
 エリオットはふうっとため息をついた。

 国王もふうっとため息をつく。
「そりゃあね。自分で何とかしたいのだが、昼も夜も忙しくて」

「ああ、そうでしたね」
 エリオットは思わずうなずいた。

 そのあまりの自然さに逆に国王はは何か勘付いたようだ。
「おまえ、そうでしたねって何だ?」

「あっ。あ、いえ……」
 エリオットは急に我に返って焦った。

 国王はその表情の変化を見逃さない。
「何か隠してるだろ!」

 エリオットの背中を冷や汗が流れた。
「いや、そんなことは、はは、ないですよぉ~」

「うわー露骨に歯切れが悪いじゃないか。汗かいてんじゃねーよ」

「はっはっは! まさかあ~国王陛下に隠し事なんて~」
 エリオットは白々しく笑って見せる。

「ん? じゃあ最近おまえと噂のアルテミア嬢に『エリオットともう会うな』と命令するぞ」
 国王は早々に切り札を出してきた。

 エリオットは大慌て。
「うわっ! それ言います!? 【妾<王妃<国王】の関係ではアルテミア嬢だって太刀打ちできませんよ! もう仕方ないな。はい! たった今からわたくし国王派になります」

 国王は大いにうなずいた。
「そりゃよい心がけだ。まあヘッドハンティングだと思ってくれたまえ。では知っていることをさっさと全部話せ」

「ははあ……」
 エリオットは観念して王妃の薬の話を洗いざらいしゃべった。

 国王はぽかんと口を開けて聞いていた。
「薬だと? それは反則だろ? どうりで夜は王妃しか目に入らなかったわけだ」

 エリオットは国王の非難じみた言葉に、
「いや~一応弁解しておきますとそろそろ世継ぎが必要という……」
と汗をかきかき、自分をかばうかのように付け加えておいた。

 国王は腑に落ちない顔をしている。
「うんまあ、それは一理あるけれども。でも薬はなあ。俺めっちゃ操られてたってことじゃん」

「操りがいがあったでしょうね」

「感心してる場合か。自由恋愛の危機だぞ」

「自由恋愛……誰かさんも同じこと言っていたような」
 エリオットは何か強い意志を持って宣言していたお妾殿の顔を思い浮かべた。

 国王はそんなエリオットは無視して、
「とにかく王妃は私をバカにしている。今日からは晩御飯は一人で食べる!」
と語気を強めた。

 エリオットは慌てて口を挟む。
「いや、シェフを買収してたら一緒でしょう」

「はっそうか」

「そうか、じゃないですよ。アホですか」

「うむ、どうしよう」

「こちらがシェフを買収しましょう」

 国王の顔がぱっと笑顔になった。
「それは名案だな。シェフの弱みは何かないか?」

「あ、あのシェフも髪かき上げ系が好きですよ。陛下のお妾殿をあてがっては」

「おおそれは名案……ってバカもん! リーガン俺の妾をやっちゃあ本末転倒じゃないか!」

 エリオットは、普通に国王の威厳を笠に着てシェフを脅せばいいと思ったが、それを言いかけて止めた。
「買収って私が言い出しましたけどね、陛下。それよりやっぱり王妃殿に素直に薬をやめるよう頼んでみるのが筋かと思いますけど。王妃殿とちゃんと話合いなさいませ」

 国王はエリオットの真面目な提案にため息をついた。それが正論であることはよく分かっている。しかし気が乗らない。
「妾のことを王妃とちゃんと話すのか……気まずさMax」

「それは……お察ししますが」

「うーんでも、俺は国王だし。王妃より偉いし。たまには亭主関白ぶりを見せつけるのもアリか?」

「妾のことで亭主関白っていうのは離婚されるかもしれませんけどね」

 国王はぎくっとなった。
「え、じゃあどうすれば」

下手したてに出て謝ってお願いなさいませ」
 エリオットは国王を励ますように言った。

「あほだろーっ! それで俺がいかに妾を好きかを王妃に誠実にお話しするのか? それこそ離婚だっつの」

「確かに……。ってゆか正妻と妾ってのは難しいもんですね。いっそあなた様が公務の邪魔をした女(お妾殿)に愛想を尽かしてくれた方が都合がいいんですけど」

 国王は途端にしゅんとした。
「う。あ、ああ……。でもなあ……。公務を邪魔するほど俺に会いたいってことは、いじらしいと言っちゃあいじらしいからなあ……」

「メンヘラ好きですか!」

「そっちこそっ! 愛想を尽かしてくれとか言いたい放題だな! 面倒くさいって顔に書いてあるぞ。おまえの願望が駄々洩れだ」
 国王は唇を尖らせた。

 エリオットはムッとして言い返した。
「ええ。言わせてもらいます。こっちは何かつまらない争いに巻き込まれてるんですよ。さっさと愛想尽かしてもらうのが一番なんで!」
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