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9.ほんとについて来るし
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ずっと待たされていた元夫は、私がようやく元夫の前に姿を見せたので、ほっとした顔をした。
そして、「リリーちゃんが行方不明だからね、私も一緒に探しに行こうと思う」
とな~んにも分かっていない顔で言った。
「はあ、そうですか」
私はイライラしながら返事をした。
元夫は私の苛々に気付いたようで、少しだけ殊勝な顔をして、
「いや、昨晩はね、浮気相手の家に君を連れて行く羽目になったことを多少は悪いとは思っているのだよ」
としおらしく言った。
なるほど、私に謝る気はあったらしい。確かに尋常ではありませんでしたものね、あの状況!
「それで、リリーの行方に何か心当たりはあるのかい?」
「はあ。まあね。バーニンガム伯爵様が保護してくださっているようですよ」
それを聞いて元夫は弾かれたように顔を上げた。
「おお、それは良かった! リリーちゃんがバーニンガム伯爵の敷地に迷い込んだんだろうか、道で拾ってくださったんだろうか! しかし、とにかくリリーちゃんが寒空の下、身をふるわせているわけではなさそうだから、ちょっとほっとしたよ! バーニンガム伯爵にはお礼をしなければな!」
私とスカイラー様の昔の関係など露にも知らない元夫は、ただリリーが見つかったことだけを素直に喜んでいる。
まあね。私も昔の気持ちは改めて胸の奥深くに厳重に封印することにしましたけどね。このカオスな状況で、再度身の程を思い知らされましたから!
「では、これから迎えに行くのだよね? 私も行く!」
「いや、いきなりあなたも一緒に行ったら先方が驚きますよ。離婚した元夫がなぜって」
「? なんで驚く? 確かに離婚はしたが、私たち夫婦はリリーの飼い主だったのだから、私だって心配する権利はあると思うが? 何か変かな?」
私は呆れてこめかみを押さえた。
たかが猫ごときに離婚した元夫が出てくるなんて、普通の感覚ではありえませんけどね?
それに、この人、もう自覚がなくなっているかもしれませんが、まだ真っ黒尽くしの魔王スタイルなんですよ。
「……まあよろしいわ。私が止めてもあなたは絶対についてくるんでしょうしね。もうこれ以上は言いません」
「おお、同行許してくれるようでよかった」
元夫は屈託ない笑顔を見せた。
そして私は元夫を連れてバーニンガム伯爵邸を訪れた。
私たちが通された客間にはスカイラー様がいた。
スカイラー様がリリーを抱いていたので私はけっこう驚いた。
リリーがこんな見知らぬ人に大人しく抱かれているなんて!
そしてその光景を見て、元夫は私の隣で小さく呻いた。リリーが他の男に抱かれているのが許せなかったようだ。
そして呻いたのはスカイラー様もだった。スカイラー様はいつになく硬い表情をして、元夫の方を見ていた。
「あの、うちの猫がご厄介になって。どうもすみませんでした。保護してくださってありがとうございます」
私はお辞儀をしながら丁寧にお礼を言った。
「ええ、猫がうちの敷地に迷い込んできたんですよ。それで首輪にラングストン伯爵家(※私の旧姓)の紋章が入っていたので、もしかしてディアンナ様の猫かと思ったのです」
スカイラー様が私の方を少しだけ優しい目で見た。
私はリリーに紋章入りの首輪を特注してよかったと思った。
離婚する前は元夫のマクギャリティ侯爵家の紋章を入れた首輪を付けさせていましたけどね、離婚した後はこちらの気持ちを一新するためにも、リリーちゃんに似合う美しい首輪を新しく用意しましたのよ。もちろん私の実家の紋章入りでね!
「よかったですわ。昨日から姿が見えず、ずっと落ち着かなかったのです」
「おとなしい猫ですね。私に抱かれても文句も言わない。ずっとこの調子でくつろいでくれるんです」
スカイラー様は目を細め、優しい手つきで猫の頭を撫でた。
私はその光景にぐっときた。
好意を寄せた人が私の猫をこんなに優しく撫でてくれるなんて!
しかし、リリーが知らない人におとなしく抱かれているなんて、珍しいこともあるもんだなあと思った。
家ではワガママ放題の猫なのに。気に入らなければ飼い主の私にだって撫でさせてはくれないのに。
そして、「リリーちゃんが行方不明だからね、私も一緒に探しに行こうと思う」
とな~んにも分かっていない顔で言った。
「はあ、そうですか」
私はイライラしながら返事をした。
元夫は私の苛々に気付いたようで、少しだけ殊勝な顔をして、
「いや、昨晩はね、浮気相手の家に君を連れて行く羽目になったことを多少は悪いとは思っているのだよ」
としおらしく言った。
なるほど、私に謝る気はあったらしい。確かに尋常ではありませんでしたものね、あの状況!
「それで、リリーの行方に何か心当たりはあるのかい?」
「はあ。まあね。バーニンガム伯爵様が保護してくださっているようですよ」
それを聞いて元夫は弾かれたように顔を上げた。
「おお、それは良かった! リリーちゃんがバーニンガム伯爵の敷地に迷い込んだんだろうか、道で拾ってくださったんだろうか! しかし、とにかくリリーちゃんが寒空の下、身をふるわせているわけではなさそうだから、ちょっとほっとしたよ! バーニンガム伯爵にはお礼をしなければな!」
私とスカイラー様の昔の関係など露にも知らない元夫は、ただリリーが見つかったことだけを素直に喜んでいる。
まあね。私も昔の気持ちは改めて胸の奥深くに厳重に封印することにしましたけどね。このカオスな状況で、再度身の程を思い知らされましたから!
「では、これから迎えに行くのだよね? 私も行く!」
「いや、いきなりあなたも一緒に行ったら先方が驚きますよ。離婚した元夫がなぜって」
「? なんで驚く? 確かに離婚はしたが、私たち夫婦はリリーの飼い主だったのだから、私だって心配する権利はあると思うが? 何か変かな?」
私は呆れてこめかみを押さえた。
たかが猫ごときに離婚した元夫が出てくるなんて、普通の感覚ではありえませんけどね?
それに、この人、もう自覚がなくなっているかもしれませんが、まだ真っ黒尽くしの魔王スタイルなんですよ。
「……まあよろしいわ。私が止めてもあなたは絶対についてくるんでしょうしね。もうこれ以上は言いません」
「おお、同行許してくれるようでよかった」
元夫は屈託ない笑顔を見せた。
そして私は元夫を連れてバーニンガム伯爵邸を訪れた。
私たちが通された客間にはスカイラー様がいた。
スカイラー様がリリーを抱いていたので私はけっこう驚いた。
リリーがこんな見知らぬ人に大人しく抱かれているなんて!
そしてその光景を見て、元夫は私の隣で小さく呻いた。リリーが他の男に抱かれているのが許せなかったようだ。
そして呻いたのはスカイラー様もだった。スカイラー様はいつになく硬い表情をして、元夫の方を見ていた。
「あの、うちの猫がご厄介になって。どうもすみませんでした。保護してくださってありがとうございます」
私はお辞儀をしながら丁寧にお礼を言った。
「ええ、猫がうちの敷地に迷い込んできたんですよ。それで首輪にラングストン伯爵家(※私の旧姓)の紋章が入っていたので、もしかしてディアンナ様の猫かと思ったのです」
スカイラー様が私の方を少しだけ優しい目で見た。
私はリリーに紋章入りの首輪を特注してよかったと思った。
離婚する前は元夫のマクギャリティ侯爵家の紋章を入れた首輪を付けさせていましたけどね、離婚した後はこちらの気持ちを一新するためにも、リリーちゃんに似合う美しい首輪を新しく用意しましたのよ。もちろん私の実家の紋章入りでね!
「よかったですわ。昨日から姿が見えず、ずっと落ち着かなかったのです」
「おとなしい猫ですね。私に抱かれても文句も言わない。ずっとこの調子でくつろいでくれるんです」
スカイラー様は目を細め、優しい手つきで猫の頭を撫でた。
私はその光景にぐっときた。
好意を寄せた人が私の猫をこんなに優しく撫でてくれるなんて!
しかし、リリーが知らない人におとなしく抱かれているなんて、珍しいこともあるもんだなあと思った。
家ではワガママ放題の猫なのに。気に入らなければ飼い主の私にだって撫でさせてはくれないのに。
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