蛍火送り

椎井 慧

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第七夜

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 母さんの泣き声を聞いてから、ぼくはぼくのできることをずっと考えていた。

 妹の暁はまだ7歳。早くぼくが大きくなって、仕事をして、母さんに楽をさせて、暁をきちんと学校に行かせなくては。

 昔、暁がぼくに教えてくれた。

「あきらね、たくさんおべんきょうして、がっこうの先生になりたいの。がっこうはね、お友だちがたくさんいてたのしい場所だから、あきら大人になってもがっこうにいたいの」

 暁は学校と友達が大好きだ。毎日学校で何を教わってきたかとか、友達とどんなおしゃべりをしたのかとか、先生や友達の物真似つきで楽しそうに報告してくれる。

 暁の日常や夢が守れるなら、ぼくは何だってしよう。それが和泉家の長男として生まれたぼくの使命だ。


 ――けれど、よく晴れた”あの日”、空から見たこともないほどの眩い光が落ちてきて全てを影にしてしまったんだ。

 ぼくたちはその日、いつもと変わらない朝を迎えた。母さんの朝は早く、日の出と共に起きて家事をし、朝食を食卓へ並べてぼくたちを起こす。

「おはよう。ご飯できてるよ」

 ぼくは毎朝優しく起こしてくれる母さんの声が好きだった。どんなに布団の中にいたくても、その声があればしっかり目覚めることができた。

 その日の朝食は、さつまいもの蔓と葉を煮たものにほんの数十粒の米が入った雑炊と、味のないかぼちゃの煮付け。貧しさに貧しさを極めたぼくたちはほとんど毎日こんな食事だった。

 朝食を食べながら暁が、

「おこめ、おなかいっぱいたべたいなあ」

 とぽつり呟くと、母さんは悲しそうな、申し訳なさそうな、そんな表情で笑った。

「日本が勝ったら、たらふく食べさせてあげる。だから今はお国の為に我慢だよ」

 そして片付けを終えた母さんは仕事に向かう。

「夕方には帰ってくるから、それまでふたりで仲良くしてるのよ」

 いつもの台詞、いつもの笑顔、いつもの背中、いつもの朝。


 唯一違ったのは、母さんが帰ってこなかったことだった。
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