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第1章
事態は静かに滑り出す
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「デニス。待たせたな、使え」
ジークさんの訪問から十数日経った夜。その日
仕事から帰ってきた父さんの手には綺麗な鞘が
握られていた。ダガーの柄と同じ空色で構成
されており、華美でない装飾が施されている。
ダガーの意匠に合わせた嫌味のないデザインが
美しい。素材はおそらく金属で、手にしっかりと
重みがあり、表面は顔が映るほど磨きあげられて
いる。
「ありがとう……!大事にする」
「それと、これもな」
剣を提げるための革のホルダー。腰周りだけでなく
左肩にまでベルトが伸び、鞘をしっかり保持して
くれる。鞘の重みが適度に分散されるので疲れも
少ないだろう。早速棚の上からダガーを手に取った。
『待ちくたびれたぞ。小僧』
彼女の言葉に相槌を打ち、僕は腰から提げた鞘に
ダガーの峰を当てて、滑り込ませた。鍔が鞘の口と
当たる寸前、ショキッという小気味のいい音が響き、
寸分の隙間なく納まった。
『ほう。お前の親父、腕は良いようじゃな』
見直した、という態度のダガー。どこまでも尊大な
彼女をスルーして僕は改めて父さんにお礼を言った。
「おいダガー。おめぇの声は聞こえねえが、俺の声
は聞こえてんだろ?だから言っておくぜ」
『なんじゃなんじゃ、やかましい』
父さんは一呼吸おくと、意を決したように頭を
下げて言った。
「デニスはたまに自分をぞんざいに扱う。俺が親
としてそれを正してやりてぇとは思ってる。が、
なかなか上手くいかねぇ事もあると思う」
『…………』
「だから、悪いがおめぇも手を貸してくれ」
僕もダガーも、一瞬言葉を失った。父さんは
剣を僕に与えた責任を感じていたせいか、誰より
ダガーに注意を向けていた。また父さんはこの剣の
奇妙さを直接的に体感している。責任は自分に
あるが、1度与えたものを安易に取り上げるのも
自分の決断を否定することになる。最終的に父さん
は、なるべく僕が安全であることを願って鞘の
製作を急いでくれたのだろう。
だから父さんが、こんなダガーに頼るような
事を言うなんて想像もしていなかった。父さんは
僕に自分を犠牲にするなと言いつつ、本人も
じゅうぶん1人で抱え込んでしまう質だから。
彼女は父さんに聞こえない声で笑い始めた。
ダガーが父さんに向ける笑いとしては珍しく
嘲笑を全く含んでいない。
『くくくくく、けけけけけ。こりゃ参った。まさか
こんな恭しく頭を下げられるとはのう』
自分の事を省みて申し訳ない気持ちになる。狼の
事件から自分でも強く意識するようにはなったが、
父さんからすると以前からそのような傾向が強く
現れていたそうだ。
『その意気やよし。承知した。心地いい鞘の礼に
小僧の子守りは任せい』
「ダガーがね、わかった、だってさ。僕も自分の
至らない部分を直せるように、努力する」
父さんの大きく硬い手が、僕の頭を優しく撫でた。
『言うても手を生やす訳にはいかんがのう』という
ダガーの冗談が聞こえたが、父さんに伝える必要は
ないと感じたので胸の内に留めておいた。
・
・
・
夕食を終え、エディは眠い目を擦っている。
とてとてと自分の足でベッドに向かった。
父さんは食後の葉巻を吹かしながら、少し重めの
声で言い出した。
「今日工房で聞いたんだが……この前言った嫌な噂は
どうやら間違いねぇようだ。今日仕上がった剣を
取りに来た客が言ってただけだが……念のため
デニスも気をつけろ」
母さんは「まあ」と口に手を当て、少し不安そうに
子供部屋の方を見た。リサイドに向かう途中、父さん
が荷台で口にした"嫌な噂"。それが子供の失踪。
父さんが言った通り、少し前から人伝に流れている
ものだ。なんでも子供が忽然と消える、という神隠し
のような噂。それが本当なら、用心すべきは僕より
エディだ。ただ、この場は父さんの心配を素直に
受け止め、僕は無言で頷いた。
腰の鞘に手を当て、僕はダガーに向かって
話しかけた。
「ダガーはリサイドにいた時、何か聞きましたか?」
『まぁ、小耳に挟んだ程度じゃな。リサイドには
物乞いの孤児のような童もいる。ワシが聞いたのは
そういう身寄りの無い者が消えたという話じゃ。
じゃが、なんせ親の無い童が消えたところで詳細
までは分からん。いつまでも気にしておる者など
おらんじゃろうて』
確かに孤児が対象なら、特別さわぎたてる大人も
少ないだろう。噂に留まるのも納得できる。母さんが
ダガーの言葉を父さんに伝えると、腕を組み何かを
考える表情をした。
「単に街を離れただけっつう可能性も無くはないが、
あんまし自然とは思えねぇな。リサイドから別の
村だの街だのに行くには子供の足には過酷すぎる」
「とにかく用心しよう」と、父さんはその場を
締めた。鞘に納まったダガーを棚に置き、僕は
ベッドに潜り込んだ。
子供が消える件は確かに気になるが、僕には遠い
地の失踪事件よりももっと身近で不穏な案件がある。
頭の中でジークさんが訪問した日の夜を思い出して
いた。
・
・
・
(あの棘、なんだったんですかね)
黒い棘を発見した日の夜。その日も同じように
ダガーと話をしていた。もちろん寝る間際なので
声が漏れないよう心の中での会話だ。
『分からん。が、確かに小さな魂が見えた。もっとも
すぐに消えてしまったがのう』
(生き物には見えませんでした)
『そうか……じゃがワシは、似たものなら見たことが
あるぞい』
ダガーの言葉に、僕は思わずベッドから少し
上体を起こしてしまった。
(何か心当たりがあるんですか)
『まぁ、な』
隣で寝るエディを起こさぬよう、静かにモゾモゾと
布団に寝直す。少し眠気が飛んでしまった。
『本人はわからんじゃろな。お前じゃよ、小僧』
(え、どういうことですか)
『少し前に、庭でワシを滑らせたじゃろ。その力
とやらを使った時、轍のように掠れた線を見た。
今回の棘と似た、すぐに霧散する魂の残滓じゃ』
僕の力って、ダガーからはそう見えてたんだ。
『他にも、誰かが魔法を使った時に一瞬煙のように
残滓が見えることもある。全員毎回確実に見える
わけではないがのう』
転生の手続き時、事務員さんは「才能は魂に
付与される」と言っていた。何かしらの才能を
行使する時、その根源である魂の残滓が残る、
という事だろうか。
こちらの世界で産まれて、言葉がある程度喋れる
ようになった頃、両親に「僕は生まれ変わった」とか
「前世の記憶がある」なんて言った時、非常に悲しそ
うな顔をされた。なんでもこの世界……少なくとも
この村の宗教観として、生まれ変わりなんてものは
なく、天寿を全うしたら神様の元へ行って永遠に
苦痛から解放される、と信じられているらしい。
要するに僕の言ったことは、この世界に住む人達
からは異端と見なされるわけだ。他所でそういう
話をしないように厳重注意された。僕の話の信憑性
云々の前に、自分の子供が異端児として周囲から
浮いてしまうのを防ごうとしたのだろう。
(魂を見ているダガーなら、話してもいいかな)
『なんじゃ?隠し事か?』
僕は前世の記憶を引き継いでいること、才能は
魂に付与されると説明されたこと、そして、その
才能を行使すると魂の残滓が残るのでは、という
推測まで、全て話した。
『なるほどのう。道理で妙な形の魂をしておると
思ったわい。ある意味合点がいったわ』
ダガーはあっさりと納得した。人間の宗教観は
刃物には通用しないらしい。……ふと気になった。
ひょっとしたらダガーも同じように魂を持っていて、
それは本来生物に宿されるものだったのではないか、
と。今は蛇足になるし、先程の様子を見る限り
前世の記憶なんかは無いようだから、聞いても
本人だって分からないだろう。僕はその疑問を
そっと飲み込んだ。
『何かしらの才能行使が魂の残滓ならほぼ確定じゃな
あの場におったのはお前と母親弟、そして客の
2人だけじゃ』
(という事は、やっぱり)
『うむ』
ジークさんとセリカさん、なのだろうか。さすがに
母さんやエディがそんなことをするわけはないし、
もし2人が僕たちと話をしている時に知らない
第三者が近づいていたとしたら、ダガーが見落とす
はずはない。
『あの時ワシと小僧の直線上にセリカとかいう小娘が
おった。あの娘はおそらくワシと波長の会う者じゃ。
もしその場でお前に声をかけたら、奴にも聞こえる
可能性があった。警告は悪手になりそうで躊躇って
しもうたわ』
ダガーとの会話も万能のテレパシーという訳では
ないようだ。聞こえて欲しいか否かを完全には
制御できない。
『少なくとも、あの棘には敵意があったと考えてよい。
何かに邪魔されて不発に終わったようじゃがな』
(僕はジークさん達を疑いたくはないです)
友人と言うほど深い関わりがある訳では無いが
ジークさんは僕の目からは面倒見のいい好青年だ。
だから彼と、彼の友人であるセリカさんが何かしら
の黒いものを持っているとは思いたくはない。
『人が良いと言えば聞こえはいいが、ワシから
言わせりゃ少々現実逃避に聞こえるぞい。確かに
小さな棘ひとつで真意を読み切るのは難しい。
じゃが、己の見たいものだけを見ていては、
悪意の喰い物にされるのも事実じゃ』
(それはそうですけど……)
前世でもそういうモノはよく見た。
正直者が馬鹿を見て、誠実な者が損をする。
信じる者は足元を掬われる。綺麗に生きたい
と願っても、綺麗事だけでなべて世はこともなし、
とはいかないのが世の常なのだろう。
『疑いは苦痛を伴い、盲信はぬるま湯じゃ。あの若人
を信じたいなら潔白を証明するつもりでかかれ。
まぁ、その為には疑う必要があるのじゃがな』
僕は小さく(はい……)と呟いた。
『直接話を聞いてもよいが、まだ今はその時では
ない。動くのはワシが同行できるようになってから、
つまり鞘が手に入ってからじゃ。親父の臀を叩けい』
その日はそこで話がまとまり、就寝した。
・
・
・
そして今日、ついにその鞘が手に入った。
明日ジークさんの家に行ってみよう。彼を疑いたくは
ないけど、もし彼や彼の友人が僕の家族に悪意を
向けているのなら、僕が止める。さすがに白昼堂々、
知り合いしか居ない村の中で大それた事はしない
だろう。対話のチャンスがあるとすれば、人の目が
ある昼間だ。じわりとした緊張感で狼の時とは違う
鈍く重い鼓動が頭に響いた。
ジークさんの訪問から十数日経った夜。その日
仕事から帰ってきた父さんの手には綺麗な鞘が
握られていた。ダガーの柄と同じ空色で構成
されており、華美でない装飾が施されている。
ダガーの意匠に合わせた嫌味のないデザインが
美しい。素材はおそらく金属で、手にしっかりと
重みがあり、表面は顔が映るほど磨きあげられて
いる。
「ありがとう……!大事にする」
「それと、これもな」
剣を提げるための革のホルダー。腰周りだけでなく
左肩にまでベルトが伸び、鞘をしっかり保持して
くれる。鞘の重みが適度に分散されるので疲れも
少ないだろう。早速棚の上からダガーを手に取った。
『待ちくたびれたぞ。小僧』
彼女の言葉に相槌を打ち、僕は腰から提げた鞘に
ダガーの峰を当てて、滑り込ませた。鍔が鞘の口と
当たる寸前、ショキッという小気味のいい音が響き、
寸分の隙間なく納まった。
『ほう。お前の親父、腕は良いようじゃな』
見直した、という態度のダガー。どこまでも尊大な
彼女をスルーして僕は改めて父さんにお礼を言った。
「おいダガー。おめぇの声は聞こえねえが、俺の声
は聞こえてんだろ?だから言っておくぜ」
『なんじゃなんじゃ、やかましい』
父さんは一呼吸おくと、意を決したように頭を
下げて言った。
「デニスはたまに自分をぞんざいに扱う。俺が親
としてそれを正してやりてぇとは思ってる。が、
なかなか上手くいかねぇ事もあると思う」
『…………』
「だから、悪いがおめぇも手を貸してくれ」
僕もダガーも、一瞬言葉を失った。父さんは
剣を僕に与えた責任を感じていたせいか、誰より
ダガーに注意を向けていた。また父さんはこの剣の
奇妙さを直接的に体感している。責任は自分に
あるが、1度与えたものを安易に取り上げるのも
自分の決断を否定することになる。最終的に父さん
は、なるべく僕が安全であることを願って鞘の
製作を急いでくれたのだろう。
だから父さんが、こんなダガーに頼るような
事を言うなんて想像もしていなかった。父さんは
僕に自分を犠牲にするなと言いつつ、本人も
じゅうぶん1人で抱え込んでしまう質だから。
彼女は父さんに聞こえない声で笑い始めた。
ダガーが父さんに向ける笑いとしては珍しく
嘲笑を全く含んでいない。
『くくくくく、けけけけけ。こりゃ参った。まさか
こんな恭しく頭を下げられるとはのう』
自分の事を省みて申し訳ない気持ちになる。狼の
事件から自分でも強く意識するようにはなったが、
父さんからすると以前からそのような傾向が強く
現れていたそうだ。
『その意気やよし。承知した。心地いい鞘の礼に
小僧の子守りは任せい』
「ダガーがね、わかった、だってさ。僕も自分の
至らない部分を直せるように、努力する」
父さんの大きく硬い手が、僕の頭を優しく撫でた。
『言うても手を生やす訳にはいかんがのう』という
ダガーの冗談が聞こえたが、父さんに伝える必要は
ないと感じたので胸の内に留めておいた。
・
・
・
夕食を終え、エディは眠い目を擦っている。
とてとてと自分の足でベッドに向かった。
父さんは食後の葉巻を吹かしながら、少し重めの
声で言い出した。
「今日工房で聞いたんだが……この前言った嫌な噂は
どうやら間違いねぇようだ。今日仕上がった剣を
取りに来た客が言ってただけだが……念のため
デニスも気をつけろ」
母さんは「まあ」と口に手を当て、少し不安そうに
子供部屋の方を見た。リサイドに向かう途中、父さん
が荷台で口にした"嫌な噂"。それが子供の失踪。
父さんが言った通り、少し前から人伝に流れている
ものだ。なんでも子供が忽然と消える、という神隠し
のような噂。それが本当なら、用心すべきは僕より
エディだ。ただ、この場は父さんの心配を素直に
受け止め、僕は無言で頷いた。
腰の鞘に手を当て、僕はダガーに向かって
話しかけた。
「ダガーはリサイドにいた時、何か聞きましたか?」
『まぁ、小耳に挟んだ程度じゃな。リサイドには
物乞いの孤児のような童もいる。ワシが聞いたのは
そういう身寄りの無い者が消えたという話じゃ。
じゃが、なんせ親の無い童が消えたところで詳細
までは分からん。いつまでも気にしておる者など
おらんじゃろうて』
確かに孤児が対象なら、特別さわぎたてる大人も
少ないだろう。噂に留まるのも納得できる。母さんが
ダガーの言葉を父さんに伝えると、腕を組み何かを
考える表情をした。
「単に街を離れただけっつう可能性も無くはないが、
あんまし自然とは思えねぇな。リサイドから別の
村だの街だのに行くには子供の足には過酷すぎる」
「とにかく用心しよう」と、父さんはその場を
締めた。鞘に納まったダガーを棚に置き、僕は
ベッドに潜り込んだ。
子供が消える件は確かに気になるが、僕には遠い
地の失踪事件よりももっと身近で不穏な案件がある。
頭の中でジークさんが訪問した日の夜を思い出して
いた。
・
・
・
(あの棘、なんだったんですかね)
黒い棘を発見した日の夜。その日も同じように
ダガーと話をしていた。もちろん寝る間際なので
声が漏れないよう心の中での会話だ。
『分からん。が、確かに小さな魂が見えた。もっとも
すぐに消えてしまったがのう』
(生き物には見えませんでした)
『そうか……じゃがワシは、似たものなら見たことが
あるぞい』
ダガーの言葉に、僕は思わずベッドから少し
上体を起こしてしまった。
(何か心当たりがあるんですか)
『まぁ、な』
隣で寝るエディを起こさぬよう、静かにモゾモゾと
布団に寝直す。少し眠気が飛んでしまった。
『本人はわからんじゃろな。お前じゃよ、小僧』
(え、どういうことですか)
『少し前に、庭でワシを滑らせたじゃろ。その力
とやらを使った時、轍のように掠れた線を見た。
今回の棘と似た、すぐに霧散する魂の残滓じゃ』
僕の力って、ダガーからはそう見えてたんだ。
『他にも、誰かが魔法を使った時に一瞬煙のように
残滓が見えることもある。全員毎回確実に見える
わけではないがのう』
転生の手続き時、事務員さんは「才能は魂に
付与される」と言っていた。何かしらの才能を
行使する時、その根源である魂の残滓が残る、
という事だろうか。
こちらの世界で産まれて、言葉がある程度喋れる
ようになった頃、両親に「僕は生まれ変わった」とか
「前世の記憶がある」なんて言った時、非常に悲しそ
うな顔をされた。なんでもこの世界……少なくとも
この村の宗教観として、生まれ変わりなんてものは
なく、天寿を全うしたら神様の元へ行って永遠に
苦痛から解放される、と信じられているらしい。
要するに僕の言ったことは、この世界に住む人達
からは異端と見なされるわけだ。他所でそういう
話をしないように厳重注意された。僕の話の信憑性
云々の前に、自分の子供が異端児として周囲から
浮いてしまうのを防ごうとしたのだろう。
(魂を見ているダガーなら、話してもいいかな)
『なんじゃ?隠し事か?』
僕は前世の記憶を引き継いでいること、才能は
魂に付与されると説明されたこと、そして、その
才能を行使すると魂の残滓が残るのでは、という
推測まで、全て話した。
『なるほどのう。道理で妙な形の魂をしておると
思ったわい。ある意味合点がいったわ』
ダガーはあっさりと納得した。人間の宗教観は
刃物には通用しないらしい。……ふと気になった。
ひょっとしたらダガーも同じように魂を持っていて、
それは本来生物に宿されるものだったのではないか、
と。今は蛇足になるし、先程の様子を見る限り
前世の記憶なんかは無いようだから、聞いても
本人だって分からないだろう。僕はその疑問を
そっと飲み込んだ。
『何かしらの才能行使が魂の残滓ならほぼ確定じゃな
あの場におったのはお前と母親弟、そして客の
2人だけじゃ』
(という事は、やっぱり)
『うむ』
ジークさんとセリカさん、なのだろうか。さすがに
母さんやエディがそんなことをするわけはないし、
もし2人が僕たちと話をしている時に知らない
第三者が近づいていたとしたら、ダガーが見落とす
はずはない。
『あの時ワシと小僧の直線上にセリカとかいう小娘が
おった。あの娘はおそらくワシと波長の会う者じゃ。
もしその場でお前に声をかけたら、奴にも聞こえる
可能性があった。警告は悪手になりそうで躊躇って
しもうたわ』
ダガーとの会話も万能のテレパシーという訳では
ないようだ。聞こえて欲しいか否かを完全には
制御できない。
『少なくとも、あの棘には敵意があったと考えてよい。
何かに邪魔されて不発に終わったようじゃがな』
(僕はジークさん達を疑いたくはないです)
友人と言うほど深い関わりがある訳では無いが
ジークさんは僕の目からは面倒見のいい好青年だ。
だから彼と、彼の友人であるセリカさんが何かしら
の黒いものを持っているとは思いたくはない。
『人が良いと言えば聞こえはいいが、ワシから
言わせりゃ少々現実逃避に聞こえるぞい。確かに
小さな棘ひとつで真意を読み切るのは難しい。
じゃが、己の見たいものだけを見ていては、
悪意の喰い物にされるのも事実じゃ』
(それはそうですけど……)
前世でもそういうモノはよく見た。
正直者が馬鹿を見て、誠実な者が損をする。
信じる者は足元を掬われる。綺麗に生きたい
と願っても、綺麗事だけでなべて世はこともなし、
とはいかないのが世の常なのだろう。
『疑いは苦痛を伴い、盲信はぬるま湯じゃ。あの若人
を信じたいなら潔白を証明するつもりでかかれ。
まぁ、その為には疑う必要があるのじゃがな』
僕は小さく(はい……)と呟いた。
『直接話を聞いてもよいが、まだ今はその時では
ない。動くのはワシが同行できるようになってから、
つまり鞘が手に入ってからじゃ。親父の臀を叩けい』
その日はそこで話がまとまり、就寝した。
・
・
・
そして今日、ついにその鞘が手に入った。
明日ジークさんの家に行ってみよう。彼を疑いたくは
ないけど、もし彼や彼の友人が僕の家族に悪意を
向けているのなら、僕が止める。さすがに白昼堂々、
知り合いしか居ない村の中で大それた事はしない
だろう。対話のチャンスがあるとすれば、人の目が
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