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第2章
会いたい人と会いたくない人
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昼食を済ませ、午後からはルアさんカイルと共に
街に出た。少し雲の増えてきた空に不安を覚える。
宿を出る際、夕方から少しピエラに話を聞く事を約束
した。
さっきの女将さんの話、思い返せばかなり重大な
手掛かりが含まれていた。まず、自ら商品を"夜中"も
運んでいたという情報。これは明らかに人目を避けて
いる。暗ければ足元も不安になる。そんな中、大事な
商品を運ぶとは考えにくい。
また、定期的にこの街までトリトンに会いに来る
という客。扱っている商品からして、薬の材料が
定期的に必要という事なのかもしれないが、逆に
言えばそこまで需要の高い物を、トリトンだけが
扱っているというのは少し不自然ではないだろうか。
最後に、彼専用の倉庫の存在。商館を見る限り、
別に手狭という印象は受けなかった。入り切らない
から追加の倉庫を、という訳では無いだろう。また、
その倉庫がどこにあるのかも不明だ。
聞き込みをする最中、見覚えのある人が目に
入った。
「ルッソさん!」
彼はこちらに近づいてくると、いきなり眉間にシワ
を寄せて言った。
「なんだぁ、てめぇら暇してんのか!?暇ならガキは
呑気に観光でもしてろ!」
「アタシはガキじゃねぇが」
「ババアもだ!」
めしゃ、という音と共に、ルアさんの蹴りがルッソ
さんのしりを打ち抜いた。
「観光もしてみるもんだな。楽しい遊具を見つけたぜ」
「てめぇ、この……」
2人のやり取りは置いておいて。ルッソさんは、
ガンドの事をなにか知っているのだろうか。彼は
おそらく、ガルドとの付き合いが長い。商隊解散後に
ふらっと居なくなるという行動パターンをしっかりと
把握していた。今朝、ガンドが街に戻って来ていた
としたら、ルッソさんなら会っているのではない
だろうか。また、僕はルッソさんとガンドの関係も、
詳しくは知らないわけで。
「あの、ルッソさん。商隊ではお世話になりました。
ちょっとお聞きしたいのですが、今朝の事件は
ご存知ですか?」
まずはルッソさんがトリトンの件を知らなければ
話にならない。
「ああ、聞いたぜ。……お前らまさか、そんなモンに
首突っ込んでんじゃねぇだろうな!?」
怒られた。でも僕はもう知っている。彼の優しさ
は口調には現れない。僕は彼を"口の悪い善人"だと
信じている。なら、そんな人から情報を聞くなら、
回りくどいことは必要ない。
「……まだ確実ではありませんが、僕は今朝の事件、
今のところ……ガンドさんが怪しいと思っています」
「……………………あ゛ぁ?」
明らかに今までの怒り方とは違う。本心を隠すため
の怒りではない。心の底から湧き上がる激昂。
「ガンドさんが無関係だという証拠が欲しいんです。
ルッソさんの知ってる事を教えてくれませんか」
アテが外れれば……きっと僕は目元に青タンを作る
ことになるだろう。
「……お前、帽子の礼にとんでもねぇモン寄越し
やがるな、まったく……」
ルッソさんの青筋が引いていく。頭を掻きながら
下を向きポツポツと言い始めた。
「確かに、あの人はよくわかんねぇとこあるぜ。
休暇っつって消えたらまず姿を見ねぇしな」
「昨日、隊長と別れてから、再びお会いしましたか?」
「いや、会ってねぇし、多分しばらく会わねぇ
だろうな。明後日には俺がまた商隊で出ちまう」
リサイドに戻るのかと思いきや、別の場所に行く
らしい。ザバンを中心に幾つかある目的地は、距離
も方向もバラバラで、リサイドは比較的近くて安全な
行路との事。ルッソさんは編成により隊長を務める
場合もあるが、ガンドがいる時は必ず副隊長。この
道20年の熟練護衛兵だ、と、胸を叩いていた。
「なぁ、ルッソ。アンタ、ガンドとはどういう関係
なんだ?歳と継続してる年数考えたら、本来アンタが
陣頭指揮執るもんなんじゃねぇか?」
確かに、ルアさんの言う通り、パッと見の印象は
ガンドよりルッソさんの方がベテランに見える。
ルッソさんは体格こそ小柄だが、顔には壮年後期から
初老前期と思われる、威厳ある皺が刻まれている。
年齢が全てでは無いと思うが、何かしらの変わった
関係があるのではないかと疑う気持ちは分かる。
「あ?何言ってんだ?隊長は、俺を戦力として一から
鍛えてくれた恩人だ。俺が傭兵団に入った駆け出しの
頃から世話になってる。まあ、俺も隊長も数年で
傭兵団は抜けちまったけどな」
……え?……この人は、今、少し異様な事を言った
自覚は、あるのだろうか。ルッソさんはあっけらかん
と言った。
「あの人、年齢重ねても変わらず若々しいん
だよなぁ、ちょっと羨ましいぜ」
・
・
・
ルッソさんと別れ、僕達3人は……いや、正確には
僕とルアさんは顔を見合わせた。カイルはポカンと
やや上空を見上げている。
「おい……聞いたかよ。今の」
「ええ、……ガンドさん、おいくつなんですかね……」
当然、目の前にルアさんという特大ブーメランな
人もいる。長命種の血が入っていれば、別に不思議
な事でもない。もちろんそれは彼女もわかっている。
だからこそ、鋭く言及するのではなく、少し呆れ顔
になる程度の反応なのだろう。僕は一瞬危うく、
それだけでガンドを不老の異形と誤解しかけた。
「まぁ、ドワーフだの獣人族だの、その辺の血が
入ってるって事なんだろうけどな。まんま人間の
見た目だからわかんねぇよ、ありゃ」
後頭部を掻きながらルアさんが言う。カイルは
その後ろで何か飛んでいる虫を追い、盛大にずっこけ
服の前面を砂と土で汚していた。彼の奇行は見慣れて
来ているので、僕もルアさんも特に気にせず、聞き
込みを再開しようとしていた。
……が、そんな僕らを放っておいてくれない人が
遠くから手を振り歩いてきた。……ああ、見逃して
欲しい。
「君たち!奇遇だな!あの半鱗の子の横にいただろう」
爽やかな苦手意識が、僕らの前で立ち止まった。
「トリトン殺人事件捜査担当のアルフ様だ!犯人討伐
の為、君たちにも話を伺いたい!」
……頭が痛くなってくる。何を食べたらこんなノリ
を育めるのだろうか。と言っても、一方的に邪険に
するのも良くないか。相変わらずミーティアとダンク
が彼の後ろに付き従っている。
アルフは変わらず歯と磨き込まれた胸鎧を輝かせ、
1人だけスポットライトを浴びているかのように
光って見える。背中の剣を見る度思うのだが、こんな
大きな剣をよく扱えると思う。鍔や柄頭の装飾がキラ
キラと光を乱反射させやや眩しい。……いや、眩しい。
そしてミーティア。そういえば、僕は今まで魔法の
為の杖を持った人と出会ったことがなかったな。彼女
の持つ、良く使い込まれた装飾付きの杖は、服装の
見た目でもわかる魔法使いの印象を更に強調して
いた。
最後にダンク。もはや説明するまでもないような
筋肉体型。……ひょっとしてカイルが目を輝かせて
いたのは、アルフでなくその後ろのダンクに対して
だったのか?などと今更思った。先程まで頭の上に
お花が生えたようなアホの子を発揮していたカイルは
案の定ダンクの横に行き、気づいたダンクとお互い
腕相撲のような姿勢で前腕をぶつけ合い、笑顔を見せ
合っている。……この人もカイルのノリか。
アルフが僕を真正面から指さし、言った。
「君は今朝、商館前に居たな!何をしていた!?」
……!こいつ、あの人混みの中、よく見ている。
かなりの人数がごった返していたはずなのに、その
中で僕の顔を認識していたのか?
「……よく、覚えてましたね。こんな地味な僕を」
「ああ!あの場にいた全員に声をかけて回っている!」
ああ、なるほど。僕がなにか特別記憶に残る者
だったという訳では無いんだな。……いや待て、その
方が異常だ。あの場にいた全員?何人いたと思ってる
んだ。その人数分顔を記憶し、"狙って絨毯爆撃"して
いるということか?それはそれで化け物だろう。
「あ、ああ、そうですか……僕は、商館に出金に……」
「金を下ろしに、ね。ふむふむ」
アルフは何やら人差し指で自分の額をトントンし、
また僕を指さして高らかに言い渡した。
「……君は32人目の容疑者だ!」
ああ、はい……どうでもいいのですが、その指さす
の、やめてくれませんかね……
「動機……動機があるはずだ。きっと君は、出金を
断られた!それでトリトンをブスーっ!とやっち
まったんだな!俺様は今朝、商人ギルドとジバル会に
混じって現場を見た。血が飛び散ったり、商品が
ぶち壊れたり、薬瓶がぶち割れて酷いモノだったぞ。
……じゃ、あと16人聞いて回らないとだからな!
これにて失礼!街から出るんじゃないぞ!」
何言ってるんだこの人は……一瞬でも鋭いのかな
と思った自分が馬鹿みたいだ。朝、お金を下ろしに
行ってるのなら、その時既に亡くなっているはずの
トリトン殺害動機になるなんておかしいでしょ……
爽やかな災害は仲間と共に、手を振りながら颯爽
と去っていった。……ああ、ハディマルって、平和
だったんだな……
・
・
・
疲労困憊の僕を含む3人は、ピエラとの約束の
ため、宿に戻る事にした。歩きながらルアさんは
顎に手を当て何かを考えている。
「……なぁデニス。気づいたか?少しおかしくねぇか」
「え、……何がでしょうか……僕、ちょっとあの空気
に当てられてるみたいで、今頭回ってないかもです」
ルアさんは僕の顔を見て、言う。
「商館には倉庫がちゃんとあるだろ。……なんで
トリトンが死んだ宿泊室に、荷物があったんだ?」
言われてアルフの台詞が蘇る。
血が飛び散ったり、
商品がぶち壊れたり、
薬瓶がぶち割れて
確かに。なぜ倉庫でなく、宿泊室に荷物が置かれて
いた?何か大事なもので、倉庫に置きたくなかった?
ルアさんの言う通り、違和感には違いない。
しかもアルフは、ジバル会や商人ギルドと共に
現場を見ている。ケヴィオやラードラッド、サグロは
僕に現場の状態を明かしてくれなかった。意図的なの
か、無意識なのか、情報を隠していたということか?
俗に言う、犯人だけが知り得る情報、的な。だと
したらアルフ一行の聞き込みは大迷惑行為でないか。
犯人だけが知ってる事を、犯人以外の不特定多数が
知ってしまう。
……頭を切り替えよう。ここからはピエラの水龍だ。
宿に入ると、食堂の一角にピエラがちょこんと座り
首から提げた眼鏡を片手で持って、本のような物を
読んでいた。本と言っても分厚い表紙や革装丁の
重厚なものではなく、前世で言う文庫本小説程の
印象。彼女はこちらに気づくと席を立ち、頭を
下げた。
「よろしくお願い致します」
礼儀正しくピエラが言う。ダガーをテーブルに置き
全員が着席した。ルアさんが真っ先に口を開く。
「いきなりで悪いんだが、あんたの持ってる"それ"が
報酬の知識って奴で良いのか?」
「ええ」と言って、ピエラはその本をルアさんに
差し出す。くすんだ黄色味がかった小さな本。
ルアさんがパラパラとページをめくると、1枚1枚の
紙はやや厚く、少しごわついているようだ。
「……なんだ、こりゃ」
怪訝な顔をしたルアさんが、開いたページを僕に
向けて見せる。……そこには、何も書かれていな
かった。ただのまっさらな新品の自由帳。そうと
しか形容ができない。
「こりゃ、なんのジョーダンだ?」
ピエラは黙って眼鏡を首から外す。それをまた
黙ってルアさんに差し出した。彼女は訝しげにその
レンズを覗き込み、それ越しにページを覗き込んだ
瞬間、目付きが変わった。
「は、はは、なるほどな」
ルアさんは本と眼鏡をこちらに寄越す。まさか
とは思いながら、僕も同じように眼鏡越しで本を
見てみると、今まで何も無かった紙面に、文字が
浮かび上がって見えた。……なんだ、これ。
「両親の遺した本は、特殊な魔法を施したインクで
写本されており、この眼鏡なしでは読めません。
両親は簡易写本を、自分たちだけの宝として作り、
保管していたのです。この眼鏡は、まだ父が存命な
うちに、形見として譲り受けました。私が知識を
"報酬として"お渡しできる根拠です」
「なるほどな。その眼鏡がなきゃ本はただの紙屑、
本がなきゃ眼鏡はただの洒落た装飾品ってわけか。
そりゃあんたん家を襲撃して本を盗んだ所で意味が
ねえって訳だな」
「仰る通りです」
確かに、ルアさんの言う通りだ。そのまま読める
本が家に貯蓄されているのなら、報酬としてはあまり
にも不用心だ。仕組みがわかったところで、またルア
さんが切り込んでいく。
「もうひとつ教えてくれ。あんたの両親は、なぜそれ
だけの本を写本できたんだ?だいたい本なんて
のは、あまりにもデケェ財産だ。所有者も限られる。
貴族、聖職者、王家、そういう奴らの手元にある。
閲覧権がなきゃ、写本自体できねぇだろ」
「ええ。その辺もお話致します」
ピエラは眼鏡を首に提げ直し、話し始めた。
街に出た。少し雲の増えてきた空に不安を覚える。
宿を出る際、夕方から少しピエラに話を聞く事を約束
した。
さっきの女将さんの話、思い返せばかなり重大な
手掛かりが含まれていた。まず、自ら商品を"夜中"も
運んでいたという情報。これは明らかに人目を避けて
いる。暗ければ足元も不安になる。そんな中、大事な
商品を運ぶとは考えにくい。
また、定期的にこの街までトリトンに会いに来る
という客。扱っている商品からして、薬の材料が
定期的に必要という事なのかもしれないが、逆に
言えばそこまで需要の高い物を、トリトンだけが
扱っているというのは少し不自然ではないだろうか。
最後に、彼専用の倉庫の存在。商館を見る限り、
別に手狭という印象は受けなかった。入り切らない
から追加の倉庫を、という訳では無いだろう。また、
その倉庫がどこにあるのかも不明だ。
聞き込みをする最中、見覚えのある人が目に
入った。
「ルッソさん!」
彼はこちらに近づいてくると、いきなり眉間にシワ
を寄せて言った。
「なんだぁ、てめぇら暇してんのか!?暇ならガキは
呑気に観光でもしてろ!」
「アタシはガキじゃねぇが」
「ババアもだ!」
めしゃ、という音と共に、ルアさんの蹴りがルッソ
さんのしりを打ち抜いた。
「観光もしてみるもんだな。楽しい遊具を見つけたぜ」
「てめぇ、この……」
2人のやり取りは置いておいて。ルッソさんは、
ガンドの事をなにか知っているのだろうか。彼は
おそらく、ガルドとの付き合いが長い。商隊解散後に
ふらっと居なくなるという行動パターンをしっかりと
把握していた。今朝、ガンドが街に戻って来ていた
としたら、ルッソさんなら会っているのではない
だろうか。また、僕はルッソさんとガンドの関係も、
詳しくは知らないわけで。
「あの、ルッソさん。商隊ではお世話になりました。
ちょっとお聞きしたいのですが、今朝の事件は
ご存知ですか?」
まずはルッソさんがトリトンの件を知らなければ
話にならない。
「ああ、聞いたぜ。……お前らまさか、そんなモンに
首突っ込んでんじゃねぇだろうな!?」
怒られた。でも僕はもう知っている。彼の優しさ
は口調には現れない。僕は彼を"口の悪い善人"だと
信じている。なら、そんな人から情報を聞くなら、
回りくどいことは必要ない。
「……まだ確実ではありませんが、僕は今朝の事件、
今のところ……ガンドさんが怪しいと思っています」
「……………………あ゛ぁ?」
明らかに今までの怒り方とは違う。本心を隠すため
の怒りではない。心の底から湧き上がる激昂。
「ガンドさんが無関係だという証拠が欲しいんです。
ルッソさんの知ってる事を教えてくれませんか」
アテが外れれば……きっと僕は目元に青タンを作る
ことになるだろう。
「……お前、帽子の礼にとんでもねぇモン寄越し
やがるな、まったく……」
ルッソさんの青筋が引いていく。頭を掻きながら
下を向きポツポツと言い始めた。
「確かに、あの人はよくわかんねぇとこあるぜ。
休暇っつって消えたらまず姿を見ねぇしな」
「昨日、隊長と別れてから、再びお会いしましたか?」
「いや、会ってねぇし、多分しばらく会わねぇ
だろうな。明後日には俺がまた商隊で出ちまう」
リサイドに戻るのかと思いきや、別の場所に行く
らしい。ザバンを中心に幾つかある目的地は、距離
も方向もバラバラで、リサイドは比較的近くて安全な
行路との事。ルッソさんは編成により隊長を務める
場合もあるが、ガンドがいる時は必ず副隊長。この
道20年の熟練護衛兵だ、と、胸を叩いていた。
「なぁ、ルッソ。アンタ、ガンドとはどういう関係
なんだ?歳と継続してる年数考えたら、本来アンタが
陣頭指揮執るもんなんじゃねぇか?」
確かに、ルアさんの言う通り、パッと見の印象は
ガンドよりルッソさんの方がベテランに見える。
ルッソさんは体格こそ小柄だが、顔には壮年後期から
初老前期と思われる、威厳ある皺が刻まれている。
年齢が全てでは無いと思うが、何かしらの変わった
関係があるのではないかと疑う気持ちは分かる。
「あ?何言ってんだ?隊長は、俺を戦力として一から
鍛えてくれた恩人だ。俺が傭兵団に入った駆け出しの
頃から世話になってる。まあ、俺も隊長も数年で
傭兵団は抜けちまったけどな」
……え?……この人は、今、少し異様な事を言った
自覚は、あるのだろうか。ルッソさんはあっけらかん
と言った。
「あの人、年齢重ねても変わらず若々しいん
だよなぁ、ちょっと羨ましいぜ」
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・
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ルッソさんと別れ、僕達3人は……いや、正確には
僕とルアさんは顔を見合わせた。カイルはポカンと
やや上空を見上げている。
「おい……聞いたかよ。今の」
「ええ、……ガンドさん、おいくつなんですかね……」
当然、目の前にルアさんという特大ブーメランな
人もいる。長命種の血が入っていれば、別に不思議
な事でもない。もちろんそれは彼女もわかっている。
だからこそ、鋭く言及するのではなく、少し呆れ顔
になる程度の反応なのだろう。僕は一瞬危うく、
それだけでガンドを不老の異形と誤解しかけた。
「まぁ、ドワーフだの獣人族だの、その辺の血が
入ってるって事なんだろうけどな。まんま人間の
見た目だからわかんねぇよ、ありゃ」
後頭部を掻きながらルアさんが言う。カイルは
その後ろで何か飛んでいる虫を追い、盛大にずっこけ
服の前面を砂と土で汚していた。彼の奇行は見慣れて
来ているので、僕もルアさんも特に気にせず、聞き
込みを再開しようとしていた。
……が、そんな僕らを放っておいてくれない人が
遠くから手を振り歩いてきた。……ああ、見逃して
欲しい。
「君たち!奇遇だな!あの半鱗の子の横にいただろう」
爽やかな苦手意識が、僕らの前で立ち止まった。
「トリトン殺人事件捜査担当のアルフ様だ!犯人討伐
の為、君たちにも話を伺いたい!」
……頭が痛くなってくる。何を食べたらこんなノリ
を育めるのだろうか。と言っても、一方的に邪険に
するのも良くないか。相変わらずミーティアとダンク
が彼の後ろに付き従っている。
アルフは変わらず歯と磨き込まれた胸鎧を輝かせ、
1人だけスポットライトを浴びているかのように
光って見える。背中の剣を見る度思うのだが、こんな
大きな剣をよく扱えると思う。鍔や柄頭の装飾がキラ
キラと光を乱反射させやや眩しい。……いや、眩しい。
そしてミーティア。そういえば、僕は今まで魔法の
為の杖を持った人と出会ったことがなかったな。彼女
の持つ、良く使い込まれた装飾付きの杖は、服装の
見た目でもわかる魔法使いの印象を更に強調して
いた。
最後にダンク。もはや説明するまでもないような
筋肉体型。……ひょっとしてカイルが目を輝かせて
いたのは、アルフでなくその後ろのダンクに対して
だったのか?などと今更思った。先程まで頭の上に
お花が生えたようなアホの子を発揮していたカイルは
案の定ダンクの横に行き、気づいたダンクとお互い
腕相撲のような姿勢で前腕をぶつけ合い、笑顔を見せ
合っている。……この人もカイルのノリか。
アルフが僕を真正面から指さし、言った。
「君は今朝、商館前に居たな!何をしていた!?」
……!こいつ、あの人混みの中、よく見ている。
かなりの人数がごった返していたはずなのに、その
中で僕の顔を認識していたのか?
「……よく、覚えてましたね。こんな地味な僕を」
「ああ!あの場にいた全員に声をかけて回っている!」
ああ、なるほど。僕がなにか特別記憶に残る者
だったという訳では無いんだな。……いや待て、その
方が異常だ。あの場にいた全員?何人いたと思ってる
んだ。その人数分顔を記憶し、"狙って絨毯爆撃"して
いるということか?それはそれで化け物だろう。
「あ、ああ、そうですか……僕は、商館に出金に……」
「金を下ろしに、ね。ふむふむ」
アルフは何やら人差し指で自分の額をトントンし、
また僕を指さして高らかに言い渡した。
「……君は32人目の容疑者だ!」
ああ、はい……どうでもいいのですが、その指さす
の、やめてくれませんかね……
「動機……動機があるはずだ。きっと君は、出金を
断られた!それでトリトンをブスーっ!とやっち
まったんだな!俺様は今朝、商人ギルドとジバル会に
混じって現場を見た。血が飛び散ったり、商品が
ぶち壊れたり、薬瓶がぶち割れて酷いモノだったぞ。
……じゃ、あと16人聞いて回らないとだからな!
これにて失礼!街から出るんじゃないぞ!」
何言ってるんだこの人は……一瞬でも鋭いのかな
と思った自分が馬鹿みたいだ。朝、お金を下ろしに
行ってるのなら、その時既に亡くなっているはずの
トリトン殺害動機になるなんておかしいでしょ……
爽やかな災害は仲間と共に、手を振りながら颯爽
と去っていった。……ああ、ハディマルって、平和
だったんだな……
・
・
・
疲労困憊の僕を含む3人は、ピエラとの約束の
ため、宿に戻る事にした。歩きながらルアさんは
顎に手を当て何かを考えている。
「……なぁデニス。気づいたか?少しおかしくねぇか」
「え、……何がでしょうか……僕、ちょっとあの空気
に当てられてるみたいで、今頭回ってないかもです」
ルアさんは僕の顔を見て、言う。
「商館には倉庫がちゃんとあるだろ。……なんで
トリトンが死んだ宿泊室に、荷物があったんだ?」
言われてアルフの台詞が蘇る。
血が飛び散ったり、
商品がぶち壊れたり、
薬瓶がぶち割れて
確かに。なぜ倉庫でなく、宿泊室に荷物が置かれて
いた?何か大事なもので、倉庫に置きたくなかった?
ルアさんの言う通り、違和感には違いない。
しかもアルフは、ジバル会や商人ギルドと共に
現場を見ている。ケヴィオやラードラッド、サグロは
僕に現場の状態を明かしてくれなかった。意図的なの
か、無意識なのか、情報を隠していたということか?
俗に言う、犯人だけが知り得る情報、的な。だと
したらアルフ一行の聞き込みは大迷惑行為でないか。
犯人だけが知ってる事を、犯人以外の不特定多数が
知ってしまう。
……頭を切り替えよう。ここからはピエラの水龍だ。
宿に入ると、食堂の一角にピエラがちょこんと座り
首から提げた眼鏡を片手で持って、本のような物を
読んでいた。本と言っても分厚い表紙や革装丁の
重厚なものではなく、前世で言う文庫本小説程の
印象。彼女はこちらに気づくと席を立ち、頭を
下げた。
「よろしくお願い致します」
礼儀正しくピエラが言う。ダガーをテーブルに置き
全員が着席した。ルアさんが真っ先に口を開く。
「いきなりで悪いんだが、あんたの持ってる"それ"が
報酬の知識って奴で良いのか?」
「ええ」と言って、ピエラはその本をルアさんに
差し出す。くすんだ黄色味がかった小さな本。
ルアさんがパラパラとページをめくると、1枚1枚の
紙はやや厚く、少しごわついているようだ。
「……なんだ、こりゃ」
怪訝な顔をしたルアさんが、開いたページを僕に
向けて見せる。……そこには、何も書かれていな
かった。ただのまっさらな新品の自由帳。そうと
しか形容ができない。
「こりゃ、なんのジョーダンだ?」
ピエラは黙って眼鏡を首から外す。それをまた
黙ってルアさんに差し出した。彼女は訝しげにその
レンズを覗き込み、それ越しにページを覗き込んだ
瞬間、目付きが変わった。
「は、はは、なるほどな」
ルアさんは本と眼鏡をこちらに寄越す。まさか
とは思いながら、僕も同じように眼鏡越しで本を
見てみると、今まで何も無かった紙面に、文字が
浮かび上がって見えた。……なんだ、これ。
「両親の遺した本は、特殊な魔法を施したインクで
写本されており、この眼鏡なしでは読めません。
両親は簡易写本を、自分たちだけの宝として作り、
保管していたのです。この眼鏡は、まだ父が存命な
うちに、形見として譲り受けました。私が知識を
"報酬として"お渡しできる根拠です」
「なるほどな。その眼鏡がなきゃ本はただの紙屑、
本がなきゃ眼鏡はただの洒落た装飾品ってわけか。
そりゃあんたん家を襲撃して本を盗んだ所で意味が
ねえって訳だな」
「仰る通りです」
確かに、ルアさんの言う通りだ。そのまま読める
本が家に貯蓄されているのなら、報酬としてはあまり
にも不用心だ。仕組みがわかったところで、またルア
さんが切り込んでいく。
「もうひとつ教えてくれ。あんたの両親は、なぜそれ
だけの本を写本できたんだ?だいたい本なんて
のは、あまりにもデケェ財産だ。所有者も限られる。
貴族、聖職者、王家、そういう奴らの手元にある。
閲覧権がなきゃ、写本自体できねぇだろ」
「ええ。その辺もお話致します」
ピエラは眼鏡を首に提げ直し、話し始めた。
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不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
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チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
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リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
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神様の忘れ物
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仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
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