Cotton Candy

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第二章

三浦壮嗣の憂鬱 3

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好きな気持ちは変わらないし諦めるつもりはない。
だけど側に居られるのなら親友でも良い。
そう思える様になった頃
「はじめまして」
俺は青葉に出逢った。

新入生が入ってきた翌日だった。
青葉からある依頼をされた。
「は?何言ってんだお前」
「無理なのは承知で言っています。どうかお願いします。三浦先輩にしか頼めないんです」

依頼の内容は酷くバカげていた。
青葉は鳴海が好きで、鳴海の私物を集めたいらしい。
新品を用意するので、毎日使用済みのと交換して欲しい。
日々の鳴海の行動や予定を教えて欲しい。
色々言われた。

誰が好き好んで好きな人の情報を教えたり、変態行為の手伝いをしたいと思うのだろうか。
「絶対無理」
俺は速攻で断った。
だが、しつこく頼み続けた青葉は有り得ない位魅力的な条件を持ち掛けてきた。

日給1万円。
休日を差し引いても月に約20万。
尚且つ就職難が続いているこの時期に就職先迄与えてくれる。
青葉の父親が経営している製薬会社の営業。
給料も悪くないらしく、将来安泰。
こんな好条件断れる筈がない。
「分かったよ。すれば良いんだろ?」
「本当ですか?ありがとうございます」
渋々俺は青葉からの依頼を仕事と割り切り受け入れた。

体操服・消しゴム・シャーペン等少しでも使用したのは手に入れたいらしく、体操服は脱いだらスグ、文具等の備品はその日の一番最後の授業後新品と交換した。
ソレを青葉に手渡す時に明日の予定と今日の報告を簡易に話す。
だが、それだけじゃ物足りなかったらしい。
青葉は業者に頼んで学校中に有り得ない数のカメラを取り付けた。
流石に盗聴器は他の人の迷惑になるからつけなかったらしい。って、当たり前か。
でもそれカメラの時点でアウトじゃね?

鳴海の側に居ない時は常にスマホに映るカメラの画像や動画をチェックし行動を見守る。
授業中も教師や他生徒の目を盗んでチェックしている。
それでいてノートもきちんと取っているというのだから器用としか言えない。

手に入れた体操服は睡眠時抱き枕の様に使うらしい。
凄く良い匂いで落ち着くと言っていた。
靴下は臭いが他のと比べると強いらしく、色々な意味で興奮するらしい。
愛用しているらしいが、何に使うかはキモかったから聞かなかった。
多分オカズにでもするのだろう。

最初はこっそりしていた青葉だったが、鳴海にバレた途端開き直って積極的にアタックしだした。
毎日の様に逢いに来るし、纒わり付く。
ハッキリ言ってウザイし、苛つく。

鳴海に触るな。近付くな。
そう言ってやりたいが、恋人ではない俺にそれを言う権利はない。
白水が威嚇してくれるのがある意味助けになった。

青葉に頼まれてカメラと盗聴器を鳴海の部屋に複数付けた。
学校だけでなく、家での行動迄把握したいのか。
もうこれ完全に犯罪の域に達してね?そう思ったが、取り付けた後5万もくれたから鳴海には報告しない事にした。


唯のキモい変態だと気を抜いていたのが失敗だった。
いつの間にか青葉は鳴海の中で大きな存在に変わっていた。
白水溺愛の鳴海を毎日見てるから、まさか鳴海が青葉に惚れるなんて微塵も考えていなかったんだ。

屋上で俺と白水2人で構い過ぎたのが悪かったのか発熱したみたいになっていた鳴海。
調子に乗り過ぎたか。反省して保健室に連れて行こうと名乗り出た時だった。
何故か授業中にも関わらず青葉が教室に来て鳴海を連れ去り、早退した。
心配になって何度もLINEをしたが返信がなく、不安で押し潰されそうになって放課後家に迄足を運んだ。
が、鳴海は家に居なかった。

なんだろう。
物凄く嫌な予感がする。
青葉と一緒に居るのか?
青葉に何かされてないよな?
大丈夫……だよな?
その日は不安で一睡も出来なかった。

翌朝教室に鳴海が顔を出した瞬間
「良かったぁ」
無意識に抱き締めた。
が、その瞬間違和感を感じた。

匂いが違う。
いつもする鳴海の甘い香りに混ざった何か。
上品だが、好きになれないソレ。
俺はこの香りを知っている。

微かだが色気を増した雰囲気。
何かが変わった。
白水も周りも気が付いてないが、明らかに昨日迄の鳴海と違う。
段々大きくなる不安と焦り。
昨日青葉に抱かれたのか?
って、まさかな。
白水溺愛の鳴海が抱かれる側に回る筈がない。
きっと、大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせた。

だが、それは間違いではなかった。
青葉が触る度赤くなる頬。
甘く蕩けた様な視線で青葉を見る鳴海。
もうコレは間違いないと確信した。
だが気付いてない事にした。
そうしないと哀しくて苦しかったからだ。

白水だけでなく青葉の事も好きになった鳴海。
同時に2人を好きになれるのなら、何故俺の事は好きになってくれないんだ?
顔かな?
白水は完全に女子にしか見えないし、青葉はモデルみたいに整った顔とスタイルの美形だ。声も雰囲気もエロい。
対して俺はフツメン。
2人と比べたら明らかに劣る。

もし本当に顔だったらどうしようもない。
女性だったら化粧で誤魔化せるが、男が化粧で誤魔化すのは余り格好良くない。
整形したら変えれるけれど、流石にソレはしたくない。

どうしたら好きになって貰えるのだろうか。
考えるが、考えても空しくなるだけで何も変わらない。
苦しい。
好きだ、告白したら絶対振られてしまう。
もしそれで気まずくなって親友でいられなくなったら、俺は側に居られない。
「鳴海」
「ん、どうした?三浦」
鳴海に抱き付きながら
「…………何でもない」
好き、大好き。口から零れ落ちそうになる想いを必死に飲み込んだ。



人生何があるのか分からない。
白水に頼まれて、俺は鳴海を抱く事になった。
どんな形であれ、愛してやまない人間を抱けるのは幸せな事だ。
たとえそこにあるのが愛情ではなく友情であったとしても。

「……ひぁ。っあ、ぁああ、んっ、んっ。やっ、気持ち良いよぉ……三浦ぁ……っ」
初めて見る蕩けた顔。
耳だけでなく脳迄侵す甘くてエロ可愛い声。
奥へ奥へと俺を誘うヤラシイ胎内。
キュウキュウ締め付けて逃すまいと必死に喰らい付く其処は有り得ない位の快感をもたらした。

可愛い。凄く可愛い。
ダメだ。止まらない。
鳴海が好き過ぎておかしくなる。
自分で自分が制御出来ない。
嗚呼、ダメだ。止められない。
溢れてしまう。壊れる。
自分が自分じゃなくなってしまう。
好きが止められないよ、鳴海。

愛してる。
口を開くと零れ落ちそうな愛の言葉。
手放したくない一心で必死に飲み込み、愛を告げる代わりに狂った様に鳴海を抱いた。


その後紆余曲折を経て鳴海は青葉と恋人になり、白水とは親友になった。
そして諦めきれない俺は鳴海に黙って同じ大学を受験した。
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