Miss.Terry 〜長久手亜矢の回想録〜

真昼間イル

文字の大きさ
2 / 35
推し測れない心情

No.2 不思議な依頼

しおりを挟む

丸テーブルを囲み座った三人。
沈黙を破るように、近藤は2枚の写真をテーブルに出した。

「‥‥‥美奈子と鈴木君‥?」
テリーは目を凝らして写真を見た。

「そうだ。この二人の様子で気になる事はないか?最近はコンプルゥアイアンスっ!が厳しくてね、生徒を呼び出すにも周囲の目が厳しいのでな」
近藤は両手を波立たせるように動かし、おどけて見せた。

「クラスメイトではありますが、あまり接点がないので‥‥わかりませんね‥‥」
テリーは近藤から視線を逸らすと小刻みに震えだした。

「どうした!?何か心当たりあるのか?」
近藤は身を乗り出した。

「いや‥‥先生の『コンプライアンス』って言い方と、動きがちょっと面白かったです」
テリーは今日初めて笑った。

「お前ほんと変人だよなぁ!‥‥あ、生徒に対してこんな発言したら『ハラスメントによるコンプルゥアイアンス違反だ!』って言われちゃうな!」
近藤は両手を波立たせるように動かし、おどけて見せた。

事務所内に笑い声がこだました。
近藤はスパルタ授業が有名だが、不思議と生徒からは人気があった。

「さてと、長久手に聞こう。鈴木の事だが、やつの机、何だか臭わんか?腐った弁当を隠してるような‥‥周りに気付かれでもしたら」

「クラスメイトから、『変人』呼ばわりされちゃうんじゃない?」
暗知が被せて入ってきた。

「『変人』ね‥‥ボクはもう聞き慣れましたよ。鈴木君はよくマスクをしていますが、その腐った弁当と関係があるのでしょうか」
テリーは鈴木の写真を手に取った。

「そもそも、鈴木君の席の周りは臭いのかい?」

「ボクが一番前の席で彼が一番後ろですが、気になった事はないです。‥‥‥そう言えば‥‥‥‥」
テリーは今朝、教室に入ると鈴木に呼び止められた事を思い出した。

‥‥‥
‥‥

「長久手、もう知ってるんだろ‥‥?」
鈴木がすれ違い様にテリーを呼び止めた。

「なんのこと?」

「気づいてるだろ?わかってんだよ‥」

テリーは首を傾げた。

「迷惑かも知れないが‥‥好きなんだよ」

テリーよりも周りの生徒が驚いていた。
一瞬で注目の的となった二人。

「えーと‥ボクはちょっと無いかなー。ごめん」

「知ってるよ、ただ、みんなには内緒にしといてくれるか‥?」

テリーは矛盾した鈴木の言動に困惑した。
「え?あー‥‥‥うん。できる限り」

「ありがとう、頼んだぞ」
鈴木は微かに笑い、席へ戻っていった。

‥‥‥
‥‥‥‥

「以上です。鈴木君は『変人』だと思います」
テリーは回想を話し終えた。

近藤は目をつぶり、腕組みしながら聞いていた。

少しの沈黙の後、テリーは再び語り出した。
「ボクに鈴木君が告白した事について、美奈子は各方面にヒアリングしていたようです。鈴木君の事が気になっているのは確かだと思います」

「とりあえずは、わかった」
近藤が丸テーブルに肘をついた。

「ところで、なぜ先生は美奈子と鈴木君の関係を気にかけているのですか?」

「何を隠そう美奈子は私の娘なんだ」

「そうですか‥‥‥ってぇーー!?」
テリーの椅子がぐらついた。

「本人は私が父親だとは知らないんだ‥‥。美奈子が小さい時に別れたからな。同じ学校になった時は驚いたよ。少し脱線したが、今回の依頼内容を話そう」
近藤は下がっていた目尻を釣り上げた。

「依頼内容は‥‥‥?」
テリーは恐る恐る近藤に尋ねた。

「『二人の真意』を知りたい。《二人の気持ち》だ。そして問題無ければくっ付けてやりたい。‥‥‥協力してくれないか?」

「無理だ‥‥」
テリーは目を逸らした。

「まぁまずは聞いてみよう。今回は理恵ちゃんのご指名だし、臨時給与を出すよ。ただ気になるのは‥」
暗知はテリーの肩に手を置き、席を立った。

「ただ、美奈子さんと鈴木君をくっつけるために、大人がお金と時間をかけるほどこだわるのは何故かな?今時、恋愛に干渉する親も少ないというのに」
近藤へ質問を投げかけながら暗知はホットコーヒーを入れ始めた。

「ごもっともな意見だ、長久手はもう17歳になったか?」

「はい。5月生まれなので、17歳と2ヶ月です」
丸テーブルに置かれた、卓上カレンダーをめくりながらテリーは答えた。

近藤は丸テーブルに両肘をつき、語り出した。
「美奈子には許嫁がいる。それがまた古い『しきたり』で、17歳になったら結婚を前に相手の家に入る事になっている」

「そんな古い慣例にとらわれる事はない。男女共に心から慕う人と普通の恋愛をして欲しいと思い、今回の依頼に至った」

テリーは美奈子が何者かによって、鈴木から引き離されていく構図を想像した。
「美奈子の誕生日って、いつですか?」

「もう二週間を切っている」
近藤の言葉にテリーは顔を引きつらせた。

「時間がないんだ、バイトの事は‥‥見なかった事にしておこう‥‥‥」
近藤は人差し指を口にかざした。

「教育者らしからぬ発言ですね‥‥そもそも、何をどう協力するのですか?」

「その真意を探る為の『計画』があるんだよね?」
暗知はテリーと近藤にコーヒーを出した。

「計画書ならここにある」
近藤はA4サイズのペラ紙を二人に配った。

①美奈子と鈴木、二人きりの状況を作る
②暴漢現る(近藤が変装する)
③鈴木が美奈子を守る
鈴木が美奈子を守る行動をしたら合格。近藤は二人を全力で応援するようだ。

「合格ラインは私が判断するから、計画の③には関与しなくていい」
近藤は自身ありげに計画書を指で弾いた。

「シンプルだなぁー‥」
暗知は眼鏡の奥の目を細めた。

「①だけボクらが担当すると言う事でいいんですかね?」テリーが暗知を見た。

「②で使用できそうな、変装道具の提供もできるね」
暗知は事務所片隅にある荷物を指差し、被さっていた黒い風呂敷を取り外した。

様々な衣装や得体の知れない機械が陳列されていた。
探偵業で使用してきた暗知の工作物だ。

「凶器はこれを使う」
近藤が黒い瓶を取り出した。
謎の液体が入っていると思われる。

「そこまで手の込んだ物を用意しなくても‥‥‥中身は何?」
暗知は黒瓶の外観を食い入るように見つめた。

「な~に、中はただの水さ。こいつを美奈子にぶっ掛けようとする所を、鈴木は止めるはずだ‥‥実際には使わないさ」
近藤は黒瓶を軽く振った。

「③の時、鈴木君が止めようとせず、逃げ出したらどうしますか?」
テリーは計画書に、何か書き込みをしながら近藤に質問した。

「その時は、その時だな‥‥」
近藤はそう小さく声を漏らすと、コーヒーの匂いを嗅いだ。
「‥‥インドネシア産 マンデリンか」

「‥‥正解!」
暗知が拍手した。

「とにかく時間は無いが、協力の程よろしく頼む」
近藤は5限目の授業の為、グイッとコーヒーを飲み干すと、事務所を出ていった。

「似ているな‥‥」
暗知は近藤が飲み干したコーヒーカップを見つめていた。

「誰にですか?」
テリーは計画書をバッグにしまい込んだ。

「私の中で二郎と鈴木君の人物像がリンクするんだ」

「二郎って‥‥近藤先生の下の名前ですか?」

「そう、彼の元の苗字は『鈴木』なんだ。私は高校時代まで二郎と同窓だった。記憶が正しければ、彼も一時期、ずっとマスクを付けていたと思う」

「さっきのコーヒーの銘柄、腐った弁当の件といい、近藤先生は鼻が良いんですかね?」
テリーはコーヒーの匂いを嗅いでみた。

「もしかしたら、鈴木君も鼻が良いのかも知れないね」
暗知はテリーに笑いかけた。

ピリリリルッ♪  暗知の携帯電話が鳴った。
「はい、暗知です。‥‥はい、そうですか‥‥わかりました、今回はもう結構です、失礼します」
電話を切ると、暗知は溜息をついた。

「これから理恵ちゃん家に行こうか‥‥。私がトイレを修理するよ‥‥」
暗知は外出する準備を始めた。どうやら修理業者が見つからなかったようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...